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第4話 ご利用は計画的に

短編版「へんたいがあらわれた! かまってほしそうにこちらをみている。かまってあげますか?」の部分に当たります。

「どうしたら、百合と距離を縮められるかな?」


今日は、兄の方の相談日である。

いつもの校舎裏で、いつものノロケ話でも聞かさせるのかなあとうんざりしつつ行くと、女王様とお犬様の件以来のまともな相談があった。


「簡単なことです。先輩が百合様を諦める」

「それはナシの方向で!」


冗談は通じなかったか。

…… いや、何か違くね? これ、一般論だよね? 冗談じゃなくて普通ならこう言うはずだよね?

ダメだダメだ。脳が侵食されている。私の常識がなくなっていくー!


「じゃあ、まず百合様が女性ではなく男性を好きにならないといけませんね」


先輩のシスコンとかマゾは隠しておけば、どうにでもなる。百合様のサドもブラコンもツンデレも。

でも、第一に百合様が男を恋愛対象として見ていない時点で無理だ。


「でも、どうやって? 百合は桜海さんのことが好きなんだよ?」

「そうですね…… それが問題ですよね」


女性を恋愛として見ていても、まだ好きな人がいなかったら救いようがある。

だが、百合様の場合、不本意ながら私という立派な好きな人がいるために救いようがないのだ。

百合様、私のこと諦めてくれないだろうか。

それとも、もうスッパリと断った方が良いのだろうか。

でも、女の失恋は引きずったら長いというし。

まあ、私の場合はフられて10分で立ち直ったけど。


「とりあえず、精神的にではなく身体的に近付いてみたらどうですか?」


百合様が男を恋愛対象として見るとしても、まだまだ先は長そうだし。

というか、男を恋愛対象として見ても、実兄である先輩を恋愛対象として見るかも分からないし。

万が一、両思いになったとして、彼らの未来は決して明るいものではない。



「なっ! そ、それは、まさか…………! 罵る、踏みつけるよりちょっと大人の階段を昇ったプレイを」

「分かりました、だからそこから先は慎んで下さい、先輩」


本当、何でこんな人に惚れてたかなあ、私。

そんなことをしみじみと考えていると、先輩は妙に目を輝かせて口を開いた。


「そ、それはいわゆる寝取りプレイというものかな!? 1匹の犬を巡って2人のご主人様が取り合う! ああ、それも案外」

「だから、慎んで下さい。私、ノーマルですから。サドでもマゾでもありませんから!」


何でこう、言う事全てを卑猥にしてしまうのだろうか。

それが、一般的な犬なのだろうか。


「ええと、それでですね。身体的に、というのはスキンシップです」

「あぁ、だから身体的、にね……」


何故、ちょっと残念そうな顔をする。

普通、身体的にって言ったらスキンシップとかだよね。そうだよね、うん。


「先輩と百合様って、もちろんですけどお家は同じところですよね?」

「そうだよ」


何か今日、初めて先輩の普通の言葉聞いた気がする。


「普段、お2人ともお家にいる時、どんな感じで百合様と過ごしてますか?」

「罵りプレイとか踏みつけプレイ、これが基本かな。後は、時々だけど、縄プレイとか」

「いや、プレイの種類聞いてるんじゃないです」


仮にも、元好きな先輩の性癖暴露された上に実妹とやってるプレイの種類を聞かされた後輩の身にもなって下さい。


「ですから、会話とかの量とか! 一緒にゲームしたりとか!」

「あ、それだったんだね。それなら、普通の兄妹と同じくらいじゃないかな? でも、ぷ」

「何でそんなに今日その言葉主張したがるんですか!」


プレイの台詞量なら並以上、と言いたかったんだろう。

先輩、もうあの頃のあなたはどこに行ってしまったんですか……


「先輩、常識的にです。その罵るとか踏むとかは考えないで下さい。会話量も多い、ゲームもする仲。これは、一般的な兄妹としては仲が良い方だと思います。だから、もう一押しです」

「つまり、どうすれば良いのかな!?」


目をキラキラと輝かせながら、先輩は聞き返す。

私はそのちょっと期待していたような反応をされ、調子に乗ってドヤ顔と決めポーズ付きで応えてみた。


「______ デート、ですよ」



____________________



翌日。

いつもの通りに校舎裏へ向かうと、珍しく百合様が先に来ていた。


「では雪音さん、聞いて下さりますか? 先日、バカお兄様ったらわたくしの」

「____ すみません。今日は、ちょっと話したいことがありまして」


結局は、そのバカお兄様絡みなのだし、百合様のノロケ話は話すと長くなるので仕方ない。

私は百合様の話を遮ると、軽く頭を下げた。


「ええ、どうぞ。わたくしこそ、いきなりまくし立てて申し訳ありませんわ」

「え、あ、いや、こちらこそ」


というか、まくし立てている自覚あったのか。

思わずため息をつきそうになるも、慌ててこらえる。


「実はですね」


ブラコンだがツンデレな百合様を先輩がデートに誘うと、絶対彼女は断るだろう。

内心行きたくてしょうがない、とは思うけど。

それで、私だ。

女王様お犬様事件で結果的には兄妹の仲介役になってしまい、先輩から今回も私から誘って欲しいと無言の圧力というか、変態ご奉仕発言をされ続けられ、現在に至る。

別にデートに誘うのは構わないないのだが、問題は誘い方である。

お兄さんとデートに行ってくれませんか。

無難な誘い方ではあるのだが、返事は決まっている。お断りしますわ、だ。

ツンデレに率直的なものは無理。ダメ、ゼッタイ。

ということで、誘い方は自然と2つになる。


まずは、悪女パターン。

百合様との親睦を深めるためとか、告白の事を考えて百合様のことをもっと知りたいとか言ってデートに誘う。

私としては喜ばしいことではないのだが、これは成功率ほぼ100パーセントだと言っても過言ではない。

だけど、これは非常に嬉しくないオマケが付いてくる。

百合様の私への好感度上昇、だ。

この前の百合様が女王様といた先輩にとっての、篠宮先輩にとっての、誤解を解いた時みたいに頬をかくような態度をされること間違いなし。

………… どうしよう、これやったら本当に百合様と付き合うことになるかもしれない。私の気持ち関係なく。

いや、というか私は普通に男の人好きだからね! うん!


その2。他の用事パターン。

文化祭とか学校行事の荷物の買い出し等の他の用事を作り、自然にデートする。

しかし、これは映画や遊園地みたいに遊ぶことより建前上の用事を優先しなければならない。

………… うん、これが無難だよね。

どっちにしろ、私は待ち合わせ時間に用事が出来たとかでドタキャンする。

パターン2の方が何故篠宮先輩がいるのかを説明しやすいだろうし。


「実は、どうしたんですの?」

「じ、実は……」


理由がないです。奥さん。

1番近い我が高校のビッグイベント、文化祭は4ヶ月も先だ。そもそも、まだ準備も始まっていない。

そうだよなー、まだ6月だもんなー。

…… などと、遠い目をしてはいけない。

何か、理由があるはずだ。デートに誘う理由を!


「お、桜海家で飼っている金魚の風早くんのエサが先日なくなりまして」


金魚の名前に関しては、ツッコんではいけない。

命名したのが、その時何故か少女漫画にハマっていた弟だったのだ。

本人曰く今となれば、その名付けをしたのは黒歴史らしく、改名するように勤しんでいるみたいだが、いくらやっても家族が面白がって風早くんと呼び続けるので5年たち未だにそのままである。


デートの誘い方に金魚のエサの買い出しはいくらなんでもないだろうという話だが、なかったのだ。なかったのだよ……

私は委員会にも係にも属していないので、そういうのは全くないし。

久しぶりに先輩に申し訳ないと思った今日この時。


「今週の日曜日暇なら、遊びつつも是非一緒に買いに行って欲しいなー、と……」

「行きます、行きますわ!」

「即答ですね!」


百合様が鼻息荒く、ガシッと私の肩を掴みながら告げる。

本能で危険を感じたので後ずさる。


「勿論ですわ。愛する方のためなら火の中水の中ですの!」

「それだけ聞くと良い台詞なんですけどね……」


後それ前にも聞きました。

………… 何はどうであれ、デートに行くことは決定したのだ。

後は、若い2人に任せて相談係というか、よく立ち位置の分からない人は去ろう。


「え、えーと、じゃあ、日曜日の午前11時、駅前の猪像の前に集合で大丈夫でしょうか」

「了解しましたわ! そ、それにしても……」


百合様は急にもじもじと身体をくねらせ、頬を紅く染める。

こ、これは、もしかして。


「ふふ、それにしても雪音さんがデートにお誘いしてくれるなど嬉しいものですね」


前言撤回。

どうやら、百合様の好感度パラメーターは下がるという言葉を知らないらしい。

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