8.『クリプトクロム奇譚』part 18.
天使の見た目で皮肉ばっかり言ってるネラトさんは、宇宙船内では唯一のお医者さんポジションらしい。
賢い系あるあるというか、ネラトさんはちょっと捻くれているので、女の子に嫌われないか心配だ……
そもそも、このお見合いパーティーに賛成だったのかもわかんないしね。たぶん軍人さんだし船員さんだから、上官でもあるサリー船長の命令で黙って参加してくれたんじゃないかな? まあでも、ボートの順番にこだわってたから、意外とお見合いパーティーに前向きだった可能性もある。
何といっても見た目が天使なので、人間受けは良いんじゃないかな?
「ネラト様、気になるお相手はいらっしゃいましたか?」
「……そうだな、ではアレーナ嬢に交際を申し込もう」
「わかりました……アレーナ! 前に来てください!」
アレーナと呼ばれた女の子は、おどおどした様子で立ち上がる。
あれ? これはゴメンナサイのパターンだろうか……?
「アレーナ、深呼吸しましょう。落ち着いた? えー、では……ネラト様のお気持ちを受けますか?」
「あ、私……その……」
「無理はしなくても良いんですよ? ネラト様のこと、どう思う?」
「や、優しい方だと……お、思います……」
へぇ……意外。私は思わずネラト医師のほうを見る。表情は固いけど、まあ、ベアトゥス様もこんなもんだよなぁ……
こりゃ脈アリか??
アレーナちゃんは顔が真っ赤で、恥ずかしそうだけど嫌そうではない。脈アリだな!
「ここで交際をお受けしても、後で断ることもできるし、二人の気持ちでいくらでも未来は変えられます。アレーナ、あなたはどうしたいですか?」
「お……お受け……します」
おお……! と、ざわつくギャラリー。私もびっくりですよ……
とにかく、第五カップルがめでたく誕生したので、私は自分の仕事に専念しなければいけない。オレンジの花を付けてもらって、門出の祝福をしつつ、二人を散歩道へ拍手で送り出す。
よし、後はあいつらの自己責任だ!
次は、選ばれなかった女の子たちのフォロー大会。天使さんたちに付けてもらったポイント順に豪華賞品をプレゼントすることで、一応、君たちの努力は無駄じゃなかった感を醸し出す。
これは案外当たりで、結婚にドライな異世界の子たちは、天使に選ばれなかったからといって別に落ち込んだりしてなかった。それどころかホテルの部屋に泊まれたことや、豪華なパーティー料理やドレスを楽しみ、豪華賞品に目の色を変えていたみたい。やっぱちょっと、現実世界の日本人とはメンタル違うのかも。
さて、本題はここからなんですが。
「ところで、皆さんは公爵領に戻りたいですか? もし良かったら、このまま西の森ホテルで従業員を募集していますので、前向きに検討してもらえると嬉しいです。また王城や王都で働きたいと言う場合も、少しくらいなら当てがあるので、お気軽にご相談くださいね」
残された女の子たちは、このまま残留を望む子がほとんどだった。もちろん、帰りたいって子には公爵領までの魔車を手配している。
無理やり説得して残らせたりしたら、またどんな噂を立てられるか、たまったもんじゃないしね。無知蒙昧なやつほど、トンデモ理論のドイヒーな妄想を広めやがるから、どうにもタチが悪いのだ……帰った子たちが誤解を解いてくれるのを祈るしかない……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
人間種族のスタッフさん大量確保に成功したところで、私は待ってもらってたアイテールちゃんとポヴェーリアさんに話を聞く。
「さて……王女様、何がどうなっているのか、もう一度お聞かせ願えますか?」
「教育係殿よ、ことは急を要するのじゃ」
「ポヴェーリアさん、王女様の僕なら、口上はあなたのお仕事ですよね? さっきのは貸しですよ?」
「……もちろんわかっています。申し訳ない」
ポヴェーリアさんは割とボンクラ系なのかな。いくら待っても全然アイテールちゃんの代わりに説明してくれない。悪い人ではなさそうだけど、察しが悪いようだ。私の脳内では、公爵様と同じ引き出しに入ることになるであろう。
私の様子を見ていたアイテールちゃんは、ため息をつきながらお茶を一口飲んで言った。
「我が愛しの片割れ月よ、教育係殿にそなたが知り得たことをすべてお伝えせよ」
「はい……ホリーブレ洞窟には『精霊女王の宝』というものが存在すると言われていましたが、誰も今までそれを見たものは居なかったのです」
「そこまではお聞きしました。なぜベリル様は急にホリーブレをその……大規模調査することにしたのですか?」
私は、ベリル様に聞いていた「ぶっ壊す」と言うフレーズを、何とかオブラートに包んで表現してみた。
ポヴェーリアさんは、悩ましげに目を伏せて首を振る。何も聞かされていないらしい。
こりゃ駄目だ、と思って無意識にアイテールちゃんに目をやると、バッチリと目が合ってしまう。
「見ての通りよ、教育係殿。我らには圧倒的に情報が足りないのだ。師匠があの地で何をするつもりなのか、気ばかり焦って何もできぬ。助けてはくれぬか?」
「それは、まあ……でも、助けるって、一体何をすれば良いんです?」
「まずはマーヤーク殿をここに呼んでほしい」
「え? 執事さんをですか??」
「王子殿下の危機だと伝えるが良い。そうすれば、かの悪魔はわかってくれるじゃろ」
確かに……フワフワちゃんの護衛として、執事悪魔のマーヤークさんは騎士団に混じって付いてきてたっけ。言われてみれば報告が必要な案件ではあった。
でも、これまで勝手に執事さんがペンダントの道をたどって助けに来てくれることはあっても、私から呼んだことないっていうか……呼び方がわからないっていうか……
ペンダントに話しかけてみる? なんでマーヤークさんは、私のスマホ魔法やんわり拒否したんだろう? まさかの窮地に立たされたじゃんか!
あ、王様?! 王様に電話して、執事さんをこっちに送り出してもらう? それだね、それしかないね!
「しょ、少々お待ちください……」
私は、駄目元で王様に電話する。いいのか? 一国の王に……いや、急を要するらしいし、細かいことに構っちゃいられないよね!
『おう……こうか? なにやつ?』
「王様! ミドヴェルトです!! 今お時間よろしいですか?!」
『おう良い良い、これはそなたにもらった魔道具だからな。それで、何用だ?』
「至急、マーヤークさんを西の森ホテルへお願いします! 王子殿下の一大事だと、妖精王女様が!」
『何だと?! よしわかった! そこで待て!』
はぁ……助かった……
とりあえず今できることはないので、マーヤークさん待ちの間、私は妖精王女様たちと一緒のテーブルに着く。ホテルスタッフのメイドさんがお茶を持ってきてくれて、ホッと一息。
「一体これはどういうことなのでしょうか……?」
え、早くない?!
背後から聞き慣れた声がして、慌てて振り向くと、そこには髪を振り乱した執事さんが立っていた。




