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8 ネックレス

 そうしてプレゼントの山を整理してくれているオルガを見ながら、オルヘルスはこれをアリネアに見られることがなくて本当によかったと思った。


 アリネアはなぜか昔からオルヘルスをライバル視している節があり、見られたりすれば恨みを買うかもしれなかったからだ。


 これはグランツのお陰だった。


 先日言っていたとおりグランツはリートフェルト家の護衛を強化するために、屋敷の前にユヴェル国直属の騎士隊の屯所を置いてくれたのだ。


 そのせいか、アリネアはリートフェルト家に入ってくることがなくなった。


 そもそも、なぜアリネアがこの屋敷に気ままに来ることができたかというと、ステファンとアリネアの父親であるフィクトル・デ・コーニング伯爵と親交があったからだ。


 そんな関係も、アリネアがエーリクを略奪したことで終わると思っていた。


 だが、アリネアは自分の方が爵位が上であることで、今までどおり付き合いは続けられると思っているのだろう。


 どうしてそんなふうに思えるのか、オルヘルスにはまったく理解できなかったが。


 それからしばらくは平和で何事もない日常を過ごし、その間にゴシップ好きな貴族たちからのお茶会を断る手紙を書いたり、刺繍をしたりして過ごしていた。


「お嬢様! 招待状が届いていますよ!」


「オルガ、そんなに騒がなくても、お茶会の招待状ならいつも受け取ってるじゃない」


「違いますよ、王太子殿下からです!」


「殿下から?」


 グランツから招待状が来たということは、きっと用事が一段落したのだろう。そう思いながら、トレーに乗っている招待状を手に取りペーパーナイフで封を切るとすぐに中身を確認した。


 お茶会は王宮で開かれ、グランツが直接迎えに来るとのことだった。


「いよいよ婚約発表でしょうか」


 オルガは瞳を輝かせてオルヘルスにそう尋ねた。


「まさか、(わたくし)の婚約解消からそんなに経っていないし、それにお茶会で発表なんてことはないわよ」


 そう答えると、オルガはがっかりした顔をした。


「そうなんですね~。もう決定しているも同然なのに」


「わからないわよ、王公貴族なんていつ気分がかわるか。現に、エーリク様がそうだったでしょう」


「え~、でも王太子殿下はそんなことないと思います。だって、もう、お嬢様しか見えてないみたいじゃないですか~」


 オルヘルスは苦笑した。グランツは女性慣れしているだけなのだ。


 以前家庭教師だったコーニング先生から、上流階級の男性はそんなものだと聞いていたオルヘルスは、オルガほど無邪気にはなれなかった。


「それより、お茶会には殿下のパートナーとして出席することになるのだから、完璧に準備しなくてはね」


「はい、楽しみですね!」


「そうね」


 そう答えたが、オルヘルスは楽しみにはできなかった。


 なぜなら、王宮主催のお茶会ならば公爵令息のエーリクが招待されていないわけはなく、当然そのパートナーであるアリネアも参加するだろう。そう思うと憂鬱ですらあった。


「なにもなければいいけれど」


 少し嫌な予感がしてそう呟いた。





 お茶会当日、完璧に準備をし外套を羽織ると約束の時間どおりにグランツが迎えに来た。


「待たせたか?」


「いいえ、殿下。時間ぴったりですわ」


「そうか」


 そう言うと、オルヘルスをじっと見つめて呟く。


「今すぐ抱きしめたい」


「えっ? いましめたい……? なにをですの?」


「いや、なんでもない。行こう」


 グランツは苦笑すると、オルヘルスの腰に手を回した。


 王宮に着くと、すでに他の招待客がエントランスに集まっていた。


 オルヘルスが外套を脱ぎ、執事にそれを預けていたとき背後から聞き慣れた声がした。


「あら、ごきげんよう。グランツ様。それとオリも招待されてたのね」


 振り向くと、エーリクとアリネアが立っていた。


 オルヘルスは笑顔を作り、グランツはアリネアには見向きもせずにエーリクに向かって言った。


「久しいなエーリク。あの舞踏会以来か?」


 そう言うと、アリネアを一瞥しエーリクに微笑む。


「そちらは新しい婚約者か? 次に婚約者を変えるときは事前に連絡をしてほしいな」


 そう言うと、ひきつり笑いをするエーリクの肩を二回ほど強く叩き、オルヘルスを見つめ耳打ちする。


「オリ、君は堂々としていろ」


 そのときだった。突然アリネアがオルヘルスのネックレスを指差して言った。


「オリったら、信じられませんわ! そのネックレス、(わたくし)のものじゃない。先日からなくなったと思っていたのよ。ねぇ、エーリク。あれはあなたがプレゼントしてくれたものですわよねぇ?」


 エーリクはネックレスを見るとうなずく。


「確かに、私がアリネアにプレゼントしたものだ。それをなぜオリが? お前もしかして盗んだのか?」


 エーリクのその台詞に、アリネアは勢い付いてグランツに訴える。


「グランツ様、これでオリの本性がわかっていただけて? 盗難した物を平気で着けてくる令嬢なんですのよ? やはり、(わたくし)が躾なければ」


 その騒動に、周囲の者がひそひそと何事か言いながらオルヘルスに注目し始めた。


 オルヘルスは驚き、とんでもないことになったと思いながら、ネックレスを見つめると言い返した。


「これは、屋敷に届けられたものですわ。(わたくし)は人のものなんて……」


「取ったりはしない!」


 グランツが低く大きな声でそう言った。


「殿下……」


 オルヘルスがグランツを見上げると、グランツは安心させるよう微笑み、あらためてそのネックレスをまじまじと見つめ鼻で笑った。


「オリはこんなクラリティの低いガラクタのようなネックレスをわざわざ人から盗る必要がない。一級品を容易に手にすることができるのだから。それにしても、なんだこのクズ石は」


 そう言い捨てると、オルヘルスのネックレスを外してエーリクに向かって投げた。


 そうして使用人に目配せをすると、数点のネックレスを持った使用人がオルヘルスとグランツの前に並んだ。


 グランツはその中から選んだ、クラックひとつ入っていない三十カラットはありそうなピンクトルマリンのネックレスを手に取ると、オルヘルスの首にかける。


 そして、オルヘルスに微笑んだ。


「今日は可愛らしいピンクのドレスだ。そのドレスにはこの色の宝石が合う。まぁ、どれも君の引き立て役にしかならないが」


 そう言うとエーリクに向き直る。


「エーリク、今日のことは覚えているがいい」


 そう言ってオルヘルスを連れて歩き始めた。その背中に向かってエーリクは叫ぶ。


「グランツ、私にそんなことを言ってあとで後悔するなよ?」


 グランツはエーリクを無視した。そこでオルヘルスはグランツに尋ねる。


「殿下、エーリク様はこの件についてなにか知っていたのでしょうか?」

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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