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6th fragment 「焔闇の制裁」


――――――「な・・・」


質の悪い冗談だと思った。


しかし、とぐろを巻く焔の中心にいるのは、朝姫の顔をしているが朝姫ではない、誰かだった。


彼女は、さも愉快そうに語り始める。

「このゲーム、このときまであたしと君が会うことなく2人が最後まで生き残ることは、始めから決まってたんだよ」

つまり主催者って言うのは・・・

「あたしのこと。といっても朝姫じゃなくて華蓮というこっちの人格。朝姫ってば、妙に精神構造が頑丈でさ。あたしが表に出るのはいつも朝姫の許可がいる上で、時間制限つき。嫌気がさして当然でしょ?」

いぶかしむ俺を他所に彼女は嬉々として語り続ける。

「で、嫌気がさしたあたしはついに行動に出た」

それがこのゲーム。

高い魔力を持つものを集めて結界に閉じ込め、その中で殺し合わせることで負の感情を乗せた魔力と霊魂を集める。


そうして生まれた膨大な負のチカラによって朝姫の人格を封じ込め、華蓮は表に現れた。


「人が人を想う力って意外と馬鹿に出来ないのよ。あなたも身を以って体感したでしょ?」

俺の右手に握られているアロンダイトを見て、忌々しそうに語る。

「それで、17年前にここで朝姫の中に転生する前に、ちょっとだけ世界の流れを書き換えてここに魔力が高い人間が集まるようにした。私は欠片だからその瞬間のことしか書き換えられなかったけど、丁度学校というひとつの環境に縛るには丁度良かったかもね」


それでこんな日本の僻地に妙な人間が集まったわけか。


「君は藍莉と約束してたよね?主催者をボッコボコにするって。それってつまりさ、この結界に引きずり込まれた君以外の25人全員と戦って勝つのとおんなじなんだよ。分かる?」

霊魂と魔力を得たことで25人分のチカラ全て手に入れた彼女。対する俺は藍莉と戦ってほぼ全力を使い果たした。


・・・勝てるわけがない。それくらい、分かってる。

「それに、別にあたしがここに出るだけならそんなに力を集める必要ないんだよ。本当の目的は・・・」

華蓮が空を見上げる。薄暗く、臓腑のような不気味な色をしている。

そこに、血のような赤黒い巨大な魔法陣が展開していた。同じ魔法陣といえども、藍莉のルフトではまるで比較にならないような、地平線の向こうまで広がるような巨大すぎる魔法陣。

「北欧神話と同じ。このゲームは《ラグナロク》。その終わりはどうなるか、知ってる?」

ゲームとか小説とか、朝姫がそういうファンタジーものを好んでいたので、なんとなく覚えていた。

「・・・最後に生き残った巨人が、炎の剣で世界を焼き払う」

「正解。そういうこと。でも、まだちょっとだけ、アレを起動する分の魔力が足りない。だからね」

凶悪な笑み。つまり彼女は・・・


「君を殺して魔力と霊魂を奪い、最後に生き残ったあたしが《レーヴァテイン》で世界を焼き尽くす」


言うやいなや、焔を纏う鎌による神速の一撃。

俺は待ったままだったアロンダイトで鎌を受け止める。

しかし刃は受けられても、纏わり付く炎まで受けるのは不可能。

咄嗟に刃に冷気を纏わせてみたものの、弱りきった冷気程度で阻めるはずもなく、焔は容赦なく襲い掛かる。

「くそ・・・ッ!?」

『Lune-Slash!!』

俺は焼かれながらもアロンダイトの《切断》のルーンを発動、鎌の刃を切り落とす。

「へえ、便利な剣だ。あと24個、全部切り落としてみる?」

そう言って今度は白鞘の日本刀、天之尾羽張を取り出す。

速さも威力も本来の持ち主以上。

いくらなんでも全てを切断のルーンで壊していたら魔力、そしてルーンを刻んでいる赤…俺の血が、足りない。あと10回ももたなさそうだ。

かと言って純粋に斬り合うだけでも彼女に勝てるはずもない。

じゃあ・・・

俺は一か八か、刃に新たなルーンを刻む。

貧血で激しい眩暈と嘔吐感に襲われるが奥歯を噛み締めてこらえる。

『Load!!』

「今更何をしたって・・・」

華蓮が嗤いながら天之尾羽張を振り下ろす。

俺は新たな力を纏った聖剣でそれを受け止めた。


カアンッ!


金属音がアロンダイトからのみ響く。

天之尾羽張は跡形もなく消えていた。

華蓮は次々と武器を換えていくが、どれもこれもアロンダイトの刃が触れた途端に形を失っていく。

銀に輝く槍も、雷を纏う鎚も、音速を超えた速さで飛来する光の矢さえ。

そしてその度にアロンダイトは輝きを増していく。

「ちょっ、なにこれ!?」

予想外の事態に華蓮は飛び退り、右手に漆黒の篭手を発生させる。甲から伸びる刃は赤黒く禍々しい光を放つ。

紅渦結晶ルフトエッジッ!」

『Lune-Absorb!!』

本物と同等以上の極大な魔力を込めた刺突すらアロンダイトは無効化し、『吸収』する。

俺が新たにアロンダイトに刻んだのは、《吸収》のルーン。

足りない魔力を補い、かつ効率的に敵の武器を減らす。

思いつく限りの最善の手段。

それを刻むのに残りの魔力のほとんどと、かなりの血を費やしたが・・・アレだけ馬鹿みたいな魔力を吸い上げたおかげで魔力だけはずいぶんと回復した。


そしてそのまま無防備に懐に突っ込んできた華蓮を柄で殴り飛ばす。

「かはっ!?」

追い討ちはかけない。

華蓮が朝姫と同化している以上、俺には彼女を斬れやしない。

殺さなきゃいけなくても、剣を振り上げることが出来ない。

すべてを終えることが出来る瞬間を、俺は見送った。

ただ倒すだけじゃなく、俺は朝姫を救いたいんだ。

ルーンは血と魔力を対価に俺の想像のとおりの効果を創り出す。

なら。

想像しろ結城蓮。朝姫を救い、この悪夢を終わらせる力を。


彼女を救う剣を。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

ついに華蓮がキレた。

目の前が赤く染まり、吹き飛ばされそうになる程の膨大な魔力が発現。彼女の右腕に巨大な剣が現れる。

いくら吸収のルーンでも限界はある。

アレだけ巨大な魔力の塊を吸収すれば、暴発してアロンダイトに俺自身まで吸収されかねない。

「死ねえええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

しかし巨大故に攻撃は大振りになる。

その隙を俺は逃さない。

振り上げ、巻き上げた風は焔の旋風と化す。

冷気を纏っていなければ俺なんか一瞬で灰になっていたであろうそれをアロンダイトの刀身で打ち消し、肉薄。

それでも打ち消し切れなかった焔で身を焼かれながら、藍莉の時以上の、吸い取った分を含めた魔力全てを、再び新たなルーンを刻むために使う。

失血死する寸前まで血を奪われながらも、華蓮が次の行動を起こすより速く、俺はアロンダイトの輝く刃で華蓮を斬る。


その刃は体を斬ることなく華蓮をすり抜けた。


『Lune-Divide!!』

「・・・ッ!?」

バリッ、と何かが剥がれるような音とともに、朝姫と華蓮が分離される。

全力で構成した《分離》のルーンは、ちゃんと効果を発揮してくれた。


俺は分離して弾き飛ばされた華蓮に刃を突きつける。


左側の髪の房が切れ、銀の髪が風に散っていく。


「く・・・ぅっ」

「これで終わりだ。・・・諦めろ」

「・・・・・・ぁはははははははははっ」

突然、倒れたままで笑い始めた華蓮。

俺は警戒して距離を置くが、何もしてこない。

「君って馬鹿なんじゃない?『諦めろ』って言ってる暇があれば殺せばいいじゃない。あたしは世界を滅ぼそうとしてるんだけど?」

「でも、殺してあれが止まるとは限らない。止め方がわからなくなったらどうしようもないし」

「堅実派だね。でも残念。あたしを殺す以外にアレを止める手段はないのよ」

華蓮は嗤う。朝姫によく似た彼女を殺せない俺を。

「それに朝姫の肉体から分離した今、あたしは朝姫でもなければ人間ですらない。随分昔に砕けた紅霊晶エリクシルの欠片。七大罪の嫉妬インウィディアの意識体。そんなものに情けをかけるなんて」

「でも、ホントは人間になりたかったんだろ?」

「!?」

確証は無かったが、人間でないと言うの華蓮の顔はそれを想像させるのに十分だった。

朝姫と同じ顔で、悲痛な表情を浮かべる彼女を放って置けるほど、俺は強くない。

「だから人間に嫉妬した。何の苦労もなく自分の欲しい物を持ってるんだもんな。だけど自分は朝姫が良いと言った時しか出られない」

「・・・そうよ。今まで何度も人間にとり憑いた。でも誰もあたしを外に出してくれなかった。それで段々こんな素敵な世界を占有している人間たちが許せなくなった」

それが嫉妬という性質と混ざり合い、この惨劇という結果に至った。

それがこのゲームの、動機。

嫉妬深く、寂しがりやな少女の…運命への、反逆。

「でも、もう疲れた。このゲームはあたしの負け。これから先何をしたってこれ以上あたしはここに居続けられないってわかったから。だから、さっさと壊してよ」

結局弱い俺には誰も救えない。

なら、せめてもうこれ以上苦しまないように。




無防備に晒した華蓮の胸を漆黒の剣が貫いた。




貫いた刃に血が纏わりつき、絡まる。

「やっぱり・・・あたしは、朝姫には、勝てなかった・・・か」

口の端と胸元から血を流して紡ぐその言葉は俺に向けられたものではなく。

虚ろな目で虚空を見つめたまま華蓮は赤い光の粒となって風に溶けていった。

後には血に塗れた刃と、弱々しく明滅する赤い宝石のようなものだけが残っていた。




全ての力を使い果たした俺もその場に崩れ、仰向けに倒れこんだ。

辛かった。

せっかく生き残ったのに。

藍莉との約束も果たして朝姫も守りきったのに。

なんなんだよこの後味の悪さ。


薄気味悪い色だった空はいつの間にか元通りの色・・・と言っても時間が経ち、完全に夜になっていた。

そんな空から、魔法陣を作っていた魔力が赤い雪のように降り注いでいた。

ちゃんと、止まった。

あいつは、華蓮は嘘をつかなかった。

それだけが唯一の救い、か。

もう、いいよな。

俺は目を閉じ、体の力を抜いた。

無茶苦茶に魔力を使い、全身を焼かれて体は既に限界だった。

ルーンを刻むためにかなりの血を使ったし。

意識が遠のいていく。


抗いがたい眠気。


きっともう二度と目を覚まさない気がする。




ごめんな、朝姫。








―――世界が白く塗り潰された。










最終回 「閉幕」

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