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8.『クリプトクロム奇譚』part 9.

 ベヘモト騎士団の詰所にたどり着くと、ちょうど猪系騎士のマリシさんが居たので、駄目元で聞いてみる。



「あのっ! 王子殿下はいらっしゃいますか?!」


「ああ、アンタ、久しぶりじゃないか。王子殿下なら剣術の時間じゃないかな?」



 え、フワフワちゃんて剣なんか使えんの?!


 てっきり格闘技オンリーかと思ってた……!


 でもまあ、王子様は何でも身に付けるのか、いろんな戦い方ができるもんなぁ……


 もしかして、レベルアップ薬で何かものすごく成長しちゃったりなんかして?


 などと考えていると、私の肩に乗っていたアイテールちゃんが耳元で囁く。



「きょういくがかりどのよ、あそこじゃ」



 急いで目を向けると、そこには、いつも通りのまんまるフワフワの王子殿下が元気に飛び跳ねていた。



「あー! フワフワちゃあぁぁん! 良かったぁー!!」



 いや、別にね、成長するのは喜ばしいことだけれども……やっぱりフワフワであってほしい気持ちもあるわけですよ。


 元魔国王子で現在はストーカー公爵のあの人みたいに、耳と尻尾付き人間みたいになっちゃったらどうしようかと……いや最終的にはそうなるのかもしんないけど、やっぱ私の目が黒いうちは、フワフワちゃんはそのままがいい。


 これはわがままかな?


 可愛い期間が長くあってほしいというのは、誰だって思うことなんじゃないかな?


 こんなことデカい声で言ったら、反対意見の人に怒られそうで怖いけど、もう一生成長しないでほしい。


 フワフワちゃんは、私たちがいるのに気づくと、元気にムームー言いながらこっちに来てくれた。



「フワフワちゃんが変な薬飲んだっていうから、心配になって来ちゃったよー」


「ムー! ムー!」


「きょういくがかりどのはしんぱいしょうじゃの、おうじでんかがくすりていどで、いまさらどうこうなるものか」


「そうですねぇ……すみません、無駄に騒いじゃって」



 久々に抱っこしたフワフワちゃんは、最高の手触りでプニョプニョであったかい。思わず顔をつけてスーハーしてると、フワフワちゃんはうにうに暴れ、地面に飛んでバウンドする。



「あぁ、フワフワちゃんのケチー!」


「きょういくがかりどのは、かわった()()()をもっておるのじゃな……」



 呆れたようなアイテールちゃんの言葉で我に返ると、騎士団の皆さんから注目を受けていた。やば、つい気が緩んで……



「そっ、それでは訓練頑張ってください! ではまた!」



 そそくさと騎士団の建物を後にすると、私はアイテールちゃんに話を振る。この妖精王女様にはタイムリミットの問題があるのだ。今のところ、1年以上余裕はあるっていうのが青髪大先生の見立てだけど、木じゃなくて草から生まれたアイテールちゃんは()()()()()()()()()()()と言われている。



「王女様って、もうベリル様とは連絡取ってないんですか?」


「べりる()()()()は、ひつようなことをすべてさずけてくれた……」


「師匠?」


「こんごは、われのやりかたでつづければよいといわれている」


「はぁ……師範代ってやつですかね?」


「そう、それじゃ! こんごは『しはんだい』とよぶがよい!」



 何の師範代なんだかわかんないけど、アイテールちゃんは修行の基本が身に付いたらしい。あんまりベリル様にも関わりたくないから、もう来ないならそれで良いけど、アイテールちゃんに教えることがまだあるとか言って戻ってきたらどうしよう……あの双子のおばあちゃんも結局何なのかわからないし、天使さんと仲良くなりすぎて精霊サイドに敵視されて成敗されたら嫌だなぁ……



「ところで、きょういくがかりどのよ」


「はい?」


「さきほど、おうじでんかよりすこしわけていただいたのだが、たべてもよいか?」


「え?」



 アイテールちゃんが見せてくれたのは、チ◯ルチョコぐらいの大きさの塊だった。



「チョコ……ですか?」


「れべるがあがるという、うわさのちょこじゃ」



 この妖精王女ちゃんは……レベル上げたいのか?!


 というかこの世界、レベルとかあったの?


 まず、今がどんなレベルか把握してからじゃないかな?



「王女様って、今レベルどのくらいなんですか……?」


「ん? しらぬが?」



 知らないんかい!! え、レベルアップってどういうこと? 何のレベルが上がるのよ?! まず、そういうの確認しなきゃダメでしょぉ?!



「良いですか? まだ食べちゃ駄目ですよ?! 一旦アトリエに戻りましょう!」



 私はとんでもなく呑気な妖精を肩に乗せたまま、青髪悪魔のところへ足早に向かった。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「何回もすみませーん、ちょっと教えていただきたいんですけどー!」



 アトリエのドアを開けて中に入ると、マルパッセさんが出迎えてくれる。



「しーっ……師は今、やっと眠ったところなんだよ……かなりお疲れのようだ」


「え、そうなんですか……? あの、このチョコ、王子殿下から王女様にいただいてしまったんですけど……食べても大丈夫なんでしょうか?」


「ふむ……体の体積に対してこの量は多すぎるかもしれないな」



 マルパッセさんは、何やらスタイリッシュなもんじゃ焼きのヘラみたいなやつで、チョコをパキパキと割ってアイテールちゃんに適量のチョコを渡してくれた。あ、食べるのはもう確定事項なのね……


 まあ、今さらアイテールちゃんにチョコアレルギーはないと思うけど……



「はいどうぞ、この量ならちょうど良いはずだ」


「うむ、かんしゃする」


「お、王女様? 無理に食べなくても……」



 パクッと一気にチョコを食べ、アイテールちゃんは斜め上を睨みながら顔を(しか)める。に、苦いのかな……?


 しばらくすると、私の目の前で妖精王女様が眩しい光に包まれた。



「アイテールちゃん?! 大丈夫?!」


「…………!」


「あ、アイテール……ちゃん……?」



 光の中から出てきたのは、私と()()()()()()()()()()の妖精王女様だった。



「えっ? 本当に王女様なんですか??」


「そのようじゃな……このような変化は初めて体験したが……」


「声もだいぶ変わってますね……」



 大人っぽい見た目になったせいか、アイテールちゃん特有のたどたどしい喋りが、若干(じゃっかん)なめらかになっている気がした。……ちょっと悲しい。


 フワフワちゃんが不変だったから油断してたわ……


 でも見た感じ、別に悪い変化ってわけじゃないし、むしろ進化したっぽいし……いい……のか?



「具合悪い……ってわけじゃないんですよね? どこか痛いところはありませんか?」


「……ないようじゃな」



 成功……なのか? よくわかんないけど、問題が起こったわけではない……と思う。



「マルパッセさん、これって……?」


「ふむ、うまく進化できたようだね。生物は少しずつ成長するものなのだが、ある瞬間に大きく変化するんだよ。これを此方(こちら)では進化と呼ぶようだね」


「進化……」



 すると、後方でまたさっき見たような光がパーッと私たちを照らす。



「えっ?!」



 振り向くと、クリーム色のケット・シーが、アイテールちゃんのレベルアップチョコの残りを食べてしまったようだ。いつの間に……用法・用量は大丈夫なのか??


 光の中から出てきたのは、なんとホリーブレ洞窟で最初に出会った麗人さんだった。


 ど、どうなってんの?



「ケット・シーはあなただったんですか?! ポヴェーリアさん!!」


「申し訳ない、好奇心に負けてしまったようだ……難儀な性格でね」


「なにゆえケット・シーに()()()()()()のじゃ?」



 アイテール王女が少し責めるような言葉をかけると、麗人ポヴェーリアさんは美しく微笑んで悪気なく答える。



「貴女に近づきたいという()()で」


「ふん、麗人の王であり月の君よ。そなたは太陽の君ベリル様と婚姻を結ぶ立場にあるはずだが……」



 おお……成長したからか、アイテールちゃんの知識量がものすごい。妖精王女様は、精霊女王ベリル様に心酔しているから、あまり師匠を裏切るようなことはしたくないんだろう。


 とはいえ、ベリル様のほうもポヴェーリアさんとの婚姻には興味ないっぽいから、あんまり気にしなくていいと思うけどなぁ……


 しかし、ポヴェーリアさんて王様なの? ()()()()とは一体……


 片思いだったら可哀想だけど、私は立場上アイテールちゃんの味方をするしかないんですが……


 





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