28 文芸吹奏ベリーベリー!
「あ、どうもです」
「こんにちは~♪」
いつも通りの時間。いつも通りの畑。ギラギラと輝く太陽は容赦なく華苗の肌を焼き、じりじりと汗をふきださせる。
相変わらず、暑い、いや熱い。
畑の土のにおいがより一層強く感じられ、ほこりっぽくて敵わない。切実に、潤いがほしかった。雨がふれば少しはマシになるだろうと華苗は思う。……降ったら降ったで今度は蒸し暑くなるのだろうが。
「…あっちぃな」
さすがに楠でもこの暑さには辟易しているようだ。表情こそ変えていないものの、口調がいくらか愚痴っぽくなっている。目は、いつも以上に死んでいた。
華苗は麦わら帽子を目深にかぶりなおし、首元の汗ふきタオルで目元をぬぐう。汗が目に入ってちょっと痛い。
「…今日はさっさと切りあげる。テストも近い」
「それはわかりましたが、そちらは?」
楠と一緒に畑にいたのは二人の女子生徒。流れを考えるならば、やはりどこかの部長だろう。この子供っぽい人はつい先日見たばかりだと華苗は思い出す。穂積に数学を教えてもらっていた、吹奏楽部の部長だ。
もう一人のおさげの眼鏡をかけた、どことなく文系の雰囲気を漂わせている女子生徒もどこかでみたような気がする。はて、どこだったかと考え込む華苗だったが、部長だと仮定するのであれば部長会以外にない。
「わたし、吹奏楽部長の桜井 春香です♪」
「私は文芸部長の栗栖 輝実っていいます。今日は、よろしくお願いしますね」
「よ、よろしくお願いします」
ふふんふん、と鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気に桜井が隣にいるせいか、栗栖はいくぶん大人びているように華苗の目には映った。後輩である華苗に対して丁寧語を使っているのもその一因だろう。
栗栖が華苗に丁寧語を使っているのはそれが地の話し方だからというだけである。生まれつき内気だった栗栖は自然と初対面と話すときは丁寧語になってしまうのだ。ものすごく親しい友人や家族だったら幾分砕けた言い方をすることもあるが、難儀なことに知人、友人程度の間柄でも丁寧語を直すことができない。
それでもこの高校に入ってから結構改善されたほうなのだ。未だに大勢の前に立つと、それが親しい人たちの前であっても丁寧語どころかびびって早口になったりする。今回は純粋に人数が少ないのと、メンツがよかったために普通に話せている。
秋山辺りがこの場にいたら、たぶんまともに話せないだろう。彼女は賑やかな男はあまり得意でないのだ。
「てるてる、もっと楽にいこうよ~」
「これでも、随分がんばっているんですよ……」
きゃっきゃと笑いながら桜井が栗栖をたしなめる。天真爛漫、無邪気で子供っぽい桜井とウマがあったのは、そういう面があったからだろう。気負う必要もなければ気を使う必要もほとんどない。
「で、今日はなにやるんです? 新しいのやりますか、それとも植えてあるのの管理ですか?」
「…新しいのだ。栗栖先輩が小説のネタの参考にしたいらしい。桜井先輩は純粋に食べたいらしい」
「だっておいしいんだもん!」
「先日の勉強会で、ふっと閃きまして。アイデアがわいているうちに実物を見ておこうかと」
となると、今回も野菜か果物だ。考えてみれば、華苗はこの園芸部に入ってから完全に観賞用の植物を育てたことはあまりない。ラベンダーはお菓子部がアイスにするとかハーブティーにするとか言っていたし、バラもまた同様だ。今回はなんなのだろう。
「…今日はラズベリーとブラックベリーだ。暑いからさっさと終わらせるぞ」
「おー!」
掛け声をあげたのは桜井だけだ。そして、まさかの二種、まさかの連続ベリーだった。
当然といえば当然であるが、ラズベリーとブラックベリーは非常によく似ている。育て方もほとんど同じだし、収穫時期や最適な気候条件だってだいたい同じだ。
ブラックベリーはラズベリーより少し樹高があり、耐寒性はあるがラズベリーに比べるとそれは弱い。また、ラズベリーよりも収穫期間がちょっと長い。
が、ラズベリーには二季成り性のものがそれなりにあるのに対し、ブラックベリーにはあまりない。また、棘はブラックベリーのほうが鋭い。あえて違いをあげるのだとすればこれくらいだ。
「…基本はブルーベリーと同じだ。しかも、あれよりはるかに楽で育てやすい」
ラズベリーもブラックベリーも育てやすい品種だ。病気にも強いし、耐寒・耐暑性にも優れる。ほっといたらどんどん増えていた……なんてことも起きかねない。
「これが苗ですか。思っていたよりも大きいですね」
栗栖が二つのベリーの苗を見て手もとのメモ帳にメモを取る。見た目はほとんどブルーベリーのものと同じだが、微妙に色や形が違う気がするように華苗には思えた。どっちがどっちかはわからないが、二種類あるのはわかる。華苗の園芸部スキルもだいぶ磨かれてきたのだろう。
「植えるの?」
「…植えますね。穴掘りますので、ちょっと下がってください」
「楠先輩、ピートモスは?」
「…こいつらにはいらん」
愛用のスコップを大きく振りかぶって楠は穴を掘る。ブルーベリーの時よりも穴の間隔は広めだ。
実は、ラズベリーもブラックベリーも繁殖力? が旺盛なため、放っておくと数年でどんどん横に広がってしまうのだ。その勢いはまさに侵食と言っていい。最初にすこし広めにスペースを取っておかないとダメなのである。
「密集するとダメなのはなぜですか?」
「風通しが悪くなったり、栄養不足になったりしちゃうんですよ」
楠が穴を掘っている間に華苗も次の準備をする。ここまでブルーベリーとほとんど同じだ。ならば、次も同じだろう。
「わ、中ってこうなっているんだ!」
物置小屋に二人を連れて、自分の愛用のと色違いのぞうさんじょうろを渡す。楠がいつも使うやつでない、小型のリヤカーも引っ張りだし、そこに表の電動の井戸から水を組み取ったバケツを乗せる。裏のつるべ井戸では華苗じゃ水を汲めない。
「あと、そこにいっぱいある麦わらもこれに乗せてください」
「えへへ、ふかふか!」
「もう、春香ちゃん、髪についていますよ」
きゃあきゃあ騒ぎながら女三人で麦藁を積み込む。やっぱりむさい男と部活をするよりこっちのほうが華がある。暑さだって幾分かマシに感じられるし、なんかこう、華苗が思い描いていた部活生活に限りなく近い。
「…準備がいいな」
「そりゃま、園芸部ですし、二回目ですし」
リヤカーを三人で押して戻った時には楠は穴を掘り終えていた。ぶわっと顔中から汗を噴き出して、言っては悪いが見ていて暑苦しい。何度も汗を拭って入るが、焼け石に水だ。
ずっとこの炎天下の中、穴を掘っていたのだから無理もない。オーバーオールの下のシャツも、はっきりと視認できるほどにぐっしょりだ。その日に焼けた筋肉質の太い腕も汗で妙にきらきらてかてかしている。
「……」
ごくりと、と少し顔を赤らめた栗栖が喉を小さく鳴らした。
「栗栖先輩?」
「んとね、華苗ちゃん。てるてるはね、むきむきとかたくましいのが好きなの!」
「ちょっとぉ!?」
きゃはー、と笑う桜井の口を栗栖は慌ててふさぐ。その後おそるおそる楠を振りかえる栗栖だったが、相変わらず楠は何を考えているのかわからない無表情。
いつもとちょっと表情が違うのは、暑さに参っているからだろう。楠はこの手の話題には一切の興味を示さない。
「だいじょうぶですよ、この人楠先輩ですし」
「だーいじょうぶー♪」
「うう……」
華苗もそれは少しわかる。暑苦しくて男くさいのはともかくとして、やっぱり男はなよなよしているよりかは逞しいほうがいい。できれば、細身だけどもやしやがりがりじゃなく、それでいて筋肉質で逞しい体をもっているのがいい。
お父さんが割と逞しい体つきだっただけに、あまりにガタイがよすぎるのは悪くはないが好みでもないのだ。
「…はやく植えましょう」
楠がそういって大きなリヤカーに積んであったベリーの苗を植える。華苗たちもそれにならって植えていく。
植えたら、支柱を立てて水やりだ。どっちのベリーも日当たりのよいところを好むが、それ以外はそんなに気にしなくてもいい。丈夫で育てやすいとこういうところが楽である。
「水はどれくらいなの?」
「…たくさんです」
どちらのベリーも植えたときはたっぷりの水をやる。畑に直接植えてあるため、定期的な水やりというのは必要ない。
とはいえ、ベリーは乾燥にはちょっと弱いので、土が乾いていたのならば水をやらなくてはならない。夏場なんかはけっこう頻繁にやることになるだろう。
「てなわけで、さっき持ってきた麦わらです。これを株元に敷いてあげると乾燥が防げるんですよ」
「そういう使い道があったのですか」
まるで子供が公園で遊ぶかのように女三人は麦わらを敷き詰めていく。さすがに暑すぎたのか、楠は水を飲みに行った。楠が戻ってくるころには終わるだろう、と踏んでいた華苗の予想通り、ちょうど楠が戻ってきたところで全ての作業が終わる。
「…じいさんとこから貰ってきた。水分の補給はしっかりと」
「わぁ! ラムネだ!」
どうやら楠はおじいちゃんのところにたかりにいったらしい。青い涼やかな特徴的な形の瓶を四本持っていた。おじいちゃんはどこからかこの手のものを調達しているから、物々交換ではないが割と気軽に貰えるのだろう。
一度軍手を外し、ひんやりとしたそれを持つ。きゅぽん、と球を中へと押し出し一気にあおる。冷たくて爽快な液体が華苗の体を駆け巡った。
植物も、水をもらったらこんなかんじなのだろうか。ラムネ特有の甘味がツンと鼻に抜ける。炭酸が実に爽快で汗がすぅっと引いていくのが分かる。
「おいしぃ!」
「やっぱり夏の暑い日のラムネは格別ですね」
ごきゅり、と喉を鳴らし、華苗は空き瓶をリヤカーに置く。ぎらつく太陽の光で、一際大きく青い瓶は輝いた。
瓶は再利用するらしい。いかにもおじいちゃんがやりそうなことだ。
さて、そんなこんなをしている間に二つのベリーは育っていた。華苗はもう驚かない。栗栖は驚いているが、予想していたのか取りみだしてはいない。桜井は無邪気にはしゃいでいた。
「…剪定だ。シュートとサッカーを」
「りょーかいです!」
茂ったその枝をパチンパチンと切り落としていく。さすがにこれは部外者には任せられないので華苗と楠の二人でやった。
白い花がなんとも可愛らしい。こちらはブルーベリーと違ってかぼちゃパンツじゃない。こころなし、ブラックベリーのほうが花びらがしゅっとしていた。
「人工授粉は?」
「…しなくていい。こいつは自家結実性をもつ」
「わぉ。らくちんじゃないですか」
「ねぇねぇ、あとどれくらいで採れるの?」
「もうちょっとですかね」
実際、今日はほとんど作業らしい作業をしていない。いや、やったことにはやったのだが、全部ブルーベリーのおさらいの上に、ブルーベリーより手順が少ない。特別新しい発見もなくぱぱっと終わる。
「ほら、もう出来始めて来ましたよ」
「わぁ♪」
いつの間にやら花弁が散り、実が出来、赤くなったかと思うと、黒く、大きくなっていく。
これはきっとブラックベリーだろう。赤紫なのはラズベリーだ。今まで何度か見てきたが、この急成長は相変わらずすごい。どんどん株が大きく広がって──
「…まずいな」
「え?」
楠の予想を超えた成長を見せる二つのベリー。うぞうぞとうごめき、想定していたスペースをはみ出そうとしている。もう、華苗のところからは畑の土が見えない。
「…成長が止まるまでひっこぬくぞ。畑が呑まれかねん」
「……うそ、ですよね?」
「…俺は冗談は言うが、うそは言わん」
「えええええ!?」
楠は飛び出し、むんずとその一つをつかみ株ごと引っこ抜く。少し全体の勢いが緩やかになったが、まだまだ元気いっぱいだ。楠は無造作にそれを投げ捨てると、立て続けに近くのをひっつかむ。
「…何してる、お前も手伝え」
「もぉっ!」
非常事態だと感じた華苗も慌てて走り出し、ベリーを抜く。ちょっともったいないから後でしっかり回収しようと心に決めた。幸い、このペースでいけば最悪の事態だけは免れるだろう。
「……麦の、さいらい?」
「あの時もこんな感じでしたね……。もしかして、園芸部はこれが普通なんですか?」
「違います!」
引っこ抜く間にも新しい株が出来ていき、ベリーのツタが華苗の腕に絡みつく。ちょっと引っ張れば切れるが、なかなかに丈夫でまどろっこしい。切っても切ってもそれ以上のペースでツタは絡みつく。
「きゃっ!?」
体全体を動かして強引に引き離そうと試みると、ぶちっと嫌な音を立てて腕が自由になった。みるも無残な姿になったベリーがツタに飲み込まれていく。
「いたっ!」
おまけに、どっちのベリーにも棘がある。軍手をしているからまだマシだが、できれば素手で相手にしたくはない。必死にベリーを抜く楠達をよそに、桜井だけは遊ぶように引っこ抜いていた。
「ちょ、先輩、長すぎませんか!?」
「…暑さでまごころの加減を間違えたようだ」
「間違えんなぁ!」
抜いては投げ抜いては投げ。荒れ狂う自然の脅威は未だ止まらない。味方であるはずのまごころが、こんなところで裏目に出た。
ベリーの繁殖力とまごころ。そしてシーズン。
なめちゃ、いけない。
「ちょ、っと、きつく、なってき、ました!」
「わ、わたしも……」
体力のない栗栖と桜井がへばりはじめる。華苗の体力はまだあるが、精神的につらかった。今までおかしいことなどいっぱいあったけど、茂るツタや枝に呑まれそうになったことなど初めてだ。
「がんばってください!」
そう声をかけるくらいしかできない。ぐっと株元をつかみ、後ろに倒れ込むようにして引き抜く。ずぼっと気持ちよく、横に広がった根が抜けた。
がさがさと葉が頬に触れ、くすぐったい。赤黒いベリーに目をくれず、それを放り投げる。
よし、次だ。
こんな事態でも率先して動けるあたり、華苗も園芸部なのだ。
「お、終わったぁ……」
ようやくベリーは成長するのを止め、畑に平穏が戻る。剪定も何もあったものじゃないが、大きくてはちきれんばかりのベリーがたわわに実っていた。実の重さで枝がしなってしまっている。
「…上出来だな」
ポケットから紐を取りだした楠は、黙って実が地面につかないよう枝を誘引していった。華苗たちは休憩だ。
「…さて、予想以上にたくさん採れそうだ。好きなだけ食べていいぞ」
「予想以上ってレベルじゃないですよ……」
栗栖の言葉を無視し、楠はそこらに放ってあった株を持ち、三人に向ける。華苗は黙って実をもいだ。
どうせ、楠に何を言っても無駄なのだ。余計なことを考えずおいしい結果にありつくのが賢いというものだろう。まずはラズベリーを手に取ってみる。
「…どうだ?」
「くやしいぐらいにおいしいですよこんちくしょう!」
あの生命力をぎゅっと詰め込んだかのような豊かな甘味。ラズベリー特有の甘酸っぱさ。疲れも一瞬で吹き飛んでしまう。
みずみずしい果汁が体中にいきわたり、ふわっといい香りが鼻腔をくすぐる。思った以上にはるかに果汁が多い。まるで、ジュースの塊を食べているかのようだった。
「黒いのおいしい~♪」
桜井の鼻歌に釣られて華苗はブラックベリーをもぐ。さっきのラズベリーの時も思ったが、意外と果実は大きい。一つ一つはもちろん小さいのだが、それでも普通のものと比べて大きめだ。
その塊はもっと大きいに決まっている。実に贅沢なブラックベリーだった。
「……!」
華苗の個人意見だが、ブラックベリーのほうがラズベリーより甘い。ラズベリーと違う甘さではあるのだが、なんと表現したらいいのかわからない。
あれだけがんばったかいがあったというものだ。もしこれをもう一度食べるためにはまたあれをやらなくてはいけないと言われたら、華苗は迷わずやっただろう。それだけのおいしさだった。
そしてやっぱり果汁が多い。あっという間に水分補給が出来る。
「おいしい、おいしい~♪」
片っぱしから桜井がベリーをもぎ、口へと放り込んでいく。華苗もびっくりの驚異的なスピードだ。よっちゃんだったらなんとかタイマンを張れるかもしれない。
ぱくぱく、ぱくぱく。負けじと華苗もベリーをもぐ。
「いろいろ大変でしたが、なかなか貴重な体験ができましたね。これもいいネタになりますよ」
そりゃあ、漫画やゲームでもないのに植物に絡まれる人なんていないだろう。貴重な体験どころか、たぶん華苗たちがこの地球上で初めてのはずだ。きっと、そうだ。そうでないはずがない。
「…うむ、やっぱり上出来だ」
手にブラックベリーもラズベリー関係なくいっぱい乗せて、一気に楠はそれを口に入れる。大きく頬張り、その味を噛みしめ、ごくんと飲み干した。つっと口の端からベリーの果汁がこぼれおちるのを、汗ふきタオルで拭う。
俗に言う贅沢食いだ。じつに贅沢でけしからんことだ。
そんな贅沢なことを華苗もやろうとひとつひとつ丁寧にベリーをもぎ取る。どうせそこらにたくさんあるのだ。好きなだけ遠慮なくもぎ取れる。
「…今日は引っこ抜いたベリーを摘んで、お菓子部と保健室に持っていき、残ったのを鶏小屋の柵の中に入れて終わりだ」
「さく?」
「…ええ、さすがにほったらかしだと悪くなりますので、あやめさんとひぎりさんに食べてもらおうかと。彼女らならやってくれます」
どちらのベリーもあまり雨水にあてるのはよくない。本来ならば、実が出来た頃に雨除けの工夫をするのが望ましい。そうしないと、実が傷んでしまうことがあるのだ。風味や味が落ちたり、日持ちが悪くなったりもする。
ぐるりと華苗は辺りを見回す。相当な量のベリーがあり、辺り一面甘酸っぱい香りでいっぱいだ。普通の鶏なら食べきれないだろうが、園芸部のあやめさんとひぎりさんなら楽勝だろう。残った枝やツタは穴を掘って埋めればいいし、処理方法としては完璧だ。なんとなくだが、いい卵を産んでくれそうな気もする。
「詩織ちゃんに頼んだらこれでベリータルト作ってくれるかな?」
「作ってくれると思いますよ、たぶん。佐藤先輩でもいいですし。……穂積先輩と食べるんですか?」
「うんっ! 穂積くん、あのベリータルト気にいったみたいだから、こっちもきっと気にいると思うんだ!」
たぶん、桜井が今日手伝いに来たのはそれが大部分を占めるのだろう。華苗は碌に手元を見ずにベリーをもぎ取り、口に入れる。
ああ、やっぱり甘い。そして、ちょっと酸っぱい。甘酸っぱいってやつだ。
栗栖は忙しく手もとのメモに何事かかいている。きっと、今日の体験を忘れないうちに詳細に書き込んでいるのだろう。ちょっと覗いてみたい気もした。
「ラズベリーとブラックベリーの味の違い、文章でどう表現するべきでしょう?」
「さぁ……?」
「ラズベリーがふぁんっ♪ って感じでブラックベリーがふわぁん……♪ ってかんじ!」
「だ、そうですよ?」
がっくりと栗栖はうなだれた。華苗も気持ちはわかる。
でもまぁ、栗栖は文芸部なのだ。きっと最適な答えを出せるだろう。園芸部は園芸部の、文芸分は文芸部の、吹奏楽部には吹奏楽部の得意なことがあるのだから。
翌朝、この日の出来事をよっちゃん達に話した華苗だったが、よっちゃん達はいくらなんでもそんなはずはなかろう、きっと勉強のしすぎで疲れているだけだと取り合ってくれなかった。後日、華苗がラズベリーの小さな株を持ち込み、よっちゃんたちをくすぐりの刑に科したのは完全な余談だ。
また、ベリーの味をしめたよっちゃんが華苗に頼み込んだ結果、教室に小さなラズベリーとブラックベリーのプランターが置かれることになり、みんなが思い思いに毎日食べられるようになったのも完全な余談だ。
20140317 誤字訂正
20160409 文法、形式を含めた改稿。
ラムネのビー玉とろうとがんばったっけなぁ。
栗栖先輩を覚えていた人はいたのだろうか。
なお、書かれていないだけでほかの方々も立派に部活をやっております。
気まぐれに園芸部以外の部活に行ったりもしてます。
意外なところで交友関係があったりします。




