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8.『クリプトクロム奇譚』part 2.

 現在、ウツロブネU2-6203の船内では、会議後の立食パーティーが行われている。


 そして私の目の前のテーブルには、誰の記憶データが元なのか、まさかのお寿司が出ていて思わず目が釘付けだ。海苔も、生サーモンも、お醤油も本物と寸分違わない。こっちはマグロ? マジで? 恐る恐る口に入れると、懐かしい美味しさ!! ほかにもイクラに甘エビ、ウニ、まさかのマヨコーンまであってよりどりみどりだ。マジ誰の趣味なのよ……



「お楽しみいただけているようですね、まさに人間的反応で嬉しい限りですよ」



 公共の場で羽目を外し過ぎたか、口の中がいっぱいですぐ答えられなかったけど、首を縦に振ってなんとか答える。


 振り向くと、サリー船長が満面の笑みでお酒のグラスを持っていた。その顔……まさか新酒か?


 飲みたいけど、また失敗したらアレだし、我慢するか……



「ふぉいふぃーふぇふ」


「良かった、まだまだありますからゆっくり楽しんでください」



 失礼だったかな……?


 サリー船長が離れていくと、ビスタベラ様がそっと近寄ってきた。



「あなた、あの方と()()()()()()()のよ?」


「むぐ、な、何の話ですか?」


「あら嫌だ、お隠しになっても無駄ですわよ。バレないとでも思ってますの?」



 ビスタベラ様が、ギリギリまで顔を近づけて色っぽい流し目をしてくる。不敵な笑みが一切のごまかしを許さない。


 私が男だったら一瞬で落とされているのだろうか? 妖精王様はこの角度にやられたとか??


 

「ビ、ビスタベラ……別に何も……ただ話をしていただけですよ」


「そうかしら……? まあ、あなたが気づいていないのなら別に良いのですけれど」


「?……??」



 ビスタベラ様は満足したのか、私が持っているお寿司にチラッと視線を向けると、(おぞ)ましいものを見るような目をしてから離れていった。


 魔国でも生食は結構あるはずなんだけど、やっぱ妖精国では生魚は食べないのかな。


 というか魔国でお寿司ってできるのかな?


 今度ベアトゥス様に聞いてみよ。





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





「はぁ?! 天使どもを招待したぁ? キミさ、自分のしてることの意味わかってるのかなぁ?」


「うぐ、こ、ことの成り行きで仕方なく……」



 無事地上に帰還して、王様と大臣さんたちに会議の結果を報告していると、同席していたベリル様が怒り出した。


 まあ、怒られるだろうとは思っていたけど、実際にガチギレされると怖いもんですね。


 でも現実世界で怒られ慣れてるから、怒鳴られる程度なら余裕だったりする。



「まあまあ、ベリル様、ミドヴェルト殿も反省しておることですし……」



 セドレツ大臣が同行の()()()か私を(かば)おうとしてくれたけど、精霊女王のひと睨みで撃沈。ありがとう……無理しなくていいですから。


 私にだって自分の行動の意味はわかっているつもりだ。


 戦争を防ぎたいし、無駄な戦いで死者を出したくない。


 とはいえ、今日もどこかで小さい戦いは起こっているし、痴情の()()()とかで殺人事件も起きていることだろう。すべての悲劇をどうこうしようなんて思ってはいないけど、見えるところは手を入れたい。気になっちゃうから。



「ベリル様がお怒りになるのはもっともだと思います。でも天使さん達も、この世界のことを知ろうとして、不躾な態度だったと反省してました。お互いに話し合う時間はまだあると思いたいんです。それに、ダンジュー共和国のことは天使さんに関係ない事件だったわけですし……」



 そういえば、この精霊女王様が穴だらけになってた件は一体何だったんだろう?


 話をしながらふと思い立って、ベリル様の顔を見つめる。



「な、何だよ……急に」


「ベリル様って神様といつからやり取りしてるんですか?」


「はぁ? キミに報告しなきゃいけないこと? ソレ……」



 呆れたように髪をかき上げながら、ベリル様は言いかけて止まる。



「ミドちゃん、まさか……」


「大精霊様方にお聞きしたんです。全然話ができないって……でも私達とは普通に話せましたよね。だからずっと不思議で」


「あんのババア……許さん」



 そう言うと、ベリル様は転移魔法でどこかへ消えてしまった。


 悪いお婆ちゃん達じゃないと思うけど、何やら目的が違うという気はする。まあ、後のことはベリル様に任せよう。


 王城の会議室に残された私たちは、とりあえず次の議題に移ることにした。



「えー……と言うわけでですな……天使の使節団を受け入れる件について、ですが……」



 黒い棒みたいな大臣さんが話を元に戻した。一切こちらに目を向けないけど、王様が私を見てニッコリしているので何となく想像がつく。



「ミドヴェルト殿にお任せする……と言う形でよろしいですかな?」



 ほらねー! もう絶対絶対ぜーったい、西の森ホテルにとってお得な条件を突きつけてやるんだからぁ!!!





☆・・・☆・(★)・☆・・・☆





 天使様の歓迎会は、西の森ホテルのテラスで開くことに決定し、私はほぼすべての準備を丸投げされてしまった。


 まあね、天使さんに勝手に会いに行って、なおかつ勝手に連絡先とか渡したのは私だし? 大気圏で膠着状態のまま、対応はすべて精霊さん達に任せておけば良かったのかもしれませんよ。時たまファビエル級……じゃなくて何だっけ、ME-45? が入り込んでくるのをやっつけて、お互いに謎の関係でいれば良かったのかもね。



「でもさぁ! 私がやらなくても、いつか誰かが同じことするんじゃないのかなぁ?!」


「まあ、大丈夫ですの? 少しお休みになったら?」



 お手伝いしてくれることになったホムンクルス姫と、アイテールちゃんがいて助かる。


 今はエントランスで届いた花を仕分けしている最中だ。発注分よりかなり多く届いたので、みんなで持ち帰るか迷っているところ。花屋のアルラウネさんは、いつもどんぶり勘定で太っ腹なので、助かる反面ちょっと気を使う。


 やってくる天使の使節団が強化人間だと知って、ライオン公爵様は協力する気満々だ。前よりは落ち着きを身につけた公爵様だったが、スマホをゲットしたことで案の定いろいろと問題を起こしていた。あわや没収か? と思われたが、ゲームは1日1時間というルールが策定され、姫によって管理されている。やはり中身はお子様か……


 とにかく、公爵領からも人間のお手伝いさんが14人送られてきて、私たちは天使にひっかけて使徒と呼んでいる。いや、正確には私が勝手に「使徒さん」と呼んでいたら、みんなに定着しちゃっただけだけど。



「使徒さん達もお茶にしませんかー?」


「はーい!」



 みんなでワイワイとお茶の準備をしていると、珍しくロプノール君がやってくる。



「これは華やかですね。ミドヴェルト様、ご無沙汰しております」


「あ、ロプノール大司教、もう大丈夫なんですか?」


「ええ、おかげさまで……その節はありがとうございました」



 そういえばまだココノールさんのこと言ってなかったっけ……あれから家族のやり取りはあったのだろうか?? そしてあのウサ子ちゃんの行方は?? ロプノール君は、王都で結婚したカップルが選んだブライダルコースに付き添って、西の森ホテルで式を挙げるためにやってきたとのことだった。


 ちょうどいいので、飾り付けで余っていた花びらを撒いて新郎新婦をお出迎えする。


 喜んでもらえて、いいサプライズになったみたい。


 一行が式場に向かってひと息つくと、みんなでお茶休憩がはじまった。



「冷めちゃったかもしれませんから……」


「いいっていいって、もったいないから飲むよー」



 最近は緊張する場にばかり顔を出していたから、こうして気楽にわちゃわちゃするのが楽しい。


 使徒さん達は、はじめは恐ろしい場所に連れてこられたような顔で怯えていたけど、だんだんと居心地の良さに馴染んできたようだった。余っている個室をひとり一部屋割り振ったときなんか、ものすごい喜びようだったし。


 今はすっかり自然体で振る舞えるようになっているみたい。良かったよかった。





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