第11話 つまりは愛
旭から私のタイプを教えられた翌日。
神永君とタイプを照らし合わせてみると、何と彼は私のタイプにバッチリ当てはまっていた。
男にしては色白だし、身長は私よりも高い。
さすがに筋肉の付き具合は分からないが、運動もそれなりにしているみたいだから、なよなよとまではいかないだろう。
あの無口無表情からどう見たって、はっちゃけた人ではなさそうだし。
あれ、これ結構いけるんじゃないか!?
ということで、神永君に告白されてから1週間、私は彼を観察し始めた。
昼休みとかに見に行くだけだから、ストーカーとか言うんじゃない。
それから分かったことだが、神永君は実は裏で遊んでいるような人ではないので、本当に落ち着いた人。後、篠宮先輩ほどではないがそれなりにモテる。
あれ、あれれ!? もしかして、私、結構勝ち組じゃないのか!?
いや待て、クラスも違うし合同授業もしたことない彼が私に惚れるなんて、やはりイタズラか?
でも、百合様はクラスも違うし合同授業もなかったけだ、告白されたしな……
うん、よく分からない。
「………… 何してんの、アンタ」
「え」
そんなことを考えながら、放課後、校舎裏で百合様を待っていると、何故かそこに現れることがない、篠宮先輩のファンクラブ会長である佐藤先輩が立っていた。
少し引き気味で、しゃがんでいる私を見下ろしている。
「いや、何って百合様を待っているんですけど」
「あー、百合様か…… それなら仕方ないわね。また今度」
「え、何ですか、凄い気になるんですけど!」
それは残念という風に頭をかきながら私に背を向けた会長さんに、思わず声をかける。
何なんだ、凄く気になるぞ。
「アンタ、確か夕斗様と百合様の相談係みたいなことしてわよね?」
「はい。今日もそれですが」
すると、会長さんは途端に目を輝かせてしゃがみ、私の両手を握った。
………… 何か、面倒事の予感が。
「アタシ、この前アンタに言われて気付いたの。そうよね、夕斗様に近付く女排除しても夕斗様がアタシに振り向いてくれるはずないのよね!」
「…… え。あ、はい、まあ、そうですね」
わざわざ、次からは自分でアプローチしてみるということを言いにここまで来たのだろうか。
別に、私は何かした覚えはないしアプローチするなら勝手にアプローチして欲しい。
「ということで、アタシ、体育祭と文化祭の祭り期間で夕斗様のハートをバッチリ射止めてみせるわ!」
祭り期間、というのは今月末に控える体育祭と文化祭がある1週間のことである。
まず、予選と本戦で2日の体育祭が月曜日と火曜日にあり、水曜日と木曜日は休みという名の文化祭の準備期間。
体育祭と文化祭の準備を同時進行で行わなくてはいけないため、体育祭が始まるまでに文化祭の準備が終わっている団体は少ない。だから、体育祭が終わった後の2日は準備が終わった団体はゆっくり出来る日で、終わっていない団体は最後の準備出来る時間だ。
大体は、終わっていないので学校に登校していない生徒の方が少ない。
そして、準備期間が終わり、金曜日土曜日日曜日は文化祭本番。
ただ、金曜日は入場者数が見込めないので、5年前くらいから一般は入れない生徒だけの文化祭となっている。
一般が来場する土、日はシフトやら発表やらで忙しいので生徒たちは、基本的に金曜日に楽しんでしまうことが多い。
そして、月曜日から日曜日までの体育祭と文化祭期間のことを総計して生徒たちは“祭り期間”と呼ぶ。
「そうですか! 頑張って下さいね!」
篠宮先輩には、早く普通の人になって欲しい。
それなら、普通の人と付き合うのが1番だ。
私は会長さんの手を握り返し、うんうんと頷いた。
「それで、何だけど。アンタ、体育祭はともかく文化祭、誰と回る?」
「誰って…… 多分、クラスの友達ですけど」
それ以外に誰と回れというのか。
すると、会長さんは驚いた様に眼を大きく見開いた。
「ゆ、夕斗様や百合様とは回らないの!?」
「回らないです、絶対に」
あの2人は兄妹仲良く回るんだろう。
それか、お互いの友達と一緒にとか。
いずれにしろ、私には関係ない。
「回らないのかぁ……っ!? それなら仕方ないわ…… ありがと、雪音」
「こちらこそお力になれずにすみません」
何となく会長さんの言いたいことが分かった。
多分、私が美形残念兄妹と回ると思って、一緒にに回りたかったのだろう。
だけど、何も言われていないのにわざわざ美形残念兄妹と回るほどバカではないのだ。会長さんには申し訳ないけど、あんまり回りたくないので仕方ない。
後、何かナチュラルに呼び捨てにされたのは気のせいか。
「分かったわ…… じゃあ、回る時になったらアタシに連絡してよね!? 話があるの!」
「分かりました」
多分、ないでしょうけど。
会長さんは手をぎゅっと握ると、何度も繰り返し繰り念を押してきた。
私は、心の中で会長さんに謝りながらうんうんと首を上下に振るのだった。
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「雪音さん、文化祭、一緒に回りませんか!?」
「………… え?」
会長さんが去ってから数分後。
百合様が現れ、しゃがんでいる私に自分もしゃがみ思いっきり抱きついた。
何か、新学期になってから百合様のスキンシップが過剰になっている気がする。
これなら、まだ兄の方が害はないかもしれない。
「文化祭って、あの文化祭ですか? 今月末の」
「ええ、バカお兄様以外の先約がいらっしゃれば仕方ないですが」
篠宮先輩は、頭数に入ってないのか。
いつもながら、百合様の先輩の扱いが酷い。
ツンデレだからだとは思うけど。
「えーと……」
会長さんから同じような話を受けた後にこんな話って、会長さんの呪いか何かなのだろうか。
百合様は篠宮先輩と兄妹仲良く2人きりで回るものだと思っていたからな。
個人的にもいるだけで目立つ百合様とは、ぶっちゃけ、一緒に回りたくない。
篠宮先輩も同じ理由で却下だ。
いや、別に誘われていないが。
「やはりダメでしょうか……?」
「うっ」
百合様には、この前のデートサポートでばっくれた借りというか、そんな何かがあるからな……
それに、この見た目だけは良い百合様の上目遣いに勝てる人間は早々いない。
いやいや、百合的な意味じゃないよ!? 一般的な人間として、だ。
「………… か、考えさせてもらえませんでしょうか」
「断られると思っていました! ふふふ、雪音さん、良いお返事を待っていますわ!」
そうすると、満面の笑顔を浮かべて去って行った。
今日の相談はこれだけらしい。
何というか、拍子抜けだ。
いつもなら、最終下校時刻ギリギリまで愚痴やらノロケ話やらを相槌を打つ暇もなくマシンガントークで聞かされるのだが。
まあ、早いことは良いことではないか!
私は、百合様が見えなくなったあたりで腰を上げ、教室からスクールバッグを持って下校しようと教室がある第3校舎へと向かおうとする、が。
「______ なるほど、そういうことでしたか」
______ その前に何故、私の目の前に、ここにいるはずではない、神永君の姿があるのだろうか。




