8.『クリプトクロム奇譚』part 11.
「えー、西の森ホテルにお集まりの皆様、本日は王国主催のお見合いパーティーへのご参加、誠にありがとうございます。こちらのテラスからは上階のプラネタリウムに入ることができますので、ご希望の方は係の者にお声がけくださいー」
ワイワイガヤガヤとテラス階に人が集まってくる。人間の女の子たちは、短期集中コースでベテランメイドさんが最低限のマナー教育をしてくれたので、悪目立ちするような子は居ない。みんな綺麗に着飾ってて、テーマカラーはアイボリーだ。持ってない子も多いから宝石は禁止。先生見つけ次第没収するよ! 飾りはすべて切り花にしている。あとリボン。今回のパーティーの目的はきちんと事前説明会で伝えてあるので、好きな天使さんを選ぶってことと、余裕があったら実際に話をしてみるってことがメインになっている。
一応、ご挨拶タイムはみんな平等にあるから、天使さんも女の子たちも1度は会話ができるシステムだ。
ここで気になるお相手ができればいいけど、まあそんな簡単にはいかないよね。
誰だかわからない相手を好きになれるって、相当すごいことだと思う。だから、天使さんには、それぞれわかりやすいキャラ付けをさせてもらった。とはいえ、ただの軍人であって別にタレントってわけじゃないから差別化が難しい。
それに、見た目がほぼみんな一緒なんだよね。白っぽくて、羽があって、専門の作業ごとにバッジが違う程度なのだ。もう持ってる道具とかで二つ名をつけちゃうか? とすら思ったが、結婚相手を探すのが目的だから笑いに走ってはいけないのだった。ムズい……
まあ、最初はどんな人なのか簡単にわかる程度でいいか……
人間の皆さんは、祖国が滅ぶ勢いで過酷な生活を強いられていたため、警戒心がすごい。それでも天使さんの強化人間ビジュアルを目の当たりにすれば、アイドル的に好きになることはできるんじゃないかな。でも目的は結婚なわけだから、お互いある程度平等に尊重し合える関係が理想だ。
一方的に崇められても居心地悪いし、何たって間が持たないしね。
そういえば現実世界の友達とかも、すごい彼氏と大恋愛して別れた後、気楽に付き合える彼氏と結婚してたなぁ……そんで、すごい彼氏と一緒にいるときは、超緊張して結構無理を重ねていたらしい。理想を追い求めるのもなかなか大変なようだ。
この異世界じゃ、結婚は政略的なものが普通なのかもしんないけど、やっぱできるだけ幸せになってほしい。
それに天使さん相手じゃ政略にもならんし。……なるか? ならないよね?
大きくは戦争を避けるための政略になるかもしんないけど、天使さんと結婚したからって魔国でブイブイ言わせられるかっていうと、ちょっとよくわからない。もしかしたら王様に優しくしてもらえるかもしれないけど……
まあ、後世なんらかの始祖になるかもしれないね。ならないかもだけど。いっそ面倒なことにならないように、マーヤークさんとか王様に相談しとこうかな。一代貴族とかにしとけばいいのか……?
なんてことを考えていると、天使さん達がやってきた。私は慌ててマイクを握り直す。いやぁー意外と役に立つもんだ、カラオケ魔法。
「えー、ただいま天使ご一行様がご到着いたしましたー! ご挨拶タイムとなりますので、皆様列にお並びください。係の者がご案内します、慌てずゆっくり進んでくださいねー!」
はぁ……前世で会場整理のバイトしてたっていうメガラニカ王を雇いたい……でもこの世界じゃ王様だからそんな気軽に雇えないんだよね。
私は、テラスの外側手摺り付近に並んだ5人の天使さん達を、ひとりずつ紹介していく。
「まずは大気圏上に停泊しております、宇宙船ウツロブネU2-6203の船長、サリフェンリーゼ様。ソードフィル・フォース・ガーディアンズに所属する探索部隊の隊長も兼任していらっしゃいます。好きなタイプは元気で明るい人だそうです。次の方は……」
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
前半のパーティーが思いのほかうまく行ったので、後半は少し気が楽になった。大きなトラブルもなく、後はもう一度同じことをするだけだ。
……なんて油断しているときにこそ、トラブルはやって来るものなんですね。
「よーう! 面白そうなことやってるじゃん? ん?」
「えぇ、ベリル様……? ななななんで??」
「俺はキミのことまだ許してないからさぁ……天使なんかと仲良くしてほしくないんだよねぇ……」
「ひぃやッ!」
ホテルの廊下を歩いていると、どこから現れたのか、精霊女王のベリル様が目の前にいらっしゃる。おふざけモードならバニラエッセンスを熊スプレーみたいにして撃退できるんだけど、洒落にならないときは突破口がないってのがつらいところだ。
あ、でもベリル様には聞きたいことがあったのだ。その話題でいろいろとごまかせないかな……? ここは駄目元で積極的にいくか!
「べ、ベリル様? 急に変なことしないでいただけますか? 私は天使さん達のお見合いパーティーを王様から任されている最中なんです。これは仕事なんですから……!」
「ふぅん……? 俺はそんなこと許した覚えはないんだけどなぁ……」
「そそそそういえば! イザイザ様達はどうされてました? 何かわかったことがあれば教えていただきたいです!」
「あのババア達は消えた」
「ヒェッ……問答無用で天誅ですか?!」
「いや、あの家に行ったがもぬけの殻だった」
それって、逃げたってこと??
そんなに悪いおばあちゃん達じゃなさそうだったんだけどなぁ……まあ、私もそこまで人を見る目があるほうじゃないけど、少なくとも雰囲気は優しかったし。
でも何か願いを叶える系の約束してたんだっけ? そんで私とベリル様に謎の結婚をさせようとしていたんだよね、確か……やっぱヤベえ奴らなんじゃないか?
「それで……大精霊様方とはお話しできましたか?」
「あいつらは、すぐ怒るから嫌いだ」
えぇ……子供かぁ?
なんかいろいろと揉めたのかなぁ……? 大精霊アズラ様が頭を抱えている姿が急に浮かんできた。ベリル様って、イザイザ様達の関与とか関係なく、ホリーブレ中央部では浮いてそうなんだよね……
「ミドちゃぁ〜ん! 俺を慰めてくれよぉ〜」
「ちょ! ふざけないでくださいってば!!」
急に抱きついてくるベリル様は、冗談なのか本気なのか判断できないので対応が難しい。とりあえず「ミドちゃん」呼びなので冗談なのかな? などと考えていると、廊下に出てきた女の子達に見つかってしまった。非常にマズい。
「きゃー! 抱き合ってるぅ! あれって司会のミドヴェルトさん?!」
「ヤダ! 邪魔したらダメだってばぁ!」
女の子達の話題になると、最終的にメイドさんからベアトゥス様に伝わってしまう危険性が極大だ。
もうこのまま何もかも放棄して気絶してしまいたいくらいだけど、野次馬が集まってきたので本気でベリル様を引き剥がしにかかる。
「ベリ……ル……様! もうっ……ほんっ……とに! やめてくださいって!」
「ヤダヤダぁー! ミドちゃんは俺の嫁〜!」
「よっめ……じゃないって!」
どんなに逃れようとしても、ベリル様は蔓草のように絡んでくる。もうやだこの精霊女王……! メイドさんまで来ちゃったじゃん!
「大丈夫ですか?! ミドヴェルト!」
「あぁん? 俺の嫁を呼び捨てにするとはいい度胸だな……?」
「そちらは……前回会った婚約者殿とは違うようだが……?」
「サ、サリー船長……こちらは……天使軍と戦ってらっしゃった精霊女王のベリル様です。ベリル様、こちら天使さん達のいる宇宙船の船長で、サリフェンリーゼ様です……はぁ……」
「精霊女王?! では我々は、彼女1人に歯が立たなかったというわけか?」
「んぁ? 歯は立ったんじゃない? 何匹か侵入できたんだしさぁ……」
サリー船長が騒ぎを聞きつけて様子を見に来てしまったので、私はもうなす術もなく2人のご紹介をして流れに任せる。
ベリル様が暴れなければいいけど……
天使さん達は強化人間ということだけれど、精霊女王と戦闘になっても大丈夫なのだろうか?
最悪、私が結界張ってどうにかするしかない。




