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6 植物園

「はい、お約束しておりましたので」


「そうか」


 そう返すと、グランツはまじまじとオルヘルスを見つめる。


「今日も美しいな」


 オルヘルスはこの挨拶程度のお世辞を軽くかわした。


「ありがとうございます。殿下もとても素敵ですわ」


 すると、予想に反してグランツは少し照れ臭そうな顔をする。


「そ、そうか。今日も君のことを考えて衣装を選んでみたんだが、気に入ってくれたならよかった」


 思いもよらない返事とその様子に、なぜかオルヘルスも恥ずかしくなりうつむいた。


 ふたりがそうしてしばらく恥ずかしそうにしていると、そこへステファンが声をかける。


「殿下、もうそろそろお出かけになるお時間では?」


「そうだった。オリ、では行こう」


 そう言ってグランツは肘を差し出す。オルヘルスはそこへ手を添えると、ステファンに言った。


「では、お父様行ってまいります」


「あぁ、気を付けてな」


 そう答えると、ステファンはグランツを見つめた。


「殿下、あらためて娘をよろしくお願いいたします」


「わかった」


 グランツは軽くうなずきそう答えると、オルヘルスをエスコートして馬車へ乗り込んだ。


 そうして馬車が出る瞬間、アリネアが屋敷から飛び出しなにやら叫んでいるようだったが、ふたりの耳にその声は届かなかった。





 オルヘルスはどの庭園に行くのか聞かされていなかったが、着いた先は王族専用に建てられたユヴェル庭園植物研究所でとても驚いた。


「殿下、(わたくし)のようなものがここに入ってもよろしいんですの?」


 そう問うと、グランツは苦笑する。


「君が入れない理由がわからないな。さぁ、行こう」


 オルヘルスは一度はここへ入ってみたいとずっと思っていたが、王族専用となっているため入ることなど絶対にできないと諦めていた。


 その願いが叶うと思うと、嬉しくてその場で立ち止まる。


「一度は訪れたいとずっと思っていましたの。来ることができて感動していますわ。殿下、本当にありがとうございます」


 そう言って思わず涙をこぼした。


 グランツはそれを見て、ハンカチを取り出し黙ってオルヘルスの涙を拭う。


「そうか、これからはいつでも来れる。一緒に来よう」


「はい」


 オルヘルスはうなずいて、グランツを見上げ微笑んだ。目が合うとグランツはさっと視線を逸らして呟く。


「その顔は反則だ」


「えっ? やはり(わたくし)が入るのは反則になってしまうのですか?」


 そう答えると、グランツは慌ててオルヘルスに向き直って言った。


「違う。それより早く中へ入ろう。私が案内する」


「はい!」


 植物研究所ということもあってオルヘルスが初めて見る植物がたくさんあり、グランツはそれらを一つ一つ丁寧に説明してくれた。


 特に気に入ったのは、温室で満開の花を咲かせている翡翠色の花だった。オルヘルスはその花の前で立ち止まる。


「この花は、なんという名のお花ですの? こんな綺麗な色の花を見たのは初めてですわ」


「それはイキシアという名の花なんだ。その色は珍しくてね、最近手に入れたのだが寒さに弱くこの国では温室でないと育たないかもしれない」


「では、暖かい南の国からずっと旅をして渡って来たのですわね」


 そう言ってオルヘルスはその花を眺めた。グランツはそんなオルヘルスの横顔を見つめて呟く。


「花の中でこんなにも美しい花を、私は見たことがない」


「殿下もですのね」


 オルヘルスが見上げると、グランツはさっと視線を逸らし咳払いをしてから質問する。


「この中で君はこの花が気に入ったのか?」


「はい、そうですわね。もちろん、他の花もとても美しいと思いますけれど」


 すると、グランツはうしろをついて歩いていた使用人に目配せをした。


 不思議に思っていると使用人たちがあっという間にそこにテーブルと椅子、そしてお茶の準備をしてくれた。


 驚いているオルヘルスに向かってグランツは微笑む。


「君が好きだというこの花を愛でながら、お茶を楽しもう」


 そう言って椅子を引いてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


「いや、これは私の自己満足だ。君を甘やかしたくて仕方がないのだから」


 そうして穏やかな日差しの中、用意されたパラソルの下二人はゆっくりとお茶を楽しんだ。


 そこでグランツはオルヘルスを質問責めにする。


「ところで、君の好きなお茶はロベリア産のもので間違いなかったか?」


「はい、そうですわ。ご存知だったから、今日はそれを準備してくださったのですね。ありがとうございます」


「そんなことは当然のことだ。それとたしか、好きなお菓子はジャンブレッドだな?」


「はい。ですがリソルも好きです」


「そうか、覚えておこう。趣味は刺繍だったな」


「そうですわ、刺繍なら室内でもできますから」


「そうか、なるほどな。それで、好きな色はワインレッドだったか? なぜその色が好きなんだ?」


 そう矢継ぎ早に質問をされ、きっとグランツがオルヘルスは王妃として相応しいか確認しているのだろうと思いながら答える。


「ええ、ワインレッドは品のある色味ですもの。でも、本当はコーラルピンクの方が好きですわ」


「なんだって? それは聞いていた話と違うな」


 グランツは不満そうな顔をして呟いた。


 オルヘルスは、父親がグランツに渡したであろう釣書と相違があったのだろうかと少し不安になった。


「殿下、申し訳ありません。お父様が作った釣書は、娘を良く見せようと少々内容が違ってしまっているかもしれませんわ」


 オルヘルスが申し訳なさそうにそう言うと、グランツが慌てたようにそれを否定した、


「いや、そういうことじゃない。君のことはすべて把握していたくてね。私が知っていることが正しいか、答え合わせをしていただけなんだ。気にしないでくれ」


「はい……」


 そう答えると、グランツはオルヘルスの手を優しく握り満面の笑みで言った。


「それに、今日は君がこの翡翠色のイキシアの花が好きだということがわかった。これはきっとまだ誰も知らない情報だ。私はそれを知れたことにとても満足している」


 そう言って握っている手の指を絡めた。


 オルヘルスはそんなことを恥ずかしげもなく言ってしまうグランツに驚き、顔を赤くしてうつむいた。


 グランツはこんなことは言いなれているかもしれないが、オルヘルスは男性からこんなことを言われるのは初めてで、とても恥ずかしかった。


 そんなオルヘルスを見てグランツはボソリと言った。


「なんだ、この愛らしい生き物は……」


「はい? どちらに生き物がいるのです?」


 オルヘルスはこの庭園では生き物も育てているのかと、感心しながら周囲を見る。グランツは苦笑すると言った。


「いや、その生き物はあまり見つめすぎると逃げてしまうからそっとしておこう」


「そうなのですか? わかりましたわ。可愛そうですものね、そっとしておきましょう」


 残念に思いながらオルヘルスはその生き物を見ることをあきらめた。


 そこでグランツは思い出したかのように話し始めた。


「そういえば君は、昔この世界では精霊が私たち人間と関わりを持ちながら暮らしていたことを知っているか?」


 突然どうしたのだろうと思いながら、オルヘルスは答える。


「はい。そんな話を寝物語で乳母から聞いたことがありますわ。精霊たちは、争い事を好む人間に嫌気が差して、人間と関係を持たなくなったと聞きましたわ」


「君はその話を信じるか?」

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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