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8.『クリプトクロム奇譚』part 24.

 魔女のエンヘドゥアンナさんは、人間といえば人間なんだけど、魔女なので普通の人間とは違う。まず、寿命が長くて600歳ぐらいまで生きたりするらしい。まるで神話の世界だ。某聖書とかでも、500歳とか400歳とか生きてたって人の話が出てくる。現実世界ではさすがに眉唾(まゆつば)だけど、この異世界では、ガチでそんなこともあるのかもしれない。



「そうねえ……アンチエイジングの世界は奥深いものよ」



 西の森ホテルの廊下を歩きながら、アンナさんはいろいろと魔術に関する話をしてくれる。私が素人丸出しの質問をするので、少しレベルを下げた簡単な説明をしてくれることからも、アンナさんの優しさが(うかが)えるだろう。


 大精霊様に紹介してあげるっていう名目で、私は魔女のアンナさんに、妖精王女のアイテールちゃんの寿命を伸ばす……っていうか若返りの祝福をしてもらおうと考えている。まだ言い出せてないけど。


 魔女アンナさんは、魔法を使わなくてもできる美容法についてものすごく詳しく語ってくれた。この異世界ではまだ知られていない肌の仕組みとかも、アンナさんは漠然と知っているみたいで、アンチエイジングに対してかなりガチの知識を伝授してくれる。


 はじめはアイテールちゃんのためと思って適当に聞き流していたお肌の手入れ法を、私はいつの間にか前のめりで真剣に聞いていた。



「え、じゃあ日焼け止めって絶対必要なんですか?」


「そうねぇ……特にあなたは必要だと思うわよ。厳密には日光じゃなくて、紫外線がお肌に悪いんだから」


「ああ……」



 私の魔法『ブラックライト』の話をすると、アンナさんは紫外線防御の膏薬(こうやく)を塗っておくべきだと強く主張した。実は私も少し気になってたので、日焼け止めについてアンナさんから詳しく話を聞き出す。


 そんなことをしているうちに、あっという間にアイテールちゃん達がいる部屋の前に来てしまった。


 またしても、アイテールちゃんのことを忘れて話に夢中になってしまった私……うぅ……我ながら友達甲斐のないヤツ。



「失礼いたします!」



 私は、皆さんの許可を取るため、ひとりでドアの中に入る。室内にはすごく険悪なムードが漂っていて、さっきまでの優雅な雰囲気は消え去っていた。まあね、わがままセレブの集まりなんてこんなもんなんですよ。みんな気遣いってもんを知らないんだから、まったくもう。


 許可をもらって魔女アンナさんを(まね)き入れると、なんだかすごく緊張した状態のアンナさんが不自然な歩き方で進み出てきた。精霊女王のベリル様とは普通に会ってたはずなんだけど、何がそうさせているのか?



「王女様、魔女アンナさんに例の『祝福』をしていただいてはいかがでしょうか?」


「祝福……? ああ、シブースト王にかけたアレか」



 すると、大精霊アズラ様が私とアイテールちゃんの会話に割って入った。



「待ちたまえ……『祝福』と言ったか? 人間に祝福ができるものが居たのか?」


「はい……ですが、エンヘドゥアンナさんは魔女ですので、普通の人間とは少し違いまして……」



 当のアンナさんは、急に大精霊様に注目されてカチコチだ。なんとなく私が答えちゃったけど、いいよね? ……と思いながら魔女さんを見ると、半分()()()でアワアワしていた。



「えー、こちらのエンヘドゥアンナさんは、今はこのホテルに滞在してまして魔道書を執筆中なんですよ」


「魔道書かけるの? すごいね。今度見せてよ!」

「私もみてみたいな。アンナ、いいよね?」



 カルセドニー様とペッツォ様が、乗り気になって魔女さんに話しかける。私に容姿が似ているせいか、肩に手を置いたりして若干(じゃっかん)馴れ馴れしい。


 アンナさんは必死で首を縦にブンブン振っていた。もはや声が出ないのか、すっかり涙目になっている。私はといえば、大精霊様のすることに文句は言えないので黙って見ているしかない。ごめん、アンナさん……


 まあ、アズラ様ほどではないにしても、カルセドニー様とペッツォ様もかなりのイケメンだし雰囲気がキラキラだ。何より大精霊って存在は魔法の源みたいなもんだから、私より魔法に詳しいアンナさんからしたら、何かものすごいレジェンドに会っちゃった的な感動があるのかもしれない。



「大精霊様方もしばらくこのホテルにご滞在いただくことになりましたので、アンナさんがよろしければ、皆様でお食事会のセッティングをしましょうか?」


「いいねそれ! 頼んでいいの? ミドヴェルト」


(われ)は問題ないと思う。ポヴェーリアも良いな?」


「問題ありません」



 アンナさんは相変わらず言葉が出せずにうんうん(うなず)いていた。結局、『祝福』でアイテールちゃんを若返らせると、せっかく身につけた修行の成果やレベルアップキノコの効果も失われてしまうらしい。そのため、このアイデアは却下ということになり、私たちは部屋を()した。


 うーん……なかなか思うようには行かないなぁ……


 しばらく無言で廊下を進んでいると、魔女アンナさんは大きなため息をついた。



「はぁ、ニンメシャルラ……あなたって、私の望むものを何でも持っているのね……」


「え? いやぁ〜それほどでも」


「こういうときって、普通は謙遜するものじゃなくて?」


「えぇ? ……どうもすみません」


「別に怒っちゃいないわよ。私は私で自分好みの道を歩いてきたわけだし……」



 エンヘドゥアンナさんは、何やら(みずか)らの()(かた)について思いを馳せているようだ。


 私は何もかける言葉が見つからなかったので、ただ黙っていた。自分の道とか深く考えたことなかったなぁ……私って、ただ毎日起こる問題に慌てて対処しているだけで、計画的な人生設計とか何もない。アンナさんが歩いてきた「自分好みの道」ってなんだろう……?


 それでもまあ、お互い何とか生きてるわけだし、今んとこ不幸にはなっていないので良しとしよう!


 私はアンナさんをお部屋まで送り届けると、スタッフさんにお食事会の準備を頼みに行くことにした。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「すみませーん! あ、バールベック君! ピーリーは?」



 厨房に行くと、ベアトゥス様の元で料理の腕を磨いた、元工作員のバールベック君がいた。ちょっと半地下の厨房は、離れの従業員邸に繋がっていて、ホテルの外に出なくても安全に行き来ができる設計になっている。だから大抵のスタッフは、ここに集うことになるのだった。


 厨房には、ほかに休憩中のネブラちゃんとウーツ君もいた。結局この二人、くっ付いたという事なんだろうか……?


 私に気づいたバールベック君が、立ち上がって報告してくれる。



「ピーリーはグリハルバさんと見回りに行きました。ユルスルートも一緒です」


「そっか……近いうちに()()()()()()()があるから打ち合わせするって伝えてくれるかな? あ、それと……ディキスさんは?」


「ディキス姐さんは占い処だと思います」


「わかった、ありがとう!」



 大精霊様に会いたがるであろう占い師のディキスさんにも、とりあえず参加の意志を確認すべきだろう。私は湖畔のガゼボに向かう。


 階段を上がってエントランスに差し掛かると、天使さん達が魔車から降りてくるところが見えた。



「お帰りなさいませ! 王城にお泊まりになるのかと思いましたよ!」


「ああ、ミドヴェルト、我々は一度宇宙船に戻ることになった。例の二人を送還しなくてはいけないのでね」


「申し訳ありません、ご面倒をおかけいたしまして……」


「いや必要な処置なので気にしないでくれたまえ。それでその……彼女達の件だが……」



 サリー船長が言いにくそうにしているので、何事かと思っていると、天使さん達はお見合い相手のお嬢さんを宇宙船にご招待したいらしい。いわゆる仕事してる格好いい姿をアピールしたいのだろう。こないだ開催した世界会議もうまくいったし、個人的には問題ないと思う。



「どのくらいの期間で地上に帰る予定ですか? 宇宙船に残っている後半組の天使さん達は、文句言ったりしません?」



 天使さん後半組のお見合いパーティ予定も一応決まっているので、ズレ込むなら関係各所にお知らせしなければならない。こういうイベントは何かとリスケが面倒なのだ。



「すまない、あなたには面倒をかけてばかりだな。日程は余裕を見て3日ほどだろう。任務に関わることなので文句は言わせないよ」


「わかりました。彼女達には私から話を通しますね。喧嘩したカップルは居ませんでした?」


「ははは、心配ご無用。ネラトも上手くやっていた」



 気難し屋のネラト医師も紳士的な態度を貫いた、と聞いてひと安心。私はホテルに戻ってきた人間の女の子達を集め、宇宙船へのご招待の件について話をする。


 きゃあぁぁあぁぁ!!


 という黄色い声が上がって、飛び跳ねる女の子もいた。若いねぇ……ま、私も大学の頃までは騒がしかったような気がするから、大人しく耳を(ふさ)いで超音波に耐える。



「ミドヴェルト様! 私たちは天使様の花嫁として認められたのでしょうか?!」



 あ、そっち? 女の子達は、宇宙船に乗船できるってことで喜んでいたわけじゃないみたいだった。そうだね……男の子じゃないんだし、乗り物に興味ないか……


 いわゆる、彼氏の実家に招かれることで、本命彼女として認められる的な喜びがあったらしい。


 こんなことにも気づけないほど、私の女子力って低いのか……


 きゃあきゃあしている女の子達に、3日分の荷物が詰め込める旅行カバンを配布しながら、私は軽く気絶したい気持ちになっていた。





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