8.『クリプトクロム奇譚』part 17.
『袖振り合うも多生の縁』というのは、輪廻転生ありきの諺だって教わったことがある。
ほんの少し着物の裾がふれるような、すれ違うだけの関係でも、その相手はこれまで何度も生まれ変わった前世のどこかで関わったことのある相手なのだ。……みたいな。何度も繰り返すたくさんの人生で、さまざまな人と関わり合って、それが次の人生に持ち越されていくらしい。
本当かな?
同じ場所に居合わせるだけでまったく口聞いたことのない相手でも、前々々世とかで挨拶する仲だったり、殺し合った関係だったりするんだろうか?
「はーい! えーと……それではー! 3人のうち誰と散歩道を歩きたいか、天使さんから発表していただきますねー!」
私は、カラオケ魔法のマイクを使って、湖畔の広場で結果発表会をはじめる。
天使さんのお嫁さん候補を見つけるまでが私の役目なので、その後で喧嘩したりして破局したとしても、自己責任でお願いしたい。女の子たちの気持ちは天使さんの方に向いてるはずだから、問題は天使の見た目になってる強化人間さんたちの気持ちなわけだが……
この短期間で、果たしてお相手は決められるのか?!
緊張した表情でテーブルにつく参加者たち。私も緊張しております……
「それでは、サリフェンリーザ様、こちらへ」
私の言葉に従って、サリー船長が前に出る。
「えー……本日のボートはいかがでしたか? ちょっと水に落ちてしまったりトラブルもあったようですが……?」
「ボートに乗るのは初めてのことだったので、なかなか難しかったですね……」
シーンとする中で、天使さん達だけが「フフ……」「バ、笑うな……」と仲が良さそうだ。現実世界だとこういうときは盛り上がったはずなんだけど、やっぱ合否発表の前は無理か。
「それでは、早速ですが、気になるお相手はいましたか?」
「はい……いました」
「良かった! それでは、その方のお名前をどうぞ!」
「リュネー、良かったらこれからも私と話をしてほしい」
「おお! リュネー立って。こちらへ……そう、そうこの辺……えーでは、リュネー、サリフェンリーザ様のお気持ちを受けますか? 受けるなら……」
「お受けします!」
「「「おお!!」」」
会場がざわついたので、本当は段取りが違うんだけど、私は慌てて話をまとめる。
「おめでとうございます! 皆さま拍手を! 両想いのお二人には、同じピンクの花を付けていただきますねー! 散歩道を二人で歩く権利を獲得しました! サリー船長、決め手はなんですか?」
「彼女がスキルで出してくれた甘い蜜が……」
「なるほど! はい、こちらへ……足元気をつけて。それでは二人の門出を拍手でお送りください! いってらっしゃい!」
……あれ、なんか普通のコメントだった?
慌ててたから、急にエロいコメント言い出したコイツとか思っちゃって、中断させちゃったよ……もしかして、サリー船長って甘味を出してくれる相手を好きになる性格なのかな?
ちょっとゴチャついたけど、私は何とか花びらを撒いて、体裁を整え第一カップルを送り出す。
さてさてお次は……
「次はソジェラン様ですね、こちらへどうぞ!」
副長のソジェランさんは、何やらガクガクの緊張状態で歩いてくる。何となく卒のない感じで楽しそうにしてたから、余裕かと思ったけど……大丈夫か?
「ソジェラン様、気になるお相手は見つかりましたか?」
「はい、見つかりました!」
「それでは、お相手の名前をどうぞ!」
「ダーナ! あなたの花のような笑顔をまた私に見せてほしい!!」
「だ……」
「喜んで!!」
ダーナは、飛び上がるように立ち上がると、ソジェラン様に駆け寄って抱きついた。
その勢いでくるくる回る第二カップル。
「皆さま、拍手を! お二人に黄色い花を飾ってあげて……はい、あ、そこじゃなくてもう少し下がいいかな? うん、そうですね、ありがとう! それでは、散歩道のほうに……うん、落ち着いてね、ダーナ。ソジェラン様、よろしくお願いします。それでは二人の門出を拍手でお送りください! いってらっしゃい!」
あー、あの二人は確実に結婚するな……
散歩道に進んでいくソジェラン様とダーナの後ろ姿をを見送りながら、サリー船長に追いつきそうで、もっとゆっくり歩いてほしいと思ってしまった。
気になるけど、次だ、次……
「それでは、えー……フルスメルラ様、こちらへ」
フルスメルラさんは、天使御一行様の中で一番の若手らしい。そのせいで、なんだか知らないけど気難し屋のネラト医師に絡まれやすい立場になってしまっているようだ。
フルスメルラさんは、当たり前のようにスッと立ち上がって、格好良く小走りで前に出る。
「フルスメルラ様は、気になるお相手は見つかりましたか?」
「まあ……一応……」
「それは良かったです。それでは、お相手のお名前を教えてくださいますか?」
「ペル……さん、付き合ってください」
キャーーーー!!
女の子たちの居るテーブルのほうから黄色い叫び声が聞こえた。
何だなんだぁ?
「あ……少々お待ちください……えっと……ペルが倒れちゃいましたね……え? あ、安眠? ああ、なるほど……えー! ペルは只今『安眠』のスキルによりお休み中ということです……フルスメルラ様はこちらでお待ちください……え? 起きる? 起きた? あ、起きました! ペルおめでとう!! 二人に拍手を! あ、じゃ、青い花で。うん、はい。散歩道を楽しんでくださいね! いってらっしゃい!!」
第三カップルを送り出すと、天使さんの席には何やら顔を顰めたウーリケさんと、腕組みしたまま目を閉じているネラトさんが気まずい雰囲気になっている。お相手、見つかんなかったのかな……? でも、とりあえず……
「それでは、ウーリケ様、よろしいですかー?」
ウーリケさんはぶすっとした顔のまま前に出る。
ど、どうしよ……
「えー……ウーリケ様は、気になるお相手いましたか?」
「いない……」
「え?」
やっぱダメだったの??
それまで陽気にざわついていた場の空気が、急に静まり返った。すると……
「嘘つき!」
急に立ち上がる女子1名。あれは……オハラ……さんですかね……?
「な! お前なに勝手に立って……」
「私は言ったはず、あなた聞いてなかっただけ!」
「はぁ? 俺は400って言ったんだよ! でもお前が600って言うから……!」
「私はあなたの話を聞いてそう言った! ちゃんと計算してみればわかる!」
「えーと……話の続きは散歩しながらどうぞ……」
私はスタッフさんに目配せして、二人に赤い花を付けさせる。
ウーリケさんとオハラさんは、何だか喧嘩しながらも、仲良く散歩道を歩いて行った。
「はっ!! み、皆さま、拍手を!! いってらっしゃい! おめでとう!!」
何だかわからないけど、あの二人は気が合いそうだ。
第四カップルを送り出した私は、最後の難関に目を向ける。
「それでは……ネラト様! ご足労をおかけいたしますが……前に出ていただけますか?」




