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27 ユキ

「そうですわ。(わたくし)は最近、彼にしか頼みませんの」


「あのファニーがデザインを引き受けるなんて、流石リートフェルト家。いやぁ、私も一目見たときからその乗馬服が他のものとは違うと思っていたのです」


 すると周囲の貴族たちも、ファニーの名前に反応してオルヘルスの周りに集まり始めた。


 アリネアはそれを見て、苦虫を噛み潰したような顔をすると扇子で口元を隠しながらオルヘルスに耳打ちした。


「こんなにちやほやされるのも、今のうちなんだからせいぜい楽しみなさい。どうせ、今日はスノウには乗れないんですもの。他の馬に乗って、失敗して今日ここに来たことを後悔すればいいんですわ」


 そう言っていやらしい笑みを浮かべるとその場を去っていった。


 横でその様子を見ていたバルトが心配顔でオルヘルスに声をかける。


「大丈夫か? コーニング伯爵令嬢はなんと?」


「アリネア様はスノウがいないと断定してましたわ。それで(わたくし)が失敗すると」


 それを聞いて、バルトは呆れた顔になった。


「なんと幼稚な……」


 そう言って言葉を失っていた。


 その後、場を移してホールへ案内されると軽食が準備されており、シャンパンを楽しみながらそれぞれが交流を深めた。


 そのあいだオルヘルスは警戒を怠らず、ずっとバルトと行動を共にしていた。


 エーリクはアリネアを伴い、招待客一人一人に話しかけ、それなりにホストとしての役目をしっかりこなしているようだった。


 そうして一番最後にオルヘルスとバルトの元にやってきた。


 まずはバルトに挨拶をし、世間話をするとにやにやしながらオルヘルスを見つめた。


「オリ、君はカヴァロクラブの会員になったと先ほど言っていたな」


「そうですわ。それがなにか?」


「それなのに今日の招待に応じるということは、私に会いたかったのだろう?」


 そう言って、エーリクはオルヘルスを上から下までまじまじと値踏みするように見つめると続けて言った。


「最近、昔と比べるとだいぶ見た目もよくなったようだ。これなら合格だ」


 オルヘルスはそのエーリクの視線を気持ち悪く思い、大声でそれを否定したいのをぐっと堪えると答える。


「まぁ、どうしてそんな解釈になるのかさっぱりわかりませんけれど、そんな解釈をするかたもいらっしゃるんですのね。いい勉強になりましたわ。これから気を付けますわ」


「いいのか? そんな強がりを言って。殿下にも捨てられたのだろう? 強がらなくとも愛人として囲ってやってもいいと言っているんだ」


「あら、とても面白いご冗談ですこと。エーリク様の愛人だなんて、絶対に嫌ですわ」


「なんだって?! そんなことを言って後悔することになるぞ?!」


「後悔なんていたしません」


 オルヘルスがピシャリと言い返すと、エーリクは突然周囲に向かって大きな声で言った。


「お集まりのみなさん。これからオルヘルス嬢が得意の乗馬をお披露目してくれるそうだ。彼女の乗馬の腕前はとても素晴らしいものだ、楽しみにしていただきたい」


 そうして、オルヘルスに向き直るとニヤリと笑った。


「さぁ、リートフェルト男爵令嬢。私も楽しみだ」


 周囲からは拍手が上がり、アリネアはエーリクのうしろからちらりと顔を出しニヤニヤしながらこちらを見ていた。


 オルヘルスはそんなエーリクたちに満面の笑みを向けると周囲に向かって堂々とお辞儀をし、連れてきた馬たちが居る場所へ向かった。


 待たせているあいだ、馬たちになにかされないよう世話係をつけて警護させていたが、それでも不安で怪我をしていないか馬装具になにかされていないかをチェックし、問題がないことが確認できてからユキにまたがった。


 馬場へ出ると、待っていた貴族たちが拍手で迎え、オルヘルスは馬上でお辞儀をして返すとユキに小声で話しかける。


「ユキ、お願いね。あいつらをギャフンと言わせてやりましょう」


 そして馬場へ駆け出した。


 ユキが慣れていない馬場で少し動揺しているのを感じ、すぐに競技用のコースを走らず落ち着くまで少し走って慣らしてから競技用のコースへ向かった。


 オルヘルスとユキは次から次に障害物を越え、見事にそのコースを走り切るとエーリクたちが立っている場所へ向かった。


「先日も見たが、素晴らしい走りだった。また腕を上げましたね」


 ドリーセン伯爵がそう言って拍手で迎えると、他の貴族たちもそれに続いて賛辞を送った。


「ありがとうございます。でも(わたくし)だけの力ではありませんのよ? この子のお陰ですわ」


 オルヘルスはそう答えるとユキから降り、ポーチからニンジンを取り出しそれをあげてなでた。


 すると、そのとき人一倍大きな音をたててエーリクが拍手をして注目を集めた。


「いやぁ、確かに素晴らしい。だが、その馬は噂のプライモーディアル種ではないようだ。一体どうしたのかな? 確か、私はあの馬を連れて来るよう招待状に書いたと思ったが」


 その横柄な態度に、周囲はひそひそとエーリクを非難する言葉を口々にしたが、エーリクはそれを気にしていないようだった。


 オルヘルスは冷静に答える。


「スノウは少し休ませているだけですわ。それに、この子もとても素晴らしい子ですもの。なにも問題ありま……」


 オルヘルスがそう話しているのに被せて、エーリクは大きな声で笑いだした。


「休ませている? 本当かな。そもそも君が所有していると言うプライモーディアル種を見たものは少ない。じつはそんな馬を君は所有していないのでは?」


 そこで、バルトが口を開いた。


「それはありません。私があの馬をオリに譲渡したのは確かなのですから」


 そう言われてもエーリクは全く怯むことなく答える。


「そうでしょうね。あなたが馬を譲渡したのは確かでしょう。だが、その馬は本当にプライモーディアル種だったのか」


 バルトは明らかに不機嫌そうな顔をして言い返す。


「それは愛馬会で、陛下も確認なさったことですよ?! ホルト公爵令息、あなたは陛下をも疑うというのですか?」


 するとエーリクは声を出して笑った。


「偽造だったのでしょう? それらしい馬を捕まえて、なんとか偽造した。だが、あまり人の目に晒せば、偽造がばれてしまう。だから今日は連れてこられなかった。違いますか?」


 ここまで聞いて、オルヘルスはエーリクがスノウを盗んだ本人で、その目的はこうして貶めるためだったのだと確信した。


「伯父様、もういいですわ」

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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