裁きの始まり
第1話 ——「裁きの始まり」
世界は静かに壊れつつあった。
表向きは平和を装いながら、裏では腐敗と混沌が広がっている。
政財界の重鎮、裏社会の支配者、影で世界を操る者たち——
彼らは己の権力に溺れ、人々を弄び、誰も裁くことができない。
だが、ZEROは見ている。
「この世界には、決して裁かれぬ者がいる。」
「ならば、その裁きを果たすのは、我々でなければならない。」
そして今夜、またひとつの"悪"が断たれる。
深夜、某国・首都の高層ビル
最上階のスイートルーム。
一人の男が、ワインを傾けながら夜景を見下ろしていた。
ヴィクトル・カールマン。
表向きは慈善家であり、国際的な投資家。
しかし、その実態は闇市場の支配者であり、戦争と混乱を金に変える男だった。
彼の手によって、多くの国が争い、多くの命が犠牲になった。
だが、彼は決して表舞台には出ない。
証拠もなければ、裁く法もない。
「世界は結局、金と力で動く。
正義なんてものは、弱者がすがる幻想にすぎん。」
彼はそう呟き、グラスを傾ける。
その瞬間——
暗闇が動いた。
風もない密室。
誰も入るはずのないこの空間に、"それ"は確かにいた。
「……誰だ?」
ヴィクトルは振り返る。
しかし、そこには何もいない。
だが—— 確かに"存在"を感じる。
次の瞬間、彼の目の前に"それ"が落ちた。
一枚の黒いカード。
そこには、ただひとつの文字が刻まれていた。
「0」
ヴィクトルの顔が蒼白になる。
喉が渇き、全身が震える。
このマークを知る者は少ない。
だが、知っている者は皆…… 必ず死ぬ。
「待て……話し合おう……!」
彼は必死に言葉を紡ぐ。
しかし、ZEROにとって"交渉"は存在しない。
彼らは決して迷わず、決して止まらない。
そして——
——銃声すら響かない静寂の中で、ヴィクトル・カールマンは消えた。
翌朝、ニュース速報
「今朝未明、有名投資家ヴィクトル・カールマン氏が自宅で死亡しているのが発見されました。
事件性はないと見られ……」
世界は何も知らない。
彼が何者だったのか。
彼が何をしてきたのか。
彼がなぜ消えたのか。
ZEROは何も残さない。
だが、彼らは確かにそこにいる。
誰しも知らぬが、誰しも知っている存在——
「ZERO」
今、またひとつの裁きが完了した。
そして次の標的が、静かに選ばれる。
「世界はまだ、裁かれ足りない。」
ヴィクトル・カールマン—— 彼の罪、そして彼の正義
ヴィクトル・カールマンは、ただの強欲な商人ではなかった。
彼には**「正義」** があった。
少なくとも、彼自身はそう信じていた。
「世界は不平等だ。
金を持つ者が支配し、持たぬ者が搾取される。
ならば、俺は勝者になる。」
彼は幼少期から、"敗者"の人生を生きてきた。
貧困、差別、暴力—— それら全てを知り尽くしていた。
そして彼は誓った。
「俺は奪われる側にはならない。
奪う側に立ち、この世界の真理を支配する。」
彼にとって、"金"と"力"は唯一の真理だった。
腐敗した政治家を買収し、弱き者たちを"駒"として扱い、
戦争を操り、国を転覆させ、世界を"正しく"回してきた。
「善悪は勝者が決める。
俺は負けない。だから、俺が正義だ。」
彼の信じる正義は、金と力による秩序だった。
貧しい者が富める者に従うのは当然。
国家も、経済も、戦争も、全ては利益のためにあるべき。
彼にとって、それは 「世界を管理する手法」 であり、
むしろ、無秩序な混沌を排除する行為だった。
では、いつから"狂って"しまったのか?
答えは、最初から だった。
彼の正義は、初めから"力による支配"でしかなかった。
だが、それに気づいたのは—— 彼が裁かれる瞬間だった。
「お前の罪を、今ここで終わらせる。」
ZEROの裁きは、"悪"を許さない。
それがどんな理屈を持とうとも、それがどれだけ世界を支えていようとも。
ヴィクトル・カールマンは、
己の正義を信じたまま、消えた。
そして、世界は何も知らずに動き続ける。
ZEROが、またひとつ"歪み"を正したことも知らぬままに。