8.『クリプトクロム奇譚』part 15.
「そうです、その調子〜! あ、船長、準備はいいですか? リュネーも楽しんで!」
よくわからないけど、天使さん達に任せておくとしょーもない争いが起こってしまうことが判明したので、私は桟橋でスポ根セコンド並みの交通整理と賑やかしをやっている。
仕事はできるけど、それ以外ポンコツって……宇宙船内大丈夫か? まあ、メカ天使さんが優秀なのかもしれないね。深く考えないようにしよう……私は私の仕事に集中!
はぁ……この中の何組が成婚するのか、はたまた何の結果も出せないのか。
副長のソジェランさんは、かなりいい感じで話せているのか、笑顔が見えはじめている。私は公爵夫人にもらったおそろのオペラグラスで、カップル達の観察をしていた。また誰かが水に落ちたら大変だし、ボートがうまく漕げなくて、ぐるぐる回っちゃってるカップルもいる。ありゃネラト医師か……焦ってさらにおかしくなってんな……
「ネラトさ〜ん!! 一旦右手休めて! 左手強めに漕いで! そう真っ直ぐです! そう!」
ネラト医師は、何とか回転状態から脱して、左のオールを上げる。余裕ぶっこいてんな。あ、また回りはじめちゃった……女の子、目ェ回ってないといいけど……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
西の森湖畔で決行されたボートdeデートの一巡目は、いろいろと想定外のことが起きたけど、まあ何とかうまく行ったと思う。
二巡目の女の子達を天使さん達に誘ってもらって、私は一巡目の子達を控えのテーブルに誘導する。
「皆さんお腹減ってませんか? 出店に気になるものがあったら自由に見て構いませんよ。ただ、この後みんなで集まって結果発表をしますから、このテーブルにちゃんと戻ってきてくださいね」
「「「わかりました」」」
「いいですか? まずは天使様に話しかけることですよ? あなた達の行動が未来に繋がっていくんです」
「「「はい!」」」
うむうむ、物分かりの良い子にはきっといいことがあるでしょう。
先生贔屓しちゃうぞ。
とりあえずメイドさんとかもいるし、何とかなるだろ。
三巡目の子たちは、まだ緊張したような面持ちで、目の前のお茶にも手をつけていない。大丈夫かな? 待ってるときぐらいはリラックスしてほしいけど、そう簡単にはいかないよね。変に声をかけるよりは、そっとしておいたほうがいいかも。
テーブルから桟橋に戻ると、だいたいのボートが湖に出発した後だった。
「ミドヴェルト様、大変です!」
ベテランメイドさんが慌ててやって来て、私に耳打ちするから何かと思えば、アイテールちゃんとポヴェーリアさんが急に現れたとのこと。
ベリル様が送ってくれたのかな?
それにしても何で?
桟橋で、サリー船長がボートに乗ったのを確認すると、笑顔で送り出してからベテランメイドさんの後について行く。
湖畔の散歩道の入口に近づくと、麗人の王と妖精王女様が手を取り合って立っている姿が見えた。とりあえず、見た感じでは二人とも怪我とかしてなさそう。ベリル様とベアトゥス様はいないみたいだけど、まだ何か問題があるってことなのかな?
そもそも、アイテールちゃんがポヴェーリアさんにしがみつくなんて、前回見た感じではそんな雰囲気なんか微塵も感じさせてなかったじゃないか。
あ、でも、手の甲にキスとかは目撃したんだっけ……?
「どうしたんです?! 大丈夫ですか?!」
私が慌てて事情を聞こうとすると、すっかり大きい姿に慣れた様子の妖精王女アイテールちゃんは、少し俯いてからキッと前を見据える。その視線の先にいるのは、私だ。
「教育係殿よ、我は自然を守らねばならぬ。それが我の役目だと知った」
「王女様、やっと使命を見つけたんですね? ……推しの発見、おめでとうございます。虞を知らぬ心の君よ」
いつもは気楽に話をする仲だけど、私はかしこまって最大限の礼を王女様に捧げる。
「うむ、そなたに感謝する」
アイテールちゃんも、私の姿を見て、すべて納得したように不敵な笑みを浮かべた。
「……推しって何ですか?」
「お主には後で説明してやろう」
アイテールちゃんは、疑問を呈した麗人の王に割とぞんざいな言葉を投げて、私のほうに歩み寄る。
小さいサイズのときも妖精然としてキラキラしてたけど、大きいアイテールちゃんは、まるで生命力の塊だ。
歩くそばから地面に花が咲いて、ファンタジーの申し子のようになっている。
妖精って、やっぱりすごい存在感あるなぁ……
「教育係殿、近う寄れ」
「はい」
私は、妖精王女様に言われるまま、あまり花を踏まない様に静々と進み出る。
「師匠は勇者殿とホリーブレ洞窟に戻った。王子殿下も一緒だ」
「えぇ?! 一体なぜ……」
「『精霊女王の宝』が彼の地にあるからであろうな」
「え、宝? あ、そういえばそんなこと最初に言ってたような……」
「それで、相談がある。師匠よりの伝言だ」
アイテールちゃんが声を潜めて私の耳元で囁く。
「ホリーブレ洞窟の者達をここに移すとのことだ」
「へ?」
何やら信じられない言葉が、妖精王女の口から漏れ出たようだけど、私の脳はそれを理解することを全力で拒否したようだった。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
イザイザ様達に騙されて……というか、自分から虎穴に入って、精霊女王のベリル様は何か探しているみたいだった。
後は、ホリーブレもぶっ壊したいとか言ってた……
でもそれは、ホリーブレ洞窟にいる皆さんを始末したいって意味じゃなかったんだね。
ベリル様は、シンプルにあの洞窟をぶっ壊して精霊の宝を探したかったのだ。
でもね……私は目の前の惨状を見て思う。
急に5000人も受け入れできるわけないんですけどぉぉ〜〜!!
西の森の湖畔には、夥しい数の麗人さんと精霊様が集められていた。……あ、大精霊アズラ様まで転移させられてる。とりあえず話しかけとくか。
「アズラ様!」
「あ、ああ……貴女か」
久しぶりに見たアズラ様は、なぜだか挙動不審になっている。もしかして、私の名前忘れちゃったのかな?
「ベリル様の件で大変お世話になった、ミドヴェルトと申します。この度は大変なことになりましたね」
「おお、そうだ! ミドヴェルト、そうそう!」
大精霊様は何度も自分で納得しながら私の手を取った。力強くブンブン縦に振ってくれるのは、さすがに好意の表れだろう……と、良心的に解釈しておく。
「教育係殿よ……これからどうするのじゃ?」
「え……どうするも何も、大精霊様は王城にお連れして、麗人さんたちはどこか落ち着ける場所を……」
アイテールちゃんに聞かれ、私は無意識のうちに答えた。




