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8.『クリプトクロム奇譚』part 8.

 私だって、そこそこ人付き合いの経験はあるし、まあまあトラブルにも対処できるつもりでいたんですよ。


 でも、女の子50人の管理は、結構レベル高いかも知んない……と、今さらながら気がついてしまったワケで。


 アレだね、お腹減ってるときは「いっぱい食べれるぞー!」とか思ってるくせに、いざ食べはじめたら1.5人前でギブみたいなやつ。


 ……なのか?


 

「はーい! それでは皆さんいいですかー? これから、天使さんと結婚するにあたってどんなことがしたいか、一人ひとり聞かせてもらおうかと思います!」



 西の森ホテルのロビーに集まってもらった女の子たちの前で、私はできるだけ声を張り上げる。


 50人の前だと、後ろまで声を響かせるのは結構難しいかもしんない。


 全体的にサラッと見た限りでは、黒いモヤモヤを垂れ流してる人はいないし、物騒な文字列が出ている人もいないようだ。



「えー、それではー! こちらに並んでくださーい!」



 ワイワイガヤガヤと移動する50人の女の子たちは、それぞれに全力でオシャレしているようだ。貴族じゃないからそんなに派手じゃないけど、シンプルなワンピースとか編み込みヘアとかセンスが光る感じになってたり、ワンポイントで花やリボンを飾ったりしている。私もどっちかっていうとシンプル系の服が好きだから、すごく可愛いと思える子がチラホラいて楽しい。


 女の子たちには面接をするって伝えてあったから、ワードローブの中で一番いい服を着てきたんだろう。


 

「それではあなた、天使さんと結婚した後、何がしたいか教えてください」


「え、は、はい! 私は……」



 50人の気持ちを確認する作業は、お昼過ぎまで続いた。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「きょういくがかりどの、だいじないか?」


「もうダメですー。候補者なんて絞れませんー」



 クリーム色のケット・シーに(つか)まっていた妖精王女のアイテールちゃんが、パタパタと羽ばたいて私の肩に乗り移る。


 自室で頭を抱える私のところに遊びに来てくれたアイテールちゃんとケット・シーは、鼻を突き付けてご挨拶したりしていて何だか楽しそうだ。


 天使さんの嫁候補として集まった人間の女の子たちは、みんな良い子で甲乙(こうおつ)付け難い。逆に言うと目を引くような超絶美人な子はいなかった……とも言える。


 まずはホムンクルス姫の言う通り、パーティー開いて人気投票して、5人の天使さんの中から女の子たちの好みで振り分ける予定。


 そこから天使さんのジャッジに任せるつもりだったんだけど……


 テラスに50人()()()()という大問題が発生!!


 どうしたらいいの……?


 できれば女の子を30人くらいに減らしたい。困った! パーティーの準備もあるし、今日中にはサクッと人数を絞らないといけないってのに。みんなわざわざ集まってくれたわけだし、ピーリー君のお友達の子以外は、一体どんな理由で落とせばいいかわからない。あ、そうか。ひとり落とすのは確定してたわ……



「そういえば、フワフワちゃんはどうしたんです?」


「おうじでんかは、()()()()()()()のところじゃ」


「え? なぜ……?」



 アイテールちゃんの話によれば、フワフワちゃんはレベルアップの薬の実験台になっているのだそう。


 ちょ、いくら天才錬金術博士の青髪悪魔ロンゲラップさんといえども、魔国の王子殿下を実験台にするのは許されないんじゃない?


 私は、取る物も取り敢えず、慌ててアイテールちゃんと一緒にアトリエまで走ることになった。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「その実験待ったあぁぁあぁぁー!! ……あれ?」



 私が勢いよくドアを開けて錬金術のアトリエに殴り込むと、室内は至って静かで特に変わったことはない。ベッドに縛り付けられている王子殿下もいなければ、ガラス瓶に閉じ込められているフワフワちゃんもいなかった。ただ、静かに分厚い革表紙の本に何か書き付けていた青髪悪魔大先生が、ノールックで返答してくれるだけ。



「どうした? 騒がしいやつだな」


「えっと……ロンゲラップさんがフワフワちゃんを実験に使うって聞きまして……」


「ああ、それは王家からの正式な依頼だ……もう終わった案件だが」


「え? え? ど、どういうことです? もう薬飲んじゃったんですか?!」


「飲むというか……まあそうだな」


「おや、ミドヴェルト? 師は今忙しいのだよ、良かったら私が引き継ごう」


「ああ頼む」

「マルパッセさん! ああもう、どういうことなのか説明してください!」


「えーとまずは、王子殿下からの依頼で、レベルが上がる薬の調合の依頼があったんだが……」



 事の次第をイチから説明しようと、堕天使マルパッセさんはでっかい注文票をめくり出す。


 フワフワちゃんが依頼……? どういうこと? いつの間に?!


 軽く混乱する私をよそに、薄らピンクのマルパッセさんは「ああこれだ」と言いながら読み上げた。



「レベルアップ薬、王立騎士団装備部予算より……この辺は飛ばすとして……管理責任者は王子殿下となっている」


「それで、そのレベルアップ薬って……危険は無いんですよね?!」


「有効成分に毒の効果は無いはずだし……ああ、王子殿下にアレルギーテストもしているから安全だよ」


「はぁ……そうですか……」



 健康に害がないならまあ……って、そういう問題か??


 フワフワちゃんは、どうしてそんな薬を飲みたいと思ったのかな?


 一応、魔国の王子として部下に的確な指示を与えられてるっぽいフワフワちゃんは、お子様のようでいて意外に大人なのかもしれない。


 とりあえずお騒がせした旨の謝罪をして、私はアトリエから騎士団の練習場に向かってみた。



「きょういくがかりどのよ……おうじでんかは()()()()()にいっていこう、じつりょくがたりないとじっかんしていたようじゃ」


「実力って……十分足りてると思いますけど?」


「さいごにでてきたてんしとあったとき、じつは()()()()とおもっておったようじゃな」


「えぇ? そんな事ないと思うけどなぁ……」


「まわりがどうおもうかではない、()()()()()()がどうおもうかというのがもんだいなのじゃ」



 どういうこと……? フワフワちゃんの実力ってベアトゥス様より上なんじゃ?


 そのベアトゥス様が精霊女王のベリル様を追い込んでいたんだからベリル様よりフワフワちゃんは強いんじゃないかと思う。


 そういえば、ベリル様が穴だらけになってたときって、天使と戦ったわけじゃないんだよね?



「いや、まさかね……」



 私は、急に浮かんできたイメージを必死でかき消した。





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