8.『クリプトクロム奇譚』part 7.
『わかりましたわ! そのほうがわたくしも思い切って募集しやすいというものですし』
「ありがとうございます! それじゃあ大司教のこともよろしくお願いしますね!!」
スマホ魔法をゲットして良かったことは、仕事が格段に進めやすくなったことだと思う。
今だって公爵領に行ってるホムンクルス姫と電話できて、必要なことも伝えられたし、ちょっと恋バナで盛り上がっちゃったりした。いや、通話の4分の3ぐらいは恋バナだったかも。
公爵領は魔車で片道8日ぐらいかかる割と遠いとこにあるので、気軽に行ったりできないのがネックなんだよね……
ベリル様みたいに転送魔法が使えれば、どこでも自由自在に行けて良いよなぁ……私も一応、帰還魔法なら使えるんだけど、ロプノール君の教会に戻っちゃうから……あんま気軽には使えない感じなのだった。
とりま、自室でいろいろ仕事ができるのは助かる。
今は機会均等法的なイメージで、王都の人間さん達だけでなく、公爵領の人間さんからも天使と結婚したい人を大募集している。
できるだけ良いお相手をご紹介したいので、向上心の塊みたいな人は避けてもらって、なんというかこう……控えめだけど変わることを恐れない人を条件にしてみた。天使さん達って、精神的にピュアな人多いような気がして……やっぱ毎日機械に囲まれてるからかな? エンジニア的なこと……?
強化人間というだけあって、見た目は超天使だけどね。
なんかしゃべった感じ、チョロ……いや、えーっとグイグイ系に弱そうな気がして、そこはちょっと配慮したほうがいいかなという感じ。
なんせ、単なるお見合いではない。
何かあったら戦争に発展するかもしれない緊張感があるのだ。
そんなわけで、恋人がいる人もできるだけNGにしてもらった。そこがまた難しくて、両片想いだったり片思いでこれからの関係だったり、そこまで行ってない幼馴染関係とかはなかなか外部から見抜けないのでつらい。
とにかく、徹底的に悲恋製造機になることだけは避けたくて、知り合いの中では比較的経験値が高そうなホムンクルス姫に頼っちゃってる。
ただ、天使さんと結婚すれば確かに生活も安定するし、お金のために来ちゃう人も居るのかなぁ……
天使がなんだかわかってない人も多いだろうし、というかわかったからといってすぐ受け入れられるかも謎だよなぁ。
私は現代世界の知識で普通に受け入れちゃったけど、この異世界で天使ってどれだけ認知度があるんだろう? 大体からして人間もあんま知名度なかったしな……有翼の魔族みたいな受け取り方になるのか?? それとも大精霊様のくくり? あーでも精霊に関しては、王都の図書館にすら資料がなくて事前情報調べるのに苦労したし、一般の魔国民さん達はもっと知らないんじゃないかな。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「「「よろしくお願いします!」」」
「よろしくお願いします、えーと、これで全員……ですよね?」
公爵領からやってきた女の子達は、総勢50人。何だかものすごく元気だ。王都で集めた女の子達も、天使さん達が出席した歓迎イベントを目の当たりにしたからか、キラキラした目をしている。
私はといえば、集まった人数に若干圧倒されており、頭の中には現実世界で見てたリアリティ番組がエンドレス再生されている状態だ。
とりあえず合宿みたいな形で、西の森ホテルでみんなの面倒をまとめて見ようということになっている。
宿泊費は王様からもらえる契約になっているので、西の森ホテルの低階層に女の子達の部屋を用意した。
「あ、ちょうどいいとこにピーリー。この子達の部屋割り任せてもいい?」
「ああ……わかったけど、何すんの? この集団」
「天使さんのお見合いパーティー参加希望者です。丁重におもてなししてくださいね」
「ああ、あの件か。わかった」
メガラニカの工作員組は、すっかり馴染んでホテルの仕事を手伝ってくれている。ピーリー君は頭も良くて気が利くので、フロントを任せたりしちゃってるのだ。割と支配人にも向いているかもしれない。今はまだ魔国のメイドさんだった人に丸投げしちゃってるけど、将来的にはピーリー君に期待している。
本人はまだ自覚が薄くて、私の手伝いをしているだけのつもりらしい。ふふふ、ほかに夢があるならまだしも、やることないなら逃しはしないよ。優秀な人材君……
ピーリー君に必要な指示を伝えていると、女の子の中からこちらに視線が向かっているような気がした。
「あ、やっぱりピーリー! 久しぶり!」
「あぁ、レイスラか、お前も天使と結婚したいの?」
「違うよー! ここに来たらピーリーに会えるかと思って。お母さんは反対してたけど」
ん?! 早くも問題発生か?! 結婚する気なし発言しましたよね?!
思わずピーリー君に視線を送ると、お友達の失言に気付いたのか、ハッとした顔で女の子を嗜めはじめた。
「だ、駄目だろ、そういうの不正って言うんだぞ?」
「えーだって、こんなにいっぱい人がいたら、私が選ばれるわけないよー」
「わ、わかんねえだろうが。やる気ないなら帰れよ!」
「まあまあ……さすがに今からは帰れないだろうし、天使さんの指名を受けたくないなら、パーティーの時間はピーリーがお相手してあげたらいいんじゃないでしょうか?」
「えーいいんですかぁ? ありがとうございます!」
お前……ちょっとは申し訳なさそうにしろや……
レイスラと呼ばれた女の子は、天然なのか計算なのか、よくわからんけどヤバめの女の子みたいだ。見たところ、黒い考えみたいな裏の気持ちが文字列になって流れ出す様子はない。単なるおバカちゃんなのか? 王様主催のパーティーやぞ? まあ……私自身も相当ヤバい態度取ったことあるから、人のことは言えないわけですが……
というか、人間の女の子のことは、やっぱネブラちゃんに任せたほうが良かったか?
この子はピーリー君狙いなのか?
よくわからん……
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「レイスラ……知ってる。ちょっと嫌われてたかも」
ホテルの裏手でヒトカゲのヒーちゃんにご飯をあげているネブラちゃんを見つけて話を振ると、レイスラって子の情報をゲットすることができた。
「ネブラちゃん、レイスラってそんなに嫌われてたの?」
「ううん、私がレイスラに」
「え?」
ネブラちゃんは地味系女子だけど「多重言語」というスパイに役立ちそうなスキルを持っていたため、工作員に抜擢された。それがレイスラは気に入らなくて、何だか冷たくされてたらしかった。
まあ……ピーリー君に恋心持ってる風だったから、単純に嫉妬かなぁ?
人間の子達は、あんまり礼儀が身に付いてなくて、なんというかプリミティブな感情で動くイメージがある。
好きだの嫌いだの、なんだか小中学校の頃とか思い出しちゃうね。恐るべき社会の縮図だったような……
「わかった、ありがとう。ところで、もしレイスラがこの西の森ホテルで働くことになったら、ネブラちゃんは嫌かな?」
「ううん、嫌じゃないよ」
「そう、まだどうなるかわからないけど、もしそうなったら仲良くしてあげてね」
「わかった」
ネブラちゃん可愛い。そういやウーツ君とはどうなったんだろ? ピーリー君ルートもまだ生きてるのか? 中学生日記、気になるぜ……
先住ネブラちゃんのほうが大事なので、レイスラって子が何かしそうなら公爵領に送り返すか……
人間関係めんどくせえなぁ……でも、ここでしっかりしなきゃ、せっかくの楽園が維持できなくなるかも。
変な奴が来ると、コミュニティって一気に崩壊するから気をつけないと。




