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楠先輩の不思議な園芸部  作者: ひょうたんふくろう
楠先輩の不思議な園芸部
58/129

57 夏休み学校説明会 ☆


 キンコンカンコン、と軽やかにチャイムが鳴る。それを合図に先生が教室に入ってきて、みんなが口を閉じた。まだ午前中だというのにキツイ日差しが窓から差し込んでおり、窓側の生徒は誰に言われるまでもなくカーテンを閉める。


 時刻は十時半。授業開始にしては中途半端な時間だ。


「全員……いるようだな。感心感心」


 中年を少し越した小柄な数学の先生が教室をぐるりと見渡す。普段ならばそこには白ワイシャツの生徒がずらりと並んでいるはずだが、今日に限ってみんな部活動着を着ていた。


 運動部はユニフォームを着ているし、合気道部の柊だって道着を着こんでいる。剣道部のやつも防具こそ着ていないけれど、なんかそれっぽいのを着ている。よっちゃんや清水はエプロンとバンダナを装備しているし、華苗だって麦わら帽子こそ被っていないもののオーバーオール姿だ。見た目が変わらないのなんて、それこそミサンガくらいしかつけない田所とわずかな文化部員くらいだろう。


「さて、これから授業を始めるぞ。人の目があるから、気を引き締めて、かつ緩やか~な雰囲気で親しみやすい感じでいこうな」


「先生、無茶言わないで下さいよ!」


「為せば成る。為さねば成らぬ、何事も、だ。……ああ、みなさんぜひ中に入ってごゆっくり見学なさってください」


 にこりと笑いかけ──先生は、教室の入り口でそわそわしている中学生たちにやさしく声をかけた。



▲▽▲▽▲▽▲▽




 今日は全校登校日である。


 おそらくどの学校にも夏休み中に一回はあるのではないだろうか。園島西高校でも当然のようにそれはあり、そのためわざわざ華苗たちはこの暑い中──といってもクーラーが効いているが──授業を受けているのだ。


他とちょっと変わっているところといえば、この学校では登校日に授業をやるところだろうか。だいたいの学校においては、この手の登校日では掃除や集会等を行うことがほとんどだろうが、園島西高校では一時間だけとはいえ、ちゃんと授業をやるのだ。


 というのも、この日は高校受験生向けの学校説明会の日でもあるからだ。どうせ説明会で来てもらうのだから、ついでに授業風景も見てもらおうという魂胆である。


 中学生達は朝の早めの時間に視聴覚室で説明を受け、その後、思い思いに好きな教室に行って授業を見学する──というのが、この園島西高校での学校説明会の定番なのだ。


 ちらりと後ろを向くと、保護者も含めて十五人程度の人がロッカーの前に立って興味深そうに教室を見ている。みんな黒髪で、男子は頭髪を短めにしているし、女子はすっきりと地味な色のゴムで髪をくくっていた。


 華苗が先生を盗み見ながら後ろをチロチロとみていると、そのうち眼のぱっちりした女の子と視線がぶつかった。それも、一度や二度じゃない。最初はただの偶然、二回目はたまたま、三回目は会釈でごまかし、四回目はぎこちなく笑ってやりすごす……も、さすがにこれだけ目と目があえば、華苗だって自分が見られていることくらいわかる。


 華苗のオーバーオール姿が珍しかったのだろうか、その娘は話をしている先生や大事なことが書かれている黒板ではなく、華苗に興味を持っているらしい。なんだか恥ずかしくなったので、華苗は慌てて目を反らし、後ろのことを考えないようにした。


 ──となりでよっちゃんと清水が声を殺して笑っていた。


「うーん、やっぱりなんか落ち着かんなぁ……。先生思うんだが、バスケ部と陸上部のユニフォームってなんか派手じゃないか?」


「なら、なんでユニフォームで授業受けさせるんですかぁー? 授業公開だけだったら、なにもこんな格好で受ける必要ないですよー?」


「それはだな、この場で部の比率と概要を掴んでもらうためなんだ。クラスにどんな部の生徒がどれだけいるのかというのも受験生にとっては必要な情報だからね。……さて、みんなの緊張もほぐれたようだしそろそろまじめにやるぞ」


 園島西高校の変わっているところの一つである。ただ見せつけるのも時間の無駄だから、部活動着で授業公開をするのだ。変わった格好をしている部活もあるので興味も引きやすいということだろう。オープンでゆるやかな雰囲気を見せつけ、第一志望にしてもらおうという考えもあるはずだ。


 ちなみに、この授業公開はあくまで受験生向けであり、一般の誰でも入れる授業公開はまたもう少し先にやる。


「今日はちょっと趣向を変えて別のところをやろうと思う。今やっているところ、証明ばっかりで華がないからな」


 タダでさえ数学は人気がないし、と先生は続けた。毎年、数学の授業公開に来てくれる生徒はほとんどいないそうだ。今年はかなりの豊作(?)だそうである。


「数学Bの範囲をやるぞ。数列の問題だ」


「「えっ」」


 何人かが思わず声を漏らした。それもそのはず、今やっているのは数学Aだ。数学Bは二年生になってから、選択でとるものである。


 先生はその顔が見たかったといわんばかりににやりとわらう。


「なに、そんな意地悪をするつもりじゃないさ。簡単な、それこそ小学生でも解ける問題だよ」


 先生は持ってきた荷物から四角い箱を取り出し掲げて見せた。煙草の箱のようにも見えたが、よくよくみればトランプの箱である。


「ここにジョーカーを含めたワンセット54枚のトランプがある。これでトランプタワーをできるだけ高く立てるとき、何段の高さまでつくることができるか?」


 机をくっつけて班を作れ、と先生は言った。華苗のクラスだと六班できる。


「どんな方法を用いてもいい、答えを求めてみなさい。ヒントとして、教卓のところに数Bの教科書の写しのプリントがある。必要に応じて取りに来なさい」


 今までにないほどアグレッシブな数学に驚かされながらも、華苗はよっちゃんたちと机を合わせる。男女比をトントンに均したいため、先生は偏りのあるところに移動を伝えた。柊と田所が華苗の班にやってくる。


「わかっているとは思うが、授業公開なんだ。まじめにやってくれよ?」


 先生がすこし茶目っ気を持たせた様子で言った。言われずとも、華苗たちはもう立派な高校生なのだ。いちいち確認しなくてもそこそこうまくやる自信はあった。


 問題なのは、先生が次に放った言葉だった。


「……中学生の皆さん、もしよろしかったら班に加わって一緒に考えてみませんか? 体験授業にもなりますし、気楽に挑んでくれるとうれしいですな」


「「えっ?」」


「君たち、この機会に未来の後輩をがっちりキープしときなさい」


 後ろに並んでいた中学生と、そして部活着をきたみんなが声を上げた。


 後に華苗は知ることになるが、数学の授業に人気がないのではなく、この先生の飛び入り参加型授業に人気がないだけである。受験生の兄や姉、また友達や先輩が『あそこは本当に体験授業させられるぞ』──と、口コミで広げているのだ。


 この数学の授業に来てしまったのはうわさを知らない哀れな子羊か、もしくはうわさを知ってなお潜り込んだオオカミのどちらかだ。


 ただし、この授業がきっかけで園島西を目指す人間も少なくない。また、ほかのところもここと同じくらい特徴的な授業をしていることを、華苗は後に楠達から聞くことになる。




▲▽▲▽▲▽▲▽




「……とりあえず、自己紹介でもしよっか。僕は柊。見ての通り、合気道部です」


「よ、よろしくお願いします。私、蔵庭(くらば)中学校の、三条さんじょう 一葉かずはです」


「蔵庭って言うと……隣町か。遠いような近いような微妙なところだね。ここまで来るの、結構大変だったんじゃない?」


「直線距離だとちょっと遠いですけど、幸い交通の便はかなりいいんですよ。実際のところはそんなに時間はかからないんです」


 華苗の班にやってきたのは例の目が合った女の子だった。礼儀正しい子のようで、こんなふざけた授業だというのに真面目にメモとペンを取り出して準備万端である。


 柊が優しく声をかけているのがちょっと気に食わないが、ここは落ち着いて余裕を見せるのがオトナのオンナってものだろうと、華苗は背筋をピンと伸ばした。


「よっちゃんって呼んで! 調理部ね!」


「私は清水……でいいや。よっちゃんと同じ格好してるけどお菓子部です」


「田所。超技術」


「ちょ、超技術?」


「あはは、今は気にしなくていいよ」


「わ、私は八島 華苗です。えっと、園芸部をしています」


 とりあえず全員が自己紹介をし、緊張した空気がいくらか柔らかくなる。一葉はやはり華苗に目をつけていたようで、一番優しそうな人だったから急いでこの班に来たとこっそり教えてくれた。


「実は、さっきの説明会の時に部活紹介のビデオを見たんですよ。麦わら帽子をかぶって麦の説明してる人がいて、すっごく印象に残ってたんです。たまたま覗いた教室におんなじオーバーオールの人がいたのでびっくりしました」


「ああ、あれね……」


 いつぞや芹口が見せてくれた麦踏の映像だろう。学校紹介に使うといっていたのを華苗はしっかり覚えている。あの映像は園芸部以外、すなわち麦踏以外のシーンも入っているはずだが、華苗が目立ってたのは間違いないはずだ。印象に残るのもうなずける。


 こうして実際に興味を引くきっかけとなったということを改めて実感して、華苗はなんだかどことなく誇らしい気分になった。


「……なんか、ごめん」


「……はい?」


「気にしなくていいよ~。その子お子ちゃまだから~」


「わっかりやすぅ……」


 さっきろくでもないことを思ってしまったことが、華苗はとっても恥ずかしかった。反省の意味を込めて、親友二人の頭をぺしぺしと叩いておく。


 ちなみに、ニブチンさんは気づいていない。女子同士のコミュニケーションだと思っているらしい。いや、気づかれていても困るのだが、ともかくこれでオールオッケーである。


「さて、それじゃ課題に取り掛かろうか。三条さん、変に緊張しなくて大丈夫だからね。高校一年生なんて中学生と大して変わらないもの」


「は、はいっ! がんばります!」


「だから、肩ひじ張らなくていいんだよ~」


 そうはいっても無理があるだろう。華苗だったら速攻外に出て校門に向かってダッシュをしている。


 柊はくすくすと笑い、そして机の上にプリントとトランプを置いた。先生は各班一つずついきわたるようにこれらを用意したらしい。


「公式……だね」


 そのプリントに書いてあったのは数列とやらの公式だ。華苗にとってはチンプンカンプンだが、数学に強いよっちゃんと地頭の良い柊はその意味するところを理解しているようだった。


「えーと、要はある任意の段数についての式を作って、それにこの公式を当てはめていけば総数の式ができるってことかな」


「でもって不等号で式作って任意のnについていくつか確認すればお終いだね」


「史香ちゃん、わかる?」


「さっぱり」


「えと、これって二年生の数学なんですよね?」


「そうだよ。わからないのが普通。教科書見てなんでもできるなら、学校なんてこなくていいもん。あの二人は数学強いから」


「……失礼ですけど、ここってそんな進学校でしたっけ?」


「ううん。偏差値は高めだけど、進学校ではないと思うよ。ただね、こういう実践的な行動が授業でも部活でも行事でも、すっごく多いってだけ」


 清水が勉強そっちのけで一葉に話しかける。基本的に人見知りな華苗は適当に相槌を打つだけだ。


「面倒なのはあっちに任せて、なんか適当に聞きたいことない? たぶん、あの先生もこういう雑談させるためにわざわざこんな形態にしたんだよ」


 清水の言う通り、教室中で割と和やかに生徒と中学生が話している。まじめに頭をひねって課題に取り組む者もいれば、部活や学校生活について話をしたり、進学のことについて話すものもいる。購買の情報や近場の寄り道ポイントのことまで話しているやつもいた。


 しかもそれでいて、決してうるさく騒いでいないあたり練度の高さがうかがえる。授業としてみればいささか騒がしいと言えなくもないが、現役生徒の進路相談としてみれば、これ以上ないほど理想的な空気だった。


「トランプタワーのn段目は……3n-1でできるね~」


「あれ、じゃああと入れるだけ? 意外と単純だね」


「実際に立てりゃ一発じゃねえか。つーか、立てなくても経験則的に答えは……」


「田所、誰もが君と同じじゃないんだ。これはあくまで求める手段をみんなで考える授業なんだから、答えは言わないように。……げっ、計算量がものっすごく多い」


 わがクラスで一、二を争そう頭脳にかかれば二年生の問題でも敵ではないらしい。さっきから殴り書きのように柊とよっちゃんが式をノートに書いている。ノートというよりかはメモ帳に書いているようであり、見やすさの考慮なんて一切されていない。


「八島先輩、園芸部ってなにをやっているんですか?」


 一葉の唐突の”先輩”発言で華苗は不覚にもキュンと来た。これぞ先輩の喜びというものだろう。まさか入学して半年もかからず先輩と呼ばれるなど、いったい誰が思っただろうか。


 一人で勝手に気分を良くしながら、華苗は上機嫌でこれまでの活動を頭に浮かべた。


「えとね、お花育てたり果物を収穫したりしているかな。イチゴとか、さくらんぼとか。ついこの前はひまわりがたくさん咲いたよ」


「わぁ! なんかステキですね!」


 一葉がきらきらと目を輝かせた。地味で泥臭いイメージさえある園芸部だというのに、滅多に食べられない高級な果物をも栽培していると聞かされたのだ。女の子なら、誰だってそういったものに憧れるに決まっている。


「てっきりパンジーとかアサガオ程度だと思ってたんですけど、そんなに本格的にやるんですね!」


「まぁ、慣れるとどうってことないけどね。ほかにもブルーベリーとかバラだとか……。そうそう、あそこの鉢植え見える? あれも私が部活で育てたのを持ってきたの!」


「野イチゴ……ですか?」


「ううん、ラズベリー。初心者でも簡単に育てられるんだ」


「華苗ちゃん、嘘はついちゃいけないと思う」


 華苗はにっこりと笑顔を固めたまま清水のほうへと顔を向けた。せっかく可愛い未来の後輩が興味を持ってくれたのだ。実情を知らせず、引き込んでしまえばこちらのものである。


「うそ? あ、やっぱり初心者には難しいとか?」


「いや、その斜め上を行き過ぎているから問題というか……」


「史香ちゃん、お口チャック。授業中だよ?」


 一葉がきょとんとしている横で華苗と清水は互いをけん制しあう。ばらされたりしたらいろいろとまずい。実態がアレだから、せめて外面だけはよくしておきたいというのが華苗の嘘偽りない気持ちなのだから。


「せんせい! できた! 答え出た!」


「おっ、意外と早かったな。じゃあ、計算過程も含めて発表してもらおうか」


 そんなこんなとしているうちにどこかの班が答えを出し終わったらしい。すがすがしい顔で立ち上がり、一緒に考えていたのであろう眼鏡をかけた中学生の肩をぱんぱんと叩いている。


 どうやら彼が解法を導いたらしく、女子生徒に抱き付かんばかりにスキンシップをとられて顔をイチゴのように真っ赤にしていた。


「せんせい、この子天才かも! あたしよりも賢いって!」


「そ、そんな大したことは……」


「君、たぶんそうかもしれんぞ。……こいつ、こないだのテスト悲惨だったからなぁ。で、何段までできるってなった?」


「五段!」


 正解だ、と先生はにっこり笑った。クラス中から拍手が送られ、その少年はさらに恥ずかしそうにする。誇りに思えばいいのに、と華苗はぼんやりと思った。


「ちなみに、どうやって解いたんだ? さすがに中学生が全部公式から弾きだしたってわけじゃないだろう?」


「最初は立てれば一発だって思ったの! でも立てらんなかった!」


 尤もな話である。むしろ、曲がりなりにも数学の授業でその発想が出たことに華苗は驚いた。


「ですから、鉛筆で書けばいいんじゃないかな──って言っただけなんです……」


 頬を真っ赤にした少年がうつむき気味に言った。確かに、わざわざ立てずともそうすれば確実にわかるだろう。幼稚で原始的な方法ではあるが、結果だけを知りたいのならそれが一番だ。


「その通り! 答えを知りたいのであればわざわざ計算なんてする必要がない! こういう点では頭の柔らかさの差が出るな!」


「でしょ! うちの子ホント最高!」


「いや、お前のうちの子じゃないと先生は思うぞ」


 さて、と先生は続ける。


「だがしかし、枚数の少ないうちは効果的だが、これがさらに多くなると問題だ。さすがにウン千枚を数えるわけにはいかないからな。──どこか、式で答えを導けたところはないか?」


「はい! できた!」


 よっちゃんが大きく手を上げた。柊がその横で自分のノートとよっちゃんのノートを見比べ、過程と結果に間違いがないかざっと目視と暗算で確認している。満足そうにうなずいたところを見ると、どうやら二人の答えは一致したらしい。


「まず、トランプタワーのn段目を3n-1って置きます。で、初項が2、公差が3だから総和の式にぶち込んで、n段のトランプタワーの総枚数の式が(1/2)n(3n+1)です!」


「ほぉ、それでそれで?」


「あとは任意のnを入れて、例えば5を入れると40、6を入れると57になるから、総和が54以下でギリギリ収まる五段が正解!」


「満点だ。まさかこんな短時間で理解するやつがいるとは思わなかったよ」


 よっちゃんと柊が導き出した結論は正しいものであったらしい。よっちゃんが自慢げに拍手に応え、明るく教室中に向かってウィンクする。ふぉぉぉ、とノリの良い運動部が歓声を送った。


 そんな様子を先生はすこし困ったように笑いながら見ている。反面、中学生たちは顔を輝かせ、どこかうらやましそうな、なにやら決意した顔で見つめていた。


 高校生ってすごい、と一葉がつぶやいたのを華苗は聞きのがさなかった。大半はそうでもないと言いたくなったが、それを言うのは野暮というものだろう。


「──異議あり」


 そんな野暮をいうやつが一人いた。


 ほかでもない田所である。


「ん? なにか間違──」


「先生の答えもそう──」


「五段じゃなくて八段はいけるな。しかも何枚か余る(●●●●●)


 田所はぽつりとつぶやいて見せた。皆が静まり返った教室にその声が波紋のように響き渡る。


 彼の目の前にはトランプタワーがある。先生が配ったプラスチックトランプではなく、自前の紙トランプで作ったものだ。


 田所は超技術部である。ゆえにトランプで遊ぶことが頻繁にあり、彼の机やバッグの中にはいつもたくさんのトランプが入っている。普通に遊ぶ用、立てる用、投げる用、手品用の四種類はあるそうだ。


「やっぱさ、計算するより立てるほうが早いって。それに、計算だけが全てじゃない」


 田所はあくびをしながら目の前のそれを指した。



挿絵(By みてみん)



「うそぉ……」


 なるほど、確かにトランプタワーだ。それも彼が言ったとおり八段もある。


 ただし、形がすごく奇妙だ。二つの山の上にさらに二つが重ねられている。


 普通のピラミッド型じゃない。あえて言うならば柱型だろうか。しかも、なにがどうなっているのか、一番下の部分は山じゃなくてWになっている。物理的にありえない構造……というか、いったいどうやって作ったのだろうか。


 ボンドでも使ってんじゃないのかと思えるが、仮にそうだとしてもこの短時間でこれほどの精密性で作るのは無理だろう。そもそも、うまく立たせることだってできないはずだ。


「先生、アンタはこういったはずだ。『54枚でできるだけ高く作れ』と。……だが、普通の方法で作れだなんて一言も言ってない。──そもそも、トランプタワーとはなんだ?」


 ──そんなもん知るか!


 教室の中にいる全員の心がひとつになった。この瞬間だけは、中学生も高校生であった。


「計算が悪いこととは言わない。だけど、自分の限界を数字で決めちゃいけない。 どうして、最初から簡単な方法を選んだんだ? どうして、もっと高くできると考えなかったんだ? どうして、たった五段程度で満足してしまったんだ?」


 トランプタワーを普通じゃない方法で立てられる人なんて普通はいない。だから、立て方に簡単な方法も難しい方法もない。もっと高くできるも何も、五段は十分に高い部類だ。


 そんなごくごく自然な当たり前すぎる突っ込みを、しかしこの教室の誰もがすることが出来なかった。


「たくさん枚数を使えば高くできるなんて、そんなの当たり前だろ? 少ない枚数でできるだけ高く作るからこそ、美しいんだろ? 知恵を絞り、工夫するからこそ、そこに言葉にできないなにかが生まれるんだろ?」


 たかがトランプタワーに何を言っているんだと、そうは言わせない迫力と凄みが今の田所にはあった。


「おれは、この無限大の探求心こそがトランプタワーの神髄だと思う。その探求心があるからこそ──おれのトランプタワーは限界を超えられる」


 もっと場が整えば10段もいけると田所は言い切った。たぶん、本当にできるのだろう。


 教室には感嘆にも驚愕にも似た空気が満ちている。華苗たちはまだ普段の生活があるから落ち着きを持っているが、中学生たちは一葉を含めて軽くパニック状態だ。


「……ま、まぁ、数学は一つの手段に過ぎないっていい例だな! あくまで道具なんだから、活かすも殺すもその人次第ってわけだ! 田所、おまえのおかげで先生すごくいいセリフを自然に言えた気がするぞ!」


「いえ、数学的に考えたらおれの考えは異端です。どんな処罰も覚悟しています。……ただ、おれはどうしても五段で満足する現状に警鐘を鳴らしたかったんです。数字だけで己の限界を諦めてほしくなかっただけなんです。努力すれば、やればできるんだってことを……若い世代に伝えたかったんです」


「か、彼は超技術部の生徒なんだ! わが園島西高校に入るとこの程度のことなんて当たり前のようにみられるぞ! ……おっと、そろそろ時間だ! このあとは休憩の後に部活見学があるから、中学生諸君は今のうちにどこに行きたいか決めるといい! 先輩たちが案内してくれるから、今のうちに優しそうな人に唾をつけておくといいぞ!」


 先生が早口にまくし立てている間にチャイムが鳴った。それを皮切りにさっそく誰かがそのトランプタワーを写真に収め始める。現金というかなんというか、園島西校の生徒は切り替えが早い。見学にきたはずの中学生がドン引くほどだ。


「……一葉ちゃん、この後の予定は?」


「えっとぉ……部活見学して帰ろうかなーって」


「お願い。アレは極端にアレなだけなの。アレがアレなだけで、アレがこの学校のすべてじゃないの。アレの尻拭いさせてくれる?」


 清水が懇願するように一葉に迫った。よくよく周りを見てみると、似たように中学生を捕まえているクラスメイト達がいる。そのあまりの必死さに、全員が大慌てで首をぶんぶんと縦に振っていた。


「私たちに、案内させて?」


「お、お願いします……」


 一葉が観念したように頭を下げた。


 ちなみに余談ではあるが、翌年から数学におけるトランプの問題には明確な定義が併記されるようになったらしい。後期のテストで理論以上の答えを書く生徒が何人も出てきたからだそうだ。


 ──そのすべてを田所が実演してみせたのは、後の園島西高校の伝説になっている。




▲▽▲▽▲▽▲▽




「えーっと、ここが調理室ね!」


「調理部とお菓子部の活動場所。まぁ、ほとんど一緒のようなもんだけどね!」


 一葉を連れて華苗たちは各部活を回る。とりあえずは鉄板である調理室へと赴いた。やはりここを訪れたいと思う中学生は多いのか、華苗たち以外にも何人か女子中学生を連れてきているものがいる。


「あれは……パンですか? 小麦から作るのって初めて見ました」


「いい麦を収穫したからねぇ……」


「収穫? 購入じゃなくて?」


「そりゃそうでしょ?」


「……? あ、材料っていろんなものがあるみたいですが、やっぱり部費って高いんですか?」


「いや、ほとんど自前で収穫しているから部費はなしに近い。その代り、自分たちで材料をリヤカーから食糧庫まで運搬するんだ。搬出された果物とかって週で総重量一トン超えるときがあるんだよね……」


「……え?」




▲▽▲▽▲▽▲▽




「ここが超技術部。空き教室を使っている。天気が良ければ外も使うな。内容としては……その名の通り、超技術の習得とその研鑽だ」


 次に華苗たちは超技術部の部室へとやってきた。空き教室──より正確に言えば【多目的教室】と呼ばれるそこには、なにやらよくわからないガラクタのようなものが端にごちゃっと纏められており、雑多なイメージを拭うことができない。


 しかし、それは決して散らかっているという意味ではない。単純に、それが華苗たちの理解の範疇の外にある故に、そういう風に見えてしまうだけなのだろう。どことなく、サーカスの舞台裏みたいだな──という印象を華苗は抱いた。


「あれ、なんだろ……?」


「うーん、私もわかんない」


 女子部員が部室の隅でコップのようなものをひっくり返し、まるで床を磨くかのようにカタカタと動かしている。中に何か入っているようで、カラカラと特徴的な音がそこから響いていた。聞けば、ダイススタッキングという超技術(?)らしい。


 彼女がパッとコップを上げると、なぜか五つのダイスが縦に積まれていた。信じられないが、コップをしゃかしゃかしながら立てていたらしい。


「おォ!? 見学かァ!? まァゆっくり見ていきなァ!」


「や、八島先輩。ななな、何で、く、首がもげているのに、あ、あの人は玉乗りをしているのでしょう……?」


「さぁ……。あの人部長だし、ここらじゃ割と普通だよ?」


「内緒の超技術だ。気になるならハロウィンなんとかで調べるんだな。情報保護の観点から、残念ながらこれ以上のヒントは出せない。……このくらいで驚いてたら体が持たないぜ。こんなもんどこででも見るだろ?」


「えええ……!? 絶対おかしいよ……!?」




▲▽▲▽▲▽▲▽




「ここが武道場。僕の合気道部も含めて、武道部はみんなここを使っているよ」


 そしてやってきた武道場。一葉はどうやら護身術に興味があるらしい。そろそろ運動部でも見に行くべや──と話していたら、是非武道部を見てみたいと言い出したのである。


 どうしてだ、と華苗は軽い気持ちで聞いたら、一葉は少しだけ悲しそうな顔をした。やっちまったか、とその場の全員が明後日の方向に目をそらす。


「……三つ上の兄が去年の秋の初めに、通り魔から子供をかばって亡くなったんです。……だからってわけじゃないけど、覚えておいて損はないかなって」


「……」


「……ごめん、なんか変なこと聞いちゃって」


「いえいえ! もうだいぶ前の話ですし! ……それに、なーんか妙な夢を見るんですよ」


「夢?」


 一葉が笑ってはぐらかした。それ以上聞いてはいけない気がしたので、華苗たちも気分を切り替える。今は楽しい部活見学の時間なのだ、しんみり空気は似合わない。


「剣道と、弓道と……空手と合気道?」


「柔道もあるよ。だいたいそろっているんじゃないかな?」


「ええいッ! まだまだ鍛錬が足りんッ!」


「熊はもっと強かったぞッ!」


「どうしたぁ! スピードが落ちとるぞぉ!」


「あの、あのポニーテールの人、なんで木刀で藁人形叩き斬ってるんです? それに、熊みたいな人、熊はもっと強かったって……」


「ああ、あの人熊と戦ったんだよ。それも数人がかりとはいえ倒しちゃったんだ。ただ、それ以来普通の練習じゃ物足りなくなったらしい」


「石臼挽いているのはなんで……!? そもそもなんで石臼があるの……!?」


「あ、それは今度おうどんパーティーするからだよ~! 今のうちにたくさん挽いてもらっているんだ~!」


「んなバカな……!?」




▲▽▲▽▲▽▲▽




「ここ、テニス部ね。私たちはあまりこないけど……」


「あっ! 園芸部の! いつもありがとうね! ……やぁ! 君も見学かな? ここはテニス部! まぁ、テニスコートにいるんだから一目瞭然だよね!」


 趣向を変えて今度はテニス部。華苗たちの直接の知り合いはいないが、華苗はスイカやメロンの差し入れで何度か訪れているため、顔見知りは意外といるという穴場スポット(?)である。


 女子テニス部の部長は朗らかに笑い、華苗たちの目的を一瞬で推察した。やはりテニスは女子の花形なのか、ここも結構人気があるようだ。軽くレクチャーしてもらっている中学生もいる。


「なにか質問とかはあるかな?」


「ここってどれくらいの強さなんですか? 設備がすっごい整っているみたいですけど……」


「最強に決まってるじゃん! 必殺技とかバンバン使うよ!」


「……コートに隕石落としたりとか?」


 ちょっとふざけた様子で一葉がはにかんだ。きっと、せっかくの場を和ますジョークに乗るべきだとだろう。華苗もテニス漫画でそういったトンデモな必殺技が出ていることくらいは知っている。


「やだなぁ、さすがにそんなことできないよ!」


「ですよね……。いや、さっきからなんだか妙な人が多くて」


「だってそんなことしたらコートがボロボロになるし、観客席まで被害が出るじゃん!」


「……冗談ですよね?」


 女部長がニコッと笑った。嘘偽りのない純真の笑みである。




▲▽▲▽▲▽▲▽




「おっ! よっちゃんたちじゃん! その子も見学?」


「先輩~! きちゃった!」


「むしろうぇるかむ!」


 やってきたのはサッカー部。いぇ~い、とよっちゃんと秋山がハイタッチをした。


 仲好さげなその様子に一葉は興味津々の目で華苗を見てくる。言外にそういう仲なのかと聞いてくるので、華苗はかるく肩をすくめてごまかしておいた。


「聞いてよ聞いてよ! さっき新しい必殺技開発しちゃった! その名も《フリーズ・スターズ・オービット》! 冷気を纏った星が複雑な軌跡を描いて飛んでいく、美しさと威力を兼ね備えたシュート技だ!」


「……」


「君も見ていく? ねぇ見ていくだろ!? これやるとフィールドがすっげぇ涼しくなるんだぜ!」


 秋山の満面の笑み。おそらく純然たる善意のみで勧めているのだろう。実際のところ外はすっごく暑いし、日差しはギラギラと照り付けている。もし本当に涼しくなるのならそれは願ったりかなったりだ。緊張をほぐすジョークとしては、まぁ、悪くはないだろう。


 だが、それは今の一葉には逆効果であった。


「あ、ああ、あ……!」


 だって、秋山の後ろのゴールネットが凍り付いている。大きくたわんだまま凍って固まっており、夏の暑い日差しに少しずつ溶けていた。


 雫が芝生を少しずつ濡らし、華苗たちのほうにもひんやりとした空気が漂ってくる。よくよくみれば、その芝生も霜が降りたかのように真っ白になっていて、パリパリと逆立っていた。


 白い煙──冷気がゆらゆらと立ち込めているのは、たぶん目の錯覚じゃない。これが熱気による陽炎であれば、どれだけよかったことだろう。


「どしたん?」


「ひっ!」


 彼女はなにか恐ろしいものを見たかのように一歩、また一歩と後ずさる。


 そして、くるりと後ろを振り向きながら叫んだ。


「……いやぁぁぁぁ!」


「「あっ」」




▲▽▲▽▲▽▲▽




「こ、今度は普通の場所ですよね……?」


「むしろ俺は君が今まで何を見てきたのかを知りたい」


 パソコン室。機械の特徴的な匂いと共に、キーボードを打つカタカタという音で満ちている。ネクラなイメージでもあるのだろうか、ここにはあまり人がいない。エアコンがかなり効いているから、環境的には最高の部類に入るのだが、どうやらそれとこれとは別物らしい。


 穂積は画面から目を離し、椅子をきぃ、と傾けて華苗たちに向き直る。そして眼鏡のブリッジをくいってあげて話し出した。


「ここはパソコン部の活動場所だ。活動内容は、見ての通りパソコンを使っていろんなことをやる……としか言えない」


 実際、パソコン室でそれ以外に出来ることなどないだろう。さすがにそれだけじゃダメだと思ったのか、穂積はさらに言葉を付け加えた。


「例えば、俺はいま自作のゲームを作っている。ほかの連中も好き勝手にプログラミングをしたり、いろんなソフトを用いてクリエイティブな活動をしているな。初心者支援ももちろん行うから、今の段階で技能がなくても全く問題ない。半分近くは高校に入ってからパソコンを本格的に触りだしたやつばかりだ。中には本体の電源を入れることも、ダブルクリックすらできなかった奴もいる」


「私の七つ上の兄もそんなようなことを大学でやっているって言ってました。……でも、しっかり教えてくれるっていいですね。すごく難しそうなイメージがあったので……」


「ふむ……」


 穂積はそれっきり黙りこくって画面に向かってしまった。ヘタに説明するよりかは実際の活動を見てもらおうと思ったのだろう。一葉もそんな様子に好感がもてたのか、ひょい、とその画面を覗く。


 そして、固まった。


「い、いやぁぁぁぁぁっ!?」


「ど、どうしたの?」


「なんか、いま、バケモノが! 口を、パカッて、パカッてあけてこっちにきて!?」


「俺はリアリディのあるゲームを追及しているからな。むしろ、そう感じるのは普通だと思うぞ? ……中学生には少し刺激が強すぎたか?」


「し、刺激……!? あれで作り物のリアリティ……!? 匂いも、音も、牙の一本一本も見えたのに……!? 獣臭さも、獣の気配もぶつけられたのに……!?」


「そう作ったのだから、なんの不思議はない」


「そういえば、文化部系ってどこもそんなかんじだっけ」


「ま、まさか部活紹介のビデオのアレも……!? ゆゆゆ、夢じゃなかったの……!?」


「ああ、あれすっごいよね。本当に八島さんが目の前で喋っていたんだもの」


「…………ふしゅぅぅ」


「あ、一葉ちゃんがショートした」




▲▽▲▽▲▽▲▽




「やぁ、いらっしゃい。その子も見学……ああ、そういうことか(●●●●●●●)その子がそうか(●●●●●●●)


「どうしました?」


「いや、なんでもないさね。ここが最後かい?」


「ええ、もう園芸部以外はだいたい回ったところですよ」


「……やっぱり少々刺激が強かったみたいだねェ」


「あはは……ふるぅいおうちがみえるぅ……」


 最後にやってきたのは文化研究部の部室。華苗たちにとってはもうずいぶんと見慣れた古家である。


 おじいちゃんは縁側でなにやら作業をしていたようで、近くには竹細工や麦わら細工、紙芝居の材料や駄菓子のおまけみたいのが無造作に置かれていた。


 錯乱状態になっていた一葉も、おじいちゃんの優しい声掛けに徐々に正気を取り戻す。


「ま、まともな人……!? ふ、普通の場所……!?」


「まぁ、やっていることは他より地味かもしれんがねェ」


 疲れ切った一葉をあやすようにおじいちゃんが言葉を紡いでいく。その眼は慈愛に満ちており、誰もが安心しきってしまう雰囲気が出ていた。


 実際、おじいちゃんには大人の貫録──否、年寄りの風格がある。この古家の静かな環境も相まって、一葉はかなりリラックスできたようだった。


「ここは文化研究部と言ってね。見ての通り、昔の文化を実際に体験したりしているんだ。身近な道具でおもちゃを作ってみたり、駄菓子を作ってみたり、この時期は近所の子供向けに紙芝居を行ったりもしているねェ」


「私のおじいちゃん、猟師の免許を持っているんですけど、よく山で見つけた枝とかを使っておもちゃを作ってくれました!」


「ああ、それはすごい。ウチもそんなかんじさね」


「なんだろう、ここもたいがいアレだと思うんだけど、じーちゃんは普通に部活紹介しているね」


「むしろ、ほかの部活が変なだけだよ……。人がいるからってみんな変にテンション上がっていたし」


「おれんとこは通常運転だったぜ?」


「田所、アンタのとこはもとから変だ」


「なんという言いがかり」


 おじいちゃんは古家に上がった華苗たちにお茶も出してくれた。きちんと人数分の湯呑をそろえているのは流石としか言いようがない。電気やガスこそ通っていないものの、畳もちゃぶ台もお布団さえもあるのだから、いざとなれば古家で生活していくことも可能だろう。


 そのレトロで懐かしい匂いがぷんぷんの空間を、一葉も気に入ったようであった。


「ここに入ろうかな……」


「まだまだ焦ることはないさね。入学だってしていないのに。いろんな高校を調べて、自分に本当にあったところを選びなさい」


「はいっ! ……でも、たぶんここが一番いい気がするんですよ。ここなら夢のような高校生活を送れる気がします!」


「そいつはうれしいことを言ってくれるねェ……。二人しかいない小さな部だから、入ってくれたらうれしいさね。……夢はだいたい現実になるもんさ。正夢って言葉もあるしねェ」


 冷えたスイカを切り分けながらおじいちゃんがにこにこと語る。慣れた手つきであっという間に六等分し、華苗たちの前に置いた。少しだけ塩をふるうのも忘れない。完璧な接客だった。


「スイカ……!」


「あまぁいやつさね。華苗ちゃんのとこでとれたものだ」


 一葉はしゃくしゃくとスイカにかじりつく。なんでも彼女の家も割と古い感じであるらしく、この古家はどことなく家に似ていて落ち着くそうだ。猟師の祖父がいるせいか、古いことや昔ながらのやりかたなどにも結構興味があるらしい。


「でも、どうしてOBさんしかいないんですか? その二人の部員さん、今日はどうしたんです?」


「「……」」


 スイカを食べ終えた一葉が小首を傾げた。華苗たちの間に奇妙な沈黙が落ちる。


 そりゃ、白髪で見た目も行動もおじいちゃんなおじいちゃんを見て、一発で高校生だと見抜けというのは酷な話だろう。制服を着ているのならまだしも、服装だって作務衣なのだから。


「あのね……」


 華苗は意を決して真実を告げる。


「このおじいちゃん、文化研究部の部長だよ?」


「じじさま、御年おんとし十八歳であらせられるぞ」


「ありえねぇよ!」


 とうとう一葉が素の顔で突っ込みを入れた。




▲▽▲▽▲▽▲▽




 華麗な突込みを最後に部活紹介は終了となった。最後まで園芸部を紹介しなかったのは華苗の最後のプライドである。さすがに楠と同類にされるのはピュアな乙女ハートが許さない。


「今日は一日、ありがとうございましたぁ……」


「はーい、気を付けて帰ってね~!」


 一葉はお土産のお菓子だのをたくさんもって帰路へとついていく。華苗たち五人は夕焼けに照らされるその後姿を誇らしげに見送った。彼女の両手にぶら下がる大きなスイカとメロンが黒い影を落としている。


「あの子、ここ受験するのかな……?」


「さぁ……?」


「でも、結構印象には残ったんじゃないかな?」


 柊は前向きにそう言うが、華苗の見た限りでは悪い意味での印象のほうが強かった気がする。考えてみれば、終始一貫として普通の高校と同じことを何一つとして行っていない。園芸部の光景を見せなかったことだけが唯一の救いだろう。


「また来てくれるかな?」


「イベントのパンフ見てたし、気が向いたら来るだろ」


 園島西高校にはたくさんのイベントがある。華苗は受験生時代、そのすべてをすっぽかしてきたが、それらはかなりの人気を博しているらしい。華苗以外の全員が受験生時代にそれらを体験してるようだった。


「さ、そろそろ帰ろうか」


「今日も楽しかったね~!」


「割といつも通りじゃね?」


「八島さんも、暗くなる前に帰ろうね」


「うん! 柊くんも、気を付けてね!」


 長くなった影を見て華苗は少し物思いにふける。あまり考えたくはないが、夏が過ぎればほとんどの三年生は引退だ。今のこの楽しい時間もあとわずかなのだろう。


「……よし」


 ぱん、と華苗はほおをたたいて麦わら帽子のつばを直した。


 わずかなのであれば、精一杯思い出を作るだけだ。そして、今の華苗ならきっとそれができるはずなのである。


 長い影と対照的に、園島西高校の校舎が赤く夕日に映えていた。

20181117 文法、形式を含めた改稿


 トランプタワー、いいかげん時効だから載せる。


 高校説明会って無駄に緊張していったけど、今となってはあんまり行く必要がなかった気がする。何回か開催されていたから、てっきり違う内容を話すと思っていたんだけど、全部同じで無駄足だったことがあった。


数列って計算面倒だったよね。簡単な奴は実際に書いて検算していたっけ。みんな問題用紙の余白や裏が古代の碑文みたいになってんの。


 うちの部活、二年で十人くらいしか見学来なかったっけなぁ……。一人しかいないのに『アットホームでわいわいやっている明るい部活です! やさしい先輩方によるスキル向上支援もあります!』って嘘言って紹介したのがいけなかったのかなぁ……?


 カズハちゃんのふぁみりーねーむ? HAHAHA! そういうことだよ!

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