勇者?
僕も含め、仲間達も既に満身創痍だ。右手に持っている剣が何時もより重い。
禍々しいオーラを発し、僕達に何とも形容のし難いプレッシャーをぶつけてくる魔王は、未だ健在。
「くそ、僕達じゃな勝てないのか……」
「勇者よ。まだ負けた訳では無いぞ! お主は勇ある者じゃろう!?」
魔法使いが僕を叱咤してくれた。只の五月蝿い爺さんかと思ってたが、何だ、良い事言うじゃないか。
「そうだぜ勇者! まだ負けた訳じゃない! 彼奴に吠え面かかせてやろうぜ!」
格闘家が魔王を指差し、僕に笑みを向ける。痩せ我慢しやがって。
皆の言う通りだ。僕は勇者。何があっても挫けちゃいけない。
絶対に……絶対に勝ってやる!!
僕は覚悟を決め、魔王に突っ込む。両手に持ち替えた剣はもう震えていない。
ん? 遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。今更雑念だろうか?
そして突然、意識が遠くなり、瞼が重たくなった。魔王め、僕に何かしたな?
耳元で誰かが叫んでいる。あれ? 僕は爺さんと暑苦しい男と共に魔王を……。
目を開けると十数年間で見慣れた僕の部屋だった。ベッド横には幼馴染みが頬を膨らませて僕を見下ろしている。
そうかそうか。夢だったのか。僕は非現実的な世界で、あんな命のやり取りなんかしてなかったのか。ふふ……ふふふ……。
「リアルがこの世界で良かったああ!!!!」
「うっさい! さっさと支度しろ!!」