52 ナス生す夏の午前中 ☆
今回は本当に気合を入れた。挿絵機能をONにしてもらえるとうれしいです。
びっくりしすぎるなよ?
ミーン、ミーンとまだ朝の早い時間だというのにセミが鳴いている。昨今の異常な気温上昇の影響はこんな身近なところにも表れているようであり、余裕をもって学校についたはずの華苗の背中はすでにぐっしょりと濡れていた。
キャンプから帰ってきて二日。いつまでも思い出の名残に浸っているわけにもいかず、華苗はこうして暑い中ひいこら言いながら学校へと来たのだ。
部活をしなくてはならないのももちろんだが、基本的には学校のほうが家よりも居心地がいい。エアコンだってつけ放題だし、お菓子部や調理部のおこぼれにもあずかれる。
この人を殺しに来るかのような暑さの中で外に繰り出すよりも有意義な時間を過ごせるのはまず間違いがなく、さらにはみんなで宿題をこなせるというメリットもある。
(ま、思ってたよりかは少ないんだけどね)
華苗にとって高校生初めての夏休み。その夏休みの大敵──皮肉にも『夏休みの友』などとふざけた名前がついている夏休みの課題は、華苗が想像していたよりもはるかに少ないものであった。
読書感想文はなく、自由研究もない。この二つがないというだけでもはやその戦力の大半がそがれているようなものであり、後に残るのはただただ量が多いだけの問題プリントばかりである。
そしてそれらは、協力して分担すれば、思いのほかあっという間に終わるものなのだ。
もっとも、たとえ自由研究が出ていたとしても、今の華苗なら楽勝で片付けられる。普段の部活風景を適当にまとめれば、それだけで自由研究として立派なものが出来上がるのだから。あっという間に成長するので、その気になれば一日で終わらせることだってできる。
余談ではあるが、部長たちは部活発表や月の活動報告書を書くたびに似たようなことをやっているので、この手の研究発表にはめっぽう強かったりする。あの秋山でさえ、総合の授業での研究発表ではなかなかの好成績を叩き出したりしているのだ。
「今日は何かなっと」
調理室の片隅に荷物を置かせてもらった華苗は、更衣室でいつも通りの装備──麦わら帽子、オーバーオールに着替える。そして汗拭きタオルを肩にかけ、軍手をつけ、長靴をはいて畑へと向かった。
久しぶりの部活ではあるがその姿は実にしっくりくるものであり、華苗は暑さも忘れて鼻歌すら歌いたい気分であった。
「果物がいいなー」
そして、畑へ至る最後の曲がり角を曲がる。彼女の目に飛び込んできたのは、紫の何か。果物のように実ってはいるが、果物ではない、夏を代表する紫の水晶であった。
「…おはよう」
「おはようございまーす」
いつもと何ら変わった様子もなく、楠は今日も鍬を担ぎ、そして足元には大きなスコップを横たわらせている。若干違うところと言えば、あやめさんとひぎりさんが畑をうろうろしているところと、楠の足元から延びる影がいつもと逆の方向を向いているということくらいだろうか。
「…調子はどうだ? 疲れはとれたか?」
「ばっちりですよ。二日も休んでいますし」
楠の問いに華苗は胸を張って答えた。あやめさんとひぎりさんがいる都合上、本当なら部活は一日たりとも休めないのだが、楠はキャンプ後の華苗の体をいたわってわざわざ二日の休みをくれたのだ。少しお疲れ気味の華苗にとってもその申し出はありがたく、実のところ昨日、おとといと一歩も外に出ていない。
もちろん、楠はキャンプ終了の翌日から部活をしている。
「…今日はこいつだ。昨日ちょっと植えたんだが、うまくいきそうだから追加で植えていく」
「おお」
楠がくいと顎でしゃくった先にあったのは紫の果実──否、ナスだ。珍しくちょっと小ぶりだが肌がつるんときれいであり、鮮やかな紫がギラギラの太陽の光を反射して宝石のようにも見えた。
「種からですか? それとも苗から?」
「…苗だ」
ナスは種から育てることもできるが、苗になるまでそこそこ長い時間がかかり、ちゃんと育て上げるのもすこし難しいため、園芸として楽しむときは苗から育てることが多い。
苗を選ぶときは葉っぱと茎を見て決める。葉がみずみずしく、茎が丈夫で太くしっかりとしたものがいい苗だといわれている。節が詰まっているかどうかもポイントの一つだ。
華苗はリヤカーに積まれたナスの苗をやさしく手に取る。相変わらずどこで用意されたのか不明だが、深く考えても意味はない。
苗は少し大きめであり、だいたい華苗の腕の関節までくらいの背丈がある。茎は華苗の小指くらいの太さであり、いかにもナス! と叫びたくなるかのような鮮やかな紫色だ。葉も苗にしては少々大きめで、もしかしたら華苗のおでこくらいは覆えてしまうかもしれない。
華苗がまじまじと苗を見ているよそで楠は鍬を大きく振りかぶり、そして土を掻いて告げた。
「…見るのはかまわんが、手も動かせ。…こいつはちょっと深めに植えるからな」
「はぁい」
ナスもまた、植える前に土づくりをしなくてはならない。植え付けのおよそ二週間ほど前に深めに──具体的には膝小僧が埋まるかどうか程度にしっかりと耕し、必要に応じて肥料もまく。一週間前にも追加で肥料をまき、そして畝をたてればだいたい終わりだ。
ナスの根はすこし深く張るため、穴は気持ち深めに掘っておいたほうがいい。また、ナスは乾燥に弱いので、土はふかふかで保水性のあるものを用いるのが推奨されている。
もちろん、植えつけるのは日当たりの良い場所だ。ナスには連作障害もあるため、一度植えたら三年は空けないとならない。見事条件に合致する畑を用意することが、うまく育てる秘訣の一つだ。
「先輩、この苗、水やりしました?」
「…ああ。事前に水やりをしておくと形が崩れにくくなり植えやすくなる。…覚えておけよ」
華苗は楠の言葉を右から左に受け流し、畝に小さなシャベルで穴を掘ってナスの苗を植えた。
ナスの苗と苗の距離は肩幅よりちょっと広い程度に空ける。これくらいならもう園芸部のカンでわかるようになってきたし、楠も同じようにして植えているから大丈夫だと踏んだのだ。
最後にぺしぺしと土をかぶせ、株元を固める。そしてリヤカーに無造作に用意されていた支柱をぐさっと突き刺した。ポケットに突っこんであるひもで支柱と茎とをくくりつけるのはもはやワンセットであり、支柱を刺した時点で華苗の体は無意識のうちにその行動に移っていた。
「…言われる前にやれるようになったのか」
「ま、いいかげん慣れますよ」
ナスの植え付け後は支柱をたてる。といってもこれは仮のものであり、本格的に成長したのちは別の支柱に取り換えるのだが、どうしてなかなか重要だ。
というのも、こうして支柱を添えて誘引──支柱と茎とをひもでくくっておかないと、ちょっと強めの風が吹いたときに苗が倒れてしまうことがあるのだ。まだ植えつけられたばかりの苗は不安定でぐらついているため、この作業は必須と言える。
「お水はあげます?」
「…もちろん。ナスは乾燥に弱い」
華苗はとてとてと走り、電動井戸でバケツに水をくむ。そして愛用のぞうさんじょうろも取り出し、楠のもとへと走った。最初のうちはこの水をくんだバケツを持って動くのも苦痛であったが、今となってはへのへのもへじを書くかのようにたやすいことだ。キャンプで鍛えられたためか、こころなしいつもよりバケツが軽いように感じられた。
「…たっぷりな」
「うーぃ」
しゃーっと水を上げると乾いた土が濃い色になっていく。ギラついた光は優しくキラキラと反射し、そしてナスの苗が喜んでいるように感じられた。葉っぱに水が滴るのが見ていて何ともおもしろい。
……この時点ですでにいくらか成長していたが、華苗は気にしないことにした。
「…そうだ、麦わらもひいとくぞ」
「使うんだったら水汲みに行くときに言ってくださいよ。なにもしなくったって汗だくになるのに……取りに行くの、私なんですよ?」
「…すまんな」
たいして悪いとも思ってない声で、楠が呟いた。
何度も言っている通り、ナスは乾燥に弱い。だからこうして麦わらを引いたりマルチを張ることで保湿し、乾燥を防ぐのが効果的なのだ。
また、地中の温度が高いと生育も促進されるため、これらの対策は二重の意味でおいしかったりする。
なお、乾燥を防ぐといっても程度問題であるため、土の表面が乾いてきたらその時点でたっぷり水をやらないといけない。
水やりが多い分、土が流されて根が露出しやすくもなったりする。最初に深く植えたのはこれを防ぐ意味合いが少し込められているが、ちゃんと頃合いを見計らって再度の土寄せを行うことも重要だ。
「こんなもんで十分ですかねぇ?」
「…まぁ、そうカリカリするな。暑いのはみんな一緒だ」
暑い中小型のリヤカーを押して麦わらを持ってきた華苗は、少々のいらだちをこめて麦わらをひいていく。楠はそんな華苗の様子など知ったこっちゃないようで、もくもくと新しい支柱の準備をしていた。
「…こっちの支柱は俺がやるから、すこし休んでいてもかまわんぞ?」
「じゃ、お言葉に甘えて……」
華苗はささっとスキップ気味にナスから離れる。お目当てはイチゴやブルーベリー、さくらんぼといった果物だ。なんだかとっても食べたい気分であったし、ちょっとした栄養補給としてはちょうどいい。
なにより食べ放題である。ここでたべなきゃ女が廃る。
「うん、やっぱこっちのほうがおいしいかも」
キャンプ場で栽培したのもおいしかったが、やっぱり本当の畑で栽培したほうが味そのものは上のように思えた。もちろん、向こうは向こうで別の味わいがあったのも確かである。
すでにいくらか卸されたようで、各々の果物にはところどころ収穫された形跡があった。どうやら調理部やお菓子部の面々もすでに精力的に動いているらしい。
「はい、先輩」
「…気が利くじゃないか」
仮にも先輩であるので、華苗は収穫した桃を楠に手渡した。相変わらずの無表情を少しだけ崩し、楠はそれを喰らう。さすがというべきか、すでにナスは剪定も仕立ても済まされており、あとはこのまま待つだけの状態だ。
ナスにももちろん剪定や整枝、わき芽つみ誘引といったもろもろの面倒くさい作業がある。これをきちんとしないと樹勢が強くなりすぎ、ちゃんと実をつけなくなったりするから大変だ。
この園島西高校園芸部でもそれはきちんと行われるが、実際の農家ほど細かくは行われない。要は、やったというその事実が大事であり、あとはまごころがどうにでもしてくれるからだ。
極論を言えば管理を一切しなくても、まごころさえあればきちんと収穫できるじゃないかと華苗はにらんでいる。
ちなみに、楠は仕立てるのだけはきちんとまじめにやっていた。どこか別の作物でも使った三本仕立てである。ナスではこれが一般的なのだ。
「……おお?」
楠が桃を食べ終わる頃にはナスはまごころにより急激に成長し、きれいな紫色の花をいくつも咲かせる。
華苗にとってはちょっと意外だが、花は空を向かず大地を見ており、指の爪ほどの大きさの、バナナにも見える少し弓なりになった黄色いおしべをいくつかつけていた。はなびらはどちらかと言えばすこしふわっとした感じがしており、なんとく理科の実験で使った脱脂綿を彷彿とさせた。
「…ちょっと元気がない、か?」
「そうなんですか?」
ナスの花は栄養状態を知るバロメーターとなる。めしべがつんと突き出し、おしべよりも飛び出ているものが元気のあるものであり、めしべがおしべに埋もれてしまっているものは元気のないものだ。
また、元気なものほど花の色は濃い鮮やかな紫色を示し、逆に元気の悪いものは色が薄く、白っぽく見えたりもする。
このような栄養状態が良くないという証が見受けられたら、追肥をしたりして何かしらの対策を取ったほうがいい。当然のことながら、元気のない花では立派な実をつけるのは難しいからだ。
「…まぁ、この程度問題ないだろう。まごころをこめたし」
「それもそうですね。光の加減ってこともありますし、まごころもこめたんですから」
この園芸部に限って栄養状態が悪いなんてことはありえない。だって、園島西高校の園芸部なのだから。まごころを込めれば、枯れたタンポポでさえ東京タワーよりもでっかくなるだろう。
「それよか先輩、さっきからちょっと気になっているんですけど……」
「…なんだ?」
「このナス、トゲがありません?」
そう、実は華苗にはちょっとだけ気になっていることがあった。なんと、よくよく見るとナスの葉っぱの表面や茎のところなどに、鋭いトゲが何本かあるのである。
トゲは葉っぱについては葉脈のところにぽつぽつと突き出ており、葉脈と同じくナスの紫色をしている。大きさとしてはそれほどでもないが、思った以上に固くてうっかりすると手を傷つけてしまうだろう。もっとも、軍手をしている今、その心配はないともいえる。
「…昔はナスにはトゲがあったんだ。いわゆる原種というやつだ。だが、商業用に品種改良されていくうちにトゲも消されたらしい」
ナスのトゲはもともと害虫などから身を守るためにあったとされている。だが、そんなもの収穫作業をする人間にとっては邪魔でしかない。あってもなくても味や成長そのものには関係ないので、だったら消してしまったほうがよいとの考えがあったのだろう。
「…そういう点で言えば、うちのナスはナスらしいナスと言えなくもない」
「へぇ」
だが残念かな、楠のナスに関するうんちくも、華苗にとってはとてもどうでもいいことだった。華苗の頭の中にあるのは収穫したナスをどのように食べるか、それだけである。
ちなみに、ナスのトゲは鋭いものほど新鮮であるとされている。トゲは蔕にもついており、選ぶ際には手が傷つくほどに鋭いものがいい。最近のナスはトゲがないことが多いために、実践する機会は少ないかもしれないが、知っておいて損はない。いざというときに役に立つ……かもしれない。
楠は華苗のどうでもよさそうな態度を気にした様子もなく、ぐっと大きく伸びをして体を解きほぐす。ぐっしょりと濡れたシャツがぴとっと体に張り付き、そしてそのたくましい日焼けした腕は汗の塩でキラキラと輝いていた。
「…そろそろ、収穫だ」
そう言ったか言わないかのうちにみるみるナスが成長をはじめ、大きく広がり華苗と同じくらいの背丈にまで到達する。横幅もそれなりにあるので、体積的に見たら確実にナスのほうが華苗よりも大きいだろう。
葉っぱもそれに比例するかのように大きくなり、もう華苗の手では三つくらい使っても足りないかもしれないくらいになった。どちらかというとパリッとした感じであり、妙につるつるしている。いい意味で、どことなく作り物らしさを感じるような葉っぱだ。
紫の花もいつのまにか消えており、そこにあるのはただただ美しい紫の水晶のみ。華苗の手では確実にもてあます程のサイズをしており、楠の大きな手でようやくフィットするか、はたまたそれでなお足りないくらいの圧倒的な大きさだ。
そんなものがそこかしこになっているものだから、その迫力は計り知れない。
「今日もいっぱいできましたね!」
「…まごころを込めたからなぁ」
ナスは通常、開花後二十日ほどたったころに収穫できる。ほったらかしておけばその分だけ熟し、それなりに大きくなるが、普通は大きくなりすぎないうちに収穫してしまう。
実が熟しすぎると株への負担が増えるうえ、中身がスカスカになったり、中のタネがものすごく固くなってしまったりする。
質が悪くなったこれらは俗にいう〝ぼけなす”であり、当然のことながらいい出来とは言えない。
最初に生った実はあえて小さいうちに収穫し、株全体の生育を促すといった方法もとられる。いずれにせよナスは完全に成長しきる前に収穫するのが一般的だ。
もっとも、まごころあふれる園芸部のナスにはそんなこと関係なく、大きくてもそれに見合った質を誇るので、好きな時に好きなように収穫するだけだ。どのみち異常成長をしたものであるので、二十日がどうとかどうでもいいのである。
「意外とずっしりしてますね……!」
「…実の詰まっている証拠だ」
華苗と楠はパチンパチンと蔕の上を切ってナスを収穫していく。一個取るたびに重さを失ったそれがブランコのように揺らめき、華苗の本能を刺激させた。
流れるような楕円を描いたそれは、エッグプラントという英名を彷彿させるかのように端っこがすこしぷくっと出っ張っている。なんだかちょっと可愛らしく、華苗はすこしにっこりとしてしまった。
手に残るずっしりとした感覚はとても心地よく、軍手を取って素手でその表面を撫でてみると意外なほどの張りツヤがある。つるっつるで華苗が嫉妬してしまうほどの美肌だと認めざるを得ない。
その鮮やかな紫はどこまでも深く、魅力的である。ずぅっとみていると吸い込まれるような、そんな気さえした。
黒みがかったところから紫になるまでのグラデーションが特にいい。夏野菜の生命力を視覚で感じるかのようであり、どこか元気が湧いてくるような、それでいて頭がぼうっとするような、なんとも言えない不思議な心持ちだ。
これこそが、ナスの魅力というものだろう。
「…手、気をつけろよ」
「先輩こそ」
いち、にぃ、さんとリズミカルに鋏を動かす。ぱち、ぱち、ぱち、ぼと、ぼと、ぼとと収穫の音が響いていく。手元の籠もすぐにいっぱいになり、楠が用意したリヤカーに積まれた番重も、あっというまに紫一色に染められた。
「これ、どれくらい採れるものなんです?」
「…わりと多めだったはずだぞ」
品種にもよるが、ナスは一株でおよそ四十前後の実をつける。丸っこい感じのナス──米ナスなんかは十に届くかどうかというところだろう。こちらはその分一つ一つが大きいことが多いので、どちらがお得かと言われても個人の嗜好としか答えられない。
実が多くつく分、土の栄養が失われるのも早い。そのため、場合にもよるが実の生り始めたころから短いスパンで追肥をするのが推奨される。収穫後はさらに頻繁に追肥をしないとならない場合が多いがいずれにせよナスの状態を見て、適切に行うことが重要だ。栄養のあげすぎもあげなさすぎも株に負担をかけ、結果的に落花を招いたり実がつきにくくなったりしてしまうからである。
また、更新剪定や根切りといった作業をすることで収穫期間を長くし、よりナスを楽しむこともできる。
ナスは収穫期を迎えると実をポンポンとつけていく。つまり、その分株そのものが成長しているわけであり、同時に増えた大きな葉っぱにより株そのものの日当たりが悪くなり、結果として成長が鈍くなってくるのだ。
更新剪定でばっさりやっておくことで陽の当りや風通しはよくなる。もちろん成長が促進され、さらには病気の予防にもなる。古い枝を切り払うことで無駄なエネルギーをカットし、樹勢を抑えて株全体の若返りに繋がったりもする。
根切りも同じように生育を促す効果があり、新しい芽が伸びて丈夫に育つようになる。大体の場合においては剪定の後に根切りをすることが多く、一時的に弱った株のために同時に追肥をすることもよいとされている。
「先輩、このナス、ナマでいけますかね?」
「…あまりやったことはないが、いけなくもないぞ。そのまま丸かじりしても悪くはない」
いつもとちがって丸かじりをしない楠を見て、華苗は持っていたナスをそっと籠に戻した。どうせ食べるなら、火を通すなり漬けるなりしてよりおいしくなったものを食べたいと思ったのだ。
「…調理室と、じいさんのとこに卸すぞ」
「おじいちゃん、やっぱりナスが好きなんですかね?」
「…というか、漬物全般が好きなんだろ。キュウリも漬けたとか言ってたし、それにナスが加わるだけだ」
「調理室のほうは?」
「…マーボーナスとか、おひたしとか、焼きナスとかか? 和食が多いからじいさんとやるかもしれんな。…腹いっぱい好きなものが喰えるぞ」
ナスをいっぱい積んだリヤカーを引いて、楠はえっちらおっちらと進んでいく。華苗はリヤカーを押すふりだけをし、麦わら帽子をかぶりなおして熱い日差しに目を細めた。
まだまだ夏休みは始まったばかりであり、華苗は園芸部の夏休みというものを知らない。このあとはあやめさんとひぎりさんのお水を用意し、そして着替えて調理室で駄弁りながら宿題をこなす予定だ。
お昼ごはんはナス料理になることはまず間違いないだろう。これからきっと、夏休み中はずっとこんな生活になるに違いない。
「…明日からはペースを戻していくぞ。さすがに今日は暑くてやってられん」
「へーい」
楠が汗を拭き、そして麦わら帽子をかぶりなおした。土と汗の混じった匂いが華苗の鼻にも届く。
夏の暑い日差しがじりじりと照り付け、午前中だというのに二人の肌を容赦なく焦がした。
華苗はまだ知らない。園島西高校の夏休みでの一日は、本当はこんなものでは済まないのだということを。
20170213 文法、形式を含めた改稿
☆がついてるものは挿絵ありです。今までのやつにもいくらか追加してあるのでぜひ見てみてください。あ、活動報告にちょっとしたことを書いたのでそちらも目を通してくれるとうれしいです。
『なろう』にこれほどまでに園芸について言及した小説があっただろうか。
いや、ない。
『なろう』にこれほどまでの野菜の栽培を詳しく描写した学園物はあっただろうか。
いや、ない。
なろうの園芸小説の座はいただいたぜ!
……園芸のことにしか触れていないのにやたら文字数多くなったなぁ。
あ、あとしつこいかもしれないけどちょっと宣伝。
ゾンビに変わって新しいの始めました。もしよかったらそちらもどうぞ。




