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右折のお礼

作者: WAIai
掲載日:2026/08/04

秋晴れの中、高橋は車を運転していた。

40代のママで、隣の助手席には、息子が乗っている。

今日は土曜日なので、買い物に出かけたのだった。

「今日はやっぱり混んでいるわね」

高橋はハンドルを握りながら、街へ向かう車の列に並んでいた。

息子がこちらを見、肩を竦める。

「しょうがないよ。皆、買い物に行きたいんじゃないかな」

「そうね。日曜日に行くよりは、土曜日に行ったほうが、気が楽だもの」

高橋は自分の顔に似ている息子に、同意する。

大きくなってきて、身長が越されてしまったが、育ち盛りなので、たくさん美味しい料理を作って食べさせてあげたかった。

「お母さん、あのさ」

「何?」

「俺、今、悩んでいるんだけどさ」

「うん。何でも話して」

「進路、どうしようか、迷っているんだよね」

「進路? いつも話しているじゃない」

高橋は驚いて、横を向く。

進路については、高橋は息子のやりたいことを尊重するつもりで、否とは言わなかった。

「美容師になりたいんじゃないの?」

「そうなんだけだど…。その、パティシエになって、店をもつのもいいかなと思って」

「パティシエ!?」

高橋はびっくりして、アクセルを強く踏んでしまう。

慌ててブレーキを踏んだが、危ないところだった。

冷静に、冷静にと唱えると、息子に言う。

「小さい頃から、私とお菓子作りしていたものね。好きにしていいわよ」

「いいの!! 全然、違う道だよ」

「いいのよ。あなたの心が大事なの」

はっきり言うと、高橋は前を見、舌打ちする。

「まずい。ここ右折するんだけど、混むのよね。青信号になるのを待つか、矢印が出ないと」

「あー。ここの道だけは混むからな。しょうがないよ。待とう」

「そうね。急いでいるわけでもないし」

呑気そうに答えたが、内心は早くここの信号を過ぎてしまいたかった。

車やバイクが、高橋の気持ちを知らず、通り過ぎていく。

ー誰か、通してくれないかしら?

甘い考えを浮かべ、高橋はふうと息を吐き出す。

緊張が息子にも伝わったのか、彼もきょろきょろし始める。

大丈夫、と言おうとしたその時、高橋は向かい側のトラックに注目した。

「お母さん」

どうやら息子も気づいたらしく、トラックはライトをぴかりと光らせてくれる。

息子が顔を向けてきたので、高橋は重々しくうなずく。

「行けって、言ってくれているみたい」

「そうなの? じゃあ、お礼をしないと」

2人で頭を下げると、トラック運転手が手を上げる。

ワイルドそうな顔立ちで、もてそうな感じだなと思いつつ、高橋はハンドルを右に回す。

それからハザードランプを押した。

「何をしているの?」

「お礼を伝えているの。ありがとうございますって」

息子が後ろを見、トラック運転手の様子を見ようとする。

「あ、気づいてくれたみたい!! 手を上げて行ったもの」

「そう。良かった」

高橋は助かったと思い、車を走らせるのだった。

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