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第21話


市場での買い物を終え、夕方になりそろそろ帰ろうと決めた僕は、ゼラに教えてもらった近道を通っていた。

そこは人気が少なくどこか暗い雰囲気を放っている。

路地を進んでいたが、ふと路地の隅に何かが倒れているのに気がついた。

最初はゴミ袋か何かだと思ったが、近づいてみると、それが人の形をしていることが分かった。

驚いた僕は足を止め、慎重にその人物に近づいた。

倒れているのは女性で、髪が乱れ、服も汚れている。彼女の顔を見ると、それがリッカさんであることに気づいた。

「リッカさん!」

一体何が……そう思わざるを得なかった。




ぽつぽつと振り出した雨音と共に目を開いた。身体を起こそうとすると、全身に激痛が走り、思わずうめき声が漏れる。湿った空気と冷たい雨の感触が、意識を引き戻す。


「やっと、起きましたね」

その声は、柔らかく、優しさを帯びていた。コハルちゃんの声だ。目を開けると、彼女の顔が不安そうに覗き込んでいた。


体を動かそうとする度に、痛みが増していく。

「大丈夫ですか!ゆっくり落ち着いて……」

と、コハルちゃんが焦るように私に話しかける。


「コハルちゃん……」

「はい、僕です」

どうもその答えには安堵感が含まれているように感じられる。


「みっともないなぁ……」

私は自分の状態が情けなくて、小さな声で呟く。痛みをこらえながら、身体を少しでも楽にしようとするが、思うように動かせない。


「ごめんね、迷惑かけて」

そう言って激痛は知る体にムチ打って立ち上がり早急にこの場から離れようとする。


「話してください。リッカさん、言いましたよね。本当に困った事があったらって……」

「だ、大丈夫だよ。平気だって……今回もちょっとした事故みたいなもので……」

私はなんとか安心させようとするが、体の痛みと無力感に押しつぶされそうになる。


「事故?何がですか?」

コハルちゃんの声には焦りと困惑が混じっている。

「そんなに痣だらけで、首元……絞められた跡ですよね」

コハルちゃんが私の体をじっと見つめ、その状況を理解しようと必死になっている。

「言ってください……何があったんですか!」


頼ってしまいたい、何とかなるかもしれない。

でも一月だけだ……もしコハルちゃんからお金を借りて孤児院の維持費に当てたとしても何か月も借りられる訳が無い。

それにコハルちゃんの事だから絶対に責任感を持つ、一度頼ったらきっと私と心中することにでもなる。


「……頼れない。」

その思考が、私の口から自然に漏れた。


「言えって言ってるんですよ!リッカさん!」

コハルちゃんが私の手を掴み、強引に真実を求める。


「……ごめん」

その言葉には、私の無力さと迷いが込められている。


「謝って欲しい訳じゃないです、教えてくださいよ……そんなに頼りないですか?」

「……頼りたいよ……でも頼るとコハルちゃんまで巻き込まれるんだよ!」

「それが何ですか、いつ僕がそれを拒みました?巻き込まれますよ僕は、貴方の為なら喜んで」コハルちゃんは手を離して私の目を見て言う。



「バカだねコハルちゃんも……」

自然と出てきた涙はすぐに雨と混ざり消えていく。



私は全てをコハルちゃんに話した。痛みが引き始め、少しずつ体を動かせるようになったが、その痛みは心に深く刻まれていた。コハルちゃんは、私の話を静かに聞きながら、その表情には決意の色が浮かんでいた。

「ね、コハルちゃん。やっぱり聞かなかったこ…」

私の声は、まだ少し震えていた。



「分かりました、じゃあそのソレルって人を倒せば全部解決ですね」 コハルちゃんは、自信満々にそう言った。



「無茶だよ、ソレルはクズでもそれなりの実力者だから」


「大丈夫です、これでも強いんですよ……まあ強いのは僕じゃなくてソフィア様なんですが」

コハルちゃんの言葉には、どこか不安を払拭するような軽やかさがあった。

最後の方は、雨音にかき消されてよく聞こえなかったが、私はその話に耳を傾けるしかなかった。



「それに孤児院がそうなったのは僕に責任があるんで」

「?どう言う事」

「詳しくは言えないんですけど……責任は取ります、絶対何とかします」


「でも、やっぱりコハルちゃんにもしもの事があったら」

私はその心配を口にする。

「僕もリッカさんにもしもの事があったら嫌ですよ」

「……そっか」


私はその言葉を受け入れるしかなかった。

「行くんだね」


私は再度コハルちゃんの意思を確かめる。

「はい、友達の為なら喜んで死の淵にだって飛び込みます」

「……すごいな、コハルちゃん」

私な泣きそうになりながら言う。

そして駆けていく彼女の背中を私は見つめていた。


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