9.『秘密の恋』part 20.
「ヘスダーレン様って、結構ごはんお召し上がりになるんですねぇ……」
「そうかね? 料理長が優秀なのだろう」
ガーデンヴィラでの夕食は、まさかのキャンプ飯だった。
何だかわからない魔獣の丸焼きと、野菜っぽいものがたっぷり入ったスープが鍋ごと。私は、タコと果物のサラダ和えが気に入った。なんかアボカドサラダっぽくて好きな味だ。
ヘス卿のいう「料理長」というのは、もちろんベアトゥス様のことで、他の料理もみんな美味しい。今もお肉を炙りながら、大きめのナイフでイイ感じに焼けた部分を切り分けてくれている。私はそんなにいっぱい要らないのですが……あ、くださるんですね……いえ、嫌じゃないです、ありがたくいただかせていただきますです……あ、もうおかわりは大丈夫です。
ヘスダーレン卿が生きてた時代の料理が、一体どんな味だったのか気になるけど、さすがに王族だった人に料理を頼むわけにもいかない。ヘス卿は、お肉や野菜を信じられないほどモリモリと食べていて、まるで育ち盛りの子供みたいだ。
これも脅威の超回復に関係しているんだろうな……
とにかく、わざわざ夕食のお誘いに乗ったのは、ヘス卿とイイ感じにお話をするためなのだ。失礼のない程度に距離感を縮めていかなければ!
「ヘスダーレン様は、お肉と野菜なら、どっちが好きなんですか?」
「そりゃあんた、肉だよ! まさかあんた……野菜が好きなのか?」
「野菜も好きですし、果物も大好きです!」
「そーかそーか、この辺の皿にも果物があるぞ、たくさん食べなさい」
「ありがとうございます!」
異文化交流で大切なのは、勧められた料理を前向きな姿勢で食べることだ……と何かで聞いたことある。私はヘス卿に勧められたお皿から、多めに料理を取り分けた。マンゴーとかパパイヤ系の、オレンジ色でなめらかな果肉に、なんか赤い実と緑の野菜が混ぜ込んである。カラフルな料理だった。でも果肉がなめらか過ぎて、なんだかツルツルとフォークからこぼれ落ちてしまう。
「貸せ! ほら、これでいいか?」
「あ、ありがとうございます……」
私がモタモタしているのが気に障ったのか、勇者様がヘス卿から皿を奪って、テキパキと料理を取り分ける。有り難いことはありがたいんだけど、話の腰が折られてしまったような……
まあいい、話題を変えて仕切り直そう。
「そ、そういえば、ヘスダーレン様って、今のお年はおいくつなんですか? ものすごくお若く見えますけど……」
「そんなに若く見えるか? 髭でも伸ばすかな……?」
「え、せっかくイケメンなのにもったいないですよ、服を新調なさったらいかがですか?」
「イケ……? それは褒め言葉なのかな?」
「あ、はい、すみません。えーと、とても素敵だっていう意味です!」
「フハハ! そうであったか! 良い良い、もっと褒めよ!」
上機嫌になったヘス卿は、いつもよりちょっと饒舌になっているようだ。
これは、聞きたいことを聞いちゃうチャンスなのではないだろうか。
「ヘスダーレン様は、魔国のみなさんに幻の存在だと思われていたみたいですけど、今まで一体どうされてたんですか?」
「んーそれは確かに疑問であろうな。何しろ、私もわからんのだ。なあベアトゥス、お前は何か聞いておらんか?」
「俺に聞くな! 知らねぇよ!」
勇者様は軽くキレ気味に返事をして、モシャモシャと野菜を食べていた。……あ、そこ肉じゃないんだ……
イカつい筋肉勇者が、ウサギちゃんみたいにリーフレタス的なものをモシャモシャ吸い込んでる絵面がなんかツボる。
「笑ってんじゃねえ」
「あ、すみません、ふふふ」
ヘスダーレン卿がどうして急に活動をはじめたのか、ご本人も知らないとのことだけど、本当かな?
私が信用されてなくて、本音を言ってもらえてない可能性もあるかもね。
でも、本当によくわからないまま復活させられたとしたら、ヘス卿を利用しようとしてる奴がいるってこと?
それに勇者様は気づいてるのかな?
「……お前たち、ここで結婚する気はないか?」
「え?!」
「はぁ?」
またしても急なヘス卿の発言に、私も勇者様も同時に素っ頓狂な声をあげてしまった。
「チュレアがお前たちの婚約を解消できたと同じように、私にも同じ権限がある。王族だからな」
「え、でも……あの……今の王朝は昔とは変わってしまっているんじゃ……?」
「安心せよ、ここでなら私も権限を行使できる」
「そ、そうなんですね……」
「ジジイ、ナニ企んでやがる?」
ベアトゥス様が勇者の直感で何かを察知したのか、食い気味にカットインしてきた。ヘス卿の仕切りで婚姻の儀をしたら、自動的にヘスダーレン側に味方することになっちゃったりする? まあ、勇者様の行動も理解できる。簡単に頷けない怪しさは、確かにあるよね。
勇者様から失礼な言葉を投げかけられても、ヘス卿は穏やかに微笑んでいた。
「あんた達に話しておきたいことがあるのだ……」
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
ガーデンヴィラの中に戻って、ヘス卿の部屋に通されると、閉まったドアに何やら魔法をかけたヘスダーレン卿が話し出した。
「あんたら、ウェスパシアの祭壇を知っているか?」
「……知らんな」
「一度、見たことはありますけど……」
勇者様が魔国に来た頃は、もうライオン公爵様が吸血鬼から生まれ変わった後だから、ウェスパシアの祭壇で行われた大々的な儀式を見てないのだ。
ウェスパシアの祭壇については、儀式のとき軽く聞いただけだった。でも王様に聞いたから確かな情報といえるだろう。魔国の住人は、妖精と悪魔以外、みんなあそこから生まれるらしい。ウェスパシアの祭壇は遠くからしか見られなかったけど、ドス黒い紫の池みたいなとこに、なんか階段的なものが設置されてるいかにも魔国っぽい施設だった。
ウェスパシアの祭壇は、魔国の命の源と考えられており、結婚した夫婦が子供を授かりにやってくる。
それぐらいかなぁ……私が知ってるのは……
「あれはな、魔国にかけられた呪いの壺なのだ」
「え?」
「あんた、それだけの魔力を持っていたら、王子と結婚させられるぞ」
「……どういう意味だジジイ」
ヘス卿の言葉に、ベアトゥス様が剣呑な雰囲気を隠しもせずに突っ込んだ。
私は確かにフワフワちゃんと仲良しだけど、さすがに魔国の王族と人間は結婚できないだろう。年齢もよくわからんし。ていうかネコだし。
フワフワちゃんは、私が勇者様と婚約したときも普通にお祝いしてくれたし、王様とか上層部からも何も言われなかった。あ、いや……これまでは私の魔力がそんなに無いと思われていたのか? まあ……「魔力」はそんなに無いっぽいけど。
「ウェスパシアの祭壇には、その国で一番の魔力量を持つ女が捧げられる。それが国母となって魔国を繁栄させるのだ」
「それって……」
フワフワちゃんのお母さんが居ない理由……なのか?
王様は、王妃様を生贄にした……?
待って待って? いやいやいや、急に深刻味が増してきたんだけど?
私の頭に、なんとなく投げやりな王様の顔が浮かぶ。あのおじさん、単にやる気ないだけかと思ってたけど、王妃様が犠牲になったことで何もかもどうでも良くなっちゃったとかかな? たまに働くときは、結構もの分かりがいいというか、優秀な王様なんだよね。いつも落ち着いてるし、悟りを開いていたのか、アレは。もしくは諦めてる?
上層部に普通の貴族みたいなギラついたキャラが居ないのは……まあ、セドレツ大臣は別として……みんなウェスパシアの祭壇が、本当は何を犠牲にしているのか知っていたからなのだろうか?
「ベアトゥス様、知ってました?」
「知るわけねえだろ! と、とにかくお前をそこには絶対行かせぬ!」
勇者様は、ヘス卿に明かされた魔国のヤバい仕組みにドン引きしたようで、無意味に立ち上がってかなり取り乱している。
私は、なんとなくフワフワちゃんの今までの行動を思い出し、アイテールちゃんを拒否していた本当の意味はこれかと納得していた。私が教育係に抜擢されたのも、本当は王様の考えじゃなくて、フワフワちゃんの意向だったのかもしれない。フワフワちゃんは、私にすごく懐いてくれたけど、結婚したいなんて素振りは一度も見せなかった。
もしかしたら、フワフワちゃんはウェスパシアの祭壇に関する秘密を知っているのか?
それで、誰とも結婚しないつもりなのかもしれない。
まあ、これは私がフワフワちゃんのことを信頼しているからこその推測であって、本当は違うかもしれないけど。
「今日はもう遅い、泊まっていくと良いであろう」
ヘスダーレン卿に言われるまま、私はガーデンヴィラの客間を一室借りることになった。




