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第6話

それから二週間が経ち、仕事にも慣れてきた頃だ。

ディナーの時間だというのにソフィア様が食堂に来ていない。

「ん~修練場にいるのかしら。コハルちゃん、悪いんだけど呼んで来てもらえる?」

奥様は僕にそう言った。

「分かりました」

そうして僕は食堂を後にし修練場に向かう。

修練場に着き、ソフィア様を探す。

「ソフィア様、いらっしゃいますか?」

修練場の扉を開け、呼びかける。



返事は無いが魔法の音が聞こえるので修練場には居るようだ。

ソフィア様の姿を確認し近くによる。

「もう……私がやらなきゃいけないのに」

歯を食いしばって、両手を前に出し魔法を放つ。

「う……ぐ」

ソフィア様が放つ魔法は、徐々に力を失っていきやがて霧散した。

「はあ、はあ」

肩で息をしながらその場に座り込む。

そんなソフィア様の前に出て声をかける。



「あの……」

するとソフィア様は驚いた表情でこちらを見る。

「コ、ハル……」

「聞こえたの?今の……」

「あ、はい。えっと……食堂で奥様がお呼びです」

「そう……分かったわ」

ソフィア様はそう言うと立ち上がる。



「あの……何かあったんですか?」

僕は恐る恐る聞いてみる。するとソフィア様はこちらを向き僕を見る。

「大丈夫だから……忘れて」

そう言って修練場を後にした。





その今日の仕事が終わって僕は自分の部屋で休んでいた。

「何か……あるんだろうけど」

「僕が関わっていい事なのか……」

『悩みますか?』

「ん、まあね」

『踏み込んでみるのもいいと思いますが』

「そんなレベルじゃなさそうな気がするんだよね……」

そんな会話を交わして今日も眠りについた。





「あの計画がいつ実行されるか分からない」

私は一人部屋でそうつぶやく。

「バルトラム……絶対に私が……」

誰にも頼れない、誰も信じてくれない……あの時のように。



数年前



ママと一緒に街に出かけている時に、アイシャと出会った。

声が聞こえて路地裏を除いた時、ボロボロの私より小さいであろう女の子を見かけた。

「助けて、お願い」

今にも消えそうな声でそう呟く女の子。

「え、ええ!すぐ助けを呼んでくるから」

「だめ!行かないで」

その声を振り切って私は衛兵を呼びに行った。

幸いにも衛兵は近くを巡回していてすぐ助けを呼べた。

「で、嬢ちゃんその女の子は何処に?」

「えっと、路地裏で」

そうして衛兵と共に路地裏へと走って行った。



……でもそこには誰も居なかった。

「何だぁー居ねえじゃねえかよ」

「え……いない?」

私は不思議に思い、もう一度路地裏を確認するがやはり誰もいない。

「嬢ちゃん。本当にここであってるのか?」

「確かに、ここに!」

私がそう言うと、衛兵はぼりぼりと頭を搔いてこう言った。



「……なあ、その子は本当に危ない状況だったのか?」

「え?でも助けてって」

「家出少女だったり、ただの迷子かどうか確認を取ったのか?」

「それは……」

確認を取っていない、取る暇が無かった。

私が俯いていると衛兵が続けて話す。

「嬢ちゃんは善意で行ったのかもしれねえけどよ」

「無闇矢鱈に人を助けに行こうとするのは良くねえぜ」

「俺みたいに仕事が増える奴がいる」



そうして衛兵は帰っていく。私は一人路地裏に取り残される。

そんな中私は布切れが落ちていることに気付く、女の子のボロボロの服の生地に似ていたそれは。

「これは……」

布切れには場所が書いてあった。

私はその布をポケットにしまうって衛兵の後を追う。





「あ、あの」

衛兵の集まる詰め所に私は入る。

「お、どうしたのかな」

さっきとは違う衛兵が私に話しかけてくる。

「えっと」

布切れを取り出し渡す。

そうしていると奥からさっきの傭兵が出てくる。

「あ、また嬢ちゃんか」

明らかに嫌な顔をしてそう言う。

「また?」

「ああ、この子がさっきな……」

さっきの傭兵が耳打ちで何か話している。

「はあ……分かったよ。ほれ」

傭兵は布切れを取り出し、私に返す。



「えっ……」

今度は私に向かって話しかけてきた。

「嬢ちゃんよお、何度も言うけどよ」

そう言って私の前に立つ衛兵は続けて話す。

「人助けするのもいいがな」

「無闇矢鱈にやると迷惑がかかる時もあるんだぜ?」

「あ……」

私は何も言い返すことが出来なかった。

詰め所を出てフラフラと歩く。



「ソフィア!」

ママの声が聞こえてその方向を振り向いた。

「何処に言ってたの……心配したのよ」

「ごめんなさい……」

ママに謝ると、私はママに抱き着いた。

そのまま今日は家に帰ることにした。





「お帰りなさいなのじゃ」

家に帰ってくるとセイラが出迎えてくれた。

「ええただいまセイラ」

ママは一言そう言うとリビングに向かって行く。

私は自分の部屋に行く。服を脱いでシャワーで体を洗い流す。そうして今日一日の嫌な事を水に流す。

もう何度繰り返しただろう……そんな思いをかき消すように何度も何度も体を洗った。



でもこびり付いて取れないようで『助けて』という言葉が頭の中に残る。

助けに、行く?ママにパパに言って……信じてもらえる訳が無い。

見て見ぬふりなんてできない、きっとそれをしてしまったら私は……私は。

私ひとりで……誰も頼れない……。

覚悟を、決めないと。やるしか……ない。

そう思うと同時に私は窓から飛び出した。

着地を風の魔法でごまかして書いてあった場所へ走り出す。

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