桜と手紙
絶望した。
うん……。とあるアニメキャラの真似では無く、本気で本当に絶望した。
まさか、十年以上想いを寄せていた幼馴染みに振られるとは。
――ごめんね、翔くん。私は翔くんの事を異性として視れないよ。
桜散りし並木道でそう告げられた。その時の彼女の顔は悲痛と罪悪感とで歪んでいた……。
――大学への桜は咲いたが、恋の桜は散った。
そんなこんなで失恋から二ヶ月経った。流石に振られた当初の様な絶望感は抱いていない。
………………。
キャンパスライフとやらは充実している。バイトもしっかりこなしてる。
只、この充実していると思われる生活に彼女が居ない。苦痛だ。寂しい。逢いたい。
僕は苦痛に耐えきれず、彼女に手紙を出した。
遠い異国の地に居る彼女に。フランス料理を学びに旅立った彼女に。
今、彼女はどうして居るのだろうか。言葉の通じない異国で寂しくしてないだろうか。そんな事が頭の中で堂々巡りする。少しばかり頭が痛い。
頭をおさえながら六畳一間の天井を見上げてみる。自然と溜め息が出た。
最近知った、振られた本当の理由が頭の中で淡く浮かび上がって来た。彼女の友人から聞いた言葉だ。
――本気でフランス料理を学びたいから、翔くんを振ったんだって。もし付き合って、向こうに行ったら、逢いたくなるのを我慢する自信が無いんだって。
くそ、なんだってそんな理由で振られたんだ。思い出すと腹が立ってきた。
寂しかったら僕から逢いに往くのに。悲しい事が有ったらすっ飛んで往って、慰めてやるのに。
そんな想いを心中に無理矢理留めていると、玄関から微かに音がした。この数週間、待ちに待った音だ。
果たして何が書かれているのだろうか。早足で手紙を取りに行き、部屋に戻ると直ぐに開け、手紙をかじり付く様に目を通した。
………………。
――僕の桜は遅咲きだった様だ。夏休みはフランスで夜空に向日葵を打ち上げよう。