8.『クリプトクロム奇譚』part 20.
精霊女王の宝ってやつをベリル様は探しているらしい。
ホリーブレ洞窟内をそのままにしなきゃいけないというルールは、お宝を守るための前提条件だったのだろうか? でもこのホリーブレ洞窟は、住居区とか中央部とか、地面けっこう掘って開発してたみたいだけど……
ドカーンドカーンという地響きの中、ほとんど神秘的な部分がなくなった殺伐とした光景を眺めることしかできない。ベリル様に小脇に抱えられている限り、私はただの荷物なのである。
フワフワちゃんは、どうしてベリル様に協力しているんだろう? 言葉が通じないことが、これほど悔やまれるとは。
マーヤークさんは、王子殿下に付いて行ったみたいね。
ベアトゥス様は懐疑的っぽい。なんかの取り引きでシブシブ付き合ってるみたいな感じだ。
「貴様が約束を破るというなら、俺も好きにさせてもらうぞ」
「だぁからぁ、そんな約束はしてないって言ってんの。キミ、言葉わかる?」
そういえば、ベリル様は何で私を連れてきたのかな? ベアトゥス様を揶揄うため?? さすがにそれだけじゃないと思うけど……私は体を捩って何とか精霊女王様の腕から逃れようとする。荷物の重心がズレたことに気付いたベリル様が、ヨッと軽く私の胴体を持ち上げて抱える位置を直す。努力は無駄か……でも諦めてはいけない!
「べ、ベリル様?! そろそろ降ろしてはいただけませんでしょうか?! ずっとこのままではお邪魔でしょうし……」
「ん? 全ッ然、邪魔じゃないから大丈夫だよ? もう少しこのままでいようよ、ね?」
だめだ……この精霊女王、見た目はスマートなモデル体型の女性だけど、筋力は勇者様レベルに鬼強い。全然ビクともしない。そんでもって、腕細いから痛い。私は絶望しつつ、苦笑いして曖昧に流すことしかできなかった。
もしかして、私を抱えていれば、勇者様が攻撃してこないって思ってるのかな?
まあ、実際……ベアトゥス様から殺気は感じるものの、これまでのところ攻撃はされていない。
お二人とも凶暴なまでに強いけど、理性的な部分もあるから私は助かっているのだろう。
「ところで、ベリル様、妖精王女様があまり自然を破壊されませぬようお願いしてましたよ? このホリーブレの心配もしてましたし……」
「んー、まあ俺だって麗しの妖精王女ちゃんを悲しませたくはないよ? だからさぁ、あの悪魔を連れてきたんだ」
「え?」
「ほら、ミドちゃん言ってたでしょ? 壊れたもの直せるとか。俺そういうの苦手だからさぁ……あいつに任せれば良いかと思って」
「あー……そういう……」
ベリル様なりに後始末のことは考えていたんだ……まあ、丸投げだけど。
しかし、ホリーブレの皆さんはここに帰ってこれるんだろうか? 割と修復規模が膨大で、私はうっすら生命力を吸われる覚悟はしてる。ただ、執事悪魔のマーヤークさんに生命力を吸われるのはいいんだけど、ベリル様には吸われたくない。仕組みはわからんけど、悪魔に吸われたときは回復可能な雰囲気だったのに、ベリル様に吸われたときはゲームでいうところの1機死亡みたいな感覚があったのだ。プレイヤーストックの増やし方がわからないので、できるだけ減らしたくない。
でも、そのことをうまく説明できないし、自分のためのお願いをこの精霊女王様は聞いてくれないだろう。
ベアトゥス様はといえば、マーヤークさんが働くイコール私の生命力が吸われると的確に類推して、さらに怒り心頭でいらっしゃる。勇者様には、心配しなくていいから大丈夫って説明はしてあるんだけど、結局私が寝込んだりするから心配させちゃってるようだ。
「貴様……我が婚約者を危険に晒すなど、許さんぞ!」
あ、やべえ……勇者様の目が赤く光ってる……
「ふふ……いいじゃん。相手してやるよ」
精霊女王ベリル様もこの世界最強の存在として自負があるのか、こないだホリーブレの闘技場で筋肉勇者に物理攻撃で引き倒されたリベンジがしたいらしい。もう自由にしてくれていいから、私を離してくれぇ……
ミントカラーから白にグラデーションがかかったベリル様の髪が、急に真っ赤な色に変わって波打ちながら天に向かう。どどどどういうことでしょうか?
ここからは、ベリル様の表情があまり見えないけど、すごく……笑ってます……
あ……もうダメだ。
私は可能な限り自分に物理&魔法防御結界を重ねがけして、手足を縮めて固まった。
洞窟の中なのに、どこからか雷の音がする。地面が恐ろしく揺れて、引力に関係なく岩石が宙に浮く。危なすぎる……! 崩れないの?! ここ!!
「わかっているのだろうな? ミドヴェルトに傷をつけたら、ただでは済まさん!」
「俺がミドちゃんを傷つけるわけないじゃん? 無礼な物言いもいい加減にしてほしいね!」
勇者様が攻撃するとしたら、物理しかない。こないだ見たときは、ベリル様の足をつかんでメチャクチャ地面に叩きつけていた。アレやられたら、もちろん私も地面とコンニチワだよね……し、死んじゃうかも……
メガラニカで勇者様に投げ飛ばされたときは、壁にぶち当たって肋骨折れたけど……はぁ……痛いのやだなー……
などと諦めの境地になっている私をよそに、最強のお二人は最初の一撃を同時に放つ。勇者様が暗黒騎士さんを倒したときのような超スピードで間合いを詰め、ベリル様の急所に拳を撃ち込む。それをギリギリで避けて、ベリル様は宙に飛んだ。
精霊女王様は、回転しながら攻撃魔法を勇者様に向けて連続で発動。私は目が回ってキモチワルイ。一応、心のコアを握りしめて「ベアトゥス様、怪我しないように頑張って!」と曖昧な応援をする。ベリル様相手に手加減は通用しないだろうから、全力で闘ってほしい。闘魂! ボンバイエ!
本当は、お二人とも戦わないで仲良くしてほしいけどね……
はぁ……何でこんなことに……
一度は同じ仲間としてパーティー組んだのに……
暴力反対……!
アイテールちゃんの気持ちがちょっとわかるかも……私も強くなりたい。こいつらを圧倒できるほど強くなったら、正座させて説教してやるのにぃ!!
「危ないじゃないか! ミドちゃんに当たったらどうするんだい? ん?」
「ぬかせ! 貴様の急所だけを狙ってやるから心配するなよ!」
若干、ベリル様の物言いが卑怯なような気もするけど、何かベアトゥス様を煽りたい理由でもあるのだろうか? 精霊女王様は確か、物理攻撃に自信がないとかで修行中だったはず。強くなるために、イザイザ様からいろいろと言われてクエストをこなしていたっぽい。そのせいで、あのとき私はこの精霊女王様に拐われたのだった。イザイザ様たちはなぜ私を指定したんだろ……?
あの二人のおばあちゃんは、ホリーブレ洞窟にある精霊女王の宝を探していたのではないか。妖精の母とか、神様とか考えられていたけど、本人たちにそんな凄い力があるようには感じられなかった。やっぱり、精霊女王様を体よく使っていたのか……?
いろいろな方向に振り回されて、私の視界はあっちこっち強制的に向けられる。
その中で、一瞬、見覚えのあるおばあちゃん達がサッと横切った。
「ああっ!! イザイザ様!!」
思わず私がそう叫ぶと、ベリル様が急に止まって、そちらの方を向く。
二人のおばあちゃん達は、ちょっと慌てたようにお互いを前に押し出そうとしながら、照れ笑いをしている。
と、とりあえず、戦いを止めることはできたようだ……ベアトゥス様も攻撃をやめて、私が向いているほうを確認していた。




