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第7話

「着いた……ここね」

そこは倉庫の様で周りには誰も居なかった。

布切れをポケットにしまって倉庫の裏へと回る。

するとそこには、何人もの人に囲まれて怯える女の子の姿があった。

「あーテメェら、こいつを一回逃がしたって聞いたんだが……本当か?」

そこに居るのは高身長の随分体格のいい男性だ。

「い、いえバルトラム様!」

「嘘は嫌いだぜ」



「え、ええとほんの少しの時間だけです!すぐに連れ戻しました!本当です!」

「ハハハ、そうかよ」

そう言ってグラスをテーブルに置く。

「おい、ちょっとこっち来い」

下っ端らしき男はバルトラムの方へ歩いて行く。

するとバラトラムは下っ端らしき男の頭を掴んだ。

「てめえ、事の重大さを分かってねえのか?もしそいつを逃がしてたらどうなってたと思う」「お前らだけじゃねえ、俺の首だって飛んでんだぞ!文字通りな!」

「も、申し訳ございません!」

男は必死に謝っている。



「反省はあの世で示せ!」

【暴食の欠片】(ベゼル)

バルトラムが何かを呟くと夥しい量のハエが男をむさぼり喰らった。

「ひっ!」

それは、私からすると異様で異常な光景だった。

人ひとりを飲み込む程のハエが男に群がり蹂躙していく。

「あ……ああああああ」

男は腕で顔を覆っていたが、次第に骨になって無くなった。

それを見ていた周りの男達もパニックになる。

「おいテメエら、これで分かっただろ。こいつを逃がしたらどうなるか」

「は、はい!」

私はその場から動けなかった。人が死ぬところを初めて見た。

恐怖……あの男には勝てない……。



そう足が竦んでいる時。突然、別の男が現れた。

「やぁ、久しぶりだね。バルトラム」

その声は低く、落ち着いていた。

その男を目の前にするとバルトラムは途端に慌てだした。

「ル、ルシュディ様。どうなされました」

「ああ、少し君伝えたい事があってね」

ルシュディと言われた男は続けて話す。



「ハーフエルフは別の人が見つけてくれてね。もう必要なくなったんだ」

「え、そんな。ルシュディ様は俺にチャンスをくれたんじゃ!」

「ああ、でもチャンスを上げたのは君一人じゃないんだよ」

少しゆっくりめな話し方、でもバルトラムは汗をだらだらと流して怯えている。

「嘘、そんな馬鹿な……」

「でも、勤勉な君が一番最初に連れてくると思っていたんだがね」

「お、お許しください!ルシュディ様!」

男は膝をつき頭を下げた。それに呼応するように周りの男達も頭を下げる。



「いいよ」

「……え?」

男の予想外の返答にバルトラムは思わず声を出す。

「私は君を好いている、もう一度チャンスを与えたいと思って来たんだよ」

「ほ、本当ですか」

「ああ、本当だ……続きは酒の席で話そうか」

男は顔を上げてルシュディを見る。その時私は見逃さなかった、この男の笑みを。

そうしてバルトラムとルシュディという男は何処かへ行ってしまった。

実感した死の予感から逃れ、私はその場に座り込んだ。

助かった……そう安堵すると体の力が抜けてしまったようだ。



しかし何とか立ち上がった時、さっきの男が再び現れた。

「あの女の子は君の好きなようにすると良い」

腰の抜けた私の手を取って。

「この小さな手を血に塗らしてもいいのならね」

そう言って去ってしまった。



その言葉のお陰なのか分からないでも体は動いて男たちの前に立っていた。

「その子を放しなさい!」

私の叫び声が倉庫の中に響く。

私に気付いた男達はこちらに駆け寄ってくる。

「何だ?ガキ?」

「おい、どうする?」

「待て」

一人の男がそう言うと全員を止めた。そして私の前まで歩いて来て。

「嬢ちゃんよお、俺らに何か用か?」

そう言ってしゃがみ込む。

「良く考えて行動しな、じゃないと痛い目見ることになるぜ」

そう言って腕を振る、明らかにその拳は私に向かっていた。



それに反応して氷の魔法を男を拘束する。

「ちっこいつ魔術士かよ」

「それがどうした見ろよ拘束するぐらいしか出来ない魔法だ」

後ろの二人が私を見る。

「おい、やっちまえ!」

二人は頷いて私の方へ向かってくる。

二人との距離が迫ると今度は風の魔法を放つ。

「なっ……」

「二属性!」

男達はバランスを崩す。でもそれだけ。



「しょせんガキだな」

拘束していた男はそう言って私を突き飛ばす。

私はバランスを取れずに倒れこむ、そこに一人の男が近付いてくる。

「終わりだな」

男はそう言って私の頭を掴む。

「たく、ガキが手間取らせやがって」

そう言って顔を殴られる。

痛い、人に殴られるなんて初めてだ。

「がはっ!」

痛い、お腹が痛い。蹴られた?

怖い、痛い。助けて、誰か……。

人の悪意をこんなに感じるのは初めてで、つい誤解していた。


自分は死なないと。


ああ……今殺さないと、死ぬのは私だ。

そう思った時には私は氷でナイフを作り男の足に突き刺していた。

「ぐああっ!」

「テメエ!」

後ろに居た男達が向かってくる。



私は急いで魔法を唱えた。作り出された氷塊はその二人の体を貫通し串刺しにした。

「……ほんとにガキかよ」

刺された足を押さえながら怯えた声で私の方を見ている。

男は覚悟を決めたのか刺さっていたナイフを抜き取りそれを武器に私に向かってくる。



「ガキが……死ねよ!」

私はそれを氷の盾で防ぐ。そして風の魔法を男の腹部にめがけて放つ。

「ぐっがぁぁ!」

男は切り刻まれ返り血が私に降りかかる。

静寂の中、女の子を探す。

血がぼたぼたと音を立てて落ちる。



そうしてひとつ黒い布が被さっている箱を見つける。

その箱の布を取るとそこには女の子が居た。

「大丈夫?」

私は声をかける、しかし返答がない。

私は覗き込んでで女の子の顔を確認した。

「生きてる……良かった」

きっと薬か何かで眠らせているだけなのだろう。

私は女の子を抱き抱える。そしてその場から立ち去ろうとした。



「まさか本当に」

後ろからあの男の声がした。私は振り返る。

「いやぁ良いね、若さと言う物は何にも代えがたい」

声が、出なかった。

「……あ」

男は私に近づき肩に手を置く。

「ここから、屋敷に戻るのは大変だろう。送ってあげよう」

その言葉と共に景色が変わる。

そこは私の屋敷のすぐ近くだった。

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