9.『秘密の恋』part 17.
「ミドヴェルト様、このような感じでしょうか?」
「そうです! さすがですねぇ!」
生命力の譲渡は王城に帰ってからという契約の元、悪魔執事さんに南の島っぽい水上コテージを作ってもらう。
木造で自然な雰囲気を醸し出しつつ、茅葺き屋根みたいなワシャワシャした軒先をラフにまとめる。
ベランダの梯子を降りれば海にも入れて、プールも楽しめるリゾート仕様。参考にしたのは、記憶にうっすら残ってたモルディブの映像だ。
念のため水上コテージは、チュレア女公爵様と妖精王女アイテールちゃんと私の分で3棟作ってもらった。陸地部分には、少し大きめのガーデンヴィラを作ってもらい、ヘスダーレン卿が気に入ったら住んでもらおうって感じにしておいた。家具も適当に配置して、光源も間接照明っぽくほのかに光らせる。
「火魔法がご上達なさいましたね、ミドヴェルト様」
「ありがとうございます。はっきりイメージするってコツを、マーヤークさんに教えてもらいましたから!」
「いえいえ、創造力はミドヴェルト様ご自身のものですよ」
わーい! 悪魔執事さんに褒められたー! おうち作るの超楽しいよ。脳汁出ちゃうね!
ここに監査役のユニオシさんはいないけど、ユニオシさんの上司に当たる女公爵様がいる。だいたいの配置が終わって細かい部分をチェックしていると、島を1周してきたっぽいチュレア様が戻ってきた。
「おやまあ! 見たことのない建物だけれど、これはまたずいぶんと海に張り出しているのね!」
チュレア様の言う通り、桟橋のような道が海の上に伸び、俯瞰でみると葉っぱのように3棟のコテージが建っている。本当はもう少しいっぱい建てたかったけど、とりあえず今は人数分で様子見だ。魔国の海って何が居るかまだ勉強してないし、念のため、1棟ごとに結界魔法で防御してある。
「この建物は、水上コテージと申します。チュレア様のお部屋は真ん中のこちらですよ。この窓の外はテラスになっていてプールもあります。よろしければ、ウェルカムドリンクとチョコをどうぞ」
「あら、気が利くこと。この部屋は気に入りました。注文をつけるとすれば、何かお花を飾りたかったわね」
「あ、花ですか……」
「失礼いたしました、このような感じでしょうか」
私が慌てていると、マーヤークさんが、シンプルなガラスの花瓶にラナンキュラスみたいな大きい花を飾って置いてくれた。
「よろしいわ。こうね」
女公爵様は、指を一振りして白い花の色をショッキングピンクに変える。赤黒系が好きかと思ってたけど、意外とピンク派だったのね……
「窓が大きくて心地いいわ」
「ありがとうございます。こちら側の窓はすべて重なるので、こうやって大きく開くこともできるんですよ」
「あなた、やっぱりここに留まるの? あの勇者はお勧めできませんわ。ヘス卿も何を企んでいるのか不明ですし」
「でもせっかくお誘いいただきましたし、私で何かお役に立てるのなら、ヘスダーレン卿とお話ししてみようかなと思います」
「んまあ、意外と意志が固いのね……よろしいこと? ヘス卿はチャームの類こそ使いませんけど、人心掌握術に長けているの。くれぐれも丸め込まれないでちょうだいね」
「は、はい……」
「で、これからどうするの?」
チュレア様は、軽くため息をつきながら、私の作戦をひと通り聞いてくださった。とりま、今晩は陸のガーデンヴィラでチョコパを開き、ヘス爺を招待してそのまま住んでもらおうって流れだ。ベアトゥス様の寝室も作っといたし、ほかの滞在者も寝れるようになってる。できればお風呂とか使ってほしいものだ。そのあとは、お手伝いしながら話を聞いてみる予定。
衣食足りて礼節を知るじゃないけど、あんな小屋に住んでたら、ヘス卿も殺伐状態のままだと思うんだよね。
あくまで落ち着いてから、余裕を持って平和的に交流してみて、ダメならもうチュレア様にお任せだ。
本質はまだ見えてないけど、ヘスダーレン卿は話が通じそうなお爺ちゃんだし、挑戦する価値はありそう。
平和な現代世界育ちの私が、昔の考え方のワイルド爺さんにどこまで太刀打ちできるかわからないけど、戦国時代ネタもそこそこ好きだし頑張るぞ!
というか、勇者様ってどういう立ち位置……? それだけは絶対確認しないと。
いや、振られたのに絡むのもなんかアレだけど……このままじゃ勇者様が魔国と敵対しちゃうし……いや、それも本人の自由だけど……問題が拗れないように意志確認だけはしたい! そう、だって私には勇者様を魔国に連れて来てしまった責任があるし、妹のヒュパティアさんに心配かけるのは申し訳ないと思う。
「わかりましたわ。ではわたくし、1週間後にまた遠乗りに来ます。それでよろしいかしら? アイテール様はお残りになるの?」
「我は一旦戻るとしよう。ポヴェーリアよ、教育係殿を任せたぞ」
「仰せのままに」
ポヴェーリアさんが僕として正しい返答をする様子をアイテールちゃんは忌々しそうに眺め、ポヴェーリアを任せたぞ、と私に視線を送る。
こっちも責任重大だぁ……!!
と、とりあえず難しいクエストを頼んでみよう。
そんなふうに思いながら、帰還組を見送る。
フワフワちゃんは、しばらく水上ヴィラではしゃいで、海で泳いでお魚食べて、ウニに刺されてウニ化して、チュレア様に怒られてテラスのプールで汚れを落とし、アイテールちゃんの風魔法で乾かしてもらって、すっかり疲れてマーヤークさんに抱っこされて寝たまま運ばれていた……子供か。
聞いた話じゃ、王子殿下はそこそこおっきい子らしいんだけど、話が通じないのも相まって5歳児みたいに感じるよね。
昔はアイテールちゃんがちっちゃかったから、なんとなく同世代みたいにはしゃぎ回って遊んでたけど、今じゃ妖精王女様はすっかり大人だから遊べなくて寂しいのかもしれない。
「それではミドヴェルト様、お気をつけて」
「いろいろ、ありがとうございました」
何だかんだ助けてくれたマーヤークさんに感謝の言葉を伝え、竜車が空に舞い上がるのを砂まみれになりながら見送った。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「これでよろしいでしょうか? ミドヴェルト様」
「あ、オッケーです! じゃあ次はこのテーブルをお願いします」
ポヴェーリアさんに手伝ってもらって、私は懇親会みたいなリゾートパーティみたいな、セルフ歓迎会の準備をしていた。
みんなご飯食べたいだろうし、料理さえ置いとけば来るだろ。このファレリ島でいちばん偉いヘスダーレン卿さえ招待できれば、その下の者たちは従うしかないのだ。
ある程度準備ができたら、ヘス卿をご招待にあがる。
さっきの掘っ建て小屋にまだ寝てるかな??
そっと確認しに行くと、目ざといというか何というか、寝ているはずのヘス卿に見つかってしまった。
「何の用かな?」
「お休みのところ失礼します、急ですが本日パーティーを開こうかと思いまして、ヘスダーレン卿をお誘いに参りました」
「誘いとは嬉しいことよ」
思いのほか、前向きな返答がきて、私は少し安心した。
「こちら、簡単で申し訳ございませんが、ご招待のカードです。ほかの皆さんもお気軽にどうぞ」
「ほほう、ありがたく受けようではないか」
「それでそのー……」
「まだ何かあるのか?」
ヘス卿にパーティーに来てもらってから、サプライズでお家プレゼントって流れもいいかなと思ったんだけど、謎の警戒心で断られたらなんか溝ができそうな気がする。念のため、事前に話を通しておいたほうが良さそうだ。
「ヘスダーレン卿は、このお家が気に入っているのですか?」
「気に入っておるが?」
話の意図が見えないようで、ヘス卿が穏やかに微笑みながらも首を傾げる。だよね、ごめんなさい。えーっとえーっと、文章の頭に情報をまとめて、わかりやすく伝えないとだよね! シンプルに!!
「あ、すみません。えーと……ヘスダーレン卿の新居をご用意いたしましたので、もしお気に召しましたらお移りになられてはいかがかと……」
「ほう……」
「あー……えーと……お付きの皆さまも、ご一緒にお住まいいただける広さとなっておりますので……」
「それは助かる。あんたに任せて正解だったな」
楽しみにしてるぞ、とヘス卿に笑いながら送り出され、私はとりあえず1日目のノルマを達成できたような安堵感で気分が軽くなった。




