第9話 弟と妹と兄
「桜海旭君に質問です」
「え、なんだよいきなり」
あまつさえ、会長さんとメルアド交換までしてしまった私は目の前の薄いタッチパネルに書かれた佐藤鈴乃という名前を凝視しながら、複雑な心境について考えていた。
すると、リビングということもあってか、テレビの録画していた番組を見ようとソファに座った旭を捕まえ、こう質問した。
「例えば、旭君に好きな女の子______ いや、好きな人がいたとしましょう」
「何で女の子から性別特定出来ないようにしたんだよ!?」
録画番組の一時停止ボタンを押しながら、話し続ける。
旭はそれに気付かずに、引き気味に私を見た。
ああ、旭がバカで良かった。
「ある時、旭君はその人に告白しました。結果、フラれました。その人には、他に好きな人がいるとのことだったのです」
「ぐ……」
すると、旭は辛そうにうつむいた。
も、もしやこれは、ついに旭にも好きな子が出来たのか!?
それならば弟よ、姉は応援するぞ!
変態じゃなければだけど。
「そして、その好きな人とはなんと、旭君が好きな人の年下の血縁者だったのです。あ、いとことか結婚出来るようなのじゃなくて、もっと近い血縁者ね。結婚出来ないような」
「ロミジュリだな!」
弟よ、そこはもっとツッこむべき箇所があるじゃないか。
そして、私と思考が結構似てるな。
「そして、旭君は旭君が好きな人の好きな人に告白されました」
「ややこしいから、AさんとかBさんとかにしろよ……」
げんなりとする旭の言葉に、それはそうだと同意する。
でも、さんとか君とかで性別分かったらいけないので、単にAとBで良いか。
「では、旭君が好きな人をA、その旭君が好きな人の好きな人をBとしましょう」
「何か更にこんがらがるんだけど……」
Aは篠宮先輩で、Bは百合様だ。
「旭君は2人に挟まれてきゃー、どうしようー、的なものはありません。実は、AもBも特殊な趣味を持っていて、旭君は今までの2人のイメージどんがらがっしゃーん、です。そして、旭君は何故かその2人の相談を受ける日々になりました」
「話がまったく繋がらないんだけど!?」
何かもう、半分は自暴自棄である。
言われてみれば、篠宮先輩に告白して、百合様に告白されて1ヶ月にもなるのか……
よく毎日耐えた、私。そして、これからも耐えろ、私。
「こういう場合、旭君はどうしますか?」
「え…… いや、どうしろと言われても」
戸惑っている旭に、私は嘆息する。
そして、ふっと笑ってこう告げた。
「ああ、ごめん。小学生に聞いた私がバカだったね。今の話は忘れて、さあ、“心霊現象〜あなたの後ろにも〜”を見るが良いさ」
「何かその態度凄いムカつくんだけど!?」
いや、今のはボケですが。
私は録画再生ボタンを押し、ソファから立ち上がった。
「とりあえず、現状維持」
「え?」
恥ずかしいのか何なのか、私に顔を向けずにテレビを見ながら旭が口を開いた。
予想していなかった言葉に、思わず聞き返す。
「だって、BをフッたらAは傷付くんだろ。で、例え話のだけど! Aが傷付いたら、あ、旭君も傷付く。だから、現状維持。旭君がBをフラなければ今の状態のまま。関係を変えたいのなら、旭君は何か行動をおこさなきゃいけないけど」
いや別に、旭君(仮)はもうAを好きじゃないんだけどな……
でも、確かに私が百合様をフッたら関係は変わる。
「でも、結果は決まってるのに期待させておくのはダメなんじゃないかな?」
「それは、今まで現状維持してきた旭君が言うことじゃないだろ……」
疲れたように笑う旭君(本)。
本物の旭君は分かっていたのか、どうか。
これから、多分、私は百合様を好きにならない。
でも、このおかしな3角関係を壊したくもない。
いつかは百合様をフることになるだろうけど、その時はその時だ。
無責任、なんて言われるかもしれないけど、私は今の状態が好きだ。
相手の愚痴を聞かされる、相談の役目が。
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翌日。
百合様の相談日だが、もうすっかり風は治ったと聞いたので校舎裏へ行ってみた。
すると、すっかり血相が良くなった百合様が会うなりいきなり抱き付いてきた。
「雪音さん、会いたかったですわー!」
「え、あ、はい、お久しぶりです」
すると、百合様は私の頬をすりすりとやってきた。
…… 何だろう、いつにもまして百合様の変態具合が悪化している気がする。
いつもは、発言だけだったのに今日は行動に出ている!
「昨日は大変でしたの。バカお兄様が部屋に侵入するのを阻止しながら、部屋に入らせないために普段より罵倒時間が長くなり、雪音さんに会えないストレスからバカお兄様を雪音さんだと間違え襲ってしまいそうになりましたわ。わたくしとしたことが、あろうことかバカお兄様と雪音さんを間違えるだなんて! ああもう雪音さん、失礼ながら何故わたくしのお見舞いに来てくれなかったんですか!?」
身の危険を感じたからです。
本当にお見舞いに行かなくて良かった!
というか、篠宮先輩、百合様が風邪なのを良いことに結構いちゃついてたな。
私にお見舞いを行かせなかったのは、もしや、そのためか……!
まあ、お見舞いに行ったら確実に私もそっちの道に引きずりこまれそうになっていたので、良かったけど。
何だろう、昨日、あんなに悩んでいた私がバカみたいに思えてくるぞ。
「そういえば雪音さん、バカお兄様のお友達から呼び出されたと聞きましたが、大丈夫でしたの!?」
「あ、はい。メルアド交換しました」
ファンクラブ会長は、“お友達”カテゴリなのか。
百合様も自分にファンクラブがあることなんて知らないし、当たり前といえば当たり前だが。
「ぐっ…… 佐藤鈴乃、なんたる策士ですの……! ま、まさか、彼女も雪音さんのことを」
「だから、何でお2人はそう、ねじ曲がった解釈をするんでしょうか!」
会長さんは、そのバカお兄様狙いなので大丈夫です。
それにしても、さすが兄妹というか、思考が似てるな。
「わたくしでさえ交換もまだだというのに……! 雪音さん、メールアドレスと電話番号を交換しましょう! 固定電話、パソコンメール、その他もろもろ連絡先は全てですわ!」
何か怖いですよ、百合様。
とりあえず、パソコンメールだけはないと言って死守したので、百合様とメールアドレスと電話番号、固定電話番号を交換した。
そうしたら百合様から、今日の晩ご飯の写真とかどうでも良いメールが大量に送られてきた。
新しく携帯をかったお年寄りの相手をしているみたいだった。
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「桜海さん、メールアドレス交換をしよう」
「お断りします」
「何故!?」
その翌日。
百合様のその後報告をされ、最新型のスマートフォンを取り出し、篠宮先輩はこう言った。
以前、デートサポートの時のは今日と同じく身の危険的な何かで使い捨て携帯を使用していたので、今日こそはと思ったんだろう。
何だろう、最近はメールアドレス交換するのが流行っているのだろうか。
「いや、何か怖いからです」
「百合と交換して僕と交換出来ないとはこれまたいかに!?」
「えーと…… そうです、これはプレイですよ、先輩。メールアドレスが欲しいけど、それを教えてくれない、我慢しないといけない。犬にとっては最高じゃないですか!」
「それとこれとは話が違うと思うんだ!」
最近先輩に何かを拒否する時には、犬を口実にすれば大体引き下がってくれることが分かった。
ここは、先輩がマゾで良かった。
「それに、百合は新しい恋のライバルが出来たと昨日言っていたんだ。これ以上別の女性が表れたら百合が僕に構ってくれる時間がなくなるに等しい!」
「大丈夫です先輩、百合様の好感度は先輩マックスです」
ブラコンだからな、百合様。
男の中では、篠宮先輩の好感度が1番高い。
というか、百合様の男のパラメーターには先輩しかませんよ。
独り勝ちだな、先輩。
「本当!? …… ということで、桜海さん。僕とメールアドレス交換をしよう」
「話聞いてましたか、先輩」
スマートフォンを持ちながらじりじりと迫ってくる先輩に構えながら、昨日、旭に言われたことを思い出す。
“とりあえず、現状維持”
そうだ、現状維持だ。
このおかしな関係は、出来るだけ変わらないまま続けてみたい。
大変で面倒だけど、彼らといると何だか楽しいのだ。
「お断りします!」
______ シスコンも、ブラコンも、サドもマゾも、百合もツンデレも。
変態はまっぴら御免だけど、それでも何だか面白い。




