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3rd fragment 「氷結と業炎」

――――――「…ふぅ」

私は、屋上の扉の前で息を吐いた。

あのまま蓮といても矢の餌食になるだけなので、男が蓮に気をとられて気付かないうちに校舎に入って狙撃者を探すことにした。

砂煙もすごかったし、バレてないはず。

矢が飛んでくる角度や方向から大体の居場所に見当をつけてそのあたりを調べた。その間に2組のペアを見かけたので気付かれる前に殺した。あの剣士のような強い奴でもなかったので楽勝。

今まで見たところでは、参加者は全員この学校の生徒だったみたい。

まあ、私は蓮と違って生きるために人を殺す覚悟はあるつもりだけど、そんな冷静な思考が働く自分に少しだけ、嫌気がさす。

「…うじうじしてないで行きますか」

ドアノブに手をかけ、扉を一気に開いて屋上に飛び込む。それとほぼ同時に自分がさっきまで立っていた所を矢が貫く。

一瞬でもタイミングがずれたら串刺しになっていただろう。

「いつの間にかいなくなったと思っていたら…。もうここまできたのですか。賞賛に値しますね」

狙撃していたのは、意外な事に華奢な少女だった。

…あの威力からして、もっとごつい奴だと思ってたのに。

「でも」

スッ、と彼女を包む空気が一変する。

「あなたを生きて帰すわけにはいかないんですけどね」





――ゆっくりと、白い刃の輝きが眼前に迫る。

いわゆる火事場の馬鹿力みたいなのが脳の認識力だけに働いて、周りがゆっくりと、ほとんど止まっているかのように見える。しかし、刃《死》は確実に迫っている。

その中で、俺の心は至って平静になっていた。

諦め?

絶望?

ああ、俺、もうここで死ぬんだ…。

『なら、ここで諦めるの?』

何処からか男とも女とも言えない声が聞こえる。

それは嫌だ。俺が死んだら朝姫に何言われるかわかったもんじゃない。死んでまであいつについてこられるのは勘弁だ。

『なら抵抗しない?』

その声は諭すように、というよりも、煽るように、俺の中に響く。

しかしそう言われたところで俺には何もできない。マンガの主人公みたいに、こんな状況を打破できるような力は俺には無い。

『本当に?』

あるなら欲しいさ、そんな力。でも俺は無力な…

『違う』

不思議な声は、はっきりと、切り捨てるように響く。

『あなたはそれに気付かないでいるだけ。その殻を破れば、あなたは全てを超越する』

この声がもし、ただの死に際の幻聴だとしても、何でもいい。

目の前の敵を討ち倒し生き残る力があるとすれば、俺は…。


キン、と澄んだ音で刃がはじかれる。


「なっ!?」

目の前の空間がガラスのようにひび割れている。

そこで刃が弾かれている。

その中に手を突っ込むと、グリップのようなものがあり、それを引き抜く。

現れたのは、柄から切っ先まで複雑な装飾を施された漆黒の剣。

召喚された余韻で煌々と蒼く輝いている。

「これは・・・」

初めて握ったはずの剣は不思議と手に馴染んで、握っているだけで力が湧いてくる。

「ふっ、それでいい。そのまま終わるにはもったいなさ過ぎる」

男は笑い、刀を鞘に納め、抜刀する姿勢で構える。

「雷祓ッ!」

抜き放たれた刃が雷を纏い、それが巨大な刃となって横薙ぎに放たれる。

俺は倒れこむように踏み込み、体を沈めて雷をかわし、地面スレスレのほぼ水平の低位置からすれ違いざまに切り上げる。

「はあっ!」

「くっ!?」

ギリギリで防がれ、刃が火花を散らす。

同時に、背後で雷の刃が爆散する。

それに視界を奪われたが、一瞬で後ろに回りこみ、さらに斬りつける。

しかしそんな見えないままあてずっぽうで放った一撃はもちろん容易く防がれる。

「まだまだぁっ!」

渾身で斬りかかってくる刃をかわし、大上段から勢いよく振り下ろされた刀の峰を、手にした漆黒の剣で思いっきり地面に叩きつける。

「なあっ!?」

刀はその勢いで深々と地面に突き刺さる。

武器が使用不能になり、完全に隙だらけな男。

しかし、俺はやっぱり…その男を斬れなかった。

だから俺は漆黒の剣の切っ先を地面に突き立てた。

剣に導かれ、魔法を…解き放つ!

「凍てよ、氷獄コキュートス

それは突き立った刀を凍らせ、完全に使用不能にする。…だけのはずだった。

ピシピシピシッ――――――

「…うわぁ」

どうやら思いっきり力加減を間違えた様だ。刀どころか、男も、と言うより校庭全体が見渡す限り完全に氷結し、空気中の水分すら凍ってキラキラと輝いていた。

「なんというか…。とりあえず、勝った、のか?」

呆然と立ち尽くしながら呟く。…つか、寒いっ。





――「ッ!?」

もう何本目だろう。私は彼女の対艦砲のような勢いで飛来する矢をかわし続けるが、一向に矢が尽きる気配は無い。

「あんな体の何処からそんな力が湧いてくるのよ…」

多分、矢は尽きない。しかし弓は一つ。そっちをどうにかすればいい。

ぶっちゃけあの男よりこっちの方が強いんじゃない?

なんだろう、損した気分だわ。

弓だから至近距離は弱いだろうけどあの威力、連射速度からして近づくのは至難の業。

私の武器はなんでもない、ただの拳銃。試しに何発か弓や手を狙って撃ったが全て矢で落とされる。…もはや人間業じゃない。

ほかに使えそうなものといったら…。でもアレは…。

「どうしました?いつまでも逃げていたら、彼も殺されてしまいますよ?」

「…そうね。背に腹は変えられない、か」

本当はやりたくないけど、流石にこのままだとどうにもならない。そんなことはないと思うけど、ここで躊躇って蓮が死んだら…嫌だ。

「あとはお願い、『華蓮』」

「貴女何を…」

轟、と《あたし》を中心に焔が溢れ出す。

「ふふ…あはは、あはははははははははっ!」

あたしは久々の《外》で気分が高揚して思いっきり笑う。笑うほどに、焔も踊る。

「何をするかと思えば…そんな見かけ倒し、通用するとでも?」

言葉とは裏腹に、豹変したあたしを見てかなり警戒を強める。

「あはっ、ごめんね。驚いた?久しぶりに朝姫が体譲ってくれたんだから少しは楽しませてよね?」

そういってあたしは魔力を顕現させる。朝姫でなく、あたしの特徴である銀髪と紅い瞳。手には漆黒の大鎌。

揺らめく焔を見つめ、狂喜の微笑を浮かべる。

「―ッ!?」

喋ってる間に、砲撃のごとく矢が打ち込まれたが、全てあたしの前で、燃え尽きて灰となる。

「そんな玩具、届くとでも思ってるの?」

焔はあたしに向けられる物理的な攻撃を全て焼き尽くす。朝姫にはあんなにも脅威だった矢も、私には微風程度にもならない。

「…?」

不意に何か違和感を感じた。少女からではなく校庭…つまり結城蓮の居る場所から。

始めは、ほんの小さな魔力の波動。それが徐々に、クレッシェンドの様に強くなっていく。

それが蓮のものなのか、あるいは男のものなのかはわからない。

けど、それはあたしにとってはどうでもいいこと。蓮が死んだらちょっと面倒だけど。

どうせあの子の矢は当たらない。あたしは完全に少女に背を向け、手すりにひじをついて頬杖しながら校庭を眺める。

途端、眺めていた景色が一転した。

「わお…。なかなかやるわね…」

眺める先では、全てが凍り、キラキラと、細かな氷粒が舞っていた。

その中心に立つ二人の人影。片方は凍ってるみたいだけど、流石にそれが蓮と男のどちらなのかまでは見えない。

「あーあ、死に切れてないみたいね」

一瞬で凍ったため、コールドスリープみたいな状態になっているのだろう。

「はあ…、蓮だったら早いとこ行って溶かさなきゃいけないか…」

なんとめんどくさい。

「ま、どっちにしろアンタは殺すけどね?」

適当に作った魔力製のナイフを三本、右腕、左肩、右太腿に向けて投げる。

「あ、くあぁっ!?」

全部狙い通りに突き刺さる。崩れ落ち、弓を取り落とす少女。これで逃げられない。

そうやって無防備になった胸に、鎌の刃を突き立て、突き刺した傷口をグリグリと抉る。

「ぁ…くふっ、かはっ」

口から血の塊を吐く少女。吹き出す血があたしの髪を、顔を、服をぬらしていく。

「意外と生命力高いのね。可哀想だから一思いに消してあげる」

浮かべた表情は死への絶望と恐怖か、苦痛からの開放の喜びか。

まあ、どっちでもいいけどね。

「焼き払え」

鎌の刃が纏う焔が少女の体を焼き尽くす。灰すら残さず、全てを無に返す。

「さて、《焼去》完了。さっさと蓮を溶かしに…」

彼女だったものの最後のひとかけが火の粉となって消えたのと同時に、体が脈打ち、軽く目眩がして、膝をつく。

「…もう、時間切れ?しょうがないなぁ、戻りますか」

長時間こうしていると体に余計な負荷がかかるため、長い間力を行使することは出来ない。

なにより今は《準備》もあるから尚更。

目を閉じ、息を吐く。


「…ぁ」

そうして、屋上に残ったのはたった一人、無力な少女だけとなった。


「朝姫…」

「…平気よ。返り血だから」

「いい、気にするな」



「この馬鹿ぁ~~~~っ!!」




次回、「存在と価値」

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