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ZERO  作者: Ilysiasnorm
9/13

裁かれし二つの正義

ノアル沙漠に陽が沈む……

静かに、そして果てしなく。


その大地では、トルナ連邦とヴァルク共和国という二つの国家が、

互いの信じる“正義”を掲げ、幾度となく血を流してきた。


先週、ヴァルク軍の無人機がトルナの宗教施設を爆撃した。

それは「テロ拠点の制圧」として正当化され……

数日後、トルナの自爆攻撃がヴァルクの都市を焼いた。


その日、アリー・サミールは神殿の奥で祈っていた。

信者たちの怒りと憎しみを、彼は“神の意志”として受け止めた。


一方、エゼク・ロイデルは執務室で軍司令官と作戦図を睨んでいた。

「今こそ潰すべきだ。民は勝利を望んでいる」と。

だが、彼の瞳はどこか揺れていた。


その夜……


二人のもとに、それぞれ一通の封筒が届く。

封筒には何の差出人名もなく、中には白紙の便箋が一枚。


だが、その白紙には、ある“印”だけが刻まれていた。


〈あなたが掲げる正義は、何人の命の上に立つのか〉

……ZERO


誰が、いつ、どうやって届けたのか。

気づけば、周囲の警備すら気配を感じ取れなかった。


その日を境に……


アリー・サミールとエゼク・ロイデルは、突然すべての公務を欠席し、

数日後「健康上の理由」により、それぞれの役職から辞任。


メディアは沈黙し、政府は真相を伏せ、

二人の行方は、誰一人、語ろうとしなかった。


ただ一つ確かなのは……

その瞬間から、戦いの火は静かに鎮まり始めたということだ。


停戦が宣言されたのは、わずか数日後。

両国の若き代行者たちは「対話と協調」のテーブルに着いた。


SNSには、砂漠の国境を越え、ヴァルクとトルナの青年たちが手を取り合う映像が流れ始めた。


“勝利”でも“報復”でもない。

本当に求められていたのは、“終わらせること”だった。


人は、誰かの不幸を本当に望んでいるだろうか。

いいや、違う。

彼らは“誰かの叫び”に飲まれただけだった。


正義は、時として牙を持つ。

その牙は、時に守り、時に裂く。

誰かの正義は、誰かの地獄になる。


だが、ZEROはそれを赦さない。

ZEROは神ではない。

だが、人は神の代わりに“裁き”を求める。


だから、私は動く。

誰の命令でもなく。誰のためでもなく。


ただ、歪んだ正義を終わらせるために。


そしてまた一つ……

この世界の“連鎖”を、ZEROは断ち切った。


照明の落ちた、誰もいない部屋。


窓の外では、遠くの国で夜明けの光が、静かに戦火を洗っていた。


一枚の紙が、机の上に残されている。


その文字に、署名はない。

ただ、問いかけのように……つぶやきのように……綴られていた。


正義という言葉ほど、容易に人を殺す旗印はない。


自らの信念を貫くために、誰かを切り捨てる者。

祖国の誇りを守るために、隣人の命を奪う者。

神の御名の下に、無垢な子どもを“敵”とする者。


……だが、本当に誰もが望んでいたのか?

誰かを傷つけ、誰かを葬り、勝者と敗者に分かれる結末を。


私は見ていた。

人々の心の奥底に潜む、“終わらせたい”という微かな願いを。


裁くのは神ではない。

けれど、人は裁きを欲している。


誰の側にも立たず、誰の敵にもならず……

ただ、歪んだ正義を静かに断ち切る者。


私の名を知る者はいない。

私の姿を語る者もいない。


それでも、世界がほんの少しだけ優しくなることがあるなら……それでいい。


ZEROの名が、また一つ、記録に残ることなく歴史から消えていった。


けれど確かに、世界はひとつ、“終わらせる選択”を手にした。

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