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4th fragment 「存在と価値」

――――――そのまま校庭に立ちっぱなしは寒すぎるので俺はとりあえず校舎に入ろうと、一歩踏み出そうとして…

「うおあっ!?」

盛大にこけた。何かに躓いたというより足を上げられずにバランスを崩した感じだ。

足元を見るとさっき凍らせた時に靴底が張り付いて地面にくっついていたようだった。

さすがに凍った校庭を靴下で歩いたら足が凍傷になりかねないので無理矢理靴をはがして履きなおす。

さて、と。

「朝姫を探さないとな」

いつの間にかいなくなったけど、俺が生きてるからあいつも死んではいないだろうけど…。

怪我したり、怖い思いをしていないだろうか。

多分朝姫は弓の方を探しに行ったはず。だったらいるのは屋上辺りだろう。

俺は外にある非常階段を駆け上がる。

すると上の方から轟音と共に真っ赤な火柱が上がった。

「朝姫…」

脳裏に、最悪の状況がよぎる。

俺はいてもたってもいられず、全速力で階段を駆け上がった。




――「…はぁ」

私は華蓮から朝姫に戻り、脱力する。

鎌であの子の胸を貫いた時の返り血が制服に飛び散っている。

手には鎌越しに伝わる感触が生々しく残っていて、それらは私が人を殺したことを責め立てていた。

華蓮と交代した時、こうなる事はわかっていた。

華蓮は私に取り憑いた破壊衝動の塊。

何故私にそんなものが憑いているのかは知らないけど、私は彼女を好きになれない。

怖い。

…駄目だ。私は全部華蓮のせいにしようとしている。

確かにあの子―結局名前を聞けなかった―を殺したのは華蓮。でもそれ以前に、二組のペアも殺した。アレは華蓮じゃない、私だった。

それに、私が華蓮に頼ったからあの子も…。

体が重いのは、魔力の使いすぎでも、制服が返り血を吸ったせいでもなく、罪悪感がのしかかっているから。

私のこんな姿を見たら、蓮は私をどう思うだろうか。

色々振り回したり、我侭を言うのだって蓮を信用しているから。

どんなことを言ったって、蓮なら私を受け入れてくれると思っていたから。

だけど、こんなのは。

いくら蓮でも、きっと私を嫌って、酷いことを言うだろう。

でも、それはしょうがない。

そう思うと胸が苦しくて泣きたくなった。

しゃくりあげそうになって大きく息を吸い込むと同時に、奇跡的に無事だった非常階段の扉が勢いよく開かれる。

…来てしまった。

私を断罪するであろう者が。

「いたっ!朝姫!」

蓮は一直線に私に駆けてきてくれる。

「朝姫、大丈夫か?怪我して…って血塗れ!?大丈夫か!?」

「…平気よ。返り血だから」

ピクリ、と彼が私に差し伸べようとしていた手が固まる。

「ゲームの目的どおりに3人、ペアだから6人か。殺したのよ、私が」

淡々と、出来るだけ表情を変えないようにして言う。

…そうしないと泣いてしまいそうだから。


だから、一瞬彼のしたことが理解できなかった。


蓮は私をぎゅっ、と優しく抱きしめてくれた。

「蓮…。血、ついちゃう」

「いい、気にするな」

「でも…」

「…嫌だったか?」

「そ、そうじゃないのっ。そうじゃなくて…」

なんで私に優しくするの?こんなに血で汚れているのに。

怖くないの?

そう訊こうとした。

でも、それを遮るように彼は言った。

「ごめんな」

「…え?」

「朝姫にばっかり辛いこと押し付けて、ごめん。俺がちゃんと覚悟してなかったから」

「そ、そんな覚悟なんて、普通できっこない。…それが、普通だから」

「じゃあ朝姫だって普通じゃないか」

「ど、どうして…」

「お前は人を殺したことをちゃんと悔やんでる。罪悪感で押しつぶされそうになってる。だから、朝姫は普通の人間だ」

「うぅ…」

「だからもう、無理すんな」

「うん…」

涙が溢れてきた。こんな私に優しくしてくれる彼の言葉が嬉しかった。

だから私は彼のために全力で生きて最後まで生き延びなきゃいけない。

それがきっと私に出来るたった一つの償いだから。







慰めてやっていたら気が抜けたように朝姫が寝てしまったので、とりあえず最初の教室に戻ってきた。屋上から近かったし。

その間、誰にも会うことはなかったので朝姫はそのままグッスリである。

俺は適当に机をどけて場所を作り、そこに朝姫を寝かせた。

とりあえず上着もかけてやる。

…それにしても、いくらなんでもリラックスしすぎだろうよ。

ともあれすることもなく暇なのでしばし朝姫を観察してみる。

ホント、大人しくしてれば可愛いのにな。

喋ると全部台無しだけど。

「うにゃ…」

…喋るにしても寝言は可愛いんだな、お前。

それはさておき、無防備な美少女と教室で二人っきりと言うシチュエーションなんだよな、今。

なんというか、寝返りを打って捲れたスカートから覗く太腿とかが妙に生々しい…。

このまま朝姫観察してたら流石にまずい気がして来たのでとりあえず黒板とか見てみる。

黒板の参加者リストには、もう4組しか残っていない。

ってオイ。

「朝姫寝てる場合じゃないっ!他にあと3組しかいないっ」

「う…何よ…って、ふぁああ!?」

起こされて不機嫌になりかかっていた彼女を無理矢理立ち上がらせて首を黒板の方に向けさせる。

「首痛い…」

「それより、もう他に三組しかいないんだ!」

「もうっ、わかったから落ち着きなさい!」

「落ち着けるかっ!やばいって!」

「こ、この人、本当にさっき私に優しく良いこと言ってくれた人と同一人物よね…」

うるさいな、不安な時はこうでもしてないと気分が落ち込んでしょうがないんだ。

「騒いでたら敵に居場所バレるでしょうがっ!!」

…あ。

「この馬鹿ぁ~~~~っ!!」

なんだろう、朝姫に言われると凄く理不尽なものを感じるんだが…。

って言うか俺よりも朝姫の方が騒いでるような…。



こんなんで俺たち、生き残れるんだろうか。


「じょ、冗談だろ・・・」

「そんな、ゲームじゃあるまいし」

「逃げられるとでも思った?」

「じゃあ、な」




俺は、あいつの剣になる。



次回、「終末と死神」

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