出会い~吉か凶か~
何もかもが嫌になった。親も兄弟も友達と呼んでいた人も。もう私の周りには何一つとして残っていない。いや、初めから何も無かったのかもしれない。
「もう、いいや。」
何かに諦めるのも、何かに涙を流すのも、期待するのももう、飽きた。
歩道橋に足をかけ、全てを終わらせるために向こう側へと足を踏み入れた。
「何してんだ、若いのが。」
声のする方を振り向くと、女性が放っておかない端正な顔立ちに、日本人離れした瞳。そして周りには3、4人の黒スーツの体格のよい男性を連れていた。
「…疲れたので。」
「何に。」
「この世界で息をすることに。」
これが最後になるだろうと、自分に出来る最大級の笑顔で答えた。声はきっと作れていないのだろうけど。
放っておいてくれ。この人の人生には何も関係ないのだろうに。きっと今日寝床について、明日朝日を見れば私の事なんてもう忘れている。その程度の存在なのだ。道行く人は全て誰でもそうなのだから何もおかしいことは無い。
「死ぬのか。」
「じゃなければここに自ら来ないでしょう。」
「なら、俺と来るか。」
この人は何を言っているのだろう。見ず知らず、しかも先程あったばかりの女に。ああ、そうか。一晩の相手が欲しいのか。きっとそうだ。私を買った男たちも全てそうだったから。
「…いいですよ。どうせ最後なので。」
ならば、とあの世とこの世の境目を飛び越えてその人のところへ向かう。
この出会いが、私の全てを変えるとも知らずに。