8.『クリプトクロム奇譚』part 6.
「えーそれでですね、お見合いパーティーを開くにあたって、何かいいアイデアがあればお聞きしたいなと思いまして……」
「お見合いパーティーだなんて素敵ですわ!」
「フフ……とりあえずニンニク料理はNGですね」
「あ、そっか! そうですね!!」
「きょういくがかりどのよ、こくはくするじかんをよういするというのはどうじゃ?」
「うわ、告白タイムですか! 私は見たいけど、天使さん達は意外と繊細っぽいからなぁ……」
「女性からの人気投票という形にすればいいのですわ。天使の方々は、後で自分を選んでくれた相手から書類審査をすればよろしいんじゃなくて?」
「さすがです! そのアイデアいただきますね!」
裏庭のガゼボでいつもの女子会を開きつつ、私たちはお見合いパーティーについて話し合った。急な準備でみんなにも迷惑をかけちゃうけど、積極的に協力してくれて本当に助かる。
何か、男女協力して同じ目標のために心を合わせられるようなイベントを用意できればいいんだけど……
「……共同で作業するということですのね? それならば、西の森ホテルの湖で遊ぶというのはどうかしら?」
「あの湖ね……確かに美しい場所だったわ。アストロラーべと歩いたけれど、とても良い散歩道だったわよ」
「ありがとうございます。じゃあ湖畔でできることをメインに考えてみますね!」
ヒュパティアさんは、なんだかんだいってメガラニカ王と仲良しなんだよねぇ……
まあ結婚するぐらいだから仲良しに違いないんだけど、クールなヒュパティアさんと性格の悪いあの王って、何回見ても謎のカップルだ。でもだからこそ、いろいろとエピソードがあるんだろうなと思う。メガラニカでは彼女の死にも接してしまったし、そう簡単に「何があったか聞かせて〜!」なんて、お茶飲み話の感覚で詮索することはできない。
私だって、まだ自分の身に起こったことが完璧に理解できているわけじゃないし、冷静に話ができるまではまだ時間がかかるだろう。
お見合いだって、すぐその場でどうこうなるとは思わないけど、お互いに興味を持つきっかけになればなーぐらいのつもりなのだ。
まさか昔話みたいに、神様が目を付けた娘が住んでる家の屋根に突然魔法の矢を射るような方法は取れないもんね。まだまだ馴染んでいないとはいえ、人間さん達は今じゃれっきとした魔国民の一員だし、しっかり本人の意志を尊重したいと思う。
というか、まだサリー船長含め3人の天使さん達の意向はまだ聞けていないのだった。
急に無茶振りされて、格好悪いところを見せちゃったら、お見合いにはマイナスになってしまう。得意なこととか苦手なことをしっかり聞き取り調査がしたい。前回はダメだったけど、準備もあるし、早めに必要な情報を集めておかないと。
というわけで、女子会が終わったその足で、私は西の森ホテルに向かった。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「ボートですか……!」
サリー船長が具合悪くなさそうなことを確認して、私は残りの聞き取りを終わらせることにした。
ほかの天使さん達は特に苦手なことはないみたいだけど、サリー船長はボート漕ぎに自信がないということだった。ほかの天使さんも水が苦手だったりするみたいで、ボートデート案は没かなぁ?
などと思っていると、意外にも苦手を克服したいという方向に話が進んで行く。
天使さん達、マジ度が凄い……
それじゃあ、大浴場で水に慣れようってことになり、ヒトカゲのひーちゃんがお湯を沸かしているお風呂へと移動する。宇宙船でも温水に浸かれる施設があるらしいけど、あまりオープンな感じじゃないんだとか。カプセルベッドみたいなことかな?
天使さん達が意外とはしゃいでいるので、私も気が緩んでしまう。
「もし宇宙船に人間さんが嫁ぐことになったら、お風呂入れなくなっちゃうんですかねぇ」
何気なく私が呟くと、天使さん達が一気に振り向いた。
「宇宙船には大事な家族を乗せたりしませんよ」
「軍関係者以外、また政治家などの要人以外を乗せて宇宙空間を移動することは禁止されておりまして」
「停泊中は安全確保ができているので一般人も乗船できますが、航行中はどのような危険があるかわからないのです」
「これまでは規則が緩かったんですけど、部外者絡みで事故が起こったせいでルールが増えてしまいまして」
「すみません、ミドヴェルト。この件についてもっと早く話をしておくべきでした……」
「はぁ……というと、結婚後は別居するということになるんでしょうか……?」
「今のところ、我々の部隊はこの世界に常駐することになっていますから、そこまで問題ではないと思います。どこかに土地を借りて集団住宅のようなものを用意できれば、そこで同居できるかと。ただし、急な任務が入った場合は、この世界から離れてしまうこともあるとご理解いただきたい」
……どゆこと? まあ、天使の見た目に惑わされて宇宙人としか認識してなかったけど、天使さん達は立場的には軍人さんということになる。今のところは平和だけど、宇宙のどこかで戦争が起こったら召集がかかってしまうってことだろうか?
「えーと……結婚後、あなた方の母星に移住する……というわけにはいかないんですね?」
「我々には母星というものがありません」
「え?」
「宇宙船で生まれ、宇宙で死んでいくのがソードフィル・フォース・ガーディアンズなのです」
「そ、そうでしたか……」
これは思っていたよりハードルが高いかもしれない。
私は、てっきり国際結婚みたいな感じで宇宙船に住むようになるのかと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。
言われてみれば、潜水艦とかに家族は乗せないよね……たまに見学日に一瞬だけ乗れることはあっても。
そう考えると、条件が変わってくるなぁ……いや逆に、お嫁さん探しは楽になるかもしれない。だって、亭主元気で留守がいいって聞くし、めちゃくちゃ大恋愛しちゃって一瞬も離れたくないなんて状況にならない限りは大丈夫だろう。魔国に居たままで良くて、関係者用の家で安全に暮らせるとなれば、応募してくれる女の子は格段に増えそう。抽選方法について考えておかなくちゃいけないかもしれない。
というか、何を守ってんだろ、この天使達……母星がないなら、拠点はどこなんだ?
それに、宇宙船はどこで作ってんの? 改めて考えると謎めいた集団だ。この天使達をまとめる存在はどこにいるのかな? ほかにメカ天使いっぱい使っているとはいえ、実質10人だけで宇宙船に乗って探検なんて、無謀過ぎない?
遠くに飛んでいって結婚相手を見つけるなんて、まるで羽アリみたいじゃん。
だいたい天使さんの寿命ってどのくらいなんだろう? 生まれた子供はどう育つの?
半裸で戯れる天使ボーイズをぼんやり眺めながら、私は「聞かなきゃいけないリスト」を作り直す必要があると考えていた。
「と、ところでミドヴェルト。私たちはもう湯に浸かってもいいのでしょうか?」
「あっ、どうぞご自由に! ごめんなさい気がつかなくて! じゃあ、私は新しい質問カードを用意しておきますね!」
やることいっぱいあり過ぎて、ちょっと疲れてるのかもしんない。
新しい条件をもとに作った質問カードを天使さん達の部屋に人数分置くと、私は王城の自室に戻った。




