プロローグ
かつて魔法という力が存在していた時代、世界を征服をせんと目論む帝国軍と反発する連邦軍がいた。永きにわたって続いた死闘は10年ほど経ち、戦場となった場所は血の海と化し殺伐とした殺風景になっていた。この戦いで広く使われた魔法の力は絶大で魔導士をかき集め部隊を組み、さらに封印されていた魔物を開放し操っていた帝国軍は兵士の大半を死に至らしめたが魔法の力を駆使しこの戦いに勝利し世界を支配した。
その後、解き放たれた魔物は兵力を増大させ帝国軍に戦いを挑み連邦軍以上に苦しめ政権を奪うかに思われた。がしかし、皇帝と名乗るものに次々と倒され大魔王までもが抹殺されてしまった。それ以降は忠誠を誓い皇帝の配下に置かれ帝国の兵力になった。
あれから1000年の月日が流れた・・・
とある山奥の小さな小屋に若い男女がひっそりと暮らしていた。かつてほど帝国の独裁力はなくなったもののいまだに忠誠を誓わないものは処刑されているためこの二人もひそかに暮らしていた。それでも平穏な日々を過ごしていた二人はどこか幸せそうだった。
「ねぇ?レイ〜何してるの?」
「風呂作ってんだよ。」
「へぇ〜。すごいじゃな〜い。ん?でもどうやって入るの?」
「まずコレに水入れて下で火を焚くんだよ。そんで風呂が沸いたらこのすのこを敷いて入るんだ。」
「すごぉ〜い。」
何かと作ったり発明が好きな男はレイナードと言い風呂を造り冷たい川での水浴びをしなくてもスッキリできるようにと風呂を作った。しかし、この風呂が原因で二人の平穏な日々が崩れようとは知る由もなかった。
その日の夜、レイナードが火の番をしてルシルが風呂に浸かっていた。この時、珍しい場所で火の灯りと煙が上がっていたため不審に思った巡回していた魔物がそこに降り立った。
「お前らそこで何をしている?」
「しまった・・・。」
「えっ?・・・えっ・・・?」
「こんなトコに人間が隠れていたとはな。」
「バレたら生かして帰すわけには行かねぇな。」
「フッ・・・やるか?」
「やってやるよ!」
ついにレイナードは近くにあった斧を持ち戦うこと決意した。
「オレはこんなトコで油売ってられんから、さっと済ましてやる!覚悟しろ小僧!」
レイナードは飛びかかってきた魔物をひらりとかわしカウンターを狙ったが寸前で魔物がかわし再び飛び掛かった。今度は魔物の体を掴み取っ組み合いなり背負い投げのように投げた。しかしこの程度では魔物は直ぐに立ち上がり向かってきた。激しく打ち合うもののお互いギリギリの攻防で一歩も引かなかった。そんな中・・・
「いやっ!やめて離して!レイ〜!」
ルシルが捕まってしまいもう一方の魔物の人質になってしまった。レイナードは対峙している魔物を突き飛ばしルシルの救出に向かうが、
「おっと。それ以上来たらこの女殺すぞ。」
「クソっ・・・こんっ・・の野郎。」
「大人しくこの女よこせば貴様は生かしてやる。まぁ、もっとその場合この女はオレ達の種を植え付けられる毎日になるがな。」
「そんな・・・の・・ヤダ・・・でも・・・。」
「どうすりゃいいんだ。」
この時レイナードはこの場にはもう一匹魔物がいることを忘れていた。そして背後から近づき狙われていた。
「あっ!!レイ!!後ろ来てる!!」
「はぁ?!あっ!てめぇ!」
魔物が剣を振り上げたその時だった。ルシルは魔物の腕に噛み付き振り払ってレイナードを突き飛ばした。しかし、ルシルは自分自身は避けきれずに斬られてしまった。
その場に僅かに沈黙した次の瞬間レイナードがゆっくりと立ち上がり、
「・・・ンっっああああああああああああああ!!!てめぇらだけはぜってぇー生かして帰さねぇからなぁ!!この糞野郎!!」
魔物達が一瞬怯むほどの殺気を放ち鬼のような形相で襲い掛かり先ほどとは比べものにならないほどの力で魔物を殴り飛ばし、その後わずか5秒で片われを戦闘不能状態にしてしまった。もう一方は逃げようとするがレイナードに捕まり何百発も殴られて息絶えた。愛するルシルが殺され逆上した彼の力は何百倍もの力を引き出した。
しばらくして冷静になったレイナードは悲しみくれていた。ルシルの遺体を彼女の1番好きだった場所に埋め、花を手向けた。
「ルシル・・・。オレは決めたぞ、ヤツらをぶっ倒しに行くぜ。」
怒りの矛先はやはり帝国軍に向けられた。そして皮肉にもルシルの死によって目覚めた爆発的な力を携え、レイナードは帝国の総本山を目指した。
勇者の伝説が始まった・・・。