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5th fragment 「終末と死神」


――――――いつまでもガタガタ大騒ぎしていても仕方がないのだが。


「どうする?」

「逃げ回ってもしょうがないけど休んでる場合じゃないな」

いつ敵と遭遇するか分からないし。

でもそれは休んでいても逃げ回ってても同じわけで。

「いっそこっちから攻めに・・・」


遠くからの爆発音に言葉がさえぎられる。


窓から外を見ると少し離れたところにあった特別教室棟がダイナマイトで発破したかのように崩れていた。

同時に、黒板の名簿から名前が一組分消える。

「じょ、冗談だろ・・・」

とか言っていたら今度は少し近いところからまた爆発音。

校舎がズシン、と揺れる。

もう、残り2組。

「って、ここ危ないからさっさと逃げるぞ!」

俺は朝姫の手を引いて逃げようとして扉に手をかける前に、向こう側から違和感を感じた。朝姫を後ろに投げて扉から離れ、剣を召喚し・・・


爆発的な力の奔流が、教室を蒼く染め上げた。



―――「高瀬ぇ、もう飽きた~」

藍莉は、心底つまらなそうに言って、残りの一組を探して立ち寄った教室にあった椅子に座って駄々をこね始めた。

「あと一組なんだから我慢しなさい」

言っても聞かない気もしたけど一応言ってみる。

ま、最後の一組も今までくらいだったら僕一人でもなんとでもなると思うけど。

「だってあとの一組だってきっと一撃で終わりだよ?つまんないじゃん」

普段大人しかった彼女は、このゲームが始まってからずっとこんな感じだった。

いつもなら虫一匹殺せず、ちょっと血を見ただけでびくびくしていたのに。

こんな状況のせいで変わってしまったのだろうか。

なら、早く終わらせて、元の優しい彼女に戻って欲しい。

…でも、元に戻ったとき、自分のしたことに押し潰されてしまわないだろうか。

こんな事を受け入れるには、彼女は優しすぎる。

だからこそそういうのに適した人格を持つことで精神を保っているのだろう。

「でもそれならそれでさっさと終わらせてここから出よう。それに最後なんだから今まで通りじゃないかもしれないよ」

「そんな、ゲームじゃあるまいし」

いや、このシチュエーション自体がが十分ゲームっぽい気がするのですが。

とりあえず、あんまり納得してない感じではあるけど藍莉はしぶしぶ、立ち上がってついてきた。

「問題はどこにいるかがわからない、と」

なんとなく近くにいる気配はあるがはっきりとどこにいるかは分からない。

「じゃあ、この辺一帯叩き潰して炙り出す?」

彼女は右腕に漆黒のガントレットを召喚、装備する。

「いや、それで特別教室棟が崩落してさっき自爆しそうになったのはどこの誰だったっけ」

「スリリングだったねー」

「いやいや、絶対そんな生易しいもんじゃなかった」

特別教室棟があと一階分高かったらもうそこで終わってたという・・・。

「じゃあ、高瀬がどこか教室を選んでそこを私がぶち抜く。一箇所に集中すれば校舎も崩壊しないでしょ」

「僕が選ぶんだ!?」

「文句があるなら全部・・・」

「わかった!選ぶからちょっとだけ待って!」

振り上げた腕を制止して、しばし黙考。

「ここから右に二個隣の教室」

「根拠は?」

「勘」

手甲のない左手でチョップされた。

「・・・ま、良いや。じゃあ、いくよッ!」

藍莉はガントレットを振り上げ、魔法陣を正面に展開。その中心に魔力を集束させる。

チャージだけで、空間がビリビリと振動している。

「ってさっきより強烈・・・」

光渦ルフトッ!!」

魔法陣の中心に集中した魔力を殴り抜き、全解放。

僕が指定した教室は跡形もなく消し飛んだ。


・・・はずだった。

煙っている向こうをみて、藍莉はニヤリ、と笑う。

「高瀬、すごい勘がいいんだね。大当たりだ」

煙が晴れた向こうでは、天井まで届く厚い氷の壁が藍莉のルフトを完全に防ぎきっていた。




―――防御って言ってもバリアとかそんなものが作れるほど器用ではないので。

剣を床に突き立て、巨大な氷を発生させた。透きとおる分厚い氷の壁の向こうでは蒼い魔力が吹き荒れている。

というか正面しか防いでいないのでちょっと横を見ると何もかもが跡形もなく粉砕していた。

氷の壁も、端から、ピシピシと削れている。

攻撃が止んだのは、氷の壁にいくつも深い亀裂が入って崩壊する一歩手前だった。

あと少し攻撃が長かったら多分俺達も机や椅子のように跡形もなくなっていただろう。

コンクリートその他が崩れて教室中が煙たい。

煙の向こうには、ニヤリ、と笑う少女がいた。

「高瀬、すごい勘がいいんだね。大当たりだ」

その声と同時に、氷の壁がガラスのように粉々に砕けた。

「感心してないで行くよ藍莉」

ヤバい気配を感じて、俺は朝姫の手を引いて何もなくなった窓側の壁に走り・・・

「れ、蓮っ!?」

何のためらいもなくそこから飛び降りる。ちなみにここ、4階。

「いやああああぁぁぁぁぁあああああああ!?」

パニくる朝姫を引き寄せ、魔法を発動。

ガラス細工のような4枚の氷の翼を背中に広げ、建物のない凍りついた校庭の上空目指して飛ぶ。

「飛べるなら先に言ってよ馬鹿ぁ~!」

と言われましても。


「逃げられるとでも思った?」


背後では藍莉と呼ばれていた少女が教室から飛んできていた。

驚異的なジャンプ力に加え、一瞬だけ足元が蒼く輝き、魔力が足場となって空中で踏み込み、ゲームの多段ジャンプのようにしつこく追いかけてくる。

俺は朝姫を抱えていて両手が塞がっているのでどうしようもない。

このままじゃやばい。

「蓮、適当に私を放り投げて。多分、大丈夫だから」

多分って。さっきあんなに大騒ぎしてたくせに。

とはいえ今はそれを信じるしかないか。

「「せーのっ」」

適当に下に投げる。

少し落ちたところで赤い翼を広げ、うまく着地したようだ。

俺は剣を召喚しなおし、追いついて飛び掛ってきた藍莉をかわしながらカウンターで切りつけたが、足場で踏みとどまって手甲で弾かれる。


多分こうしてるうちはさっきみたいな魔法は使えないだろう。チャージとかの関係で。

つまりそのチャージさせる隙を作ってしまったら負け。

しかしそうでなくてもこの少女は半端なく強い。

ギリギリかわせるが結構危ない。

「ちょこまか動くなっ!魔洸晶刃エーテルエッジ!」

手甲を振りかぶり、藍莉の腕の甲が展開、鋭い深蒼の刃が現れる。

「斬ッ!」

反応不可能な高速で突撃、すれ違いざまに俺の翼を切り裂かれる。

気付いた時には地面に叩きつけられていた。

「がはッ!?」

それでも何とか死ななかっただけマシ。

体勢を立て直し構えると、上空では既に魔法陣が展開し魔力を集束させている。

「ボサっとしてんじゃない!」

藍莉の相方と戦闘している朝姫が鎌を振るい、4本の赤い閃光が放たれ、蒼い魔法陣が砕ける。

「きゃ・・・っ!?」

さらに集束していた魔力が暴発し、自爆して落ちる。

俺はすかさず落下地点に飛び込み、渾身の一撃を放つ。

だが藍莉は抜群の反射神経で刃を受け止めた。

ガギッ、と嫌な音がして漆黒の剣が刃こぼれを起こした。


弾き、弾かれ。転がし、転がされ。

何度も斬りあう内に俺の剣はあちこちひび割れはじめた。

「はッ!」

蒼い刃のフルスイング。

もう、限界だった。

受け止めた漆黒の刃は、蜘蛛の巣のような細かい亀裂を生じさせて粉砕した。

「止めだッ!」

刃が俺の胸にめがけて真っ直ぐに迫る。

全てを超越する力。

あの声はそう言っていた。

でも、勝てない。壊れた剣は再度召喚しようとしても、魔力が集まるだけで何の形も成さない。

結局、そんな力は無かったのかよ。

おい。結城蓮。

お前は今まで散々朝姫に迷惑かけられたって言ってたよな?

だけどどうなんだ?

お前は彼女に辛い役割を押し付けて、泣かせて、挙句の果てに道連れにしようとしてる。

迷惑かけてんのはどっちだよ。

血塗れで泣いてたあいつを見てお前は朝姫を守るって決めたんじゃないのか!

甘ったれてんじゃねえ!

ここで守りきった後ならどうなったってかまわない。

だから。


俺は、あいつの剣になる。



「うおおおおおおおおおっ!」

残っていた柄が消え、漆黒の剣は新たに編み直される。

赤いルーン文字が刀身に刻まれた、先程までの剣より複雑な形状となった剣。

「黒耀の聖剣アロンダイト!!」

『Lune-Explosion!!』

魔力放射で藍莉を吹き飛ばし、新たに作り上げた剣を構える。

日が落ちて、月と撒き散らされた魔力の残滓が照らす校庭で、アロンダイトの刀身は妖しく光る。

「・・・往生際が悪いね」

藍莉は悔しそうな台詞の割に楽しそうな笑みを浮かべて言う。

「その方が盛り上がるだろ?」

「もちろんっ!」

刃がぶつかり合い、火花が散る。

何度も何度も。

斬り合いが百に達しかけた頃、不意に藍莉が後退し、距離を開ける。

光渦結晶ルフトエッジッ!」

蒼い刃がルフトで放出するような暴力的な魔力を全てその内に閉じ込め、瑠璃色の輝きを放つ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」

『Lune-Overbreaker!!』

アロンダイトの刃に浮かび上がったルーン文字が溢れるほど流し込んだ魔力に反応してギラギラと輝き、刃がスライドして長大化、隙間から開放された魔力が溢れ出し、巨大な刃となる。

お互いに残りの魔力のほとんどを惜しげなく注ぎ込んだ本気の全力。

爆音とともに光の刃が衝突し、凍りついていた校庭が衝撃に波打ち、砕ける。

完全に拮抗し、辺りに暴力的なまでの衝撃波を撒き散らす。

衝撃波に制服のシャツは破れ、皮膚を、肉を徐々に裂いていく。

でも、俺はここで絶対にこいつを殺さなきゃいけない。

そうじゃなきゃ自分が死ぬとかそれ以前に。


『ゲームの目的どおりに3人、ペアだから6人か。殺したのよ』


そう言った朝姫の横顔。

傷付いて壊れそうなあの横顔が忘れられない。

そうさせたのは俺だったから。

もう、絶対にあんな顔をさせないために。


「うおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁああああああああッ!」

ピシリ、と亀裂が入ったのはルフトエッジ。

自信満々だった藍莉の目が驚愕に見開かれる。

「嘘・・・!?」

怯んだ一瞬。

時間にしてみれば0,1秒もないような瞬間。

それだけで、十分。

それだけの瞬間、拮抗する相手の力が弱まり、一瞬だけこちらが大幅に上回った。

藍莉は吹き飛び、全力の蒼い刃も砕け散った。

彼女は崖を落ちていくような勢いで十数メートルも吹き飛び、倒れ伏す。

手甲も消え起き上がる気配はないが、まだ息はあるようだ。

『Reset』

アロンダイトの出力を落とし、通常の状態に戻してから彼女に近づく。

「・・・っ」

あんな鬼神の如き強さの少女。何人も殺して笑っていた少女。

それが今、俺の目の前で泣いている。

まるで別人のようで少し戸惑った。

「・・・あ、はは。ダメだったよ、やっぱり。私、甘かった」

正直、罠かもしれないと思っていたが、藍莉はもう立ち上がることも出来なければ、魔法はおろか、武器の維持すらできない。

「言いたいことがあるなら聞いてやる。聞くことしか出来ないけどな」

彼女は「ありがとう」といって続ける。

「私、ずっと演技してたの。高瀬もパニックになって多重人格になったとか、勝手に解釈して納得してたみたいだから、私も自分にそういうことにして言い聞かせてた。極限状態って怖いね。私がこんなに冷たくなれるなんて思いもしなかったよ。でも、私のせいで高瀬が死んだら嫌だったから」

正直辛かった。この子も、俺と同じような葛藤があったんだって。

自分を偽ってまで彼に生きて欲しいと願っていた彼女。

だからあれだけ強かった。


でも、終わらせなきゃいけない。俺も朝姫のために決意をしたから。

俺は動けない彼女の胸にアロンダイトの切っ先を突きつける。

「そっか。よかった。君がちゃんとしなきゃいけないこと分かってて。こんなこと言って殺すのやめちゃったらどうしようかと思ったよ」

藍莉は、今までとは違った清々しい笑みを浮かべた。

「・・・ごめんな」

「じゃあ、私の代わりにこんなこと始めた主催者ボッコボコに殴っといて」

「ああ」

こんな状況じゃなかったら、きっとコイツとはいい友達になれただろうな、と思いながら。

「じゃあ、な」

俺は藍莉の胸に深々と剣を突き立てた。

衣服の上から皮を破り、骨を断ち、肉を切り、心臓を貫く。

そんな、生々しい感触が伝わってきた。それが、人を殺すことだと知った。

私たちに勝って生き残ったんだから、ちゃんと幸せになるんだよ、と彼女が言った気がした。

殺されたのに、その顔はとても安らかだった。

同時に、高瀬も崩れ落ちる。

そして俺の首元でカチッ、と軽い音がしてペンダントが外れた。



「終わった・・・のか」

こんな悪夢みたいなことが終わったのに、達成感というものがまるでない。それになんか・・・嫌な予感がする。

「朝姫?」

朝姫の様子がおかしい。

鎌を持ったまま、肩を震わせふらりとこちらに振り返った彼女は・・・


赤い瞳を輝かせて笑っていた。


「朝・・・姫?」

答えはなく、轟炎が辺りを取り囲み、黒かった髪が銀色に染め上げられる。

「ふふふっ、あはははははははははははははははっ!」

赤い死神。

鎌を持って笑う朝姫を見て、そう思った。

「これで準備は揃ったわ。お疲れ様、結城蓮。これでやっとあたしが《あたし》として表に出られるわ」

邪悪に笑う彼女の顔は、既に朝姫のものではなくなっていた。


意識が遠のいていく。


抗いがたい眠気。


きっともう二度と目を覚まさない気がする。






―――世界が白く塗り潰された。




次回、「制裁の焔闇」

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