67 手繋ぎ散り散り恋夏祭
「なんだったんだろうね、さっきの……」
「さぁ……」
おじいちゃんが謎の演説をしてしばらく。例の迷子と外国人の集団が再びお祭り巡りに戻り、集まっていた観客たちも散り散りになったころ。華苗と楠はトウモロコシの屋台、すなわち自分たち園芸部のスペースに戻っていた。
その傍らには浴衣姿をばっちり決めたよっちゃん、清水、青梅、双葉に甚平姿の秋山、加えてポロシャツ姿の田所、柊がいる。
どうやらみんな、先程の迷子のお知らせの大絶叫につられてこちらにやってきたらしい。むしろ、あれほどの騒ぎで駆け付けないほうがおかしいというものだろう。
「華苗、結局屋台のほうはどんなかんじなの?」
「ん、遊びに行ってもいいって」
華苗は楠から正式にそう通達されている。一応目で確認を取ってみると、楠はいつも通りの死んだ魚の様な瞳のままこくりと無言でうなずいた。
これでようやく、お祭りに戻ることができる。運営側としてみんなに喜んでもらうのもまた楽しいものだが、華苗は青春真っ盛りの高校生なのだ。友達と一緒にお祭りをめぐる方がその何倍も好きだったりする。
「楠、お前はどうすんの? 俺たちと一緒に行くか?」
「…いえ、俺は──」
「ごめんね、秋山くん! 楠くんはこの後私たちとデートだから!」
「馬に蹴られるような真似はするんじゃないぞぉ!」
仏頂面の大男の腕を、浴衣で綺麗に着飾った青梅と双葉が取った。夏の祭りのテンションなのか、いつにも増して積極的にその太い腕に抱き付いている。いたずらっぽく笑いながら楠の独占権を主張し、言外に『邪魔するな』と伝えていた。
「…そういうわけですので」
「お、おう……まあ、しっかり楽しんで来いよ。よっ、色男! 憎いね!」
「……」
「ん? でも、そしたら誰が園芸部の屋台をやるんだ?」
秋山の疑問も尤もである。悲しいことに、園芸部には二人しか部員がいない。華苗も楠も出払ってしまったら、屋台を閉めざるを得ないだろう。
さすがにめんどりであるあやめさんとひぎりさんにお任せになるわけにもいかないし、かといってこのまま閉めてしまうのはあまりにももったいない。なにより、まだまだトウモロコシの材料が有り余っている。
「あら、ひどいのね、秋山くん。私がいるじゃない?」
「そういや深空先生って園芸部の顧問だっけ……」
にこりと微笑んだのは深空先生だ。保健室の先生のイメージが強い深空先生だが、彼女は立派な園芸部の顧問なのである。生徒の代わりに屋台を運営していたとしても何ら不思議はない。
それに、深空先生は先ほどまでずっとノリノリでカラオケ大会に参加していたりする。もちろん、その間は楠に屋台を任せっきりであった。その微妙な罪悪感も手伝って、深空先生はこの後はもう終わりまで担当しようという心づもりだった。
「…一人でできますか?」
「もう、大人を甘く見ないほうがいいわよ? それに先生、学生時代はコンビニのバイトだってしていたし」
「…調理と接客、同時にこなさねばなりません。…ピーク時は俺と八島の二人掛かりでてんてこまいでしたが」
「……き、気合でなんとかします。最悪、調理部から何人か助っ人を──」
「大丈夫! その心配はいりません!」
「あたしたち、超強力な助っ人を呼んでおいたから!」
と、ここで会話に割ってきたのは青梅と双葉だ。なにやらこういう事態を想定して解決策をあらかじめ用意していたらしい。二人とも面白いくらいにほおが緩んでいるほか、園島西高校の生徒にしては珍しく、片手に携帯電話を持っている。
「…誰か呼んだんですか?」
「んふふ。楠と、あと華苗ちゃんがよーく知ってる人だよ!」
「……あっ! こっちでーす!」
ちょうどいいタイミングで青梅がぶんぶんと手を振った。声をかけられた方向に自然とみんなの注目が集まる。人でごった返しになっているその向こうに、同じように手を振っている人がいた。
「…げ」
いや、そもそも手を振る必要なんてないだろう。集団でいるからか華苗たちは結構目立っているし、そもそも青梅たちが呼んだ【超強力な助っ人】は人ごみの中にいてもよく目立つ。
具体的には、他の人たちよりも頭一つ大きい。かなりの高身長で、ともすればモデルでもやってたんじゃないかってくらいの体型だ。
「澄香さーん! こっちこっち!」
「やっほー、渚ちゃんに詩織ちゃん! あとついでにバカ息子!」
「……」
高身長の女性──楠 澄香がにこっと笑って旧交を温める。その身長の高さは息子譲り……否、楠の身長の高さは彼女譲りであるのだ。例え人混みの中にいたとしても遠くまで見渡せるし、ついでに他の人から見つけてもらえる。
しかし、登場したのは彼女だけじゃなかったりする。そう、はぐれないためだろうか、澄香は中学生くらいに見える女の子の手を引いていたのだ。
「……げ」
「かなちゃん!」
パッと見は中学生に見える──八島 美桜が華苗に飛びついた。人混みの中で不安だったのだろうか、その顔は今にも泣きだしそうで、ついでに目に涙を溜めている。人前で──正確にいえば好きな人の目の前で年甲斐もなくこうして抱き付いてきた母親に、華苗は頭が痛くなった。
「おかあさん! なんでこんなところにいるの!?」
「えとね、実は渚ちゃんと詩織ちゃんにお祭りに誘われていて……。澄香さんも誘われていたから、じゃあ一緒に行きましょうって。えへへ、うちの車、澄香さんのお家に停めてきちゃった!」
「ほら、ウチからここまで歩いてこれる距離だし、浴衣の華苗ちゃんを車で送るって聞いたからさ。ウチに停めればいいじゃんって」
「母がご迷惑をおかけしまして……!」
「いいっていいって。それにさっきまで一緒に楽しくお祭りを巡っていたんだから」
話を聞くと、青梅と双葉はいつぞやの三者面談の際にこの二人と連絡先を交換していたらしい。その縁でお祭りに誘うこととなり、そしてなんだかんだと雑談するうちに華苗たちがいない間の屋台を任せるという話になったそうだ。
より正確にいうならば、そのことを知った澄香と美桜のほうがその提案をしてきたとのこと。娘と未来の義娘のためならば、母親たちはなんだってするものなのである。
「…母さん、出来るのか?」
「あんたに料理を教えたのは誰だと思ってるんだい?」
「おかあさん、取り返しのつかない失敗をする前にごめんなさいして帰りましょう?」
「だいじょうぶ! かなちゃん、こう見えてもママは昔バイト先で看板娘だったんだから!」
「「……」」
楠と華苗はそろってため息をついた。友人たちの前で母親と会話するのだって恥ずかしい年ごろだというのに、よりもよってその母親たちがこうも出しゃばっているのだから。しかも母親たち特有のフレンドリーさのなせる技か、もうすっかり深空先生とも馴染んでしまっている。
「言っとくけどね、瑞樹。あたしはあんたのためにここに来たんじゃあない。渚ちゃんと詩織ちゃん、そして華苗ちゃんのためにここに来たんだ。……どうせ不愛想なあんたのことだ、華苗ちゃんが手伝ってくれるまで客なんて来なかったんじゃないのかい?」
「……」
「ほらみろ。あんたが黙るってのはそういうことだ。せめてデートで女の子二人を楽しませてきな」
「…うっす」
「……まさかとは思うけど、あんた今いくら持ってる? 割り勘だとか払わせるとか言わないだろうね? ちゃんと小遣い渡してるんだ、それなりには持ってきてるんだろうね?」
「…二千円ほど」
「はぁ!?」
澄香は信じられないとばかりに声を上げた。どうしてこんな風に育っちまったんだ、とぶつぶつ呟いている。きっと、息子がデートの作法の一つも知らない唐変木だと思っているのだろう。実際、女の子二人とダブルデート(?)するのに男の所持金が二千円ではとても足りない。
「ああもう! まさかとは思ったけどやっぱりこれだよ! こいつやるから使い切るまで帰って来るんじゃないよ!」
澄香は財布を取り出し、お札を抜いて楠に押し付けた。華苗からはよく見えなかったが、あの普段から無表情の楠が一瞬驚いた顔をしたということは、きっとそれなりに大きな額だったのだろう。なかなかに太っ腹な話である。
「渚ちゃん、詩織ちゃん、うちのバカ息子をよろしくね!」
「はーい!」
「楽しんじゃってきます!」
澄香が楠の尻をばしんと叩き、青梅と双葉がその腕を引いて人混みの中へと消えていく。無駄に背の高い楠の頭だけがしばらく見えていたが、それもやがて飲まれてしまった。
きっとこれからあの二人にとってはお楽しみとなるホットで熱々な時間を過ごすのだろう。親公認のデートなのだ、少なくともこそこそせずに堂々と楽しめるというものである。
「じゃ、よっちゃん。俺たちもデート行こうぜ!」
「よろこんで!」
秋山とよっちゃんもまた、何かを察したかのようにニヤニヤ笑い、ちらりと華苗たちの方を見てから二人で人ごみに消えていく。あえて華苗たちに見せつけるように手を繋ぎ、いかにもそれっぽく寄り添いあい、最後にもう一度振り向いて、まるでいたずらが成功するのを楽しみにしている子供のような笑顔を浮かべてウィンクをしてきた。
よっちゃんの顔が赤く見えたのは、果たして提灯の明かりのせいだけだろうか。その答えは、おそらく華苗と清水、そしてよっちゃん自身だけが知っている。
「んじゃ、四人で行くか。まだ見てないところあったっけ?」
「バカ! ミキ、アンタも空気読みなさいよ!」
空気を読まずにそう発言した田所の腕を引っ張り、清水が華苗たちから離れていく。田所はその意味を知ってか知らずか、なされるがままに体を任せていた。
「……華苗ちゃん、そういうわけで私たちもデートだから! もう逃げられないよ!」
清水が振り向いてにっこりと笑う。顔が少し赤いのはやっぱり提灯だけのせいじゃない。その笑みにはいろんな意味が含まれていて、それを察してしまった華苗は喜びにも、恥ずかしさにも、ほんのちょっぴりの怒りさえも感じてしまった。
「……いくらおれでもこの空気くらい読める。こうすれば自然とこうなるとわかっていた」
「え!? アンタわかってたの!?」
「『みんなデートだから』。そういう口実で二人きりの状況を作り出し、あわよくば……ってやつだろ? おれが空気を読めない発言をして、史香が怒るふりしてさりげなく離れる。で、デートのフリして後をつける。うん、完璧だ」
「……私、フリじゃなくて本気でデートするつもりだよ」
「……!」
「……え、ちょ、ど、どしたの? な、なんかそんないきなり見つめられると……!」
「今のすごいな……! 目じり、口の端、頬の緩み方……! 本当にデートっぽい雰囲気がにじみ出ていた……! 史香、お前の演技力、天下を取れるぞ! おい、参考にしたいからもう一回やってみてくれ!」
「……ばかぁ!」
「いってぇ!?」
本当にわかっているんだかわかっていないんだかわからない田所の悲鳴が人混みの中から聞こえてきた。果たしてこれはイチャついているうちに入るのかと、華苗はパニックになりそうな頭の中でぼんやりと考える。
そう、華苗にとっての切実な問題はここにあるのだ。
「……」
「……」
ほとんどの人間が祭りを巡りにどこかに行ってしまった。必然的に、ここに残っているのはこれから屋台で頑張らなきゃいけない大人たちと、友人や先輩たちに誘われることなく取り残された華苗、そして──
「ぼ、僕たちもどこか……行く?」
少し困った様に笑った柊だ。
「柊くぅん……」
華苗は改めて、今の柊の格好をまじまじと見てみる。
甚平を着ていた秋山や楠と違い、柊は学校でもたまに見かけるラフなポロシャツ姿である。それでも、いつものと微妙にデザインが違ったり、ズボンもそれなりにオシャレっぽいのにしているからか、なんだかいつもと違った雰囲気があった。
盗難防止のためだろうか、腰からは細いチェーンがチラチラと見えていて、彼のズボンの右ポケットにつながっている。きっと中には財布が入っているのだろう。
額と首筋にはほんの少しだけ汗をかいていて、お祭りの幻想的な光を反射してときおりキラキラと輝いている。別にそう珍しいものでもないはずなのに、なぜだか華苗の眼にはそれがとても印象的に映り、ずっと見ていると引き込まれてしまうような、ぼうっとしてしまうような不思議な感覚に襲われた。
それに気づいて、華苗は慌てて柊の首元から眼を引き離す。指の太さの割りにはたくましい手が目に飛び込んできて、華苗は思わずどきりとしてしまった。
──もしかしたら、いける、かも?
「あ、や、別に必ずしも一緒に行く必要はないっていうか、八島さんが良ければの話なんだけど。ほら、別の友達と回る予定もあるかもしれないし、でも僕はそういう予定はないから……」
もちろん、華苗にだってそんな予定はない。今日はみんなで回ろうと決めていたわけだし、そもそも華苗は基本的に人見知りであるのだ。今のクラスでこそ普通にしゃべることができるものの、いきなり誰か見知らぬ人とお祭りをめぐるなんてこと出来るはずがない。
そもそも、華苗に柊の誘いを断る理由なんてないのだ。だって、それこそ華苗が望んでいたことでもあるのだから。
「ほ、本当に私でいいの?」
それでも、チキンな華苗は聞かずにはいられない。もしこれでダメだったりしたらどうしようだとか、実は独りぼっちの自分を見て可哀想に思っているだけかも、なんてそんな不安な予想がぐるぐると頭の中を巡っていく。
「もちろん。八島さんがいいんだよ。むしろお願いしたいくらいかな」
その言葉を聞いた瞬間、華苗の目の前はぱぁっと明るくなった。自分が思っていた以上の言葉に心が飛び跳ね、体が奥底からかぁっと熱くなってくる。もうこれだけで今日のお祭りに来たかいがあったというものだろう。
「まぁっ……!」
「いいねえ、青春してるねえ!」
はやし立てる大人たちの声ももはや気にならない。自分の母親が年甲斐もなく頬に手を当て、きゃあきゃあと声を上げているのも今なら許せる気がする。
客観的に見れば、そうたいしたことじゃない。クラスメイトの男子と一緒にお祭りをめぐると言うだけだ。だというのに、たったそれだけの事実のはずなのに、それは華苗に今までにないほどの幸福感をもたらした。
もし華苗が自分を客観的な視点で見ることができたのだとしたら、そのあまりにも明るく、柔らかで嬉しそうな笑顔に自分で自分に惚れそうになっていたことであろう。そう思えても不思議じゃないくらい、今の華苗は魅力的な笑みを浮かべていたのだ。
「じゃ、じゃあ、行こうか?」
「……!」
しかも、驚くべきことに。
「手ぇ……!」
柊が、華苗の手を握っている。思っていたよりも暖かい、ほんのちょっとだけ硬いそれが華苗の右手を包んでいる。
思わぬ不意打ちに、華苗の心臓はオーバーヒートを起こしそうになっている。ドキドキと弾むその音だけが妙に頭に大きく響き、この心臓の鼓動が右手を通して聞こえてしまうんじゃないか、と思わずにいられない。
もちろん、その顔はびっくりするほど真っ赤っかである。例え夕焼けに照らされたとしても、ここまで赤く見えることはないだろう。
なんせ、華苗はウブなのだ。こういう形で男の子と手を握ることなど、初めてなのである。ピュアな乙女心にとって、これはあまりにも劇薬であった。
「え、あ、ご、ごめ──!」
慌てて柊が手を離そうとする。が、華苗は逆にぎゅっと握ってみせた。
多少の羞恥心など我慢できるくらい、それくらい柊の左手は魅力的なのだから。
「み、みんっ、みんな手ぇつないでたもんね! これくらい普通だよね!」
「そ、そうそう。僕もそのつもりだったんだよ。一人だけやらないのもあれかなって……!」
華苗はもう、自分で何を言っているのかわかっていない。とりあえずその場の勢いに任せて適当に言葉を発しているだけだ。もちろん、恥ずかしすぎてあれだけ見たいと思っていた柊の顔なんて見られるわけがないし、頭の中は右手の感触でいっぱいで他の何も考える余裕がない。
いや、あるいはこういうノリだから、高校生らしいおふざけだから──ということにして今の自分の状況を正当化したかったのかもしれない。
今更確認するまでもないが、つまりまあ、そういうことである。
「ほ、ほら行こっ! ここ、お邪魔虫がたくさんいるしっ!」
「う、うん。どこか適当に、ぶらぶらしようか」
「……かなちゃん、さっき言ったこと、覚えてるよね? ロマンチックな場所、だよ?」
「もうっ! おかあさんってば!」
美緒が、意味ありげに華苗の耳元で囁いてくる。ほんの数時間前に言われたことを思い出し、華苗の頭はパニックになりかけた。
「柊くんも、かなちゃんをよろしくね!」
「りょ、了解しました。必ず遅くなる前に無事にお届けします」
「……できれば、そういう堅苦しい言葉じゃなくて、柊くんのほうからデートのお誘いの言葉があると、おばさんはうれしいかな?」
美桜は少しうるんだ瞳でお願いのポーズを取る。実年齢を考えるとかなりキツイ行動ではあるが、幸か不幸か、美桜の外見だったら十分に通用するものであり、同時に美桜はそれに十分な効果があることを自分の旦那ではっきりと経験している。
当然、もともと押しにそんなに強くない柊がそれに抗えるはずもなく。
柊は美桜から顔を背け、必死に冷静を務めながらも、はっきりと華苗を見つめて言い切った。
「う……や、八島さん。僕と一緒にデートしませんかっ?」
「きゃあーっ! それ! そういうの!」
「い、行ってきます!」
言葉にしたからか、柊の顔は一気に赤くなった。まるでその場から逃げるかのように、華苗の手を引いて足早に歩いていく。無理もない話だろう。あんな風に盛大にからかわれて、冷静でいられる男子高校生などいるはずがない。
もう、すっかり園芸部の屋台は遠くだ。周りに知り合いくらいはいるかもしれないが、少なくとも囃し立てる悪いオトナたちはいない。
「ひ、柊くん、ちょっと早い……!」
「……あ、ごめん」
ぴた、と柊の足が止まる。もちろん、止まっても華苗はその手を離さない。いや、柊の方から握り返してくれるのだから、華苗が離そうと思っても離せないことだろう。
「ごめんね、なんかすごく……その……」
「……うん、言いたいこと、すっごくよくわかる……!」
華苗とて、あの場にはとてもいられなかったのだ。すぐさま連れ出してくれた柊には感謝してもしきれない。
「あとね……八島さんのお母さんの前で、ああいうこと言うの、すっごく恥ずかしかった……!」
──僕と一緒に、デートしませんかっ?
その言葉を思い出し、ぼふんと華苗の頭が再び沸騰する。少しは落ち着いてきたはずの心臓がどっくんどっくんとより元気に動き出し、華苗が今、ノリとか雰囲気とかそれっぽい別の何かではなく、はっきりとデートに誘われたという事実を突きつけた。
「こ、高校生だから! 高校生のノリだから! これくらい普通なのっ!」
「そ、そうだよね! 皆川さんも、清水さんも……あの田所だってそうだったんだから!」
清水のように、華苗は強気になって開き直る。そしてよっちゃんのように積極的に、少なくとも見かけ上は堂々と柊の手を握り返し、いつもは拳二つ分ほど空いていた肩と肩の距離をゼロにした。
そう、これは高校生だから仕方ないことなのだ。それに、人でいっぱいだからいやでもこうなってしまう。むしろ、こうやって詰めて歩く自分たちは人様のことをよく考えるいい人なのだと、華苗はわずかに残った冷静な心で判断した。
ぐい、と柊は華苗の手を引いて歩いていく。先程までと違い、その一歩一歩がいつもより歩幅が小さく、華苗のことを気遣っていることが見て取れた。その事実が堪らなくうれしくなって、自然と華苗は柊の手をぎゅっと握ってしまう。
「どこか行きたいところとか、ある?」
「えっとね、あっち!」
柔らかく握り返してくれたそれに気分を良くした華苗は、満開の笑みを浮かべて、頼りになる彼の肩の感触を楽しんでいた。
──彼女にとってのお祭りは、今始まったのかもしれない。




