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楠先輩の不思議な園芸部  作者: ひょうたんふくろう
楠先輩の不思議な園芸部
48/129

47 園島西高校サバイバルキャンプ・10

れっつくっきんぐ!


 太陽がてっぺんからだいぶずれたころ。お腹を空かせた生徒たちが焚火の近くで悪戦苦闘していた。あるものは包丁を握り。あるものは飯盒を構えて。


 今日、料理をまともにできる学生は少なくなってきている。家の手伝いをする機会が減ったからとか、勉強する時間が増えたからだとか、理由はいろいろあるがそれは紛れもない事実なのだ。


 無論、それはこの園島西高校の生徒にも当てはまる。他の学校に比べていろいろと実践的な人間が多いのは確かだが、それでも限度というものがある。


 園芸部の華苗をはじめとするいくつかの文化部にはそこそこに料理ができる人間がいる。調理部やお菓子部はお店で出ているものと見紛うばかりのものを作る人でいっぱいだ。


 だが、運動部は一部の例外を除いて全滅だった。


「包丁ってやつはどうも好かん。まどろっこしい」


「料理なんて調理実習くらいしか経験ないってーの……」


 危なげな手つきでジャガイモの皮をむく陸上部長の杉下と空手道部長の榊田。杉下の方は単純に不慣れのため、榊田の方は手と包丁とジャガイモのサイズがあっていないためだ。包丁そのものは普通のサイズなのだが、榊田の手が大きすぎるのである。


 そんな二人を横目に華苗は慣れた手つきで皮をむいていく。もちろんピーラーじゃなくて包丁でだ。年齢平均よりはるかに小さい華苗の手はこういうときに非常に役立つ。


「…おまえ、皮むきだけはうまいな」


「そりゃどうも」


 米を研いでいる楠が華苗の手つきを見て感心していた。


 楠の大きな手は米を研ぐのには適している。最近知ったことだが、その大きな手のせいで楠は皮むきが苦手だったらしい。今でこそ華苗よりも器用にできるが、相当練習したそうだ。そう、幸いにして材料はいくらでも作れたのだから。


「予想以上に時間かかりそうだね……」


「早めにやっといて正解だったね!」


 キャンプ三日目の今日は全員で夕食を作ることになっていた。正確に言えば、せっかくキャンプに来たのだから人に任せず自分たちでアウトドアクッキングを楽しもうということになったのだ。


 昨日のブロシェットも一昨日のピザもたしかに素晴らしいものだったが、準備はほとんど青梅や双葉をはじめとした調理部やお菓子部の関係者、そして女子の有志が率先して行ったものだ。夏の思い出として、それではちょっと問題がある。こういうのは自分の手で苦戦しつつも達成するのがいいのだから。


 魚捌きでかなり鍛えられた腕を駆使して華苗は最後のジャガイモの皮をむく。いつもと違う場所でできたものとはいえ、いい土、いい水、そしてまごころに満ち溢れたジャガイモはずっしりと重く、大きい。


「華苗、そっち終わった?」


「ばっちり」


 玉ねぎを刻み終えたよっちゃんが華苗からジャガイモの入ったボウルを受け取る。さすがは調理部というべきか、彼女の作業スピードは華苗たちとは比較にならない。華苗が一個剥いている間によっちゃんなら三個剥く。


 だが、今この場において重要なのは作業スピードじゃなかった。


「すごいよね、こんなガタガタで不安定なところで包丁使えるなんて」


「慣れたからね~」


 このキャンプ場には調理台の類が一切なかった。ゆえに自作するしかなかったのだが、ありあわせの材料で作った机の精度なんていいはずもない。当然のようにガタつくし、ところどころにロープの結び目がある。丸っこいものを切るのには酷く向かないものだったのだ。


 しかしよっちゃんはそんなことを気にした様子もなく黙々とジャガイモを切り続ける。丸々とした大きいのを半分にして、もう一回半分にして、ちょっと斜めから包丁を入れて大きめの一口サイズに。たん、たんと包丁がまな板を叩く音とガタ、ガタと木製の調理台が揺れる音が遅れて聞こえた。


 ──これでジャガイモの乱切りは終了だ。


 しゃーこ、しゃーこと米の研ぐ音と生徒たちのちょっぴりの悲鳴が耳に木霊する。玉ねぎの皮むきを始めた華苗は、なんとなく目の前で作業をしている三人を見た。


「おい、早くその石置いてくれよ。そろそろ柊の手が燃え尽きるぞ」


「ちょ、ちょっと待ってよ! こんなの置けるわけないじゃん! もっといい石なかったの? これじゃ組みようがないって!」


「いや、おれならできるし。ほれ」


「アンタ基準に物を考えるなぁ!」


 ぐちぐち言いながらも即席のかまどをくみ上げていく田所と清水。既存のものだけでは到底足りなかったため、こうして新たに作ることになったのである。


 清水のほうは堅実にこつこつと石を積み上げていくが、田所の方はその独特なセンスで妙な配置で積み上げている。一緒に作っているからそれがかち合う所でバランスが悪くなっていた。


 ついでに、清水では田所が組んだところに手を加えることが出来ない。バランスが絶妙すぎて石が置けないのだ。トランプタワーで鍛えられた超技術部の指先の感覚は侮れない。なぜ崩れないのかが不思議なくらいのかまどであった。


「柊くん、熱いなら置いて新しいの取ってくれば?」


「それだとなんか負けた気がするじゃないか」


 薪はある。火もある。その種火にこだわる必要はないというのに柊は妙なプライドでそれを離さなかった。軍手をつけているとはいえ、もう五分もすれば手に火が届くだろう。


「…男には負けられない時がある」


「そういうことだよ」


「ふーん」


 華苗には男子のことなんてこれっぽっちもわからない。玉ねぎの皮を全部剥き終えた華苗はそれをよっちゃんの方へと置いた。切ってはいないのに、こころなしか目が染みる。柊の持つ種火の煙のせいだろうか。


「…研ぎ終わった。俺が持ってるから、飯盒と肉を取ってきてくれ」


「はーい」


 水の滴る手をぶらぶらとさせながら楠が種火を受け取った。手の空いた華苗と柊はおじいちゃんのもとへと向かう。


 さきほどレイクが戻ってきたようで、紐で縛られた肉の塊がどんと置かれていた。どこからもってきたものかはわからないが、わずかに漂う肉特有の生臭さとところどころ赤に染まった紐を見るに、普通のスーパーで買ってきたものでないことだけは確かだ。


「おじいさーん、お肉くださーい」


「ほいほい、こんなもんかねェ」


「おじいちゃん、これ何のお肉ですか?」


「鳥さ。ここらで一般的に食べられてるやつだよ」


 愛用の包丁だろうか、すらっとして綺麗に輝くそれを用いておじいちゃんが肉の塊を食べられる肉としてバラしていく。青梅ですらわからない謎の鳥の肉だが、なるほど量だけは多い。あと四つほど肉の塊があるから、全員が満足できるくらいはあるだろう。


「はい、落とさないようにね。飯盒はそっちの備品置き場だ。米はもう持っていったかね?」


「はい。野菜も切ったし準備はばっちりです!」


「……ちょっと多めに渡しておくから、大きめの鍋でやっといてくれんかね? 何人か失敗しそうな感じなんだよねェ」


 苦笑いしながらおじいちゃんが顎をしゃくった。その先には手つきもおぼつかなければ根本的におかしいことをしている人達がいる。


「……」


 なぜ、彼らはいきなり鍋にチョコレートを投入して火にかけているのだろう……と華苗は心の中だけで首をひねる。そりゃ、隠し味で入れるとおいしいとは聞くが、それにしたってあんまりである。


「渚ちゃんや詩織ちゃん、耕輔だってバラけて手伝ってるんだがね。まさかここまで料理が出来ないのが多いとは……」


「はは……でもおじいさん、それもキャンプの醍醐味でしょ?」


「それもそうだねェ」


 さて、せっかくだからと二人はもう一つ用事を片付けていくことにした。肉と野菜だけでは今日の晩餐は完成しないのだ。むしろ、これからもらうものこそ主役と言えよう。


 二人はとてとてと人ごみを割って歩き、目当ての人物の所まで行く。


「敦美さん、カレー粉お願いします」


「ん。八島後輩と柊後輩は同じ班? 何人?」


「今のところ六人ですけど、失敗した人用に多めに作ることになりました」


「おっけ」


 敦美さんがごそごそと巨大なボトルケースのふたを開けた。つん、と玉ねぎとは別の意味で目に染みるようなスパイシーな香り。茶色くてさらさらなそれは紛れもないカレー臭を放っており、ルゥしか見たことのない華苗にとってそれはずいぶんと新鮮に映った。


「サバイバルっていったらカレー粉だよね。多めに持って来ておいてよかったよ」


 今日の夕餉はカレーライスだ。夏と言えばカレー。キャンプと言えばカレー。みんなでわいわい作るものと言ったらカレーしかないのだ。むしろ、カレーを作らずにキャンプが終われるだろうか。いや、終われない。


 そう、カレーは最後の晩餐にこれ以上なくふさわしい食べ物なのだ。


「敦美さん、そこはキャンプにおいて、じゃないですか?」


「それはちがうよ、柊後輩。カレー粉はサバイバルにおいてこそその真価を発揮するの。これ、すごくってね、どんなまずいものでもこれさえあればご馳走に早変わりするんだ。えぐい草も、アレな肉も、それこそ何も考えずにまんべんなく塗すだけでいいんだから」


「……」


「これはすごいことなんだよ。例えばさ、八島後輩や柊後輩が無人島に流れ着いたとするでしょ? それで、近くに食べられるかどうかわからないけどおいしそうな植物と、食べられるのはわかっているけどものすごくまずくて食べられたものじゃない植物があるとする。さぁ、どっちを食べる?」


「お、おいしそうな方を。たしか、可食テストでしたっけ? それをすれば食べられるかどうかわかるって聞きました」


「ふむ、それを知っているとはなかなか勉強家だといえるけど……甘い、まだまだ甘いよ柊後輩。米軍なんかでも教えられているあの可食テストはね、食べられるかどうかを知るためだけ(●●)の物であってサバイバルで使えるものなんかじゃあないんだよ。あれはテスト前八時間はなにも食べちゃいけないし、それを口に入れて最低三十分は放置しないとならない。食べた後も八時間は様子を見ないといけないし、異常がなくてもその後にもう少しだけ食べてまた八時間待たなきゃいけない。しかも、そのテスト中は水しか飲めないからね。丸々一日水と少量のそれしか口に出来ないんだよ」


「……」


「おまけにそれで判定できるのはあくまでその植物の一部分だけ。実、茎、葉や根っこに至るまですべてに同じ方法を使わなきゃその植物そのものが安全かどうかがわからない。さらにいえば調理法で違いも出てくるからね。……何回やれば実用的な意味でそれを食料と判別できる?」


「……」


「こんなことしてたら飢えて死ぬ。ついでに言えばテストそのものに危険がある。でも、カレー粉さえあれば安全でまずい植物をおいしくいただけるってわけ。どう、すごいでしょ?」

 

 聞かなかったことにして華苗たちは戻ることにした。そう言われてみれば、貰ったカレー粉は小さなカップ一杯だけだというのに敦美さんが持っていたのは運動部の水筒よりも大きいボトルケースだ。三食全部カレーにするにしてもその量はあまりにも多い。


 たぶん、このキャンプ中の食事はそこらのなにかをカレー粉で食べる予定だったのだろう。そうとでも考えなきゃ、あの量を持ってきた理由が見つからない。


「…どうした、なにか疲れた顔をしているな」


「はは……」


 飯盒と肉、そしてカレー粉を置いて華苗たちは次の作業に取り掛かる。都合のいいことに、田所と清水はかまどを組み終えていた。いろいろと試行錯誤の跡が見て取れるが、丈夫そうでなかなか立派である。おまけに大きさもそこそこあるから、大きな鍋でも大丈夫だろう。


「…皆川、指示を」


「えと、楠先輩はごはんのほうをお願いします。お米は研いだんでしたっけ?」


「…ああ」


 楠は飯盒のふたに手をかけた。黒いソラマメのような形をした蓋を外すと、中から銀色の内蓋が出てくる。内側の窪んでいる方には意味ありげな線が二本引かれていた。


「…ぶちこめばいいのか?」


「んと、お米は何合ありましたっけ?」


「…じいさんから八合もらった」


「じゃ、四合ずつに分けて炊いてください。お水は上の線までで」


 飯盒というのは実はけっこう機能的に作られている。というのも、まともな設備がなくてもお米を炊けるような工夫がなされているのだ。


 外側の黒い蓋はちょうど三合分のお米を掬えるようになっていて、内側の銀の蓋は二合分のお米を掬えるようになっている。


 飯盒の内側についている線は水を入れる目安の物だ。上の線が四合炊くときのもので、下の線は二合炊くときのものだ。三合炊くときは……まぁ、適当に自分で加減したほうがいい。


 三合分計量できるのに三合の時の目盛りがないのは、不思議といえば不思議なことである。


 華苗たちは飯盒を二つほど持ってきており、楠は八合分の米をおじいちゃんからもらっている。つまり、一度に八人分のご飯を炊くことができるというわけだ。


 もっとも、高校生の胃袋はブラックホールに等しいので、本当に八人分になるかどうかまでは保障出来ない。


 ソラマメのような独特な形をしているのにも意味がある。あの形だと持ち運びが楽で嵩張らないし、今回のように焚火で炊くときも熱が全体に効率よく伝わるようになる。取っ手があるからそこに棒でも通せばまとめて炊くことだってできる。


「あ、中の蓋は取ってください」


「…了解」


 楠は手早く米を入れ、水を線までぴったりと注いでから簡易かまどにつるした。すでに薪もくべてあり、田所が軍手をした手で種火を入れる。パチパチと静かに燃え上がっていく炎は、やがて飯盒を飲み込まんばかりに膨れ上がっていった。


「…火加減は?」


「じいちゃんが、自分たちで頑張ってみろって。蓋がカタカタ言わなくなったら下ろして蒸らせってのと、炊けるまでは何があってもふたを外すなってのだけは教えてくれました。……失敗もいい思い出になるって言ってましたよ」


「…最悪、夢一や青梅先輩たちに頼ればいいか」


 さて、これでご飯のほうはしばらく放っておいて大丈夫のはずだ。気持ちを切り替えて華苗たちはカレー作りのほうに取り掛かる。といっても、よっちゃんが材料を全部切っておいてくれたので、あんまりやることは残っていない。


「よっちゃん、この後は?」


「んーと、あたし的には切った野菜を炒めたいところだけど、今回は火の数的にあれだからそのまま鍋にいれようと思うんだよね」


「じゃ、全部入れてお水を張ればいいの?」


「そそ。そのほうがお手軽だからね。ただ、カレー粉だけはちょっとこだわるつもり」


 よっちゃんがにぃっと笑った。その眼は食に対する探究心でいっぱいだ。よっちゃんは自分がおいしいものを食べるためなら、どんな手間も惜しまないのである。


「こういう言い方はアレだけどさ。カレーって初心者でも失敗しにくい料理なんだよね。基本、野菜や肉を煮込んでカレールゥを入れればいいだけなんだから。ただ、野菜を炒めるかどうか、カレー粉を使うかどうか、そんな些細な手順の違いで全然別なものになるんだ。どうせだったら、挑戦してみたくない?」


「私は別にいいと思うけど……」


「華苗ちゃん、よっちゃんの料理は本当においしいから。ここは絶対に乗っておく所だって!」


「あはは、プロに全部任せるよ」


「うまけりゃなんでもいい」


 みんなの意見は合致した。楠のことはどうでもいい。男子なんて質より量をとるものだろう……そう思って華苗はあえて聞かないことにしたのだ。というか、ないとは思うが反対されたら困る。


「んじゃ、さっそく始めますか!」


 よっちゃんはフライパンに切った玉ねぎを入れ、三か所作ったかまどの残ったひとつを使って火にかける。金網も張ってあるし火の勢いだって強いが、熱の通りにムラがあるらしくしきりに位置を変えていた。大きなフライパンで重いだろうにその姿には一切の雑念がない。華苗にはとても真似できないことだ。


「いい匂いだねぇ……」


 うっとりと清水が呟く。てかてかときれいに輝くオレンジと薄めた茶色の混ぜたような色──あめ色になった玉ねぎは特有の甘く香ばしい香りをあたりにまき散らした。


「田所、かっちゃん。具材の鍋火にかけといて。水は野菜がひたひたになるくらいで」


「いいの? カレーにしては少ないと思うけど」


「いいの」


 キャンプでカレーを作るときにやりがちな失敗がある。水を多く入れてスープにしてしまうことだ。こうなると味もあまりしないし、なにより食べてて味気ない。


 よっちゃんは、だったらむしろ水を少なめにして後で調整すればいいと考えていた。もちろん、焦げ付かさないように火の加減は注意しないとならない。焦げ付いて苦いカレーなんてカレーとは呼べないのだ。


「史香、肉切って頃合い見て鍋に入れて。華苗、小麦粉とバター。あと油も」


「うぃ」


「はい」


 真剣な表情に華苗は思わず丁寧に返してしまった。いつもの明るさはどこに行ったのやら、本当に真剣で真面目な表情だ。背も高いから、この場面だけで見れば大学生のお姉さんのようにも見える。


「本当は別々でやりたいんだけどね……。気合で乗り切るよ」


 よっちゃんはそのフライパンに小麦粉と油、そしてバターを入れた。じゅうう、という音にわずかな変化が訪れる。あめ色の大地に白い粉雪が降り、なんともいえない様相になっていた。


 実を言うと、華苗はカレールゥを使わずにカレーを作れるということを知らなかったのだ。いや、作れることそのものは知っていたのだが、その方法を知らなかったのだ。故に、今目の前に映るそれがカレーになるとはどうしても信じられず、なにかを口に出そうとしてすぐそれをやめた。


 あちこちで教えまわっている青梅が、全く同じことをしているのを横目で見たからだ。


 しばらくフライパンを眺めていると、やがて変化が訪れた。白かった小麦粉がこんがりといい具合に焼け──きつね色になる。パサパサ感もなくなってペースト状というか、ともかくとろみのようなものがついてきて見た目だけなら幾分カレーに近づいてきていた。


「カレー粉」


 さっとすぐに手渡した。碌に計量もせず、よっちゃんは目分量でそれをフライパンに入れる。煙の臭いに交じってふわっとスパイシーな香りが上って行った。


 その匂いにつられたのか、何人かの生徒が集まってきてよっちゃんのフライパンの中をのぞき始めた。


 悲鳴をあげるものと、笑顔を浮かべるもの。


 悲鳴を上げたのは運動部男子だった。陸上部長の杉下だ。


 いつの時代でも、作業が速い班は周りを掻き乱すものである。正しい班には希望を、間違っていた班には絶望を。今この瞬間、たしかによっちゃんはカレー作りの最前線を走っていた。


「おい誰だよ、カレー粉は水に溶いてぶちこむなんて言ったやつ!」


「ん? 水じゃなくてお湯だったか?」


「ちげェよ、素材の水分でやるんだよなァ?」


「やっぱり小麦粉であってましたよ!」


「ほら言った通りじゃんー」


「えー……絶対片栗粉だと思ったのになぁ……」


「カレー粉って最後に振りかけるんじゃなかったのか?」


「……少しは家の手伝いしたほうがいいよ。円のとこのカレーはカレー粉から作ってるじゃないか」


「教頭先生、意外と器用っすね」


「そういう荒根先生もうまいじゃないか。やっぱり自炊してるのかね?」


「はは……独り身だとどうしてもうまくなっちまうんすよね。カレーって大量にできて作り置きできるからよくやるんですよ」


「私も作るのは好きなのだが……娘は私のカレーは味が薄いだとか言うのだよ。一応、健康に気を使っているつもりなのだがね」


「先生はみんなのやつをちょっとずつ味見するからなー。おいしいのを作ってくれよ?」


「最初から作る気なんてないのね……。ユキ、あなた少しくらいはなにかしなさいよ。同じ女として見ていて本当に泣けてくるわ」


「いいじゃないか。優花だって似たようなものじゃん」


「あら。私、カレーはこだわるタイプなの。あなたよりかは上よ」


 さて、一体どれほどの班がまともなカレーを作ることが出来るのだろうかと、華苗はぼんやりと思った。あちこちで火が上がっているからか、なんだかこの場がすごく暑い気がする。暑いから汗を掻くのは当然なのだが、今掻いている汗は絶対暑いからではない。


「…皆川」


「どうしました?」


 と、ここで今まで黙って作業を見ていた楠が声をかけた。そのまま顎をくい、としゃくり、そのたくましい指である方向を指す。その先からはカタカタ、しゅうしゅうと奇妙な音がした。


「…吹きこぼれかけているんだが」


「押さえて!」


 いつのまにか飯盒から泡のようなものがあふれ出て、今にも蓋が外れてしまいそうになっている。よっちゃんの声を受けた楠はとっさに軍手をつけた右手で蓋を押さえ込む。湯気がもろにあたって熱いだろうに、顔色一つ変えなかった。


「重りを! 石かなんかで!」


「だめ! 都合いいものがない!」


 この場には重りになりそうなものがない。小石なんてどこにも落ちていないし、薪では大きすぎる。ぐつぐつと音を立てる飯盒がよりいっそう華苗たちを焦らせた。


「さ、探してくる!?」


「待て柊。それには及ばない。石ならあるじゃないか」


 田所はかまどを指さした。そして、自分が組んだ部分の真ん中のところをすこんと蹴り飛ばす。


 するとその部分に使われていた石が二つだけ飛び出てきて、清水の足元に転がった。まるで錘に使うために産まれてきたかのように、ちょうどいい大きさの石だった。


「やっぱな。あそこくらいなら崩れねえや」


「…すごいな」


 穴がぽっかり開いたというのにかまどは崩れない。釈然としない表情をしながら清水がその石を飯盒の上に乗せる。うるさい音は未だに収まっていないが、当面の危機は回避できたらしい。


「…ふう」


「熱くなかったんですか?」


「…いや、すごく熱かった」


 が、ご飯の為なら耐えられるらしい。


 さて、そんなこんなしているうちに具材の鍋も沸騰し、よっちゃんのカレー粉の方もいい塩梅になってくる。どうやら小麦粉と合わせたカレー粉はこの時点でルゥと同じように扱えるらしく、あとは普通に投入して煮込めば完成だそうだ。


 よっちゃんが鍋にそれをいれると、華苗の知っているカレーとほぼ同じものが鍋の中に産みだされた。


「で、ここで秘密兵器を投入する」


「ひみつへいき?」


 すっとよっちゃんが懐からちいさな小瓶を取り出した。手で軽く握れるくらいの大きさで、ひどく濁っており中に何が入っているかわからない。


 きゅぽん、とコルク栓を外すと甘い匂いがわずかにひろがる。


「これね、はちみつ。森でレイクさんとの勝負の報酬としてもらった」


「へぇ」


 なんでも森でレイクと秋山が勝負したらしい。その結果として秋山がレイクから譲り受けたものだそうだ。


「あとは焦げないように注意しながら煮込むだけ」


 黄金に輝くそれをよっちゃんは鍋にゆっくりとながし、おたまでぐるぐると適当にかきまぜる。あとは時折様子を見ながら焦げないように注意するだけだ。


 全部終わってしまえば意外とあっけない作業だった。ゴミなどは全部カミヤさんが引き取ってくれるため取り立てて後片付けをする必要もなく、華苗たちは火の様子を見ながらだらだらとおしゃべりに興じる。


「そういやさ、おれんとこのカレーってジャガイモ入らないんだけど、これって普通のことなのか?」


「え? ジャガイモのないカレーなんてイチゴのないショートケーキみたいなものじゃん。なんで入れないの?」


「しらね。『ジャガイモ入れると足がつく』って母さんが言ってた」


「なにそのサスペンスなカレー……」


「僕の家はいっつもポークカレーだなぁ。あと、ニンジンが入らない」


「あ、私も。おかあさんがニンジン苦手だからって入ないんだよね。小学校の給食のカレーにニンジンが入ってて私びっくりしたもん」


「なんだなんだみんなして……。もしかして、まともなカレー食べてるのってあたしのとこだけ?」


「…俺の家はニンジンもジャガイモも入る。ただ、玉ねぎは煮込み過ぎて形がなくなってるな。…あとコーヒーを入れることがある」


「あー、よく聞きますよね。チョコレート入れるのもいいとか」


「おれ、ソースとか醤油とかかけるやつ許せない。目玉焼きじゃあるまいし」


「……ソースはともかく醤油は普通じゃないの? 私のところそうなんだけど。田所、アンタ適当言ってない?」


「マジか。これは戦争だな」


「おまえのカレーはなんでそんな物騒なのかな……」


 くだらないおしゃべりをしながら、時折お鍋の中をかき回す。太陽は少しずつ傾いていき、やがて辺りにはカレーの良い匂いが漂い始めた。少しばかりの異臭と何人かの男子生徒の悲鳴と共に、思い出となるアウトドアクッキングは静かにクライマックスを迎えようとしていた。




「さて、そろそろみんなできたかねェ?」


 そしてとうとう、おまちかねの夕餉の時間が始まる。ついでに言えば、これはキャンプの最後の晩餐だ。うれしくもあるのだが、終わってしまうのがすごく悲しくて切ない。せめて精一杯、この時間を楽しもうと華苗は決めた。


「米は私の方で多めに炊いた。どうしても食べられない時は遠慮なく来なさい」


「カレーは私たちの方でも多めに作ったから失敗しちゃったところはどんどん来てねー! ……食べる努力はしてからね!」


 どどどん! と真ん中のところに飯盒と鍋が置いてある。青梅と双葉、そして佐藤とおじいちゃんが作ったカレーだ。やっぱりなんだかんだで失敗したところのフォローはしておいたらしい。単純によく食べる高校生への配慮ということもあるだろう。米を食べるのもしばらくぶりなのだし、箸が進むのも間違いない。


「んじゃ、配膳しまーっす!」


 カタカタが止まり、火からおろして十分に蒸らした飯盒の蓋を開けるよっちゃん。ほわんと湯気が彼女の顔を撫で、煙に交じって米の甘い香りが漂う。しゃもじをさっと入れると、見事な銀シャリが輝いた。


「いいかんじ!」


 よっちゃんは手早くご飯をお皿に盛りつける。華苗のところには底の部分とおこげが入っていた。ちょっとラッキーだ。


「よっちゃん、カレーのほうはどんなよ?」


「あたしが作ったんだよ?」


 鍋をあけると同時に魅惑的で情熱的な香りがよりいっそう強くなった。それは容赦なく華苗の胃袋を刺激し、鍋に頭から突っ込みたくなる衝動が沸き起こる。おかあさんには悪いが、華苗にはこのカレーが今この瞬間だけは世界一のように思えた。


「おお……!」


「おいしそうだね」


「おいしそう、じゃなくておいしいの!」


 男子二人にはちょっと多めにカレーをかけるよっちゃん。もちろん、自分と楠の分は特盛だ。肉とジャガイモがごろっと入っている。どのみち、お代わりはたくさんあるから問題はない。


 茶色の海にジャガイモと肉と玉ねぎが泳いでいる。ニンジンは入っていない。エネルギッシュで爆発しそうななにかがたしかにそこに感じられ、さながら黄金に輝いているようにも見えた。


 焦げ付いた様子も一切なく、水っぽくもない。かといって粉っぽいわけでもなく、米と絶妙に絡み合っている。これほどまでに見事なカレーライスを華苗は見たことがない。内緒だが、家のはたまに水っぽいときがあるのだ。


「「いただきます」」


 自然とみんなの声が重なった。掬い上げたそれを口に運ぶタイミングまでぴったりだ。やっぱりみんなで協力して作ったカレーライスなのだから、みんなで一緒に味わいたかった。


「おいしいっ!」


「さいっこう!」


「うめえな……!」


「おいしいね……!」


「…うまい」


 へへっとよっちゃんが顔を崩して笑った。


 米が甘い。香りが深い。うまみが染み出ている。ほどよくスパイシー。そしてなにより、コクが深い。


 玉ねぎがカレーに絶妙な甘みを醸し出している。それは米の甘さと絡み合って、辛さを引き立てつつも自らを主張している。


 ゴロッとした肉はカレー粉のスパイスの後方支援を受けて、その存在感をどこまでも高めていた。肉のうまみが加速されて食べごたえも抜群。歯ごたえというか、かみしめた時の感覚がたまらなく素晴らしいものなのだ。肉汁の香りがたしかに体中を駆け巡る。


 ジャガイモは裏の主役だ。口の中で辛さを調節し、ほどよくマイルドにしてくれる。ご飯、カレー、ジャガイモのループがたまらなく幸せだ。ホクホクの甘みがカレーの辛さと絡まって一種独特の何かを形成している。


 そしてこれらすべての相性が抜群だ。どれか一つでもかけたらこの素晴らしさの半分にも到達できまい。よっちゃんが最後に入れたはちみつはこれらすべてを親和させ、さらなる高みへと導いている。


 病み付きになる辛さの中にほのかに感じるなにか。この形容しがたい何かこそがはちみつの正体なのだと思う。


 華苗はどうしても手を止められなかった。いや、止めようとすら思わなかった。


 手足の感覚がなくなり、何も聞こえなくなり、最後には目も見えなくなる、感じるのは口の中の幸せのみ。もう一つだけ付け加えるとするならば、魂の全てでカレーライスを味わっていた。


「…すごいな。夢一を超えたんじゃないか?」


「まさかぁ。まだまだ佐藤先輩には敵いませんよ」


「ガチでうまいな。カレーってこんなうまかったっけ。手が止まんねえや」


「たしかにこのカレーに醤油かけるとか正気を疑うレベルだよね……!」


「だろ? わかってくれておれはうれしいぞ」


「ニンジンないのもいいね。うちのカレーとちょっと似ててすっごく安心する味だ。これがポークだったら、もっとよかったのになぁ。……ま、うちのよりも何倍もおいしいけど」


 柊の言葉に思わず華苗はうなずいてしまった。毎日食べるのだとしたらやっぱり家のカレーだが、味そのものは間違いなくこのカレーが一番だ。まごころ満ち溢れたおいしい野菜を使ったとはいえ、これだけの設備でどうしてここまでおいしいものが創れるのだろう。


「園芸はまごころかもしれないけど、料理は愛情なんだよね」


 きれいにウィンクしながらよっちゃんが教えてくれた。もうなんかいろいろどうでもよくなったので、華苗はそれでいいと思うことにした。大切な友人が、この学校の部長の風格を漂わせてきていたのだ。深く考えてもまともな答えは出ないだろう。


 とりあえず、お代わりだ。


「よっ! すっげぇいい匂いだな! オレにもちょっとわけてくれよ、よっちゃん!」


「克哉ぁ、お前いいもの食ってるな……。ちょっと恵んでくれよ」


 秋山と葦沢が皿を持って近づいてきた。二人とも、まだまだ食べたりなさそうな顔をしている。もとより多めに作ってあったので、華苗たちは拒む理由もない。


「うっめぇ……! なんか心がぎゅんぎゅん熱くなってくる……!」


「これだよ……カレーってのはこういうやつをいうんだよ……!」


 汗を滴らせながら二人ががっついていた。見ていてすっきりしてくるほどの食べっぷりである。そんなにお腹が空いていたのだろうかと、華苗は疑問を感じるのを隠せない。


「…先輩、そんなに腹が減ってたのですか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどよぅ……」


「有態にいって、作るの失敗したんだ」


「失敗? 秋山先輩がいたのに?」


「榊田と中林が堪えきれなくて火加減ミスって焦がしやがった。ついでに誰かわかんないけど、嵩増しのために灰汁抜きしてない野草を入れたっぽい。苦くてうまくなかった」


「米は上手く炊けたんだけどな。頑張って完食させたが、正直食った気がしなかったんだ」


 完食した、ではなくさせた、である。葦沢の人のよさそうな笑顔が、今日に限ってどす黒いようなものに見えた。


「……愛情いっぱい込めましたから、存分に食べてください」


「さんきゅ。よっちゃんはいいお嫁さんになれるな! 毎日食べたいくらいだぜ!」


「えへへぃ、あたしでよければいつでも食べに来てくださいよぅ」


「俺もこんど料理覚えるかな」


 おじいちゃんのところでご飯を貰い、再び二人ががっつき始めた。華苗たちも負けないように精一杯スプーンを動かす。この反復運動がたまらなく心地よい。こめかみを伝う汗が爽快だ。


「楠くーん! お腹空いてる!? まだ入るよね!?」


「お米久しぶりだもんね!? もっと食べたいでしょ!?」


 と、ここで青梅と双葉が鍋を抱えてやってきた。もちろん中身はカレー。二人が作ったものだろう。


 ちらっと見たその瞬間に、華苗は悟ってしまった。このカレーはおそらく、この中で一番おいしいカレーだと。


「…正直、もう少し食べたいなとは思っています」


「やっぱり!」


 おずおずと差し出された皿を半ばひったくるようにして青梅たちがカレーを盛り付ける。見た目はさほど変わっていないというのに存在感が段違いだ。なんというか、黄金のオーラを放っているのだ。


 誰かがゴクリと唾をのむ音が聞こえた。


「さ、食べて?」


「すっごくおいしいんだから!」


 二人がヒマワリのようににっこりと笑う。女の華苗でもドキドキするような笑顔だった。


「…………っ!」


 ぱくりと一口。


 鉄面皮の楠が目を見開いて驚愕の表情をあらわにする。そして無言のままがっつき、あっという間に一皿ぺろりと平らげた。


「…う、うまい……!」


 おそらく、今まで一番大きく反応したのではなかろうか。二人は互いにハイタッチを決めた。パシンといい音が響く。それは周りのにぎやかな音にすぐかき消されたが、たしかに響いたのだ。


「「やったぁ!」」


「え、うそ、そんなにちがうの?」


 よっちゃんが慌ててその鍋の中身にスプーンを伸ばす。ぱくっと口に入れた次の瞬間には、楠と同じように目を開いていた。


 華苗もそれにならって食べてみる。


 ──もう、段違いだった。


 香りが深い。味に奥行きがある。お肉はとろとろで、野菜は輝いている。全く同じ材料のはずなのに、全然違う。


 もはやおいしいとかそういうレベルを超えていた。


 これは……カレーの真理の終着点だ。


「な、なんで……?」


「ん、よっちゃんのははちみつ入れたみたいだね。味に深みがあるし、全体的にまろやかでとってもおいしいよ!」


「やっぱ本職がいるとちがうよね。運動部の男子のバカなんて、シーフードカレー作ろうとして燻製丸ごといれてたよ」


 きゃいきゃいと喋りながらカレーの品評会を始める二人。よっちゃんのカレーはトップスリーに入るらしい。一つはおじいちゃんと佐藤が作ったもの、そしてもう一つは深空先生が敦美さんと作ったものだそうだ。


 ちらりと向こうを見ると、若い女の保健の先生の手作りのカレーだということで、男子生徒が一口おこぼれにあずかろうと群がっていた。元気がいいのはいいことである。


「部長これ……なにいれたの?」


「私たちもはちみつを少しと、あとホールトマトをね」


「……ッ! たしかにこれはトマトの深みだ……! でも、ホールトマトなんてなかったはず!」


「うん、だから作ったの。トマトの水煮込」


 がくりとよっちゃんが項垂れた。青梅はあれだけ他の人のサポートに回りながらも、そんな細かい工夫までしていたというのだ。


 料理に愛情は重要だが、それ以上にかけた手間暇が物を言う。腕のいいものが手順を踏めば、おいしいものが出来るのは当然のことだった。


「くそう、また負けたぁ……!」


「まだまだ後輩には負けられないからね!」


「オレはよっちゃんのカレーのほうが好きだぜ?」


「なんか、ありがとうございますぅ……」


 そんな様子を横目で見ながら、華苗はもう一口ぱくりと食べた。ホールトマトを入れようが、蜂蜜をいれようが、そんなものはこのにぎやかな雰囲気というスパイスには敵わないのだと思ったのだ。


「あ、おこげー。ラッキーだー」


「あっ! いーなー! 私にちょーだい!」


「うふー、あげないもんねー」


「ぶぅー!」


「頼む! 一口でいいからカレーくれ! 俺の青春にかけて、ここで絶対に女子の手料理を食べなきゃいけないんだ!」


「お、大げさですよ……。でもまぁ、私たちのでよければ……」


「ひゃっほぅ! 生きててよかったぁ!」


「そんなに腹空かしているならアタシのとこのもあげようか?」


「あー……おめえんとこのはなんかおふくろの味がしそうだよなぁ。……ちげえんだ、ヤツが求めてんのはそうじゃあねえんだ。もっときゃぴきゃぴした女子の手料理なんだよ。オカンの手料理じゃないんだ」


「おい待て。もういっぺん言ってみろやコラ」


「そ……そういえば俺おふくろの味大好きだった! 量もあるし最高だな!」


「あ゛?」


「つ、椿原のカレーはすっげぇ女の子って感じするなぁ! こんなうめえきゃぴきゃぴした女子の手料理食べられるなんて俺ぁ幸せもんだなぁ!」


「まったく……。口だけはよく回るから困ったもんだよ……」


「んまい。こっちのもんまい。あ、これはちょっと甘めだな。これは……なんだ!? か、隠し味で何か入ってる!?」


「あら、それ私と敦美ちゃんで作ったやつよ。おいしいでしょう?」


「まさかこれほどまでとは……ん? おい待て、あのカレー、どうして魚がまるまる入ってる?」


「あら、でもこのカレー、ちょっと工夫すればおいしくなるかも。……なんでカレーなのにえぐいのかしら?」


「優花、食べられるようになったら呼んでくれ」


「辛ぇぇぇぇ!? えっ、えっ、ぇえええぇ!?」


「おいおい、そんな大げさな……辛ぇぇぇ!? な、なんだこれ!? トウガラシパウダーが舌に残るぞ!?」


「水! 水! お口の中インフェルノ!」


「……こっそり誰かの鍋と摩り替えようぜ」


「よォし、乗った! 早速イケニエを探そうぜェ」


「そこまで聞いて黙ってられるわけなくね?」


「ふむ、全く持ってそのとおりだ。秋山、そのまま右後方から行け。そこならば逃げられない」


「……あらァ? なァーんで逃げる方向わかったのかなァ? なんでこっそりしっかりがっしり両脇押さえてんのかなァ?」


「よし、やれ」


「うォォォォッ!? 辛ェェェェッ!?」 


 おこげに歓喜する女子生徒。

 女子の手作りカレーに群がる男子。

 ひたすらにうまいカレーを求めて彷徨う教師。

 冒険しすぎたカレーを涙目でほおばる男子。

 どこか甘酸っぱいスパイスをまき散らしているペア。


 これだ。これこそがキャンプの醍醐味なのだ。


 みんなでわいわいしながらカレーをかっ喰らう。最高だ。それでいいじゃないか。それ以上のなにを望むというのだ。


 誰もがそう思っていたからこそ──カレーを食べ終わった後、夜の点呼のため何気なく人員を数えていたおじいちゃんと、彼女らの夕餉を忘れていなかった楠の放った一言が衝撃的だった。




「…あやめさんとひぎりさんがいらっしゃらない?」


「全員居るのにあの子たちだけいない……? 森で迷子になったのかね?」


 そろそろ黄昏時に入ろうかという時刻だった。

20161229 文法、形式を含めた改稿。


佐藤先輩のカレーはスウィートドリームファクトリーにて。


キャンプってったらやっぱカレー。

みんなで作るとすっごくおいしい。

もう何年前になるんだろうなぁ……。


飯盒のクレンザーって意味ない気がする。

あと可食テストって実用性なくね?


私の作るカレー、姐者は味がすっごく薄いっていう。

姐者のが濃すぎるだけだ。カレーに醤油は余程のことがない限り許さんよ。


カーチャンが圧力鍋でカレーを作るとすごく水っぽい(←余程のこと)。

いつもの鍋で作るカレーはニンジンもジャガイモも入れないポークカレー。すっごくおいしい。


ジャガイモ入れると『足がつく』ってカーチャンはいうけど、そんなの言う人見たことない。

方言的ななにかかね?

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