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楠先輩の不思議な園芸部  作者: ひょうたんふくろう
楠先輩の不思議な園芸部
35/129

34 学び舎の迷い子と尋ね人・後


「うわぁぁぁ! 怖かったよぉぉっ!」


「……」


「……どゆこと?」


 中学生くらいの背丈の、可愛らしくもありながら大人っぽい色合いの落ち着いた服を着た女の子は、華苗に飛びついて叫んでいた。


 泣きだしてこそいないものの、眼は真っ赤で少し涙を貯めている。華苗のほうが背が小さいから、はたから見れば華苗が覆いかぶされているように見えた。


 よっちゃんや田所、秋山らがそんな華苗と女の子を不思議そうに眺めている。


「こんの、バカタレが! どこほっつき歩いていたんだい!? しかも、女の子を連れまわして! 見な、女の子泣きそうじゃないか! アンタ、顔が怖いんだから気をつけろって言ってるだろ! もうちょっと愛想よくできないのかい!?」


 背の高い女の人が、ガミガミと楠を怒鳴っていた。まわりが口をはさめないようなマシンガントークだ。背の高い二人同士が向き合っているとそれだけで奇妙な迫力がある。片方は番長じみた男、もう片方は顔を真っ赤にして怒鳴っているからなおさらだ。


「…これには理由が──」


瑞樹みずきぃ! 言い訳をする子に育てた覚えはないよ!」


 女の人が言い放った言葉に華苗たちは固まった。いま、この人はミズキ、と言ったのか。


 華苗に抱きつきえぐえぐとしている女の子の声がその場に静かに響き渡る。


「え? 楠先輩、ミズキって名前なんですか?」


「…そうだぞ? …言わなかったか?」


「初耳です!」


「アンタ、また言ってなかったのかい!?」


 ぼそぼそと低い声で答える大男。


 くすのき 瑞樹みずき


 この園島西高校園芸部部長の名前だ。今、華苗の目の前にいる、でかくてごつくて無愛想な大男の名前だ。ずっと探し続けていた、ミズキの正体だ。


 もちろん、三年生は楠の名前を知っていた。知らなかったのは一年生だけだ。


「…確かに、無口でぼそぼそと喋る感じだよね~」


「声が低いから、ちょっと聞き取りづらいってのもそうだね」


「あれ、背は低くて八島さんよりちょっと高いくらいって言ってませんでした?」


「ん? 低いじゃん。私より三ミリも。華苗ちゃんよりちょっと高いくらいでしょ?」


「すげぇ大雑把。その条件ならほとんどの人間が当てはまるんじゃね」


 あっけらかんと女の人は言い切った。たしかに、言われてみれば女の人はミズキを探していると言っただけで女の子を探しているとは一言も言っていない。


 女の子と勘違いしたのは華苗だ。名前の響きと大げさなその物言いですっかり女の子だと思い込んでしまったのだ。


 しかも、見学に来た中学生の子だと。まさか在校生とは思わなかった。


「ん? てことはなに? この人、もしかしてもしかしちゃうかんじ?」


「あの、間違ってたらごめんなさい。楠くんのお義母様ですか?」


「お義母様……ですよね?」


 青梅と双葉がおそるおそるその女の人を見上げる。その行動を不思議に思ったのか、女の人は華苗たちのほうを助けを求めるかのようにして振り返る。が、華苗たちも同じような表情をしているのを見て、驚いたように告げた。


「……そうだよ? 言わなかったっけ? 私、楠 澄香すみか。こいつの母親やってます」


「初耳です……」


 彼女は間違いなく楠の母親だった。性格が楠に似ている。いや、この場合楠が彼女に似ているというべきか。こういう、肝心な説明をすっぽかすところがそっくりだった。背の高さもこの人からの遺伝だろう。体格は男だからか、それとも父親譲りか。


「まァそれは良いとしてよォ。その子はどうなんだァ? てっきりお前んとこが連れてる保護者ってのがアタリだと睨んでたんだが」


 森下が華苗に抱きついたまま離れない女の子を見ていう。その言葉で全員の視線が華苗に突き刺さった。聞けば、楠達はこの子を“お家の人”まで送り届けようとしていたとのこと。そのために奇跡的なタイミングで入れ違いになっていたらしい。


 その説明にひとまず楠を許した澄香は携帯に連絡くらいしとけ、と愚痴る。


 園島西高校では携帯電話の使用は禁止されていないものの、連絡事は人伝や人脈でどうにかなってしまうためにケータイを使う機会がない。そのため“連絡にケータイを使う”という発想がこの学校の生徒にはないのだ。


 心配したんだからね、と小さく呟いたのは誰にも聞こえなかった。


「えぐ……っ……えぐ……っ!」


「ごめんね、ウチのバカ息子が怖がらせちゃったみたいで」


 澄香は優しくその子の背中をさする。周りはなんとも微妙な表情だ。中でも華苗の表情は一段とひきつっている。みんなの視線に耐えきれず、抱きつかれたまま軽くため息をついた。


 柔らかい腕をした女の子はいまだにひしっと華苗を抱きしめて離れない。その服から漂う香りに、華苗は思いあたりがある。というか、そもそも──


「華苗ちゃん、その子知り合いなの?」


「…お家の人を探していると言っていたが?」






「……私の、おかあさんです」






 場を奇妙な沈黙が支配する。遠くで運動部が声を上げているのがかすかに聞こえた。調理室から漂ってきたであろう良い香りがその場の全員の鼻腔をくすぐる。真っ青な空に白く大きな入道雲が浮いていた。


 一瞬だけ太陽が隠れて周囲に影が落ちるも、すぐに強い日差しが戻ってくる。


「 華苗ちゃん、もう一回言ってくれない? なんかオレ耳の調子がおかしいっぽい」


「わ、私はかなちゃんのママですっ!」


「ままぁ!?」


「はいっ! 八島 美桜みおと申します!」


 袖で眼をごしごしと拭いた女の子──いや、華苗の母がにこっと笑って言う。もうだいぶ落ち着いたのか、顔こそちょっと赤いものの、不安げな様子はどこにもない。言われてみれば、顔立ちがどことなく華苗と似ていた。


 華苗を除くその場の全員が、ぽかんと口を開けている。


「え、中学生じゃないの? オレ、眼までおかしくなった?」


「…たしかに、家の人と言っただけで保護者とも兄弟ともいってなかったな」


「そういや服装も中学生にしちゃァ大人っぽい感じだなァ」


「今日はかなちゃんのためにめいっぱいおめかししてきたんですっ!」


 声も仕草も、子供のそれだった。百人いたら八十人がこの人は中学生だと答えるだろう。残りの二十人は小学生と答えるはずだ。


 華苗と並ぶ美桜はなるほど、たしかに華苗より背が高く、顔立ちも大人びている。華苗が小学生のような体格をしていることもあり、母と言われても不思議ではない。不思議でないのだが……どちらかといえば姉妹のようだった。


「華苗ちゃん……遺伝だね」


「抱き心地にどっか覚えがあると思ってたんだけど、納得だね!」


 その言葉に美桜がえへんと胸をはる。華苗は顔から火が出る思いだった。


 一体今の言葉のどこに威張れるところがあったのだろう。なぜ今回に限って、この母親は学校大冒険などやらかしたのだろう。


 そのあげく、迷って保護される始末。いや、迷うのはいい。ここの敷地は広く設備もいっぱいあるのだから。だが、大の大人が半べそかくことはないだろう。


「おかあさん! なんでこんな時間にいるの!? 待ち合わせはもっと後でしょ!?」


「あのね、ママ、かなちゃんがどんなところで勉強しているのか気になって……。ここ、見学も自由だったからいいかなって。それに、かなちゃんをびっくりさせたかったし!」


 えへへ、と笑う美桜を見て華苗はすぐに諦めた。この人はいつもこうなのだ。どこまでもマイペース、どこまでも自由。そのくせ、人みしりは激しい。自分が人見知りが激しいのも遺伝なんじゃないかと華苗は思っていた。


「それでね、あのお兄さんは手から飴を噴き出したの! すごかったんだから! あっちのお兄さんは私に優しく話しかけてくれたし、あのおっきいお兄さんは桃をくれたんだよっ! ちゃっぴぃのお姉さん達はおいしいお菓子やパンをいっぱいくれたの!」


「母が迷惑をかけたようですみません。後でよく言っておきますので」


「…別に迷惑でもない。いつも通りだ」


「つーか、普通にしゃべってね? さっきまでおどおどしてたのに」


「この人、一度不安になるとダメなんです。小さい頃遊園地におとうさんと三人で行ったときのことなんですけど、この人、私と一緒におとうさんからはぐれて、半べそかいて迷子センターのお世話になったんですよ? 迷子センターの職員さんに親じゃなくてお姉ちゃんと間違えられるような人なんですよ?」


「だ、だってあの時はパパがみつからなかったんだもんっ! かなちゃんだって泣きそうでもうどうしたらいいのか……!」


「そりゃ、おかあさんが泣きそうになってたら三歳の娘も泣くでしょうよ」


「今日だって道に迷ってどれだけ不安だったか……っ!」


 また泣き出しそうになる美桜の背中を澄香がぽんぽんと叩いた。彼女からしてみれば、子供に等しいものがあるのだろう。その目はどこまでも慈愛に満ちていた。この身長差ならそれこそ本当の親子に見えなくもない。親同士なのに。


 ちなみに、澄香と美桜は年齢的には三つしか変わらない。華苗はこの先どんなにがんばっても大して成長しないことを暗に意味していた。


「それより華苗ちゃん、ちゃっぴぃって何?  さっき美桜さんがいってたんだけど」


「あー、ウチの造語で茶髪でピアス、です。ギャルの総称ですね」


「あ、あたしピアスはしてないよ!? 髪ちょっと染めてるだけで!」


「わ、私も至って品行方正だよ! ギャルなんかじゃないよ!?」


 澄香がいたからだろうか、青梅と双葉が慌てふためいて弁明した。不良だと思われたくないのだろう。すがるような目で澄香を見ている。そうするくらいなら染めなければいいのにと華苗は思った。


 まぁ、なんて言って美桜は頬を染めてその二人を見る。この母親は、変なところで鋭さを見せる。


「ん、悪い子じゃないの目ぇ見ればわかるよ。ホントにただちょっと染めてるだけだし」


 その言葉にあからさまにほっとする二人。二人の茶色でふわふわの髪が風に揺られていた。ふと気付くと、いつの間にやら田所と森下、柊が消えている。仕事は済んだということでさっさと行ってしまったらしい。


 あたしたちもそろそろいくね、とよっちゃんと清水も去っていく。母がよっちゃんたちにぺこりとお辞儀をしていたのが華苗に目についた。こういうところも、恥ずかしい。


「なんで染めてるの? 今はいいけどあたしくらいの年になると傷むよ? 二人とも染めなくても十分に可愛いのに」


「あの、その……」


「す、好きな人がこういうのが好きって……」


「いいねぇ! 青春しているねぇ!」


 顔を真っ赤にして答える二人。澄香は一人で盛り上がっている。その好きな人はすぐ隣にいて、質問しているのはその好きな人の母親なのだ。


 どうやら意外にも楠の好みは茶髪らしい。今日は驚くべきことが多すぎる。そんな華苗を見ていたからか、秋山が深刻そうな顔をしてちょっと耳貸して、と華苗に近づいてくる。なぜか美桜も眼を輝かせて寄ってきた。


「オレさ、去年あの二人からあいつの好み調べてくれって言われたんだよね。で、それとなく好みの色とか髪とかあるかって聞いたらしばらく考えて、茶色でふわふわなのが好きって言ったんだ」


「あの人色恋沙汰とか無縁だと思ってましたけど、そういうところもあるんですね」


「ま、男だからな。で、結果を伝えたすぐ後にあの二人は髪を染めて髪型も変えた。そんときゃ、まぁがんばってるなくらいしか思わなかったんだけどさ」


「甘酸っぱいですね! ママもパパと会ったときはそんなだったんだよ!」


「おかあさん、今そういうのいいから」


「……後日、その件についてそれとなく楠に話をふったらさ、あいつ、髪型とか特に気にしないとかいいやがるの」


「え? 茶髪のふわふわは?」


「……それあやめさんとひぎりさんの毛並みだろ? あいつ、こともあろうに好きな鶏の毛並みを答えやがったんだ! いや、今考えればオレの質問の仕方もちょっと悪かったと思うよ!? けどさ、普通文脈で判断しねぇ!? つーか鶏の毛並みの好みを答えるか!?」


「……」


「……」


 オレはこの事実をあの二人に教えられなかった、と秋山は悔しそうに続けた。それを教えるのを躊躇うほどにあの二人は眩しく輝いていたからだ。華苗だって、この事実を突き付ける勇気はない。能天気な美桜の顔すらひきつっていた。


 そして、顔をひきつらせていたのはもう一人いた。


「……」


 ぴき、ぴきと澄香のこめかみに青筋が立っていく。そして、ぶつっとなにかが切れる音がした。


「こ、ん、の、バカ息子が! 乙女の気持ちをなんだと思ってんだ!」


 どうやら澄香は声がでかいだけでなく耳もいいらしい。怒りで完全に眼がすわってしまっていた。


 あまりの形相に珍しく楠がその鉄面皮を崩し、恐怖に瞳を振るわせている。いくら楠でも、母親には敵わないようだった。


 がみがみ、くどくどと澄香は怒鳴りつづける。青梅と双葉がなだめようとするも、彼女はその二人のために怒っているのだし、理由はどうあれ今回は間違いなく楠が悪い。華苗も助ける気はない。青梅達に聞かれなかったのが幸いだ。


 澄香の説教は面談時間が近づくまでずっと続いていた。








「どうもお待たせしました、どうぞ……?」


「あれ、華苗ちゃんお母さんは? その人お姉さん?」


「あ、この人私の母です」


「「!?」」


「ゆきちゃん、聞こえてると思いますけど、この人私のおかあさんですから」


 入れ替わりで出てきて眼を丸くしているクラスメイトとその母親に声をかけ、軽く手を振りながら華苗はゆきちゃんに声をかける。教室で眼を丸くしているゆきちゃんを確認し、華苗は机をくっつけて作った席に母と一緒に座る。三者面談が始まった。


「あの、失礼ですが本当に華苗さんのお母さんですか?」


「はい! そういわれると思って保険証も免許証ももってきました!」


 美桜はにこっと笑ってバックから保険証と免許証を取り出す。小学校の個人面談の時からのやり取りなので慣れているのだ。


 美桜の年齢を見て眼を見開いたゆきちゃんはまじまじと美桜の顔を見る。華苗には言いたいことがよくわかった。


「……失礼、お茶をどうぞ。あとつまらないものですがクッキーも」


「まぁおいしい。麦茶もうちのよりいいものですね。クッキーは調理部のですか?」


「おや、知ってらっしゃるので?」


「ええ、先ほどちょっと」


「おかあさん、ゆきちゃん、早くやりましょうよ」


 おほほ、と猫を被ったように微笑みあう二人にしびれを切らした華苗は思わず声を出す。できるだけ早急にこの教室から出たい気分だった。


「こら、かなちゃん。先生に向かってその口の利き方は何ですか!」


「はは、まあアダナみたいなもので半分諦めております。さて、華苗がいつも通りなら先生もいつも通りでいいな?」


「ええ、びしばしお願いします!」


「お、お手柔らかに」


 ゆきちゃんは手元の厚いファイルをぱらぱらとめくり華苗の個人データをすっと差し出す。こないだのテストの成績と今まで遅刻欠席早退回数の表だ。


「今のところは無遅刻無欠席無早退です。授業も真面目に受けてますし、居眠りなんかもしてません」


「さすがかなちゃん! ママは信じてたよ!」


「こないだのテストですが、数学が低めとはいえおおむね平均より上のラインですね。特に国語と化学は八割超えです。数学をちょっと頑張るくらいで、特に問題はありません。とはいえ、油断せずに勉強を続ければの話ですが」


 一番不安な成績の話だ。たしかに数学が今回ちょっと低い。さすがに赤点ではないが、ギリギリ六割と言ったところ。他のはだいたい七割とっているだけに、ちょっと心が痛む。


「一つくらいはしょうがないけど……がんばるようにね?」


「はい、善処します」


「対処しような」


 呆れたようにゆきちゃんが言った。苦手なものは苦手なのだ。六割取れただけマシなのであり、穂積プリントがなければ半分もできていなかっただろう。美桜も数学は苦手だったらしく、そこらへんは大目に見てもらえるのが幸いだ。


「学業面ではこれくらいですが……他になにかありますか?」


「かなちゃん、クラスにうまくなじめてますか? 昔っから引っ込み思案で人見知りの激しい子なので……」


 あなたがいうな、と華苗は突っ込みたかった。先ほどまで校舎で迷って半べそかいていたのはどこの誰だったか。


 華苗はこの高校で精神的にかなり鍛えられている。少なくとも、今の美桜よりかは遥かに上のはずだった。不安そうに聞く美桜に、ゆきちゃんは笑って言う。


「馴染めてますよ。最初こそやや積極性に欠けている節がありましたが、今はそんなことありません。いつも頼子と史香と……女の子三人組でいますし、最近は男子でも幹久や克哉なんかと一緒にいるのをみるような。なぜかクラスから頼りにされているような節もありますし」


「えと、さっきの子たちね? 頼りにされているって言うのは?」


 クッキーを齧りながら美桜は聞いてくる。それになんと答えようかと華苗は悩んだ。


 頼りにされているというか、オーバーオールの受け渡しのその時に、いわゆる華苗のイメージと言うものがクラスのみんなについてしまっただけだ。なかば冗談のようなところもある。とはいえ、これを長々と説明するのも気が引ける。


「ん、成り行き?」


「そう。ならいいよ。……部活のほうではどんなですか? よくお野菜や果物を持ってきてくれるんですけど、結構な量がありまして」


「……何と説明したらいいものか」


 ゆきちゃんはううむ、と眉を曲げた。たしかに、何と説明すればいいのかわからない。この学校では当たり前のことだが、世間一般では当たり前ではないのだ。


「それに部員も少ないって聞きましたし……うまくやっていけてるのか」


「おかあさん、さっきの楠先輩、園芸部だよ? あの人と私しかいないけど」


「そうなの? じゃあ他の子たちは? みんな同じ部活じゃないの?」


「えーと、友達の女の子が調理部とお菓子部。女の先輩二人もそうだね。あとはサッカーとか合気道とか、超技術」


「ちょうぎじゅちゅ?」


「この学校は変わった部活が多くあるんですよ。それと部活同士のつながりが深いからその部の人数が少なくても実際の活動は大勢になる傾向があるんです。私が顧問しているお菓子部と調理部なんか実質一つの部活のようなものですし、この二つと園芸部がいっしょにやることもよくありますね。この前なんて、全部活を交えて作業しましたよ。その麦茶がその成果ですね」


 母が噛んだのをスルーしてゆきちゃんは一声で言い切った。美桜はその説明を一言も逃さないように聞きいる。


 基本的に、美桜は受け身なタイプだ。自分であれこれ聞くよりも、他人から説明してもらうほうが頭にきちんと残るのである。ゆきちゃんも、その辺を見抜いたのだろう。


「ってことは、かなちゃんはちゃんとやっていけてるんですよね?」


「ええ。その辺は心配ありませんよ」


「よかったぁ」


 そう言って二人は麦茶を一口飲んだ。おいしい、といって美桜はコップを置く。コップの中の氷がからりと音を出し、心地よい空気が教室に流れる。香ばしい香りが華苗のほうにまで漂ってきていた。


「華苗のほうからはなにかあるか? 正直、先生からはこれ以上特に話すことはないんだけど」


 ゆきちゃんに話を振られるが、華苗としても何も言うことはない。家での話などとりとめもない話題がしばらく続いたところで面談時間は終わった。


 最後のほうなんてほとんどただの世間話だ。ゆきちゃんが華苗が教室の花を活けたくれただとか話すたびに、美桜が得意そうに華苗の頭をなでる。華苗はそのたびに恥ずかしい思いでいっぱいになった。


「さて、残念ですけどここらでお開きですね」


「今日はありがとうございました! ほら、かなちゃんも!」


「……ありがとうございましたぁ」


 ぐったりと疲れたように、いや実際疲れ切った華苗はほっと息をついて席を立つ。ちゃっかりとクッキーのあまりまで貰ってしまった美桜は実にうれしそうな顔をしていた。


 美桜は最後にもう一度ぺこりとゆきちゃんに頭を下げ、華苗を伴い教室を出る。美桜が外で待っていた男子生徒ににこっと笑いかけて終わった旨を告げると、男子生徒とその母親は眼を丸くしていた。


 男子生徒はまじまじと華苗と美桜の顔を見比べている。あはは、と適当に笑って流した華苗は美桜の手を引っ張って早急にその場を離れた。


「おかあさん、終わったから早く帰ろうね。ちゃんと出口まで送るから」


「え? ママ、さっきのちゃっぴぃの子に調理室でみんなでお茶会しましょうって誘われてるんだけど……」


「いつの間に!?」


「藤枝先生もかなちゃんの部活の成果や交友関係が見られるからぜひって。この学校って面談の後は部活を見に行くのが通例みたい」


「余計なことを……!」


「かなちゃん、後半のお話あんまり聞いていなかったみたいだね」


 今度は美桜がぐっと力強く華苗の手を握り返し、華苗を引っ張っていく。ルンルン気分で鼻歌まで歌うほどの上機嫌だ。一体何がそんなにうれしかったのだろうか。


 手を引っ張られているのでしょうがなく華苗もそれに同行することに決めた。この母親を調理室に一人で放り込むわけには絶対に行かない。何を口走られるかわかったものじゃないからだ。


 はぁ、と華苗は小さくため息をつく。お茶会するのが確定ならば、さっさとお菓子でも料理でもなんでも詰め込んで帰宅させるべきだろう。それに、先ほど美桜はみんな、といった。つまりきっと澄香やその他のメンツもいるわけだ。そこまで美桜が目立たないと信じたい。


 事実、調理部やお菓子部の保護者や関係者がこの時期は頻繁に出入りしているので背の高い澄香はともかくちんまい美桜が目立つことはない。……余計なことを喋らなければの話だが。


 しかし残念なことに、予想を簡単に裏切る上に余計なことを喋りたがるのが母と言う生き物なのだ。華苗はもう一度、小さなため息をついた。






 そして、歩くことしばらく。華苗がこれからのことに思いを悩ませていると急に美桜の足が止まった。いぶかしんで美桜を見る華苗。美桜は震える声で言った。


「調理室、どこぉ……?」


 美桜はこういう人なのだ。その子供じみた不安そうな顔を見て、すべてがどうでもよくなってしまった華苗はしょうがないな、と苦笑いして母の手を握り返す。


「もう、しっかりついて来てよ?」


 今度は自分が母を引っ張って調理室に向かっていった。理由はわからないが、今回くらいは大目に見てもいい気分になったのだ。


 ぺたんぺたんとスリッパと上履きの立てる音が長い廊下に響き渡る。やがれそれは遠ざかっていき、廊下は何事もなかったかのように静まり返った。グラウンドからは運動部の元気のよい声が聞こえていた。



20160410 文法、形式を含めた改稿。


女の子→華苗ママ

女の人→楠ママ

でした。ウソは言っていない。ウソは。


さりげなく楠は名前が出ていませんでした。

初登場のときも名簿にも名前出ていなかったでしょ?

一応主人公なのにね。25万文字以上書いてようやっとだよ。


ごついけど女っぽい名前ってやりたかったんだ。

みんなをびっくりさせたかったんだ。


親同伴でクラスメイトに会うとなんかお互い気まずい。

あとカーチャンはやたら物事を誇張表現する。

ぜんぜんちょっとじゃねぇじゃんって思う。


すんごいちまい生徒とすんごい若くて小さい保護者を見かけたことがある。誰だったんだろあれ。

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