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9 エリ女王陛下

 すると、グランツは真剣な眼差しで言った。


「絶対に知っていただろう。それ以前に、私はエーリクがひどいやり方で君との婚約を解消しようとしたことを、まだ許したわけではない。そのうち償いはしてもらう」


「殿下……」


 次の瞬間、グランツはいつもの優しい笑顔をオルヘルスに向ける。


「さぁ、こんな話しはもう終わりだ。今日は母も来ている。君に会えると、とても楽しみにしていた」


「女王陛下がですか?!」


「そうだ。以前から会いたがっていたんだが、君が病弱だったのもあって会えずじまいだったとぼやいていた」


 突然のことにオルヘルスはとても緊張し、お茶どころではなくなった。

 

 エリ・ファン・デ・ヴァル・ユウェル女王陛下に会うのは、デビュタント以来である。しかもそのときはただの挨拶するのみで終わったので、会話をするのはこれが初めてとなる。


 グランツはエリ女王の前にオルヘルスをエスコートした。


「陛下、オルヘルスをお連れしました」


 エリ女王の前に連れていかれたオルヘルスは、ゆっくりカーテシーをする。


「ご機嫌うるわしゅうございます。エリ女王陛下」


「そんな挨拶いらないわ。それより、オリあなた、本当に大きくなったわねぇ」


 そう言ってエリ女王はオルヘルスに駆け寄ると抱きしめた。突然のことで、驚いて固まっているとグランツが声をかける。


「陛下、そのようにしたらオリが脅えます」


 そう言われ、エリ女王は体を離した。


「まぁ、そうよねぇ。オリは昔のことを覚えてないだろうし。それにしても本当に体調はもとにもどったの? もうどこも悪くないかしら?」


「はい、しっかり治療いたしましたので」


「そう、デビュタントのときに色々お話しをしたかったのだけれど、(わたくし)も時間が取れなくて」


 オルヘルスは先ほどから不思議に思っていたことを口にする。


「女王陛下、ひとつお伺いしたいことがあります」


「なぁに?」


(わたくし)と幼いころに会ったことがあるのですか?」


 すると、エリ女王は目に涙を浮かべながら言った。


「そうよ、あのころのあなたはとても健康で……。ステフからはなにもきいていないのかしら?」


「はい、なにも」


「そう、じゃあいずれ話してくれると思うわ。さぁ、座って。色々お話ししましょう。本当にあなたが娘になってくれるなんて、(わたくし)とっても嬉しいわ」


「ありがとうございます」


 オルヘルスはエリとグランツに挟まれる形で座った。


「なにが食べたい? たくさん食べなさい。それに今日の茶葉は、あなたのために特別なものを準備したのよ?」


 エリはそう言って、目の前に並べられた焼き菓子をオルヘルスに進める。そこでグランツが口を挟む。


「陛下、オリを独り占めですか?」


「あら、いいじゃない。やっと会えたのだもの。ねぇ?」


 そう言ってエリはオルヘルスに微笑んだ。


 オルヘルスはこの状況についていけずに、このあとのエリの質問責めに答え、ひたすら相づちを打った。


 こうして緊張のうちに時間が過ぎ、お茶会の時間はあっという間に過ぎていった。


 今日のことは、社交界で色々噂されるだろう。


 帰りの馬車の中、ぼんやりとそんなことを考えていた。


「母がすまなかったね。驚いたろう?」


 グランツに突然話しかけられ、オルヘルスは慌てて答える。


「えっ? いえ、とても優しくしていだだいて、お陰で今日はとても楽しい時間を過ごせましたわ」


「そうか。ところであのネックレスのことだが」


(わたくし)本当に盗ったりしていませんわ」


 オルヘルスが即答すると、グランツは当然とばかりに言った。


「それはそうだろう。それより、あのネックレスはどこにあったものだ?」


「それは、殿下からのプレゼントの中に紛れてましたの。だからてっきり殿下からのプレゼントかと」


「なるほど。だとしたら、あの屋敷に出入りできるものの犯行か」


「いいえ、(わたくし)の屋敷にそんなことをするような者はいませんわ」


「いや、私も君の屋敷の者たちの身元はきっちり調べてある。変な動きをするものもいないのは知っている。だが、あの屋敷に出入りできたのは使用人だけではないだろう?」


「ではまさか、アリネア様本人が?」


 グランツはうなずく。


「おそらく何度か君の屋敷のエントランスで鉢合わせたあの時じゃないか?」


「そうかもしれませんわね」


 すると、グランツはオルヘルスの手を取って真剣な眼差しで見つめる。


「やはり屯所を置いて正解だった。それに、今回は私がそばにいて君を守れたが、私のいないときになにかあったらと思うとぞっとする」


 そう言うと、オルヘルスの頬をなでじっと見つめ顔を近づけた。


 オルヘルスは驚いてギュッと目を閉じた。しばらくして、グランツはオルヘルスの瞼にそっと口づけると言った。


「そんなに怖がらないでくれ、君のことは大切にする」


 そう言われ、オルヘルスがそっと目を開けると、グランツが悲しそうに微笑んでいた。


 傷つけてしまった!!


 そう思ったオルヘルスは慌てて弁明する。


「いえ、違いますの! 怖かったのではなくて、驚いてしまっただけですわ。それに、こ、こんなこと、は、初めてですし、ど、ど、どうしたらいいのか……」


 そう言って恥ずかしさから、隠すように両手で顔を覆った。


 そのとき、グランツが呟く。


「ぐっ、なんだこの愛おし過ぎる生き物は……。いつまででも愛でていたい。いや、それ以上のことも……」


「えっ? おめでたい? どういうことですの?」


 驚いてグランツを見ると、口許を抑えなにかに堪えるように目を閉じている。

 

「殿下?」


「大丈夫だ」


 そう答えるとグランツは、しばらくそうして堪えている様子を見せたあと、ゆっくり大きく息を吐きオルヘルスに微笑む。


「早く君を屋敷に帰さねば」


「ありがとうございます。殿下と離れるのは寂しいですけれど」


 すると、グランツは一瞬固まったあと作り笑顔で言った。


「わかった。オリ、君は無事に屋敷に帰りたければこれ以上なにも言ってはいけない」


「ですが、殿下。そういうわけには……」


 そう話を続けるオルヘルスの唇に、グランツは素早く指を当てた。


「シーッ! もうすぐ君の屋敷に着く。それまでの辛抱だ」


 オルヘルスは無言で頷いた。


 屋敷までオルヘルスを送り届けると、グランツは去り際に言った。


「来月の愛馬会には一緒に参加してくれるね?」


 ユヴェル国では馬の育成に力をいれており、年に一度国をあげて馬の品評会をしている。


 これにパートナーとして参加するということは、公式に婚約者だと発表するのとかわりなかった。


 オルヘルスはそれを考えて一瞬返事を躊躇(ためら)ったが、そのときグランツが不安そうな顔でじっとこちらを見つめていることに気づいた。

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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