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楠先輩の不思議な園芸部  作者: ひょうたんふくろう
楠先輩の不思議な園芸部
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33 学び舎の迷い子と尋ね人・前

今日は園芸なっしんぐ。

さぁ、地獄の三者面談の始まりだ。


 学校は基本的には楽しいところであるはずだ。そりゃ、つらいことだってあるし嫌なことだってないわけではない。それでも、本来学校は楽しい場所であるべきはずのところなのだ。


 机を並べる学友と共に勉学に励み、無駄話をし、バカなことして笑いあう。部活で青春の汗を流し、体育祭、文化祭でとびっきりの思い出を作る。なんとすばらしいことなのだろう。


 さて、そんな楽しい場所であるはずの学校だが、楽しくないイベントもある。


 ──三者面談と言うやつだ。


 園島西高校でも多くの高校と同じように、中間テストの終わりから夏休みにかけての時期にそれは行われることになっている。成績の悪いのにとっては地獄のようなイベントだ。成績が良いのだって、何を言われるかわからずビクビクしている。このイベントは全ての生徒にとって楽しいものではない。


 他の学校とちょっと違うのは、保護者に混じって生徒の弟や妹が見学に来るところだろう。お兄ちゃんやお姉ちゃんの部活を見学したり、校舎内を見て回ったりする。ちょっとはやい非公式の高校見学が行われているのだ。


 それゆえに、問題も起こる。この園島西高校はかなり大きい。自然も豊かで設備も豊富。初めてここを訪れる人間は大体迷う。面談の行われる教室にたどり着けない保護者は続出するし、見学中に迷子になる子もいっぱい出る。


 そう、ちょうど華苗の前にいる女の人のように。



「ちょっとごめんね。ウチのミズキを知らないかい? 中に入ったところで待ち合わせをしたはずなんだけど……」


 校門からちょっと歩いたところにある昇降口。そこで華苗は背の高い女の人に声をかけられた。体が細いせいか、楠より高く見える。いや、本当に楠よりも高いかもしれない。


 頭の上から降ってくる声には楠で十分に慣れたつもりだったが、今聞こえるのは男の声ではなく女の人特有の声だ。


 女にしてはちょっと低めの声でどことなく男勝りの印象も受けるが、女優さんみたいでかっこいい声だった。


「ミズキちゃん、ですか? ちょっと私はわかりません」


 今日の華苗はオーバーオールを着ていない。これから三者面談があるからだ。面談週間は半ドンで授業が終わる。華苗の面談が始まる時間は割と最初のほう。がっつりと部活をしていると時間に遅れてしまうため、今日は面談をしてから部活に行くことになっている。


 ところが中途半端な時間に入っているために短くない空き時間が出来てしまい、適当にぶらぶらしていたところを声をかけられたのである。


「そっか、悪いね、時間取らせて」


「いいえ、こっちもお力になれずすみません」


 申し訳なさそうにする女の人をみて思わず華苗も口に出す。HRで迷子の人を見かけたら積極的に助けるよう通達されてはいたが、まさか本当にそういうのに遭遇するとは華苗は思ってもいなかった。


 そもそも、そのミズキというのは何者なのだろう。見学に来た子なのか、学校の生徒なのか。


 まぁ、学校の生徒だとしたら待ち合わせをポカするはずもないだろう。となると、一緒に見学に来た子と見るのが自然か。


 ちらりと華苗は時計を見た。華苗もおかあさんと待ち合わせの約束をしているが、その時間までは十分すぎるほどの空きがある。


 たまには人助けするのもいいだろう。ただぶらぶらしているのも暇だし、時間つぶしにはもってこいだ。


「よかったら一緒に探しませんか? 私、時間ありますし。それにここ、けっこう迷いやすい場所なんですよ」


「本当かい!? そりゃ助かるよ!」


 実際、その女の人も迷っていたのだろう。華苗の提案にぱぁっと顔を輝かせ、今にも小躍りしそうな雰囲気だ。これだけ喜んでくれると華苗としてもなんだか嬉しくなってくる。


「ミズキちゃんってどんな子です?」


「ええと、ぼそぼそ喋っていて声はちょっと聞きづらい感じだね。誰に似たのか、少し無口なところがあるんだ。あ、背は小さいね。あなたよりちょっと大きいくらいかな?」


 引っ込み思案な子なのだろう、と華苗は当たりをつけた。ちょっと前の自分と似ていなくもない。まだ見ぬミズキちゃんに親近感を抱く。それに、もしかしたら、未来の後輩になるのかもしれないのだ。


「じゃ、適当に部活まわってみましょう。どこかで夢中になっているのかもしれませんし」


 そう言って華苗は背の高い女の人と一緒に歩きだしていった。ごくごく自然に手をつながれてしまったが、悪い気分はしない。はたから見れば、華苗のほうが見学に来た中学生のように見えた。











「よォ、楠。おまえ今ヒマかァ?」


「ヒマだよな! つーかヒマって言ってくれ!」


「…暇と言えば暇ですが」


 華苗が背の高い女の人と会うちょっと前。楠は畑から出てきて昇降口に入るところを秋山と森下に呼び止められた。


 実は、楠も今日は三者面談の予定が入っている。そのためあやめさんとひぎりさんのお世話を華苗に頼もうとしていたのだが、華苗のほうも予定が被っていたため、それだけちゃちゃっと済ませてきたところだ。


 もちろん、楠は華苗に自分も三者面談があるとは話していない。楠は変なところで華苗に気を配る。


「……誘拐ですか?」


「……っ!」


「ちょ、おま、そりゃひどくね?」


「声かけたときにめっちゃビビッてたのは否定しねェぜ?」


 二人が連れていたのは背の高さからして中学生くらいの女の子。可愛らしくありながらも落ち着いた色合いをした大人っぽい服を着ている。目元にわずかに涙を貯め、おろおろと楠を見ては視線をそらしていた。


 運動部特有のチャラさを持つ秋山に奇妙でどこかうさんくさい森下。その二人に囲まれているのを見ると、どことなく犯罪のにおいがしてくる。


「真面目な話、迷子っぽい」


「渡り廊下のところでキョドっててよォ。声かけたはいいがビクついて話しになりゃしねェ」


 そういうと森下はパチンと指を鳴らす。それと同時に何もなかったはずの手から飴玉が二つ湧き出してきた。オレンジとイチゴ味だろう。


 それを女の子の眼の前に差し出すと、女の子はびくっと震えながらもそれを受け取った。


「……反応はしてくれんだよなァ。さっきからずっとこんなだ」


「オレも話しかけてんだけど、あんま効果ない」


 飴を口に入れた女の子はまたプルプルと震えだす。こんな大きな見知らぬ場所で、男子高校生に囲まれているのだ。それも、楠に至っては顔つきや体格は番長のそれに近い。震えてしまうのもうなずける。


「…君、お家の人を探しているのか」


 楠はできるだけ優しく語りかける。そのギャップがよかったのだろうか、一瞬女の子は顔をぱあっと輝かせこくんと頷いた。それを見た森下がオオ、と声をあげる。


「ねぇねぇそれってどんな人? どっかで待ち合わせしたりとかしてないの?」


「……あのっ……そのっ……!」


「…無理に話さなくていい。一緒に探してやる」


「お願いします……っ!」


「あれ、オレのがんばりは? 必死に語りかけたオレよりなんで楠に心開いてんの?」


「良いじゃねェか。オレなんかさっきから一言も口きいてもらってねェぜ?」


 拗ねる秋山に諦めた森下。楠は女の子がリラックスするようちょっともいできた桃を手渡す。さすがにこの場で食べることはできないだろうが、気が紛れればそれでいい。女の子は嬉しそうに両手で桃を持った。


「…じゃ、探しにいくぞ。ついてこい」


「……はいっ!」











「あ、よっちゃんに史香ちゃん!」


 華苗が女の人を連れて真っ先に行った場所は親友二人のところ──すなわち、調理室である。女の子もいっぱいいるし、情報源としてはこの上ない。というか、ビビりの華苗が一人で行ける所なんてここくらいしかない。


「あ、華苗ちゃん! ……と、どちらさま? まさか華苗ちゃんママ?」


「ううん、違うよ。この人、ミズキちゃんって子を探してるの」


 華苗は今までの経緯を簡単に二人に話す。背の高い女の人もミズキの特徴を話すが、二人はその人物に心当たりはないようだった。調理室にいるメンバーにも話を聞くも、誰もミズキのことは知らないらしい。


「なにやってんだか、ミズキのやつ……」


「まぁまぁ。そう簡単にみつかるはずないですよ。そういえばよっちゃん、青梅先輩や双葉先輩は?」


 華苗はふと気付いたのだが、調理室にいるはずのメンバーが何人かいない。二、三年が半数近くいないのではないだろうか。なんだかいつもより活気がない。パンやお菓子のいい匂いだけがしているだけに、余計にどこかさびしく見えた。


「えとね、面談用に教室にクッキーとか届けに行ってるよ~! 華苗も食べる?」


「食べる……けどその前にやることやんないと」


 大変魅力的なお誘いではあるが、まずはミズキの探索だ。華苗がそう答えるのが予想外だったのか、清水もよっちゃんも驚いた顔をする。


 その表情に女の人が堪え切れないように笑いだした。なんだかちょっと悔しい気もするが、怒るべきはよっちゃんたちだ。口を膨らませ、華苗は無言の抗議をした。が、よっちゃんたちも笑いだした。


「むー……」


「あはは、華苗ちゃん、すっごくおもしろいよ!」


「怒るな怒るな、あたしたちも手伝うからさ」


 華苗は最初からそのつもりで来ている。なんだか割に合わない。女の人がぽんぽんと頭を撫でてくれた。それを真似してよっちゃんも頭をなでる。清水はいまだにけらけらと笑っていた。やっぱり理不尽だ。


 よっちゃんと清水はちょっと席をはずすと声をかけてエプロンを脱ぐ。探索メンバーは四人になった。さて、次はどこに探しにいくべきか。








「なに? もしかして邪魔しちゃった?」


「むー……」


「邪魔? 何のだ?」


 楠達が来たのはパソコンルーム。中ではパソコン部員が懸命になにやら複雑な操作をしていた。黒い背景に白い文字が次々と踊りだしているものもあればアニメーションを作っている者もいる。カチカチというクリックの音とカタカタと言うキーボードの音が響いていた。


「どう見たってお楽しみ中じゃねェか」


「イヤホン、一つしかつけられなくてな。音出すわけにもいかないし、同時に聞くにはこれしかない」


 そんなパソコンルームの一角で仲良く音楽を聞く男女がいた。穂積と桜井。一つのイヤホンを二人で片方ずつ着ける──いわゆる恋人スタイルだ。


 そして、桜井はパソコン部ではなく吹奏楽部だ。本来この場にいる人間ではない。


「堂々とイチャついてんじゃねーか!」


「……なんのことだ? これ、桜井に協力して作ってもらったゲーム音楽でな。確認作業なんだから一緒に聞かないと意味ないだろう」


 イヤホンを外し、椅子をきい、とまわして穂積は楠達に向かい直す。一度眼鏡を外し、軽く目頭もんでから再び眼鏡をかけた。


 桜井はそんな穂積を見て頬を膨らませている。いつのまにか、その腕の中には女の子が捕えられていた。


「で、何の用だ?」


「…その子が家族を探しています」


「……っ!」


 楠のその一言だけで全てを察した穂積は女の子をじっと見る。身をよじらせようとした女の子だったが、桜井にがっちりホールドされて動けない。かわいーっ! と桜井は嬉しそうに抱きしめていた。


「……見たことないな。少なくとも、三年の関係者ではないはずだ。調理室でも見ていない。故にお菓子、調理部の関係者でもない。探すならそれを考慮しろ」


「え、わかんの?」


「当然だ。パソコン部だし」


「コールドリーディングと……カウンティングかァ?」


「まあ、似たようなもんだ。記憶と現状の手がかりから推測してるだけだがな。ああ、放送による呼び出しはできないぞ。迷子にいちいち放送は使えないそうだ」


 楠がここを選んだのには理由がある。穂積の洞察力と、校内放送だ。


 校内放送をかけられれば一発でカタがつくとはいえ、やはり物事そう簡単にうまくいくはずもない。洞察力が高くても、個人の特定に至るはずもなかった。


「人海戦術でいけ。調理室で手駒を増やすんだ。女子のネットワークは侮れない」


 穂積は最後にアドバイスをしてパソコンに向き直る。桜井がまたねーっ! と元気よく手を振っていた。










「あ、田所! それにかっちゃん!」


「あれ、皆川さん? 清水さんに八島さんも」


「田所、アンタ部活はどうしたのよ」


「さっきまでやってた。迷える子羊がいたんで送ったとこだ」


 廊下でばったり会ったのは田所と柊。どうやら彼らも迷子を一人送り届けたところらしい。田所はジャグリングのボールを持ち、柊は合気道着を着ている。二人とも部活の途中だったようだ。華苗は柊が合気道部だったことを初めて知った。


「で、その背の高い人は迷子か?」


 女の人を見上げた田所がちょっとぶしつけに言い放つ。女の人はそれに気を悪くした様子も見せず田所を見ると、軽く息をついてから話しだした。


「迷子っていうかウチの子を探してるんだよ。ミズキっての、知らないかい?」


「おれ知らね。柊しってる?」


「僕も聞いたことないなぁ」


 やはりというか、田所達も知らないらしい。華苗よりちょっと高い背、無口でぼそぼそ喋る──特徴を説明しても、心当たりはないらしく、頭を捻っている。合気道部はともかく超技術部に気弱な女の子が部活見学に行くとも思えないし、期待するのは間違いだというものだろう。


「調理室はハズレだったんだよね」


 調理室以外で女の子が行きそうな場所を華苗は思いつかない。美術部や文芸部、その他運動部だってあるのだが、中学時代帰宅部で高校での交遊もたいぶ限られている華苗には思いつけるはずもない。


「ま、いいや。ついでだし手伝うぜ」


「僕も部長に面談週間は全力で人助けしろって言われてるしね」


 華苗達とは行動範囲の違う二人が仲間に加わる。順調に探索メンバーが増えているが、一向にミズキの情報はつかめない。ここまでくると、もしかしたら意図的に逃げているのではないかと思えるほどだ。一人くらい、見たって人がいてもいいのに。


 六人はあれこれミズキのいる場所を予想する。園島西高校は広いとはいえ、無限の大きさを持つわけではないのだ。しらみつぶしに探せば、いつかは必ず見つかるはずなのである。











「うまそうな匂いだなァ。ピーチパイか? 一口くれよ」


「あ、そっちのならいいよ! その子のも切り分けてあげて」


「ねぇねぇサンドイッチは好き? たくさん食べていいんだよ?」


「……ありがと、ございます……っ」


「あれ、オレのウィンナーのストック減ってね?」


「あ、それなら悪くなりそうなのがあったからよっちゃんがホットドックにしてたよ。あっちのレンジに入ってるからおやつにどうぞって」


「お、マジだ! うっは、ちょううまそう!」


 穂積のアドバイスに従い、楠達は調理室にやってきていた。ちょうど青梅達も戻ってきており、活気を取り戻している。


 あちこちでフライパンが火を吹き、お菓子の甘い香りがしている。女の子も髪を染めている青梅達に若干ビビりながらも、おいしそうにピーチパイやサンドイッチを食べていた。


 森下は双葉の作ったピーチパイに舌鼓を打ち、秋山はよっちゃんのつくったホットドックを頬張っていた。楠は自分のとこで採れた果物を皿に盛り付け、女の子の前に置く。まるで小動物のように女の子はそれに手を出し、にこっと笑った。


「はぅあああ……この子可愛いぃぃぃ……!」


 お腹が減っていたのだろうか、その女の子は無言で黙々と食べ続ける。青梅や双葉が擦り寄って抱きしめても、まるで意に介さず夢心地で貪っていた。顔はとろんとして、いかにも幸せそうである。


「…それで先輩、この子が家の人を探しているのですが」


「あー、それならね、有力情報があるよ?」


「さっき、保護者を連れた華苗ちゃんがここに来たんだって。人探ししてるみたいで、いまいろんなとこ探しているみたい」


「…あたりか?」


「……はいっ!」


 顔をぱぁっと輝かせ、その子はこくりと頷いた。もう随分と青梅達には心を許しているらしく、初めてのころよりかは喋られるようになっている。


 やはり、男より女のほうが安心できるらしい。もう少しで会えるというのもあるだろう、顔も明るくなっている。


「ありがとう、ちゃっぴぃさん……!」


「……え? いまなんて?」


「……な、なんでもないですっ!」


 なにかをごまかすように女の子はピーチパイを齧った。楠はとりあえず彼女が食べ終わるのを待つことにする。


 ここまでくれば、問題は解決したも同然だ。なんとかして華苗と合流すればいいだけなのだから。











「いない……」


「すまないな。それらしいのは見ていない。中学生なら目立つはずなんだが……」


 申し訳なさそうに謝る柳瀬に失礼しました、と頭を下げ華苗は武道場から出る。被服部、美術部、文芸部と覗いてみたがどこにもミズキはいなかった。武道場にまで出張って剣道、弓道、柔道部と見て回ったのだが全てはずれ。


「合気道にも来ていないみたいだね」


「校庭のほうにも来ていないっぽい」


「ほんっとにあいつはどこをほっつき歩いているんだ……!」


 田所と柊も一度別れて探してはくれたものの、見つけられなかったらしい。武道場の前で落ち合った六人はぐったりとした顔で互いに報告をする。


 女の人はもうカンカンだ。さっきからぶつぶつと文句を言っている。愛情の裏返しだと華苗は信じたい。


「入れ違いになっちゃってるのかな~?」


「それはなくね? だったら少しは情報が入る」


「あと行ってないのは畑と古家くらいじゃない?」


「や、でも畑はたぶん入れないよ」


「初心に帰って待ち合わせ場所に行くというのはどうだろう? 意外とそこで待っているかもしれないよ?」


「ごめんね、本当に。無駄に時間使わせちゃってさ」


「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」


 にこりと柊が女の人に笑いかける。あいつにこれだけの愛想があれば、と女の人は呟いた。


 ここにとどまっていても仕方がないと六人は歩き出す。とりあえず、中庭へ。そこから昇降口へ。それで見つからなかったら古家に行くしかないだろう。あの古家に部外者が立ちいるとは思わないが、可能性はゼロでない。


 そこにもいなかったら、そのときは華苗の人脈全てを使うしかない。ここまで来たのだ、中途半端では終わらせられない。楠でも、人助けなら協力してくれることだろう。


 華苗がそう思っていたときだった。前方からやたら賑やかな集団が近づいてくる。聞き覚えのある声だ。


 無駄に体格のよい大男、運動部特有の元気のよさがある少年、奇妙で胡散臭い雰囲気を撒き散らす少年、明るく溌剌した雰囲気の少女が二人。


 そして、それらの真ん中にいる、中学生くらいの背丈をした女の子。妙におどおどしているのが印象的で、楠の隣できょろきょろとしている。そして、その顔を見て華苗は気づいてしまった。


 向こうがこちらに気づくのと、こちらが向こうに気付いたはほぼ同時。あ、と女の人は声をあげ、女の子はぱぁっと顔を輝かす。


「ミズキぃぃぃ!」


「うわぁぁぁぁん!」


 背の高い女の人と小さな背丈の人は同時に走り出す。


 そして──





 ぺちん!




「こんの、バカタレがぁ!」


 女の人は頭をぺちんと叩いた。愛の平手、というものだろうか。親が子供を窘めるときのように、軽くぺしっと。


 ただし、叩かれたのはその女の子ではなく別の人物である。




20160409 文法、形式を含めた改稿。


叩かれたのはいったい誰だ!?

小さな女の子の正体は!?

ミズキとはいったい何者なのか!?

衝撃の真実が次回明らかに!


いやまぁ、バレバレなんだけどさ。三流スクープのノリで。


思えば何度か迷える子羊さん達を教室に送ったっけなぁ。

あと、ろくに話したことのない女の子のお母さんから声をかけられたことがある。うちの娘はなにやってるって。もう授業は終わったんじゃないのって。見た目だけは真面目そうだったから声掛けやすかったのかね?

というか、なにもアダナで呼ぶこともないだろうに。お友達に聞けばいいものを。


一つのイヤホンを恋人が二人で使うの、なんていうんだろ?

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