右折のお礼
秋晴れの中、高橋は車を運転していた。
40代のママで、隣の助手席には、息子が乗っている。
今日は土曜日なので、買い物に出かけたのだった。
「今日はやっぱり混んでいるわね」
高橋はハンドルを握りながら、街へ向かう車の列に並んでいた。
息子がこちらを見、肩を竦める。
「しょうがないよ。皆、買い物に行きたいんじゃないかな」
「そうね。日曜日に行くよりは、土曜日に行ったほうが、気が楽だもの」
高橋は自分の顔に似ている息子に、同意する。
大きくなってきて、身長が越されてしまったが、育ち盛りなので、たくさん美味しい料理を作って食べさせてあげたかった。
「お母さん、あのさ」
「何?」
「俺、今、悩んでいるんだけどさ」
「うん。何でも話して」
「進路、どうしようか、迷っているんだよね」
「進路? いつも話しているじゃない」
高橋は驚いて、横を向く。
進路については、高橋は息子のやりたいことを尊重するつもりで、否とは言わなかった。
「美容師になりたいんじゃないの?」
「そうなんだけだど…。その、パティシエになって、店をもつのもいいかなと思って」
「パティシエ!?」
高橋はびっくりして、アクセルを強く踏んでしまう。
慌ててブレーキを踏んだが、危ないところだった。
冷静に、冷静にと唱えると、息子に言う。
「小さい頃から、私とお菓子作りしていたものね。好きにしていいわよ」
「いいの!! 全然、違う道だよ」
「いいのよ。あなたの心が大事なの」
はっきり言うと、高橋は前を見、舌打ちする。
「まずい。ここ右折するんだけど、混むのよね。青信号になるのを待つか、矢印が出ないと」
「あー。ここの道だけは混むからな。しょうがないよ。待とう」
「そうね。急いでいるわけでもないし」
呑気そうに答えたが、内心は早くここの信号を過ぎてしまいたかった。
車やバイクが、高橋の気持ちを知らず、通り過ぎていく。
ー誰か、通してくれないかしら?
甘い考えを浮かべ、高橋はふうと息を吐き出す。
緊張が息子にも伝わったのか、彼もきょろきょろし始める。
大丈夫、と言おうとしたその時、高橋は向かい側のトラックに注目した。
「お母さん」
どうやら息子も気づいたらしく、トラックはライトをぴかりと光らせてくれる。
息子が顔を向けてきたので、高橋は重々しくうなずく。
「行けって、言ってくれているみたい」
「そうなの? じゃあ、お礼をしないと」
2人で頭を下げると、トラック運転手が手を上げる。
ワイルドそうな顔立ちで、もてそうな感じだなと思いつつ、高橋はハンドルを右に回す。
それからハザードランプを押した。
「何をしているの?」
「お礼を伝えているの。ありがとうございますって」
息子が後ろを見、トラック運転手の様子を見ようとする。
「あ、気づいてくれたみたい!! 手を上げて行ったもの」
「そう。良かった」
高橋は助かったと思い、車を走らせるのだった。




