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第17話 カノジョは変態を愛しすぎてる

「ゆ、雪音(ゆきね)っ⁉ ちょ、そこ、どいてっ!」

「え? …… あ、はい」


体育祭、文化祭も間近となってきた日の放課後。

廊下を歩いていると、正面からドタドタと走る音が聞こえてきて、よく見てみると会長さんだった。

手には大きな茶封筒を抱え、目はクマだらけだった。

私を見ると、会長さんは焦ったように大声を上げる。

このままだと、ぶつかってしまうということだろう。

私は、会長さんとぶつかる寸前のところで右に避けた。

だが、会長さんはダメだったようで、私の真後ろ辺りまで走ってきたところで、大きく転ぶ。

その反動で、持っていた茶封筒から書類がバラバラと落ちた。


「ふがっ! ………… 何するのよ、雪音!」

「え、いや、私、会長さんの言う通りに避けましたけど」

「普通、こういう風に走ってくる人間がいたら、それは大人しくぶつかりなさいっていう合図なのよ!」

「理不尽だと思います」


顔から廊下に勢いよく転んだ会長さんは、頭を抑えながら立ち上がり、涙目で私を見た。

と言うか、最近、私の周りには理不尽なことで怒る人間が多い気がする。


「っ⁉ て、あああ! 原稿!」

「原稿?」


会長さんは、散らばった書類を見て世界の終わりでも来たかのように悲痛な叫び声を上げた。

何だろう、これは見られてはいけないものとかなのだろうか。


「まあ、私のせいでしたらすみません。ええと、これ、見られてはマズいものですか?」

「後1週間は見られちゃマズいものよ……!」


何で後1週間。

それなら、拾うのくらいは手伝おうと思ったが無理か。

私は会長さんに声をかけ、軽く頭を下げる。


「そうですか。よく分かりませんけど、頑張って下さい」

「ちょっ、ちょい待ちなさいっ!」


会長さんは立ち去ろうと背を向けた私の肩をガシッと掴むと、思いっきり引っ張った。

転びそうになるのを何とか踏ん張り、会長さんに向き直る。


「…… 何なんですか」

「ひっ! ゆ、雪音、そこまで怒らなくても、ね?」

「怒っていません。何か用事があるんですか」


会長さんは笑顔で私を(なだ)めようとしていたが、これくらいで怒っていたら美形残念兄妹や気持ち悪い弟の相手なんてしていられるか。


「え⁉ え、ええ、それなんだけど!」


会長さんはいつのまに拾ったのか書類…… いや、原稿の束を高々と持ち上げ、こう言った。


「アタシの原稿、手伝って!」



____________________



「じゃ、そこのバツが描いてあるとこにベタよろしく!」


原稿、と言うからには授業とかで使うスピーチ原稿とかなのかと思っていたが、会長さんが言う原稿と言うのはそもそも文章の方ではなかった。


近くの空教室に連れ込まれた私は「ちょっと道具取ってくる!」と会長さんがどこかへ行っている間に、大事そうに抱えていた原稿とやらを読ませてもらうことになった。

茶封筒から原稿の束を取り出すと、1枚目は“君想ふ”と描かれた題の下にキャラメル色の髪と美形男と桃色のセミロングの髪の美少女が背を向けて立っているイラストが描かれていた。

2枚目は、1枚目とは違い白黒で桃色美少女が遠くからキャラメル美形男を見つめているものでえっとか色々な台詞が書かれていた。

どうもこれは漫画で、ストーリーはこうらしい。

キャラメル美形男と同学年の桃色美少女は、高校入学時から彼のことを想い続けているらしい。だが、いかんせん彼はモテるので桃色美少女曰く全然可愛くない私には目を向けてくれることなんてない。そして彼を想って1年、ある美少女が入学してくる。彼女は、キャラメル美形男と一緒にいることが多く、桃色美少女は彼の彼女だと思い込む。そして実は、桃色美少女のことを好きなキャラメル美形男は、最近話しかけても辛そうな桃色美少女について悩む。

ある日、ついにキャラメル美形男の前で泣き出してしまった桃色美少女だが、そこでキャラメル美形男に告白される。例の美少女のことについて問えば、実は彼の妹だと言うことが判明。そして、両思いということが分かった2人は、口づけをする____

…… と言うところで終わりだった。


「ごめん雪音! 道具持ってきたわ! …… ん? あ、そうだ、アタシの漫画どうだった⁉」


調度漫画を読み終えたことろでバン、と大きく教室の扉が開き中から息を切らした会長さんが入って来る。

どうやら、走ってきたらしい。

漫画を持っていた私を見ると、目をキラキラと輝かせて感想を求めてきた。


「その前に少し、お聞きしたいことがあるのですが」

「何、どんと来なさい!」


持っていたキャリーケースからインクなGペンやミリペンなど漫画を描く道具を取り出しながら会長さんは期待しているように私を見る。

それに若干引きながらも私は口を開いた。


「…… この男の人とその妹って、美形ざ、ではなく篠宮先輩と百合様ですか」

「そうよ!」


やっぱりそうだったのか。

誰かに似ているなと思いながら読んでいたのだが、見た目は勿論、百合様の髪のカール具合とかかなり似せられている。

だが、リアルながらも漫画風のイラストになっていて、会長さんの描き慣れている感、と言うか熟練具合が分かる。


「ちなみに、主人公の長宗我部(ちょうそかべ)カトリーヌはアタシのオリキャラよ! 苦労したのよね〜、全校の女子の容姿と名前、照らし合わせてカトリーヌのキャラデザするの。髪色とか目色とか名前、1部でも誰かに似てればその子がモデルだって言われるのよ⁉」

「ああ…… だから、そんなに特殊な名前なんですね……」


長宗我部カトリーヌと言う名前を見た時には何故こんな名前なのかと思ったが、そういうことなら納得出来る。

篠宮先輩ファンは、普段は大人しいが出会った時の会長さんの様に先輩の恋愛相手のこととなると過激になることが多い。

創作上のことと言えどそれは同じらしく、漫画で篠宮先輩の相手役となる少女が誰かに似ているとその誰かがファンクラブの標的となる。

桃色髪桃色目、長宗我部カトリーヌと言う名前なら該当人物は中々いないだろう。


「それで、どうだった⁉」

「え? あ、ええと、面白かったです」


篠宮先輩の秘密を知る前なら、ドキドキ出来たいた気がする。

だが、篠宮先輩のあの変態具合を知る今では美化し過ぎじゃないのかという感想くらいしかない。

まあ、表向きの篠宮先輩のイメージはこんな爽やかな感じなのだろう。


「そう⁉ 今回は初めてキス描写があるから、反応が気になったのよね〜。雪音は、アタシの本、特に興味あるわけでもなさそうだったから、先に読んでもらったの!」

「…… はあ」


アタシの本、と言うことは会長さんはこれを冊子としてまとめてでもしているのだろうか。

いわゆる、同人誌というものなのか。


「………… っさあ! 雪音、ベタ塗り手伝って! 文化祭に出す本なんだけど、オフセット本2冊は出来てるんだけど、昨日思いついたコピー本がまだなのよねー。徹夜してペン入れはしたんだけど、ベタ塗りとトーン張りが終わってないのよ。今日、学校帰りにコンビニでコピーしようと思って放課後中に終わらせたいんだけど……」


会長さんは、伸びをしながら説明するようにつぶやく。

オフセット本とかコピー本とかよく分からない単語があったが、要するに、原稿をこの放課後中に完成させたいということだろう。


「バツのところをこうやって黒く塗りつぶして!」


会長さんはそう言うと、手近にあったコピー用紙に適当に四角を書き、縁取りをして綺麗に塗りつぶしていく。


「こんな感じでよろしく!」


目の横でピースを作ってウインクすると、会長さんはクリアファイルからトーンを取り出してカッターで切り取り始めた。

…… と言うかあれ、私、いつの間にベタ塗りを手伝うことになってるの? 空き教室にも引っ張られてきただけだよね?

………… まあ良い。

会長さんに会ったら話さなきゃいけないこともあったし、良い機会だと思えば良いじゃないか、うん!


「あの、すみません。文化祭の件なんですが」

「何かしら、雪音!」


会長さんは原稿に向かいながら、期待するような声音で聞き返す。

…… これは、やっぱり期待するよな。


「篠宮兄妹と回ることになりました」

「それ本当っ⁉」


バッと原稿から顔を上げる会長さんに苦笑しながら、続きを言う。


「ですが、私はクラスのシフトの関係もあり1時間くらいしか一緒にいません。篠宮先輩は、百合様に楽しんでもらおうと企画しているので、あまりお邪魔しない方が得策かと」

「み、3日間とも⁉」

「3日間ともです。お役に立てず、申し訳ありません」


そう伝えると、会長さんはカッターをつくえに落とし、世界の終わりかのようにうううと唸っていた。

…… すみません、会長さん。


「夕斗様がお優しいのはいつものことだから…… 雪音が謝ることはないわ。変なこと頼んでごめんなさいね。本来ならアタシがしなきゃいけないことだもの」

「え? あ、いえこちらこそ!」


ぺこりと頭を下げる会長さんに、更に罪悪感が残る。


「…… ふふ、ふふふふ! 仕方ないわ、それなら偶然を装って勧誘をして夕斗様たちにアタシのクラスに来てもらうしかないわね!」


…… 会長さんが、ポジティブな人で良かったと思った。


「会長さんは、クラスで何をするんですか?」

「占いの館カフェよ! アタシ、占うから良かったら雪音も来なさい!」


曰く、クラスの半分で占いをしてもう半分はカフェをするらしい。カフェでは、フォーチュンクッキーなど占いに関係するお菓子を出すんだとか。ちなみに、給仕服はベリーダンスの衣装の露出をかなり控えた服と頭にベールを被るらしい。何故教えた。そして、男子はどうするんだ。


「夕斗様に着てもらって、そこでアタシの魅力にメロメロになってくれれば良いわね!」


そこで、うっふーんと言って頭と腰に手を当てる会長さん。

セクシーポーズをしているつもりなんだろうが、本気でそれで人を誘惑出来ると思っているのなら、ちょっとマズいのではないだろうか。色々な意味で。



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