表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
11/218

2-5音楽科


麻友と話した次の日。

私はいつも通り変わらない自分の落ち着きように少し驚いた。


昨日はあんなに取り乱したのに…意外と平気…


きっと麻友のおかげだ。

すべて受け止めてくれたから…

麻友に感謝しよう


私はいつもと同じように身支度を整えると、家を出た。


しばらく歩くと曲がり角に本郷君が立っていた。


「おはよ。」


彼は昨日と同じ優しい笑顔で私を見た。


「え?…どうして…」


彼は、野球部だ。

朝練に参加している時間なのに、ここにいるのはおかしい。


私の心を見透かしたのか、彼は頭を掻きながら言った。


「今日寝坊しちゃってさ。せっかくだし紗英と学校行こうと思って。」


このとき彼が嘘をついていると思った。

確信はなかったが、高校に入ってから

一度も野球部の練習をサボったことのない彼にしてはありえない。


昨日の自分の態度のせいだと思った。

優しい彼は私が話さない理由を分かっている。

だから私のそばにいて、支えになってくれようとしてくれているんだ…


彼には正直に話さなければ。

でなければ彼はずっと私に気を使い続ける。


「翔君。私…話したいことがあるの。」


彼は私を優しく見つめたまま頷いた。


「昨日…吉田君に会っちゃって…。話はできなかったんだけど…

ただ、中学のときの事もあって…私、戸惑っちゃって…」


言葉につまり目を伏せたが、まっすぐ彼を見つめると本音を言った。


「少し落ち込んだけど、もう大丈夫だから。」


黙ったまま話を聞いてくれる彼の手をとった。


「心配してくれて、ありがとう。昨日…嬉しかった。」


少しでも感謝の気持ちが伝わればいい。

昨日、手をつないで帰ってくれてとても心強かった。

本郷君の手に助けられた。

私の手を通じて伝わってほしいと願った。


するとつないだ手をグイッとひっぱられた。

私のおでこが彼の胸にあたった。

そのまま抱きしめられたような態勢になり、私は急の事に緊張で固まってしまった。


私の肩に彼の頭がのっかるのが分かった。

彼の柔らかい猫っ毛が私の耳にあたり、くすぐったい。

そう思っていたら、つないだ手に力が入った。


「心配した…。何で昨日言ってくれなかったんだ…。」


「…うん。…ごめんね…。」


「俺には…全部話して…。」


私が「うん」と頷くと、手の力が弱まった。

すると彼は我に返ったかのように、私から距離をとって離れてしまった。

私は再度の状況の変化にぼけっとしていた。

目を何度か瞬いたあと、横にいる本郷君を見上げた。


彼は私の方を見ていなかった。

かわりにちらっと見えた耳が赤かったように見えた。


それを見て私はさっきまでの状況を思い出し、ドクンと心臓が跳ねた。

咄嗟の事とはいえ、あんな恋人同士のような事…

真っ赤になる頬が熱を持って、熱くなるのがわかる。

つないだ手に汗をかいてきた。


うわっわわ……恥ずかしい…


こんなに心臓が高鳴るのはいつぶりだろう。

嫌な感じはしない、胸の奥がギュッと掴まれたような…


私は目をギュッと瞑ると、深呼吸をして平然を装った。


「学校行こう。遅刻しちゃう。」


私はつないだままの手をひっぱると歩き出した。




***




私は教室に着くと大きくため息をついた。


やっと着いた…


あの後、あまりしゃべろうとしない本郷君と一緒に電車に乗り、

学校まで歩いてきたが、何を話したかさっぱり覚えていない。


つないでいた手は電車に乗るときに自然と離したが、

いまだあのときの名残が残っていて変な気持ちだ。


今まで彼に感じたことのない気持ち

私には何だか分からなかった。


「紗英ちゃん、おはよ!」


横から挨拶してくれたのは、同じ音楽科の友人の山森涼華さんだ。

彼女はなんと幼等部(幼稚園の事)からこの学校に通う、いわゆるお嬢様だ。

専攻は私と同じピアノ。プロを目指す実力者でもある。


「涼華ちゃん、おはよう。」


私は風に揺れる彼女の栗色のゆるふわの髪を見つめて、

いいな~と心の中で呟いた。


私は真っ黒のストレートなだけに大変羨ましい。


「私、さっき見ちゃった。紗英ちゃんスポーツ科の男の子と一緒に来てたね~。」


その言葉にそういえば二人で一緒に学校に来るのは初めてだったと気づいた。

帰りは一緒になることも多かったので、気にもしていなかった。

涼華ちゃんは期待した目で私に詰め寄った。


「彼氏?」


「ちがいます!!」


私は反射的に大声で返してしまい、クラスの注目を集めてしまった。

そのせいで他のクラスメイトたちの興味をひいてしまった。

そばにいたクラスメイトたちが寄ってきた。


「何何?なんの話?」


「紗英ちゃんの彼氏の話~。」


「なっ…!?」


涼香ちゃんの一言にクラスメイトに火が付いた。

悲鳴のような盛り上がりの声に、私は耳がやられた。

音楽科は女子が多い、この手の話は大好きだろう。


更に人数が集まりだした。


「かっこよかった?」

「すーーっごく!!かっこよかった!野球部っぽかったよ。」


「いいな~」「羨ましい~」との騒ぎだったが、私抜きで話が進んでしまっている。

彼氏を否定する隙もなかったので、私はあきらめて事の成り行きを見守った。


「もうすぐ修学旅行の班決めあるよね?

紗英ちゃんと一緒の班になれば、スポーツ科の男子と仲良くなれるかも!!」


誰かがそう言うと、悲鳴が雄叫びに変わった。

あちこちから私に声がかかる。


「紗英ちゃん一緒の班になろう!」

「え~私とだよー!!」

「ダメ!紗英ちゃん私と!!」


という風になぜか私争奪戦に発展した。

そんなに音楽科というのは男子と接点がないのかと現実逃避気味に考えた。


そして今日は疲れる一日になりそうだと再度ため息をついた。




ちょっと関係が動いた回でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ