8.『クリプトクロム奇譚』part 12.
天使さん達とベリル様が対峙して絶体絶命か……!?
と思ったけど、意外にもベリル様は大人しい。
「何なのぉ? こいつら……全然戦闘力無いじゃんさぁー」
天使さん達、戦闘力無いんかい!!
え、どゆこと??
思わずサリー船長を見ると、ものすごく落ち着いているけど、戦う気は無いようで棒立ちだった。
強化人間さん達は文官さんってことなのかなぁ……?
喧嘩っぱやいベリル様とサリー船長じゃ、考えなくたって結果は見えている。私はどうにかこのエンカウントを無かったことにしようと、天使さん達に戻れと合図を送って、必死で別の話題を探した。
「あ、そういえば!! ポヴェーリアさんがケット・シーだったんです!!」
「ああ……知ってる」
知ってたかぁ……
ベリル様は天使さん達から一切目を逸らすことなく、ノールックで私に返事をしてくださる。早くもとっておきの話題が駄目になって、私はもう涙目だ。次の話題……次の話題は何かないの?! ねえ!!
「えっと……そういえばベリル様って『太陽の君』って言われてるんですよね? ポヴェーリアさんが『月の君』で、お二人は婚姻の儀を結ぶ予定だったとお聞きしましたよ? 私に構ってる暇なんか無いのでは?!」
すまん! ポヴェーリアさん!! ちょっと生贄にしてしまいました……!
私は、大きくなったアイテールちゃんとポヴェーリアさんの姿を思い浮かべながら、そういえばアトリエにフワフワちゃんを置いて来ちゃったことを思い出す。
「あああああぁぁあぁっ!!」
素で叫んでしまった私に、周囲の注目が集まった。
「ベリル様大変です!! ポヴェーリアさんが王子殿下にやっつけられちゃってるかも!」
「はぁ? 一体何の話をしてるの? キミィ……」
「一旦、ちょっとでいいから見て来てもらえませんか?! お願いします!!」
真剣に頼む私の顔を見ながらベリル様は怪訝な顔をしていたけど、私が私利私欲じゃなくて本気でポヴェーリアさんのために言っていることが伝わると、
「チッ……!」
と舌打ちしながら転移魔法で消えてしまった。
「はーー……助かったぁ……」
思わずその場にしゃがみ込むと、私は大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか? ミドヴェルト……」
サリー船長が抱き起こしてくれて、駆け寄るメイドさんに私を預ける。絡んでくるベリル様の馬鹿力に対抗しようと頑張り過ぎていたため、体のあちこちが痛む。回復薬で治るやつならいいんですけどね……
「お騒がせして申し訳ございませんでした。しばらくしてから後半組のパーティーを続行いたしますので、皆様は控え室でお待ちいただけますでしょうか?」
「そんな無理をしてはいけない、この後の予定は白紙に戻し、貴女は休息すべきだろう」
「ベリル様はまたここに戻ってくるでしょう。イベントを進行してしまえば、無理に邪魔はしてこない方ですから」
曲がりなりにも精霊女王のベリル様は、問答無用で一般人に攻撃を加えるような無茶はしない。これまでも休憩時間とか、他人の無意識に奇襲をかけてくることが多かったので、アレでも結構気を使っているのかもしれない。
とりあえず、スタッフさん達にパーティーの続行を通達して、私はベアトゥス様にメッセージを送る。スマホ……持ってるかな? 部屋に置きっぱだったりして……
しばらくすると、マリンバの音がしてベアトゥス様から着信が入った。うわぁ電話?! 慌てて受けると、勇者様が不機嫌そうに話し出した。
『どうした?! 大丈夫か?! あの精霊女王が性懲りも無くまた来ただと?! 今向かっている!』
「あ、ベアトゥス様、お忙しいところ申し訳ございません。念のため来てほしいと思っただけで、こちらは今のところ問題ございませんので……」
『そうか。まあ、できるだけ早めに行くから待ってろ!』
「はい、お待ちしております。エントランスに着いたら、またお電話いただけますか?」
『おう、わかった!』
なんか中世って設定の人とスマホでやり取りするのって、ちょっと面白い。ベアトゥス様ってどんな感じでスマホに話しかけてんだろ? ものすごく声が大きいけど、緊急だからなのか、デフォでデカい声出してんのかわからない。今度何でも無いときにスマホ魔法で電話してみよ……現実社会でも基本電話使わない生活だったから、何だか逆に新鮮だ。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「えー……西の森ホテルにお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は王国主催のお見合いパーティーとなっておりまして、こちらのテラスからは上階のプラネタリウムに入ることができます。ご希望の方は、係の者にお声がけいただけますと、スムーズにご案内できるかと思います……」
後半のお見合いパーティーは、ちょっとだけ私に注目が集まってしまったけども、何とかいい感じに進行することができた。
テラスに並ぶ天使さん達は、陽の光を受けて神々しく輝いている。いやー眼福です。
素材は良いわけだから、これでお相手が見つからなかったら、ほとんど私のせいだろう。ベリル様がいつ戻って来るかヒヤヒヤものだったけれど、お見合いパーティーはつつがなく終了しようとしていた。
「あ、ミドヴェルトさん! よかった〜会えないかと思っちゃいましたぁ!」
「……ピーリー? この子のことはあなたに任せたはずですよね?」
「こいつ、俺の話、全然聞かないんだよ」
やっぱ駄目だったか……そんな気はしていたよ……
この公爵領から来た人間の女の子レイスラは、天使さん達と結婚する気もないのに、ピーリー君に会いたくて王都に来たと自白してくれた問題児である。軽い公金横領ともいえる。
「レイスラ、貴女にはパーティーに出ないことを条件に、このホテルへの滞在を許したはずですよ? ここへ何しに来たんですか?」
「すみませ〜ん、こんな豪華なパーティー見たことなくて、ちょっとだけお料理を味見しても良いですかぁ?」
一体何を言っているんだコイツは……お腹減ってるってこと??
まあ、別にレイスラに対してご飯抜きの罰を与えるつもりはなかったし、パーティーの料理が気になるって気持ちもわからなくはない。私はメイドさんに頼んで、適当に料理を選んでお皿に乗せて持って来てもらう。それを渡しながら、この問題児をもう少しスクリーニング検査をしておこうかという気になった。
お見合いパーティーのほうはご歓談の時間という感じで、私はもう必要ない。今日の夜、女の子達の投票結果を出して、明日はボートdeデートだ。集計と振り分けと資料作りで徹夜の予定……うぅ、こんなことしてる場合じゃないんですけど……
1階のロビーに二人を連れてきて、飲み物を注文する。
ピーリー君は、ミッションをクリアできなかった自覚があるせいか、終始気まずそうに俯いている。
レイスラは、呑気そうに料理を食べながら笑っていた。……はずだった。
「おい、大丈夫か?!」
「あ、ベアトゥス様、こちらは大丈夫そうです。今のところ……」
「見つけたァ! 両親の仇!!」
急にレイスラがベアトゥス様に短いナイフで切り掛かったのだ。




