第6話 変態の変態による変態のためのデート術
短編版「へんじがある。ただのへんたいのようだ。」に当たる部分です。
………… えーと。
篠宮先輩は、欲望に忠実な人だと、私は思う。
《先輩、女王様とお犬様がいるのだと絶対に百合様とは距離が縮まらないと思いますが》
《今日は今日! デートは後日だよ!》
むしろ遠くなると思う。
というか、あなたはどこかのお母さんですか。
《分かりました。では、私は帰りますね。楽しんで下さい》
《ちょっと待った、桜海さん》
女 王様とお犬様と行動するのはもう、デートは言えないだろうし、私がいる意味はないだろう。
旭へのバイト代を無駄に出すことになってしまったが……
仕方ない。文化祭か何かでその分、奢ってもらおう。
《出来れば、サポートはこのまま続けて欲しいんだ》
《もうこれ、デートでも何でもないですよ? 百合様と距離、縮められませんよ?》
それに、女王様とお犬様は中身はともかく見た目は美人なのだ。彼氏の1人や2人くらいいるだろうし、そういうのは詳しいだろう。
《いや、良いんだ》
《なら、何故私が?》
まあ、旭へのバイト代も無駄にはならないけど、デートサポートがないなら早く帰りたい。
《誰かに見られている、と思うことによって溢れ出す欲望を抑えられるんだ》
…… そうですか。
でもね、先輩。あなたたちを見ている人間は、私だけではないんですよ。
先輩も百合様も女王様もお犬様も全員美形だから、周囲の視線釘付けですよ!
《分かりました。ですけど、いかがわしい店とかに入ろうとしたら、即刻止めますけど良いですか?》
《そういう遊びは20歳以上からだね!》
最初のデートコース、そういうことするの入ってたよね!?
まあ、良いか。
女王様とお犬様だって、未成年には見えないし、大人なわけだから、そういう業界のトップだとしても常識くらいはわきまえているだろう。
メールはすぐ気付かない場合が多いので、お2人共、お願いします……! 本当、切実にお願いします。
「な、何、猪像に向かって拝んでんの…… 」
「色々あるんだよ、色々」
旭、だから何故、そんなに引き気味なんだ。
「色々ってなんだよ」
「小学生は知らなくて良いこと」
どうしよう、やけに旭が詳しかったらどうしよう。
将来、あんなのになって欲しくないので、私は先輩を指差し、こう告げた。
「旭、あんなのになっちゃ絶対だめだよ!? するとしても、反面教師だからね!?」
「おばさん、あの人と何があったんだよ…… いやでも、イケメンだし、中身も良さそうに見えるけど……」
思わずガシッと肩を掴み、力説すると旭はやけに首を上下に振ってこう応えた。
「甘い、甘いよ旭! 猫かぶりという言葉を知らないのか!?」
「知ってるけど…… でも、しょ、少女ま…… おばさんが読むような漫画とかで、普段は猫かぶってるけど腹黒とかあるじゃん。そういうギャップも良いとか、クラスの女子が言ってたんだけど……」
先輩曰く、隠しているだけらしいが。
まあ、学園の王子様がシスコン兼マゾの変態だということを知ったら、女子およそ450人の夢が壊されるわけなので、正しい選択だと思う。
「それは漫画の中だけだよ。現実であんな人と関わったら面倒なことになるだけだよ。そのせいで私、毎日そこにいる美少女とあの男の人の愚痴やらノロケやら相談を聞くことになっちゃったからね」
「おばさん、本当にあの人と何があったの!?」
旭が愕然としていた。
うん、それは何があったか知りたくなるよね。
でも、旭の友達の兄や姉に通っている高校の生徒がいて、万が一旭が友達に話して、その友達が兄姉に話して、兄姉が学校で言いふらすとも限らないので、深くは言えないけど。
でも、この可能性、かなり低いけど。
「あはははは…… また今度ね。って、あ、移動した!」
「なっ、ちょっと待ってって!」
どこに行くのか決めたのか、ベンチに座っていた女王様を筆頭に百合様、先輩と立ち上がる。
女王様を先頭にして、4人は駅とは反対方向へと歩いて行った。
その先は確か、映画館があるはずだ。
百合様との通常デートの際に考えていたデートコースである。
「映画館…… またまた、普通のところを……」
「普通じゃないのを考えてたのかよ」
さすが比較的大きな駅の近くにある映画館といったところで、やけにおしゃれな外観だった。
自動ドアの奥へと消えて行く先輩たちを見送り、私たちも中へと入る。
気付かれないようにと少し時間を置いたので、先輩たちがいなくなっていた。失敗した…… と思ったら、今公開されている映画のポスターがある壁の隅の前で立ち止まっていた。
見る映画を決めているんだろう。
通常デートだった場合、私は先輩に最近人気の純愛系映画をを勧めるつもりだった。
まだ正式なカップルではないし、………… いやだから、近親相姦推奨してどうする。
とにかく、片方だけがもう片方を好きなような恋愛感情を持つ美形残念兄妹が見るには、多少、恥ずかしくはなるだろう。
………… いや、でも、図太い神経の2人なら普通に見てしまうかもしれない。
「おーい、そこの2人ー。見たい映画は決まったか?」
「私たちは、何でも良いですよ〜」
いつのまにからポップコーンやらドリンクやらを買っていた女王様とお犬様はにっこりと微笑む。
兄妹はその声に振り返り、目を輝かせた。
「わ、わたくしごときが選んでよろしいのでしょうか……!?」
「そりゃ勿論」
百合様が興奮気味に言うと、女王様は苦笑しながら告げる。
それにうんうん、と大きく頷くと百合様は、中央にあった最近公開された映画のポスターを指差す。
その先には、“王様と奴隷〜愛と欲望に溺れて〜”という見るからにそっち系な映画だった。
ここまで、名作を台無しにする題名ってないんじゃないだろうか。
ギリギリ大丈夫だったらしく、R-15指定だった。18だったらどうするつもりだったんですか。
というか、先輩、心なしか目が輝いているように見えますが。
《先輩、百合様の好感度を少しでも上げたいなら、その右隣のポスターを選んだ方が得策です》
急いでメールを打つと、送信する。
私が指定した映画は、通常デート時に見てもらうつもりだった恋愛映画だ。
向こうは気付いたのか気付かなかったのかは分からないが、こくり、と神妙に頷くと口を開く。
「じゃあ、僕もそれで!」
…… 先輩、メール見ましたか。
というか、チケットカウンターのお姉さん、ドン引きしてますよ。
傍から見たら、先輩たちのグループってイケメン1人に美少女1人、美女2人の美形ハーレムだからな。
それに、代表してチケット買っているのが先輩で、その後ろに3人という構図だから、下手したら無垢な美少女、美女たちを毒牙にかけ、こんなものを見させるという鬼畜男に見えなくもないですよ!
「…… 旭。堪えるんだ」
「は、はあ!? 何だよ、え、おばさん、どういうこと!?」
先輩たちを尾行する、ということは当然私と旭も同じ映画を見なければいけないということだ。
旭は一応、15歳以上の私がいるので映画は見れるのだが、チケットカウンターのお姉さんにはどう見えるのだろうか。
何も知らない無垢な少年をこんな世界へと連れ込む最低なショタコン高校生とでも思われるのだろうか。
…… 頑張れ、頑張れ私!
「すみません、“王様と奴隷〜愛と欲望に溺れて”、高校生と小学生1枚ずつ……」
「は、はい。こちらですね。2000円になります。お席はどうされますか?」
お姉さんは、カウンターに取り付けてあるタッチパネルを操作すると、席がかかれた図を映す。
そういえば、先輩に席を聞いておくべきだったな。
と思いつつ、パネルを見ると、真ん中あたりの4席しかうまっていなかった。
…… やっぱ、見る人いないんだな。
「ここの2席でお願いします」
先輩たちの席から2列離れたところを指差すと、お姉さんはかしこまりましたと言い、チケットを取り出した。
私もお金を払い、それを受け取る。
「旭。ポップコーンは別料金だよ」
「何故分かった!?」
そりゃあ、そこまで売り場を凝視されては、分かりたくなくても分かる。
私だって食べたいが、如何せん、今月はピンチなので静かにそう告げた。
「…… ジュースだけだよ」
「なっ!? 買えなんて言ってないし!」
だから、何故素直にお礼が言えないんだ、弟よ……
だけど、そんなことを言った割にはしっかり好きな味を選んでいた。しかも、サイズはLだった。
そんなんじゃ、映画の最中にトイレに行きたくなるぞ。…… いや、旭の教育上、あまり記憶に残って欲しくないものなので、行っててもらった方が良いのか。まあいいや。
「“王様と奴隷〜愛と欲望に溺れて〜”、5番スクリーンにより入場になりまーす」
チケットゲートから、気の抜けたようなスタッフの声が聞こえる。
談笑していた先輩たちはそれに気付くと、ゲートの方へと向かう。
それの後を追うように、私たちも歩き出した。




