ZERO外伝『均衡なき抑止の果てに』 第三幕:「静かなる崩壊」
大陸連邦・首都――
中央核司令塔では、未曽有の事態に誰もが沈黙していた。
「……すべての起動信号が応答なし、ですって?」
「はい。起爆キー、外部送信系、衛星中継、すべて無効化されています。ハードもソフトも異常はなし……だというのに、完全沈黙です」
国家戦略を司る中枢が、突如として“機能を停止した”。
不具合の兆候もなければ、痕跡もない。外部からの侵入ログも皆無。
それは“事故”とも“サイバー攻撃”とも断定できない、完全な“無”だった。
同様の報告が、複数の核保有国から相次いで届く。
バサラ共和国、シュリオン連合、カンダル王国、エオリア民主連邦――
世界の核戦略を支える国々が、同時多発的に“沈黙”していた。
各国の首脳会議は緊急招集され、事態は瞬く間に国際報道に乗った。
「核兵器の発射システムが、世界中で同時に沈黙」
「背後に“ZERO”の影があるのでは――?」
だが、誰もその名を口に出して語ることはなかった。
なぜなら、その“存在”を口にした瞬間、自らの罪が裁かれるのではと、本能が囁いていたからだ。
一方、ある国の地下研究施設――
技術将校たちは蒼白な顔でモニターに目を凝らしていた。
「すごい……これは、軍事衛星そのものがハイジャックされているんじゃなくて……まるで、“意思を持った存在”に封印されたようだ……」
「まさかAIか? いや、それにしては“行動に倫理がある”」
誰かがつぶやいた。
「まさか、神か?」
その瞬間、部屋が静まり返った。
神ではない――。
だが、人が“神のふりをしていた”正義を、沈黙の中で断じる何者か。
それが、“ZERO”。
世界の反応:秩序と混沌の狭間で
混乱の中、各国は「報復の準備」も「責任の追及」もできずにいた。
なぜなら、それぞれが「核」による力を失っていたからだ。
誰も“上から殴る”ことができない状況――
それは皮肉にも、対話の必要性を突きつけた。
やがて、若い指導者たちが声を上げ始めた。
「私たちに必要なのは、沈黙した武器ではなく、沈黙のうちに響いた“問い”の答えだ」
「ZEROが求めているのは、“恐怖による秩序”ではない。“希望による共存”ではないか?」
SNS上では、各国の若者たちが“核の無力化”をきっかけに、
国境を越えて平和を語るハッシュタグを共有し始めた。
#引き金のない世界へ
#本当の抑止は対話
そして、世界のどこかで――
ZEROの名を知る者はいない。
裁かれた者の生死を知る者もいない。
だが、誰もが“あの存在”を感じていた。
静かに、確かに、世界のバランスに手を加えた“何か”を――




