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第29話

「ジェシーを殺すのも……何をするのもまずこのドールハウスを知らなければならんな」

「彼女は遊んでいる、つまりはゲームだ。お前ともう一人の少女もある人形を壊さなければジェシーまでたどり着けないだろう」

僕はその言葉にピンと来た。

「つまりフロアボスみたいな事だよね?そいつを倒さないとラスボスまでたどり着けないと」



「ここはダンジョンではないからその表現が正しいかは知らんが。そう言う事だ」

「当たりの扉を引けば、お前が言うフロアボスの人形に会える。扉を開けたら中に入るな、めぼしい奴がいたら入れ」

「知っているのはそれだけだ……それとどうやら彼女に気付かれたらしい」

僕の元にかなり強めの威圧感がやってくる。殺気にも似たそれは空間を震わせるような圧を持ってそこにあった。



瞬間、ラヴィアさんが力が抜けたように倒れていく。

急いで倒れる前に抱えるが、その体は既にただの人形に戻っていた。

「ラヴィアさん……!?」

彼女は倒れている。喋ることも動くこともなかった。

「……必ずあなたを助けますから」

そう言い残して僕は部屋を出た。





あれからかなりの数の部屋を探索した、この長く続いた廊下も終わりが見えて。

これが最後の扉だ。ガラッとドアを開けると、大広間だった。

中央に黒いメイド服を着た人形が私を見ていた。そいつは私を品定めでもするかのような目線で……その仕草だけで相手が容易に強力な相手だと言うことを理解することができた。

今まで感じたことがない何かがある。ハッキリ言えば嫌悪と畏怖が同時に襲ってくるような……。

私は拳を握り締めてそして……踏み込んだ。



「ようこそいらしましたお嬢様」

「来たくなんてなかったわよ」

「そうですか、それは残念です」

「では、初めましてなのでまずは自己紹介から。私はマトリカと申します」

マトリカの目が歪み私を見つめてくる、僅かに身体が上下して手が蛇のように動いでいる。



「私はソフィア。ねえ、一つ教えてくれる?どうしたら人形の魔女の元まで行ける?」

「そうですね、私を壊してくれれば……嫌でも」

「そ……随分簡単ね。ありがたいわ」

そう言ってマナを解放し冷気を漂わせる。

「フフ、覚悟は良いですか?ソフィアお嬢様!」

「貴方こそね」

そう呟くと同時に冷気の波が一面を氷にしてマトリカを襲う。

マトリカは避けられず一瞬にして氷に包まれる。

それを確認し砕くために氷に近づいたその時。



さっきより一回り小さいマトリカが横から飛び出してきた。

「っ!」

氷漬けになったマトリカは見えている。このマトリカは別の人形。

私は瞬間的にすべてを理解し、迫るもう一方のマトリカに対しマトリカの影から伸びた鎖と錠を足にかける。

瞬時に引っ張られ無様に倒れる。

「マトリョーシカ人形って言った所?」

「正解です」

一回り小さいマトリカ、がそう言うと同時にさらに一回り小さいマトリカとそのさらに小さいマトリカが現れる。

「【雹薔薇】」

そう唱えた瞬間に、マトリカ達に向かって巨大な氷が襲いかかる。

マトリカ達はその氷に飲み込まれて凍り付き砕けた。

「ヒドいですわぁ……他の殺し方はいくらでもあるでしょう」

その声の方向に静かに向く。



「貴方こそ、サーカスじゃないんだから。そんな小芸は見飽きたわよ」

さっきよりも大きなマトリカがそこにはいた。

「貴方の戦い方は学びました、氷魔法の使い手、少し闇魔法もできるようですね。二属性凄い才能です」

「そう……でも貴方に誉められても少しも嬉しくない」

「うーん、じゃあ笑ってみましょうか」

そうマトリカが言った瞬間私はドス黒い寒気に襲われる。

それは理屈を超えて嫌悪感を抱くような深い拒絶反応のようで、本能が即座に距離を置かせるような不可解なものだった。

それと同時に肌にまとわりつく殺気が私を襲う。



(違う、こいつじゃない。誰の殺意?)

キラキラと光る糸がマトリカにつく、その正体を見る間も無くマトリカは言う。

「……なるほど、ジェシー様がおいでましたって事なのね。いやラヴ」

そう言いかけた瞬間、マトリカの首がねじ切れる。首のあった部分からは血が噴き出した。

「は?」

何が起こったか分からない、理解できない間に景色が変わる。

大広間のような空間から屋敷の玄関ホールに変わっていた。




「ソフィア様!」

後ろから聞き馴染のある声でソフィアの名前を呼んだ。コハルだ。

「コハル!良かった無事だったのね」

「はい、ソフィア様も無事でよかった」

ソフィアは安堵の表情を浮かべているコハルに向き合った。

「コハル、何か情報はある?私は何もつかめて無いんだけど」

そう言うとコハルはソフィアに知りうる限りの情報を教えた。

ラヴィアと言う魔女の過去から、ジェシーを殺せば良いというところまで。

でもその言葉は魔女の口からだと言う。



「……ねえ、コハル。魔女の言葉を本気で信じてるの?」

「え?でも、嘘をついているようには」

「いい!魔女って言うのは力を持つから魔女って呼ばれるんじゃないの!人としては随分魔々しいから魔女なの。人として何かが欠如、もしくは歪な物が付いているか」

「どこかおかしいからそう呼ばれたの!魔女の言葉だけは何があっても信じちゃいけない。もし信じれば必ず痛い目を見る」

それに対してコハルは、少し考えてから口を開いた。

「……でも、私はラヴィアさんを信じたいです」

「……どうして?」

「あんな顔をする人が、平気で嘘をつくとは思えないんですよ」

ソフィアはコハルに真っ直ぐ向き直り諭すように喋り出す。



「ダメ、魔女だけは何があって信じないで」

「ソフィア様は魔女と何かあったんですか?」

コハルがそう問いただしたら、ソフィアは少し口ごもって、答えた。

「……無い、でも誰もがそう思ってる」

この時コハルは頭の中で一つの思想が浮かんだ。

『ああ、魔女って言うのは。きっと今まで迫害されてきたんだろう』

まるで、魔女を憐れむような考えを……。



「……分かりました、でもとりあえずは進んでみましょう」

「……そう、あれこれ言っても今は外に手掛かりが無いし……しょうがない」




――――――――――――――――――――――――――――――

コハルが倒したフロアボスは

実はラヴィアが乗っ取っていた人形です。


一ヶ月待たせてしまいすいませんでした。

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