8.『クリプトクロム奇譚』part 5.
天使さん達に興味がある人間さんはいるのだろうか?
まずはここから調査をはじめなければいけないだろう。
細かい条件を飲めるかどうかは、おいおい詰めていけば良いのだ。
まずは天使さんを肉眼で見てもらって、それから考え方とかを聞いてもらって……あ!
天使さんとの連絡に必須なスマホを商品にして、先進的な考えを持ってる人を募集するってのも良いかもしんない! その中から天使さんに興味ありそうな人を探せば効率よくない?
この件に関しては慎重にいかないとなぁ……もし公爵領の懐古主義的な人間さんと天使さんの恋愛がはじまっちゃったら、価値観の違いで悲恋待ったなしだよね。マッチングの仲人、責任重大。自分のこともままならないくせに、人の恋愛は楽しい。いかん、無責任な考えがむくむくとわき起こってくる。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「こんにちは〜!」
「まあ、ミドヴェルト、いらっしゃい!」
「やあ、元気ぃ?」
王都にあるメガラニカ王の城館を尋ねると、ヒュパティアさんと王が出迎えてくれる。結構デカめのお館なんだけど、常駐のメイドさんとか執事さんは居ないようだ。ヒュパティアさんの話によると、週一で人間さん達がお掃除に来てくれるらしい。常駐のメイドさんを人間から選べばいいのにと言ったら、気を使うから2人だけがいいんだって。謎のこだわりを持った夫婦である。
ぶっちゃけ王が苦手だから、ここには王城の部屋から引越ししたときのご挨拶に1回訪れただけだ。
たぶん王城から出たのも、2人っきりになりたかったからじゃないかな。
新婚さんだし、何よりメガラニカじゃお互いひとりぼっちで働いてたから、急に周りに他人がいる環境だと落ち着かないのかもしれない。
応接間っぽい広い部屋に行くと、ソファを勧められた。上座とか気にせず適当に座る。まさかの王がお茶を入れてくれて、ヒュパティアさんがクッキー的な物体をお皿に並べて持ってきた。なるほど、こういう自由がほしかったってことね……
「お口に合うかどうか……無理しなくていいんですけど、よかったら試してみて?」
「え、もしかしてヒュパティアさんが作ったんですか?!」
「ちょっと君ぃ、驚き過ぎだってば。僕の妻に対して失礼じゃないかな?」
「あ、申し訳ございません」
「いいのよ、気にしないで。もっと上手になってから女子会で披露したかったのだけど、今はこれしかお茶菓子がなくて」
クッキー的なものをひとくち食べてみると、焼き具合はまあまあだ。なんとなく茶色いところは、焦げたんじゃなくてフレーバーが違うみたい。
「ん……ガラムマサラ?」
「あら、さすがね、おわかり?」
私の記憶ではカレーに入れるものってイメージだったけど、これはこれで美味しい。謎の中毒性がある味だ。王はニヤニヤしながら私を見ていたが、気に入った様子を見て取ると興味を無くしたようにため息をついた。このやろ……私の苦しむ姿が見たかったんだな?
「あれ、君も意外と冒険者なんだねぇ」
「いえ……昔いろいろと食べ歩くのが好きだったものですから」
固定観念があると、美味しいものも受け付けなくなっちゃうからね。はじめてびっくりしたのは、ホテルのレストランでエディブルフラワーが添えられた料理を食べたときだった。花って食べられるんだ! ……って感動したものだ。まあ子供の頃はよくサルビアの蜜とか吸ってたけど、それって少し怒られるかもっていう背徳感があったんだよね。
あとは胡椒とかワサビが入ったアイスも食べて美味しいと思ったことあるし、確かに守備範囲は広いかもしれない。でも本当に美味しかったんだもん!
美味しいものはおいしい、それだけだ。
知らないものを嫌うってのも、安全に生きるためには必要なことだけど、新しいものを受け入れるってこともまた大切なことだと思う。
そして、まさに今、私は変化を求める冒険者を探しているのだった。
「……というわけで、宇宙に行ってもいいという人間種族の方を探しているんですよ」
「なぁるほどねぇ……天使か」
「でも……一度嫁いだら、もう二度と地上には帰ってこれないのでしょう? 受け入れられるかしら?」
「そのことなんですよね……」
私はどっちかといえば部屋に閉じこもってても大丈夫なタイプだけど、外に出なきゃ落ち着かないって気持ちもわかる。後は、誰かと話さないとダメって人とか、誰とも話したくない人とか。いろんな人がいるから、条件に合った人を探すのは大変だ。でもだからこそ、探し当てたときの嬉しさは尋常じゃない。
アイテールちゃんも、いいお相手が見つかればいいんだけど……
まあ……妖精王女様は自分で道を切り開くと決めたのだし、私は見守ることしかできない。
しかし天使さんのお嫁さん探しは別だ。相談されたからには期待に応える権利があるんだもんね!
とりあえず、人間の皆さんから有志を募る許可を王からゲットして、私はウキウキと西の森ホテルに戻ったのだった。
☆・・・☆・(★)・☆・・・☆
「お見合いパーティー……ですか?」
「はい、皆さんのご希望を叶えるチャンスです!」
「そんなにうまく行きますか?」
「行くかどうかじゃない、行かせるんですよ!」
実際、お見合いパーティーの成婚率なんて、そこまで高いわけじゃない。でもそれは漠然とした気持ちのまま参加したり、冷やかしで参加する人が多いからだ。後は、既婚者のくせに浮気相手を探そうとする悪者がいると聞いて、警戒感が高まったりするからじゃないかな。
今回のお見パは、王様に開催してもらうから正式なもので安全だし、参加者は私がしっかりチェックするから問題ない。必要なのは、お互いの条件と希望だ。そこをハッキリさせれば、かなり可能性が高まると思う。
「というわけで、サリー船長、まずはあなたからです!」
「私からですか……」
周囲の天使さん達も固唾を飲んで見守っていて、だいぶ乗り気になっているようだ。
サリー船長は困ったように額に手をやると、しばらく考え込んでしまう。けっこう理想が高いのかな?
「元気で明るい人……でしょうか?」
「元気で明るい……わりと漠然としてますね。もっとありませんか?」
「チョコレート出せる人……」
「あの、ミドヴェルトさん!? 船長は失恋して落ち込んでる最中でして!」
「この話は後でということでもいいですよね? ね?」
「はぁ……大丈夫ですが……」
サリー船長は、ほかの天使さん達に担がれて奥の部屋に行ってしまった。まさかマジで失恋していたとは……大人って、本心を隠すのが上手だね。
でもお見合いパーティーは、ますます必要性が高まったと思う。
私は、その場に残った2名の天使さんから、できるだけ詳細な条件をヒアリングした。




