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楠先輩の不思議な園芸部  作者: ひょうたんふくろう
楠先輩の不思議な園芸部
76/129

75 作って、咲かせて、飾り付けて。


「おぉ……思っていた以上に本格的……!」


「いい匂いだねぇ……!」


 アラビアジャスミンを摘んだその翌日。華苗たちはさっそく教室へとそれを持ち込み、物品の検品を行うことにした。まだギリギリ夏休み中とはいえ、文化祭の準備があるために、思っていた以上に教室にいる人間は多い。


 いつのまにやら教室の机は端っこにごちゃっとまとめられており、中央に空いた大きなスペースで各々が作業を行っている。傍らには誰かが集めてきたのであろう資材──段ボールや木材などだ──が無造作に置かれていた。


 どうやら手が空いている人たちが時間を見つけてそれぞれ作業を行っていたらしく、作りかけのモニュメントや飾りがそこかしこに見受けられる。美術部が描いたのであろうインドチックな絵や、映画研究部が作ったのであろうそれっぽい小道具まで、ちょっと見ない間にいろんなものが増えていた。


 絵具や大工道具といった工作用具が散らばっているのも相まって、華苗にはここが教室ではなく、どこかの舞台裏か映画のセットかと思えてしまう。


「これだけあれば足りると思うんだけど……どうかな?」


「十分すぎるって!」


 さて、そんなどこか非日常を感じざるを得ない教室の真ん中で、華苗を含めた女子たちがアラビアジャスミンを囲んでわいわいとはしゃいでいる。被服部、美術部といった花飾りの制作に直接関わる者から、そうでないものまで……ぶっちゃけ、今教室にいる女子の大半だ。


 やはり、女子たるものこの手のオシャレな話題には敏感らしい。籠一杯に集まったジャスミンをみんなしてその手の平に掬って楽しみ、香りをかいでうっとりとしている。


 そんな女子たちの様子を見て、男子は『女ってわかんねえな』なんて言いながらトンテンカンテンと槌を振るっていた。美しく香り高い花でも、男子の心の琴線には触れないようだ。


「これだけたくさんあれば、髪飾り以外にもいろんなことに使えるよ!」


「うんうん! 髪飾りだっていろんな工夫の幅がありそうだし!」


 そう言って被服部が華苗が作っておいた花飾りを手に取る。花を糸でつなぎ合わせただけのそれは非常にシンプルな造りをしているが、その分作り方は単純で誰にでも作ることができる。


 普通だったら単純であるぶん見た目が貧相になることも多いが、使われているのは不思議な園芸部が栽培したジャスミンだ。その華やかさは摘まれて一日経ってなお失われておらず、花弁は輝かんばかりに艶があり、その香りも一切失われていない。


「ほら! 元がこんなにいいんだもの!」」


「うわぁ、すっごい!」


 にこにこ笑った彼女が軽くサッと腕に巻いただけで、わっと大きな歓声が上がる。使い方としてはもっとも単純だったのに、それだけで華やかさと女子力が段違いに上昇したのだ。


「私が教えてもらったのは、こうやってお裁縫みたいにお花に糸をどんどん通してく……ってやり方なんだけど、他になにかあるかなぁ?」


「んーとね、ある程度考えてきたのもあるんだけど……」


 まずはオーソドックスに花を繋げていき、髪紐のように仕上げたもの。長めの髪をこいつを使って後ろで一括りにするだけでもう、パーフェクトと言ってもいいくらいである。日本人らしい濡羽色の髪にジャスミンの純白が良く映えて、より一層とその素晴らしさを高めてくれることだろう。


 これの場合、アレンジの幅が広いのもポイントが高い。結ぶ位置を変えればポニーテールでも何でもできるし、結び方を変えればちょっとしたリボンのようにも扱うことができる。紐そのものに大きめの玉やビーズなんかをワンポイントでつけてもいい。


「扱いやすさはピカイチだと思う。作りやすいのも大きな評価点かな」


 早速女子たちはきゃあきゃあはしゃぎながら思い思いに花飾りを作り、好きなように髪を飾り立てていく。まずはいつもと同じように髪を結んで、次は夏らしくすっきりとポニーテールに。ふざけてツインテールを試すのも、まあご愛敬と言う奴だろう。


「ねぇねぇ、他には?」


「髪飾りってわけじゃないけど、こういうのも……」


 被服部がちくちくと花を糸に通していく。先程の髪紐よりも大きく長く、華やかになるように。要所要所で糸を結んだり、何やら華苗にはよくわからない複雑な手さばきをしていたかと思えば、いつのまにやらそれは完成していた。


「どうよ?」


「いいね!」


 彼女が作ったのは肩口からかける大きな花輪──ハワイのフラダンスをする人が首にかけているアレだ。ハワイでのそれはレイと呼ばれ、ジャスミンで作られたこちらは厳密には違うかもしれないが、ほとんど同じようなものだろう。


「大きい分目立つし、会計とか受付とか……あるいは宣伝とかの人の首にかけて置くだけで結構効果あると思うよ?」


「うっはぁ……! 頭にも飾り付けて首からもこれ提げるって……! 何もしてないのに花畑に全身突っ込んだ気分になるね……!」


 華苗が持ち込んだジャスミンの香りは未だに衰えていない。そのジャスミンをこれだけ全身にまとえば、この場に居ながらにして花畑にいるかのような気分になれる。


 元より、普通の髪飾り一つでさえ、香水と同じかそれ以上の効果があるのだ。これを付けて人混みの中を歩くだけで、その素晴らしい香りに誰もが振り返り、五感から直接宣伝することができるだろう。


「あとはゴム紐つかってシュシュっぽくするとかかなー。ミサンガみたいに手首にもつけられるし。あ、一応コサージュも考えてたけど、この様子ならなくてもいいかも」


「コサージュ……っていうと、何か道具とか必要だったりするの?」


「ワイヤーとかリボンとかフローラテープとか。花をワイヤーとか針金でガチガチに固めて、そうやって固めたのをさらにまとめて束ねて……って感じで作るの」


「ただ、コサージュピンとか使うとなると、確実に予算食っちゃうよね。個人的には髪紐タイプをベースにしてさ、そこから各々で好きなようにアレンジを加えていく方がいいと思うんだけど……修理も楽な方が万が一壊れちゃったときも安心だしね」


 衣装担当の言葉に反対するものはいない。みんなすでにもう、いかにして自分だけのオリジナル髪飾りを作るべきか頭の中で策をめぐらせている。中には普段滅多に使わないスマホでアレンジ方法を調べているものもいれば、プロに聞くのが早いとばかりに被服部に難しいアレンジのやり方を聞いているものもいる。


 かくいう華苗も、家の中のアクセサリー入れやビーズセットに思いを巡らせていた。ここでオリジナリティを出さないなんて、女が廃る。


「そーいえば、クラスTシャツのほうはどうなったの?」


「あれはデザインこっちで決めたから、後はみんなのサイズを聞いて発注するだけだよ?」


 ほら、と誰かがデザイン書を持ち出してきたので、それを知らない数人が頭を突き合わせるようにしてそれを覗き込む。もちろん、小柄な華苗はこういう時はかなり有利にその中に突っ込むことができた。


「わ、けっこうオシャレ」


「後ろにみんなの名前を書くのは、どこも一緒なんだね」


「やー、やっぱその方がクラスTシャツっぽいじゃん?」


 黄緑色の地のTシャツに、影絵や切り絵を彷彿とさせる黒いデザインが施されている。インドを意識したのだろうか、随所にエスニックな模様が散りばめられており、学校を模した遺跡の真ん中で、二匹の踊る象に囲まれて佇むインドっぽい女神が描かれていた。


 その後光の差す女神はなぜか眼鏡をかけており、片手にはナンがあった。たぶん、クラスの象徴と言うことで我らがゆきちゃんをモデルにしているのだろう。


 もちろん、Tシャツの裏面にはクラスみんなの名前が書かれている。中学時代は煩わしいと思ってしまったこの手のイベントも、このクラスのみんなとだとこうも楽しく、嬉しく思えてくるのだから不思議だと、華苗はぼんやりと思った。


「なんだろ、元ネタを知らなければ普通にそっち系のお店で売ってそうって思える感じ」


「なるほど、男子はこれにターバン巻いて……うん、けっこうそれっぽい」


「ターバンについては百均かなにかでそれっぽい大きな布を適当に買ってもらうつもり。一応予算的には問題ないはずだけど、今日の感じだと女子のアクセサリーの予算をすこしそっちに回しても大丈夫かな」


「むー……女子はこれに合わせるのがなぁ……。花飾りはともかく、なんか適当に探しておこうかな……」


「いいね、それ。Tシャツ、花飾り、それにおでこシールもやるんだから統一感はもうばっちりでしょ。むしろちょっとアレンジ利かせといた方がいいって」


「だよねだよね!」


 ああだこうだとわいわい話しながら、華苗たちはせっせと手を動かしていく。華苗以外の女子もやはり最初は手間取ったものの、一度慣れてしまえば大きなトラブルに見舞われることもなく、ちくちくと花飾りを作ることに成功していた。


 もちろん、手を動かしている間はおしゃべりタイムだ。文化祭に向けて話したいことがいっぱいあるし、夏休みにどう過ごしていたか、どこかに遊びに行ったか……なんてことにも興味がある。だいたいの人間は学校で部活をしていたが、わかっていても聞かずにはいられないものなのだ。


 そんな中、みんなの興味をひきつけてやまない話題が一つだけあった。


「ねえねえ! 島祭のときさ、ゆきちゃんが外国人の金髪イケメンと手ぇつないで歩いてたって話聞いた!? けっこう確かなスジからだし、しかも複数の目撃証言が上がっているんだけど……!」


「うっそぉ!? それ見間違いじゃないの? あのゆきちゃんだよ? というかそもそも、ゆきちゃんあの時お祭り巡ってたの? 昼間に関係各所と連絡とったり指揮取ったりしているのは見たけど……」


「浴衣も着てたし化粧もバッチリのガチだったの! これは私も見たから! 一瞬ゆきちゃんだって気付かないくらいだったから!」


「……」


 ゆきちゃんは島祭の時に金髪のイケメン外国人とデートをしていたらしい。祭り中にちらっと見えた影は、やっぱり間違いではなかったのだろう。その相手に大きな心当たりがある華苗は、恩師のためにお口にチャックをすることを決意する。


 なんせ、ゆきちゃんはもう三十路。アラサー。がけっぷちなのだ。


「……あっ、華苗ちゃん、その意味ありげな笑みはなに?」


「べ、べっつにー?」


 どうやらお口にチャックはしたものの、心の中でほくそ笑んだのはばれてしまったらしい。


 華苗だって女の子だ。この手のゴシップ、言いふらしたいに決まっている。言いふらさないのはゆきちゃんが大事な大事な恩師であり、尊敬できる人物であるからだ。


「もしかして知ってるの? 教えろぉ!」


「おーしーえーろーよー!」


「く、口が裂けても言えない……!」


「……ホントに?」


「ホントだよ?」


「……………………りんごあめ」


「……んっ?」


「…………いつの間にか、下の名前で呼んでたね?」


「…………はい?」


「『私のおかあさんも八島さ──」


「ねぇちょっと待ってってばぁ!?」


「むぎゅ」


 抱き付くようにして華苗は彼女の口をふさぐ。普段大人しい華苗がこうもアクティブに動いたからか、何も知らない周りの人たちは──向こうで作業をしていた男子でさえも驚いた様子でこちらを見ていた。


「え、なになに、どうしたの?」


「華苗ちゃん、すっごく真っ赤……まさか?」


「~~っ!」


 言わない。言えるわけがない。華苗に口を塞がれながらも彼女はにやにやと笑っており、それが余計に華苗の羞恥心に火をつける。当然耳はリンゴのように真っ赤っかで、暑さとは別の理由で体が尋常じゃないくらいに熱くなっていた。


「よーし! 誰か華苗ちゃん押さえて!」


「いえっさぁ!」


「むぅぅぅぅ!」


 べりっと華苗は女子数名に引き離される。こうなるともう、まな板の上の鯉同然だ。


「それでそれで! ねぇ、華苗ちゃんのいったい何を見たの!?」


「え~っとぉ、ん~っとぉ、ほらぁ、中庭の裏手って言うのぉ? 人気の少ないあそこあるじゃん? 花火があがる直前くらいに、あそこに──」


「金髪外国人さん、セインって名前だよ! ゆきちゃんとほぼ同い年! 知り合ったのは夏休みに入ってから! ゆきちゃんはもうぞっこんで、セインさんのためにお料理とか勉強して花嫁修業もしてる! 文通もして結構いい感じなんだって! これでいいでしょ!?」


「その言葉が聞きたかった! ……っていうか、そんなに進んでんの!?」


 華苗はためらいなくゆきちゃんを売った。知っている限りの情報をこれでもかと吐いた。もとより大事なのは自分のほうだ。先生ならば生徒のために身を張ってくれてもいいはずだし、クマの時は実際身を張ってくれたのだ。これくらい、笑って許してくれるはず。そうに決まっているのだ。


「うそぉ……!? あのゆきちゃんが……!?」


「最近妙にやる気があると思ったら……!」


「嘘だろ……!? 俺たちのゆきちゃんが……ッ!!」


「ぜぇったい騙されているって……!」


 女子たちの言葉が耳に入ったのか、教室の端で作業をしていた男子の何人かががっくりと膝をついてしまっていた。親しみのある憧れの担任の浮いた話なだけに、彼らには相応のダメージが入ったらしい。涙目になっている奴さえいる。おそらくその気持ちは、女子である華苗には一生わからないことだろう。


「……あと、私があそこにいたってのを知っているってことは、つまり」


「…………こいつも裏切りもんだッ! ふんじばっちまえッ!」


「澄ました顔しておいて! 彼氏いないとかいっておいて! キリキリ吐けやぁ!」


「あっ! ちょっ!? 華苗ちゃん、謀ったなぁぁぁぁ!?」


「ふーんだ!」


 そんなこんなで楽しい軽口は進んでいく。話題は当然、これをきっかけにコイバナへとシフトしつつあった。幸いなことに華苗に話が向けられることはなく、華苗は新鮮な気分でクラスメイト達のドキドキしてちょっぴり甘いお話を楽しんでいく。


 もし、この場によっちゃんや清水がいたら、そんな華苗を見てほくそえんでいたことだろう。


 みんなが華苗に話を向けないのは、別に華苗を慮っているからではない。


 華苗なら、いつでも吐き出させることができる──否、自分からすぐに襤褸を出すと確信しているからだ。


 ましてや、華苗のコミュニティが限りなく狭いことはクラスの大半が知っている。該当者なんて片手で数えられるくらいだろう。その上、華苗はすこぶるわかりやすい。確信している者は結構な割合でいるし、そうでなくとも、ほぼ正確にあたりを付けている。


 いつのタイミングがちょうどいいか──みんなそんなことを考えているだけだ。それをわかっていないのは、華苗だけである。

 

 そうして、たわいもない話をしながら作業をしていると、クラスメイトの一人が思い出したかのように華苗に話しかけてきた。


「華苗ちゃん、ちょっと気になっていることがあるんだけど……」


「ん、なぁに?」


「このお花ってどれくらい持つものなの? 生花だし、やっぱり夕方ごろには萎れちゃったりくすんだりしてくる?」


 誰かの言葉に、その場にいた全員がぴしりと固まる。


 そう、この素晴らしいアクセサリーの原材料は生花だ。当然、ずっといつまでもこの美しさを保っているというわけではない。時間が経てば必然的に見た目は悪くなり、最終的にはボロボロになってしまうことだろう。


 もちろん、これはかなり大きな問題だ。せっかく頑張ってアレンジを利かせて作ったとしても、一日でダメになってしまっては意味がない。いや、正確に言えば、同じものを使いたければ同じだけの苦労を再びしなくてはならない。


 これが個人の労力の問題と言うなら、それほど取り立てることも無いだろう。だがしかし、華苗たちはみんなで文化祭を最高のものにしなくてはならないのだ。翌日の下準備や設備の修理点検など、模擬店の営業時間が終わってもやらなくちゃいけないことなど腐るほどある。


 そんな中、女子の都合だけで花飾りを作り直す余裕があるとは保証できない。


「そっか……ガチで作ったとしても、一日持てばいいほうだもんね……」


「……夜なべすればなんとかなるんじゃない?」


「や、それで翌日寝坊したら意味ないでしょ。やっぱりここはシンプルに……」


「──あ、たぶん一週間は普通に持つと思うから大丈夫だよ?」


「「──えっ?」」


 多くの人間が唖然とする中、華苗は当たり前のように答える。


 なんたって、このジャスミンはまごころあふれる不思議な園芸部で摘まれたお花なのだ。たかだか一日程度でしおれるはずがないし、仮にしおれたとしても、まごころさえ込めればどうにでもなるのである。


「いやいやいや……! さすがに摘みたてのこの鮮やかさと香りは保たないでしょ?」


「それ、昨日の午前中摘んだやつだよ? 一日経ってもこれなんだから、普通に大丈夫だと思うけど……」


「えっ」


「今日摘んだ奴じゃなかったんだ……」


「そういえば、いつも活けてくれる花も妙に長持ちしてるっけ……」


 もちろん、これは十分におかしいことだ。このサウナのように暑い夏なのだ、生花なんてあっという間にダメになってしまう。


 それなのにクラスのみんなが普通にそれを受け入れているのは、ここが園島西高校であるからに他ならない。彼らはなぜか自分たちを棚に上げ、自分が所属する以外の部活はいろいろぶっ飛んでいるという認識を持っているのだ。


「もしかしてだけど、お花を教室に飾り付けた場合でも……」


「問題ないよ?」


「……まさかとは思うけど、こう、いかにも天然ものっぽく教室中に花を這わせることとか」


「やってみよっか」


「えっ」


 えいや、と華苗は籠いっぱいのジャスミンにまごころを込めてみる。ふわりと暖かな風のようなものが流れ、そして。


「うわわわわっ!?」


「な、なんだッ!? 急に凄まじいジャスミン臭がッ!?」


「言い方! 言い方!!」


 壁際で作業をしていた男子が慌てて中央へと避難してくる。桜吹雪のようにジャスミンの白い花が教室中に舞い、華苗たちの視界を奪った。ひらひらと教室の隅々まで散っていったジャスミンの花弁は、その芳しい香りをまき散らしながら床へ、壁へ、あらゆるところに舞い降りる。


 そして、思いもよらない成長を見せた。


「な、なんだよこれ……!?」


「つる……いや、枝か……!? どんどん伸びてく……!」


「えっちょっとまって、これ根っことかどうなってんの?」


 どういう仕組みか一切わからないが、壁や天井にジャスミンの葉っぱが茂っていく。誘引……とはちょっと違うだろうが、どうやらジャスミンがそれらに沿って成長しているらしい。もちろん、葉っぱの成長からちょっと遅れるように白い花がふわりと咲いていって、その碧を純白に染めていく。


 クラスメイト達がぽかんとしている間も、ジャスミンの成長は止まらない。


 天井から良い雰囲気を醸し出すかのようにぷらりと花を垂れ下げているし、お洒落で意識の高いインテリアのように、天井の電気のところや扉の外のクラスプレートに花を伴いながら絡んでいく。美意識が中々強いのか、道具類がごちゃ混ぜになって置かれていた後ろのロッカーのところなんて、緑と白のカーテンが形成されてそれが見えないようになっていた。


「う、うわぁ……」


「お、おおぅ……」


 はっきり言おう。


 華苗の教室は、もうすでに教室としての体を成していない。


 まるで森の中かのような──あるいは、自然を売りにした超有名なオシャレなカフェの自然部分が強すぎるヴァージョン、はたまた……


「──緑が茂った廃墟? 文明世界が崩壊した後みたいな」


「言い方! 言い方!!」


 とはいえ、これで一気にそれっぽい内装になったことは言うまでもない。壁や天井、あらゆるところにジャスミンの花が咲き乱れているのは圧巻だし、ここが教室であったとはとても思えないくらいである。エスニックを通り越してもはやオーガニックであり、これほどインパクトを与える内装もそうそう見られないだろう。


「うーん、ちょっと加減を間違えちゃった……かも? 伸び方もなんかおかしいし……。まぁ、まごころこめたんだからこんなものかな」


「……」


 華苗は平然と言いのけているが、周りはだいぶドン引きしている。華苗はこれ以上のことをもう何度も目にしてきているので、もうすっかり感覚がマヒしてしまっているのだ。


 そう、華苗がやったのは花弁から教室に行き渡る程度にジャスミンを成長させただけである。楠だったらもっとすごいこと……例えば、学校全体に覆うくらいにジャスミンを成長させたとしても不思議はない。それに比べれば、華苗がやったことなんて可愛いものである。


「ま、まぁ手入れする楽しみができていいんじゃないかな! ありがとね、華苗ちゃん!」


「授業どうするんだろうな、これ」


「華苗ちゃん怒らせたら、これで触手ぷれい、か……そういえばよっちゃん、ベリーでやられていたっけ」


 こうして、華苗たちの文化祭準備は進んでいく。衣装についてはばっちりで、内装の方の進捗も悪くない。あとはよっちゃんたちがレシピを完成させれば、大きな問題はないはずだ。


「よーっし、とりあえずこの調子でバンバン進めていこーっ!」


「「おーっ!」」


 園島西高校文化祭──【ガーデンパーティ】開催まで、あともう少し。

20170903 誤字修正


 クラスTシャツってどこの学校でも作ると思うんですけど、必ず後ろにみんなの名前入れるよね。あと、アレ作るのって年に一枚で十分だと思う。イベントごとに作るのはちょっと……ねぇ? クラスのユニフォームだというのなら、しっかりしたのをずっと着続けるほうがコンセプト的にも間違ってないと思うの。


 あとはデザイン担当の腕がいいことを願うのみ。一回だけものっすごいアレなのを見たことがあってね……。

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