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ZERO  作者: Ilysiasnorm
8/13

神の名を騙る者

──アジア南部、ベリス共和国。 世界地図には小さくしか描かれないこの国は、長年内戦が続いた結果、国際社会の中で孤立を深めていた。 その政治体制は独裁でありながら、宗教的理念を前面に掲げ、国民に信仰と忠誠を強いた。


ベリス国防省長官……ハサン・アル・ザイーム。 彼は軍事力と宗教指導者としての地位を併せ持つ“国家そのもの”と称されている。


各地で続発する爆破事件、 欧州の難民キャンプ襲撃、 中東石油施設への無人攻撃ドローン……


その背後には、必ずこの小国が資金提供していた。 兵器を送り、戦闘員を訓練し、国家ぐるみでテロネットワークを支援してきたのだ。


国際社会は証拠不十分を理由に、静観を続けてきた。 なぜなら、ザイームは“国家元首”として扱われ、 公にはいかなる非難も出来ない“外交上の聖域”にあったからだ。


だがその実、国境を越えたテロリズムの多くはこの男の「信仰」によって支えられていた。


ある夜、ザイームの執務室に漆黒の封筒が届く。 封蝋には銀色の“0”。


『ZEROより……汝、神を騙る者よ。裁きの時が来た。』


ベリス共和国建国記念日。 市民が広場に集い、ザイームの演説に喝采を送る。


「我らは神の民である!西洋の毒を断ち切り、神の名のもと世界を正すのだ!」


その瞬間、首都中心部の電力が遮断される。 巨大スクリーンが切り替わり、かつて支援されたテロ組織の犯行映像が流される。


「この武器を与えたのは……」 「この資金を供与したのは……」 「この命を弄んだのは……」


ベリス政府の裏金口座、ザイームのサイン入りの軍事輸送命令書、 国家主導の“殉教者育成施設”の映像までが順に晒されていく。


群衆が騒然とする中、ザイームは軍に命じようとするが、 その通信ラインすらも既に遮断されていた。


地下へ逃れたその時、待っていたのは黒衣の人物。


「お前は国を騙り、神を騙った。  だが裁くのは神ではない。  それでも人は、裁きを欲している。」


ザイームは叫ぶ。 「我が正義は世界の浄化だ!それが罪か!」


黒衣の者はただ一言、告げた。 「ZEROが裁くのは、人を装い、人を弄ぶ者……それだけだ」


制裁は無音で下され、彼の“国”は一夜にして機能を停止した。 軍事ネットワークは無力化され、武器庫は遠隔で焼かれ、 秘密支援口座は全て世界へ公開された。


翌朝、ベリスは沈黙していた。 ザイームは“行方不明”とだけ報じられ、国家は形だけ残された。


だが誰も、ZEROの姿を見た者はいない。


ハサン・アル・ザイーム。 彼もまた、かつてはこの小国を立て直そうと願った一人の青年だった。 国際社会に見捨てられ、援助も届かぬ国土で、 彼は「外敵と戦える強さこそが正義」と信じていた。


だが、その正義がいつしか他国を“敵”と定義し、 自国民を“盾”とし、信仰を“武器”とする体制を築き上げてしまった。


ZEROの裁きが正しかったかは、誰にもわからない。 だが彼の正義が、どこかで歪み、 神の名を使って命を弄ぶものへと変わっていったことだけは……事実だった。


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